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HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part14

1 :マロン名無しさん:2012/02/14(火) 20:20:08.08 ID:???
HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました part13
http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1284495777/

あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part306
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1327821877/

まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/
※左のメニューの【お預かり作品】に作品があります。



           我らはSS投下者の代理人
            保守のスレッド代行者
          ,___
        /゙      ` ̄ ̄`-,―ー,ハ、 _ ,--、 ,_
       l            |   ゙//:´::::|(二二,)
       ゙l \ヽ`ー―−- - |   ,iii,,ゝ:::::|(二二 )       我らが使命は
         |    _`、_ 。 。 。.|。 。,ii,l iノ ̄ヽ(゙~l`)     投下者に襲う規制を
        ゙l  i  ` ̄~`tーーl_,_:/:lヽ、___,/-´    そのレスの最後の一片までも
         ゙|  i  ー´~l::::::::::::::::://::::_,(二)        ―――保守する事―――
         l  i       |::::○ ::::○::::: | ,ー´
           l, i   イ ゙l::::::::::::::::::::::::::|i:::|ヘー、_
         く  i   i   |:::(二)ヽ::::::::::|i:::|lノ ゙゙  `ヽ
           ゙ゝ`i ノ ,i⌒i⌒i⌒l~ヽ i ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ー、
         <´ゝ- (二| ,i  l  i , |iiニ,__i ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ i ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
゙\   ,_,ー´ ̄ー ,/ /:゙ヽ,_,_,_,,ノ゙> |i:::|y  _,ー´ ̄/
  ヽ ヽ,   _-ー´,,ノ:::::::。,>`-ーー、,ゝ.|i:::|    i  ゙̄/
   |ー,く (,_,ー゙ ̄´ :::::::。゚::: )/ゝ::/ ゙̄/゙|i:::|   ,i ヽ_」
   ゙| ヾ\ \:::::::::::::::。゚:::::::::i//   / , .|i:::| \i  ,l/
    ヽイ-`ヽ ゙\;:::::::::゚。::::::::。\_,/゙。  .|i:::|   ヽ, l゙
\    \ヽ \ ゙\ :::::::゚。_。゚:::::::`\ 。 .|i:::| 丶  ,|ノ゙

2 :マロン名無しさん:2012/02/15(水) 22:01:45.85 ID:???
死んだ子の歳を数える様なまねをするな

3 :マロン名無しさん:2012/02/17(金) 07:02:28.80 ID:???
本当かー本当に

4 :マロン名無しさん:2012/02/19(日) 21:57:17.78 ID:???
すれたておつ

5 :マロン名無しさん:2012/02/20(月) 14:47:13.06 ID:???
もうこのスレは終わりか?ウォルター

6 :マロン名無しさん:2012/02/21(火) 22:52:12.40 ID:???
リップ中尉を大尉もどきの人狼にしちゃまずいかしら


7 :マロン名無しさん:2012/02/23(木) 22:15:05.63 ID:???
いいんじゃないかしら

8 :マロン名無しさん:2012/02/29(水) 08:16:14.29 ID:???
もう完全な不定期だし、本スレのほうに投下するほうがいいんじゃないっすかね

9 :マロン名無しさん:2012/03/06(火) 12:36:06.97 ID:???
http://book.geocities.jp/sakusasaya/top.htm

10 :マロン名無しさん:2012/03/06(火) 20:50:17.61 ID:???
ウォルター!

11 :マロン名無しさん:2012/03/21(水) 11:55:57.91 ID:???
ゼロリカの完成度が高すぎて

12 :マロン名無しさん:2012/03/27(火) 22:32:05.06 ID:???
   _,,....,,_  _人人人人人人人人人人人人人人人_
-''":::::::::::::`''>   ゆっくりしていってね!!!   <
ヽ::::::::::::::::::::: ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
 |::::::;ノ´ ̄\:::::::::::\_,. -‐ァ     __   _____   ______
 |::::ノ   ヽ、ヽr-r'"´  (.__    ,´ _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ 、_ イ、
_,.!イ_  _,.ヘーァ'二ハ二ヽ、へ,_7   'r ´          ヽ、ン、
::::::rー''7コ-‐'"´    ;  ', `ヽ/`7 ,'==─-      -─==', i
r-'ァ'"´/  /! ハ  ハ  !  iヾ_ノ i イ iゝ、イ人レ/_ルヽイ i |
!イ´ ,' | /__,.!/ V 、!__ハ  ,' ,ゝ レリイi (ヒ_]     ヒ_ン ).| .|、i .||
`!  !/レi' (ヒ_]     ヒ_ン レ'i ノ   !Y!""  ,___,   "" 「 !ノ i |
,'  ノ   !'"    ,___,  "' i .レ'    L.',.   ヽ _ン    L」 ノ| .|
 (  ,ハ    ヽ _ン   人!      | ||ヽ、       ,イ| ||イ| /
,.ヘ,)、  )>,、 _____, ,.イ  ハ    レ ル` ー--─ ´ルレ レ´

13 :マロン名無しさん:2012/04/11(水) 00:35:18.34 ID:???
>>5
Non,ありえません! 初代スレに比べればこの程度ピンチにも入りませんぞ

というわけでショルター出していい?

14 :マロン名無しさん:2012/04/11(水) 00:50:33.47 ID:???
13です。今日は遅いんで明日の晩ぐらいにまた来てなにかあれば投下するか考えます。
一応、タルブ戦の直前まではできてるんですが・・・あまり満足いかなければ投下も不定期になるかもしれません。
こういうのを、というか小説を書くのは初めてですが完結はさせるつもりでいます。終わりはみえてるので。
つたない文章力で申し訳ないと思いますがよろしくお願いします。

15 :マロン名無しさん:2012/04/11(水) 01:23:13.53 ID:???
なんか寝つき悪いのでプロローグだけ掲載します。心理描写以外原作コピペなんですが
よろしくお願いします。

16 :ゼロの執事 00 part1:2012/04/11(水) 01:26:20.35 ID:???
ゼロの執事    プロローグ

 「あんたも立派な出来損いさ 博士 あんたも あんたの作ったモノも全て この僕も」

爆炎に包まれつつある飛行船の一室、ナチスの研究室ですでに血まみれ、体すら実験台にもたせかけ座り込んでいるボロボロの少年が、やせた、眼鏡の白衣の男に対し口を開く。

「茶番劇は終わった。演者も消えなければ そうだろう 大博士(グランドプロフェッツォル)」

大博士と呼ばれた男は追い詰められた様子ながらも言葉を返す。

「茶番・・・茶番劇だと!? どの口がほざく・・・欠陥品のどの口が!?」

その言葉に少年は自嘲気味に笑いながらも博士を見据え言う。

「一夜一幕の茶番劇さ この戦も この世の中も 僕は・・・僕はその中でできるだけいい役が演じたかっただけさ」

そういうと少年は実験台に手を掛けながら立ち上がる。が、支えにした右手は立ち上がると同時に指、手首、腕と砕けるかのように爆ぜた。

「ひっどい末路さ アーカードの言う通りだ みっともないよねぇ」

だが、少年は爆ぜた右腕を気にするそぶりも見せず、博士を目にとらえ続けていた。そんな少年の言葉を聞き、博士は歯を食いしばりつつ言い返す。

「そんな欠陥品の貴様が・・・ッ 失敗作の貴様が・・・ッ 私達を笑うと言うのか」

茶番、という言葉に反応し博士から怒りの言葉が飛び出す。



17 :ゼロの執事 00 part2:2012/04/11(水) 01:40:32.29 ID:???

「貴様なぞに!!私の研究を茶番呼ばわりされてたまるか 少佐殿の大隊を笑われてたまるか!!お前なんかに!!お前みたいなものに!!」
  博士は怒りに体を震わせながら、布で覆われた物体を指し示し言葉を続ける。

「理論は飛躍する!!研究は飛躍する!!いつの日かこれに追いつく いつかアーカードを超えてみせる!!」

「馬鹿言っちゃいけない お前も僕も皆死ぬ 欠陥品は全部死ぬ」
「黙ァれえ!!」
博士はそう叫ぶや否や素早く自らの懐に手を伸ばし、リモコンを取り出す。
ボタンを押すために。少年の体内にある爆弾を起動させるために。

だがたったのボタンを一つ押すだけのその刹那、その一瞬は
少年にとっては十分長く、片腕一本で対応できる時間だった。
一瞬で博士の腕、足に鋼線が巻きつき、博士の胴から切り離す。
「お、おお、お」


18 :ゼロの執事 00 part3:2012/04/11(水) 01:41:23.97 ID:???
リモコンを取り落し、あたりに血をまき散らしながら、片手、片足を失った博士は
バランスをとろうと手を周囲にのばし、つかもうとする。
だがつかんだものは、先ほど示していたものにかかった布。つかむとすぐに布はビリビリと千切れていってしまった。無様に博士がたおれこむなか、その布の下から姿を現したのは人の全身の骸骨。
頭蓋骨に付けられたプレートには、―MINA―NO.00000、とある。

「ミナ・ハーカー そうだろうさ これがお前たちの教材」

少年は動揺することなく、骸骨を見据え、言葉をつづける。

「アーカード「ドラキュラ」が血を吸われた唯一の存在「全ての始まり」 
ヘルシングに「ドラキュラ」が倒され人に戻った、という 
だがアーカードは死んでいない!!彼女の中にはアーカードがいる 
彼女自身がどうなろうと彼女の奥深くには存在する 
聖餅でも聖水でもどうにもできない吸血鬼の血が 
だからお前たちは「そこから始めた」「アーカードの模倣」
そのためにお前たちは彼女をあばき残骸のような彼女を残骸にしつくした」



19 :ゼロの執事 00 part4:2012/04/11(水) 01:42:36.41 ID:???
年は鋼線をたぐり、展開する。鋼線は意思を持っているかのように骸骨に絡みついていく。
「結局のところ お前たちのやった事はコピー商品さ
これが茶番劇でなくて一体何だ」
ぐおお おぉおお、と博士のうめき声が上がる。少年はさらに鋼線をあたりのものに張り巡らせていく。
「かわいそうな彼女(ミナ)」

少年は煙草をとりだし、くわえ、つぶやく。

「全部 消えろ 退場するんだ お前たちも この俺も」


20 :ゼロの執事 00 part5:2012/04/11(水) 01:43:27.38 ID:???
あ、あ、あ、あああAAAAAAAAAA
悲痛な博士の悲鳴が響く。ミナ・ハーカーの残骸は炎に包まれていく。博士の頭上から鋼線によってからめとられたブロックや実験台、様々な器具が頭上から降り注ぎ博士を潰す。大博士と呼ばれた男の無残な死に方だった。

「At Pinball!! 」

それを見て少年はしてやったりと歓喜する。だがもう体は限界に達し悲鳴を上げていた。仕方なく少年はふたたび実験台に身をもたせかけ腰を下ろし煙草を深く吸い込む。
最期の一服だ。

「ああ 畜生」
少年はぽつりとつぶやく。博士を殺し笑顔を浮かべていた少年の顔の表情は、むなしさを表したものにゆっくりと変わっていく。煙草を深く吸い込み、はきだしながら。


21 :ゼロの執事 00 part5:2012/04/11(水) 01:44:12.29 ID:???
「勝ちたかったなあ あいつに」

勝ちたかった。自分の手で勝ちたかった。この手であいつの心臓を刺し、勝ちたかった。そのために全てを賭けた。自分の人生、自分の家臣、自分の信義、自分の忠義、やくざなあのデブの少佐から賭け金を借り出してまで。
一晩明けて鶏が鳴けば身を滅ぼす法外な利息だとしても、あいつを倒すことのできる力を手に入れるために、あいつと戦うために一夜の勝負に全てを賭けた。
だが、もうそれはかなわない。あいつは、アーカードはもう消えてしまったのだから。
少佐によって。あの猫耳のシュレディンガーを使われて。


22 :マロン名無しさん:2012/04/11(水) 01:46:48.92 ID:???
part間違えました 再投します

23 :ゼロの執事 00 part6:2012/04/11(水) 01:47:40.95 ID:???
「勝ちたかったなあ あいつに」

勝ちたかった。自分の手で勝ちたかった。この手であいつの心臓を刺し、勝ちたかった。そのために全てを賭けた。自分の人生、自分の家臣、自分の信義、自分の忠義、やくざなあのデブの少佐から賭け金を借り出してまで。
一晩明けて鶏が鳴けば身を滅ぼす法外な利息だとしても、あいつを倒すことのできる力を手に入れるために、あいつと戦うために一夜の勝負に全てを賭けた。
だが、もうそれはかなわない。あいつは、アーカードはもう消えてしまったのだから。
少佐によって。あの猫耳のシュレディンガーを使われて。



24 :ゼロの執事 00 part7:2012/04/11(水) 01:49:19.44 ID:???
少年は視線をひび割れていく天井に向けていた。だが、その眼はうつろで何もみていなかった。
迫りつつある炎に囲まれた研究室、崩壊寸前の天井、逃げ場はない。

最期に彼は自らの主の姿を思い浮かべる。
あのデブの少佐ではなく、二代にわたり仕えてきたヘルシング家の末裔 アーサー・ヘルシング、
そして幼い時から仕え続け、成長を見守った
サー・インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシングの姿を。
だがその仕え続けた彼の人生はすでに終わった。すべてを失った。幕引きだ。

「御然らばです お嬢さま」

その言葉を待っていたかのように天井は崩壊し、炎が彼の周りを包み込んだ。
彼は安らかな顔を浮かべ、目を閉じる。煙草を落とし、最期の時を待つ。
崩落していく瓦礫が落ち、爆炎が彼を包み込む直前、彼は、消えた。あとかたもなく。
 


25 :マロン名無しさん:2012/04/11(水) 01:53:32.63 ID:???
これでプロローグは終わりです。タイトルはゼロの執事、としました。
召喚の01は明日の晩でも投下します。
しかし初心者で投下の仕方がわからず、ミスが多すぎてごめんなさい。
こんな自分ですがよろしくお願いします。

26 :マロン名無しさん:2012/04/11(水) 02:11:30.50 ID:???
やったー!新作来てくれたーめっちゃ嬉しい!ショルター乙乙

27 :マロン名無しさん:2012/04/11(水) 10:56:13.49 ID:???
これは期待!期待!おつです

28 :マロン名無しさん:2012/04/11(水) 19:17:24.44 ID:???
晩になりました。ゼロの執事01投下します。状況的に最初らへんが、他作品様と被ってしまいました。
変えたかったのですがどう考えても原作の設定的にこうなってしまいました。
次からは気を付けますのでよろしくです。では投下します。


29 :マロン名無しさん:2012/04/11(水) 19:20:49.75 ID:???
ショルターに頑張ってほしい

30 :ゼロの執事01 part1:2012/04/11(水) 19:23:19.59 ID:???
第一話 召喚

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」

ここはトリステイン魔法学院。桃色の髪の少女が呪文を唱えている。

「五つの力を司る五角形。 我の導きにこたえ強く美しい使い魔を召喚せよ」

少女―ルイズが呪文を唱え終わり杖を振り下ろすと爆音と共に光が炸裂した。

「はっ、また失敗か〜 ゼロのルイズ」

「いや 成功だろ いつも通り爆発だ」

まわりがはやし立てる中、ルイズは呆然としていた。ああまた失敗か、使い魔すら呼び出

せないなんて―――。だが、煙の中を見た生徒の一言で一変する。

「おい 見ろよあれ」

「えっ 何? ! キャアアアアアア」

女子生徒の悲鳴にはっと我に返ったルイズは何事かと周りをみてみると自分が起こした爆発の煙がうすれて中の様子が見えるようになっていた。そこには何かがいた。

(やった 成功じゃない これでどう? わたしもやれば――――あれ?)

よくみるとそこの何かは人の形をしている。

(まさか呼び出したのは人間?うそよ そんな 私が・・・)

しかし煙がはれ、はっきりルイズの側でも見えるようになると見えてきたのはまぎれもなく仰向けに倒れている人間だった。顔立ちは中性的だが男の子だろう。だが全身、おびただしく出血し、血まみれである。ルイズは愕然とした。

31 :ゼロの執事01 part2:2012/04/11(水) 19:24:54.69 ID:???
「ミスタ・コルベール!」

少年が召喚されたという前代未聞の事態にコルベールも固まっていたが、ルイズの声に我

に返る。すぐに少年のもとに駆け寄り状態を見る。

「これは・・・・出血がひどいですな。気絶している。誰か水のメイジの方はこの子に治

療を。応急処置程度で構いません 止血を」

「は、はい! わかりました」

モンモランシーを始めとした幾人かのメイジが少年に治療を施す。出血が止まり何とか命を取り留めたようだった。


32 :ゼロの執事01 part3:2012/04/11(水) 19:26:07.64 ID:???
「終わりましたか、ではミス・ヴァリエール。この少年とコントラクト・サーヴァントを」
「え・・・?え!?」
コルベールに言われるまで、大けがをした少年の出現にすっかり頭から契約のことが飛んでいたルイズ。確かに契約はしなければならないが相手は・・・。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!やり直しをお願いします!それにこの子ケガしてるのにそんな事・・・!」
「この儀式は神聖なもの、やり直しは認められません。君の運命に従いし者としてこの少年が選ばれた以上、この少年と契約する以外ないのです。」
「うううう・・・・」
呻いても無駄だった。
ああ、なんでこうなってしまったんだろう・・・


33 :ゼロの執事01 part4:2012/04/11(水) 19:26:43.48 ID:???
倒れている少年の前に立ち、顔を近づける。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
呪文を唱え、口付ける。
契約の儀式が終わり、少年の左手にルーンが刻まれていく。
そのときかっと少年の目が見開いた。なんだ、おまえは?そう言いたげな目を一瞬するも
すぐに少年はうずくまり動かなくなる。ルーンが刻まれ、その痛みで気絶したのだ。
「終わりましたね、おめでとうミス・ヴァリエール。ではこの少年は私が医務室に運びます。ミス・ヴァリエールも後ほど来て下さい」
「はい・・・」



34 :ゼロの執事01 part5:2012/04/11(水) 19:27:25.10 ID:???
ルイズの気分は沈んでいた。呼び出した使い魔が平民だなんて・・・
一方、少年は医務室に運ばれた。
(さてと。とりあえずけがは医務室の先生に診てもらえますね。終わったらミス・ヴァリエールといっしょに部屋に運びましょう。ん?)
コルベールは少年の右腕がないことに気付いた。おびただしい出血に気を取られ気付かなかったのだ。
(これは・・・さすがに再生させることはできないな。あとで義手になりそうなものを見つけておくとしましょう。む・・・これは・・・)
次にコルベールが見つけたのは左手に刻まれたルーンだった。
(珍しいルーンだな)
コルベールは少年が眠っているうちに、と紙に熱心に書き留めていた
そんなコルベールの様子に気づきもせず少年はこんこんと眠り続けていた。




35 :ゼロの執事01 part6:2012/04/11(水) 19:40:45.36 ID:???

少年は夢を見ていた。
見慣れた街並み―――ここは、そうロンドンだ。
昼であるためか人々が騒ぎ、活気にあふれている。
特徴的な時計塔もある。
少年は人々が行き交うとおりの真ん中で佇んでいた。
(・・・・・・・)

少年はその様子を何の感慨もなく眺めていた。
人々はみな少年を無視し通り過ぎていく。
少年のことは眼に入ってないかのように。
少年は動けない。
歩いてみようとしたが足が動かないのだった。

36 :ゼロの執事01 part7:2012/04/11(水) 19:42:38.57 ID:???

「これは・・・・」

少年がつぶやくと同時に周りが暗くなっていく。夜になったのだ。
それでも相変わらず人々は動き回っていた。
違うのは少し静かになったことぐらいだろうか。
ふと、上を見上げ月を見てみる。青白く、大きな月。
だがしばらく眺めていると中心に黒い点が出て、どんどん大きく広がっていく。やがてその点の正体に少年はきづいた。
あれは飛行船だ。何機もいる。
突如、飛行船から何かが放たれる。
それらは無数に、すべてロンドン帝都内にばらまかれていく。
そのうちの一個がこちらをめざしてきて――――――目の前で爆発した。



37 :ゼロの執事01 part8:2012/04/11(水) 19:44:13.78 ID:???

はっと我に返る。周囲の様子は大きく様変わりしていた。
周りは死体であふれかえり建物は崩れ、ガラスや鉄骨がそこかしこに飛び散っている。
少年はただ一人、立っている。おどろいて自分の体を見やる。
どこもけがをしていない。目の前で爆弾が爆発したというのに。
そこできづく。生きている人の姿がなくなっていることに。

「ヴヴヴ・・・」

周りからうめき声が聞こえてくる。どこからくるのかなんとなく少年はきづいていた。
喰人鬼(グール)だ。まわりに倒れていた死体が起き上がりわらわらと少年を取り囲む。その腐った淀んだ眼はみな、少年を見つめていた。

「ははは なんだ グールか?」

少年はその視線に動じることなく鋼線をふるい周りのグールたちを、首、手足、胴体を切り刻んでいく。ばたばたとグールは瞬く間に倒れていく。


38 :ゼロの執事01 part8:2012/04/11(水) 19:44:49.69 ID:???

「グールが、何をしてるのやら。おれは、ゴミ処理係の――――」

ゾクリ。背後に何かがいるのを感じとり、振り向きざまに、鋼線を飛ばし、背後にいたモノの首を飛ばす。だがそいつはみるみるうちに首の付け根から影のようなものが出て元の形を作って再生していく。その顔は――――

「ッ〜ーーーーーー!」

憎たらしい、少女の顔をした化け物だった。

「アーカード!!!」



39 :マロン名無しさん:2012/04/11(水) 19:45:58.74 ID:???
またミスりました。ごめんなさい。

40 :ゼロの執事01 part9:2012/04/11(水) 19:46:47.71 ID:???

「グールが、何をしてるのやら。おれは、ゴミ処理係の――――」

ゾクリ。背後に何かがいるのを感じとり、振り向きざまに、鋼線を飛ばし、背後にいたモノの首を飛ばす。だがそいつはみるみるうちに首の付け根から影のようなものが出て元の形を作って再生していく。その顔は――――

「ッ〜ーーーーーー!」

憎たらしい、少女の顔をした化け物だった。

「アーカード!!!」


41 :ゼロの執事01 part10:2012/04/11(水) 19:48:02.95 ID:???
ギリ、という音が聞こえそうなぐらい歯をくいしばった少年の様子に、少女の形をした化け物―――アーカードは高らかに笑う。

「ほら 気張れよ あと何万回かそこらだ」

少女がそう言うと周りに赤黒い触手のようなものが伸びていく。その触手から人々がメリメリと今にも飛び出そうな勢いでわきでてきて少年に手を伸ばしてくる。その数は何百、何千、いや何百万か。あまりの多さだ。少年がいる通りを覆いつくし空をも覆い尽くすほどの。

「ッ〜ーーーーーー!チィ」

少年は舌打ちをすると鋼線を振りぬこうとする。が、気が付く。さっきまであった右腕がない。


42 :ゼロの執事01 part11:2012/04/11(水) 19:51:13.92 ID:???

「な・・・・・・・!?」

だが亡者はそれに構わず少年をとりこもうと手を伸ばしてくる。少年はすぐに左手と口で鋼線を操作し迫りくる亡者の手をさばき、切断する。

「くそっ 多過ぎる!!」
両腕ならまだしも片腕と口では迫りくる亡者の進軍を止めるにも限度がある。やがて足をつかまれ引きずり倒され、腰に群がれ、手を押さえつけられる。首に亡者の手が伸び、締め付けられる。苦しい。畜生。ここまでか。

「く・・そ・・」
「は は は は はは は ははは ははははは!」
意識を失う直前、見えたのは高笑いをする憎たらしい吸血鬼の顔と、

「じゃあね〜」

楽しげな顔でこちらに手を振る猫耳のナチスの軍服を着たシュレディンガーの姿が見えたのを最後に少年の意識は、途絶えた。



43 :マロン名無しさん:2012/04/11(水) 19:57:57.20 ID:???
これで終わりです。こんなのでよろしいでしょうか?
これの次の章をよく見てたらゼロリカさんの影響ってやつをものすっごい
受けた文章、もといコピペみたいなことになっていたため直します。
そのため一週間以上間隔があくかもしれません。ではまた。


44 :マロン名無しさん:2012/04/11(水) 20:08:35.86 ID:???
乙乙

45 :マロン名無しさん:2012/04/11(水) 20:41:22.02 ID:???
>>44 ありがとうございます。
なんか頭の中でやっぱ最初の一日だけは連続で出させなきゃダメ、と頭の中の
清川ウォルターがささやいてくるんで超特急でなおしました。
よくみたら吸血鬼の描写のとこだけコピペでした。
では、02章投下します。

46 :ゼロの執事 02 part1:2012/04/11(水) 20:43:19.28 ID:???
第二話 新たな主人

「!!!!」

目が覚め跳ね起きる。気のせいか息が荒い。

「ハア ハア 畜生 なんだ、夢か・・・・」

ひどい悪夢だった。なんだ、あれは。あいつを、アーカードを倒せなかった自分へのひど

い嫌がらせとしか思えない。最恐の敵の前の、最悪の状況の、最低の夢。極めつけは、最

終的にやつを打倒した原因となったシュレディンガーの満面の笑み。思い出しただけでも

やはり腹が立つ。

「あ、目が覚めた?」

「?」


47 :ゼロの執事 02 part2:2012/04/11(水) 20:44:15.52 ID:???

声がした方に目を向けると桃色の髪をした少女が椅子に座って自分を眺めていた。服装は

もう寝る時間らしくネグリジェのようなものをつけている。

「・・・・・あなたは?」

「私はルイズ ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ 

 あんたを召喚したの。今日からあんたのご主人様よ」

「・・・・・・・」

いま聞きなれない単語が聞こえた気がする。召喚?何だそれは?

「ちょっと 黙ってないでなんかいったらどう?」

「ああ すみません」

とりあえずお嬢さまに接するような言葉づかいでしゃべろう。どうやら手当をしてくれた

ようだし。一人称は外見相応に・・・僕、でいいかな。

「僕はウォルター。ウォルター・C・ドルネーズ」

「へえ 苗字があるのね もしかして貴族かなんか?」

「いえ 僕はとあるお屋敷で執事をしていました」

「そう・・・執事・・・平民ってことね・・・」


48 :ゼロの執事 02 part3:2012/04/11(水) 20:45:24.35 ID:???

心なしかこの少女は沈んだ顔をしている。そんなに気に障ることを言った覚えはないのだ

が。それよりも・・・ここはどこなのだろうか。辺獄(リンボ)か、それにしては想像し

たのとは違い過ぎている。体も幽霊というものでもない。ちゃんと右腕がない以外はすべ

て健康、しっかり体の感触はある。

「あの・・・うかがってよろしいでしょうか?ここはどこでしょうか」

「? ここはハルケギニアのトリステイン魔法学院よ」

「ハルケギニア?トリステイン魔法学院?」

言われたことを繰り返してみる。聞いたことがない地名だ。やはりここは死者の来る場所

だろうか。だがそれにしては生々しい感覚がある。つかんでいるこのベッドのシーツの感

触、この部屋の空気。どちらも雰囲気は違えど現実で感じたことのあるものだ。


49 :ゼロの執事 02 part4:2012/04/11(水) 20:47:39.93 ID:???

なによりも・・・僕はここにいる。あの時、崩壊していく飛行船の中で死ぬつもりだった

のにここにいる。この少女の目の前にいることを僕は知覚できる。チラリと外を見るとも

う夜のようだ。ほっとした。夜であれば都合がいい。とりあえず安心だ。いま自分は吸血

鬼なのだから。粗悪品ではあるこの身は日光を浴びればどうなるかわからない。

しかし、月を見て驚く。二つあるのだ。赤い月と青い月が。まさか・・・ここは異世界?

その後ルイズは一気に説明し始めた。

ここは貴族達が一人前の魔法使いになるための学校の様な所であり、貴族のほぼ全員が魔

法使い=メイジだという。聞いたことがない。やはりここは異世界らしい。



50 :ゼロの執事 02 part5:2012/04/11(水) 20:49:34.70 ID:???

「使い魔とは何をするのでしょうか?」 

ルイズに疑問を投げかけながら考える。今わかっていること、ここは異世界でありこの少

女ルイズが自分の新たな主人。この少女がこの僕をあの死に場所から「召喚」したらしい。

では何のために?そこがわからない。

「まず、使い魔は主人の眼となり、耳となる能力が与えられるわ」

「?」

「使い魔が見たものは、主人もみることができるのよ」

「・・・」

「でも、あんたじゃ無理みたいね。わたし、何にも見えないもん!」

「左様ですか」

本当だろう。さっきの夢をみていればこのお嬢さんはいまごろひっくり返っているだろう。

本来その能力がどの程度かはわからないが、とりあえず僕のことはただの使い魔としてみ

ている。



51 :ゼロの執事 02 part6:2012/04/11(水) 20:51:12.09 ID:???

「それから、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。たとえば秘薬とかね」

「秘薬とは?」

「特定の魔法を使うときに使用する触媒よ。硫黄とか、コケとか・・・・」

「それは場所がわかればなんとかなりますね」

「そう、そうよね。なんとかなるわよね 別に幻獣とかでなくてもいいものね」

さきほどとくらべて少し明るくなったようだ。ルイズは続けて言う。

「そして、これが一番なんだけど・・・・、使い魔は、主人を守る存在であるのよ!その

能力で、主人を守るのが一番の役目!でもあんたは右腕が・・・・」

ルイズの声が小さくなっていく。なるほど、ルイズの視線をたどると右腕を見ている。

どうやら再生はできなかったらしい。ルイズの先ほど取り戻した明るさもすぐに消えてし

まったようだ。


52 :ゼロの執事 02 part7:2012/04/11(水) 20:52:30.87 ID:???

ウォルターはその様子は見ていられなかった。自分のせいで主を困らせるようでは執事失

格だ。前科はあるが、ここは励まそう。

「大丈夫ですよ。片腕でも何とかなります。それに僕は・・・」

少しつまる。

「僕は、なに?」

ルイズが先を促してくる。困った。どうしようか。今吸血鬼だと明かそうか。どうやらこ

の子は自分に仕えてもらう存在が必要だったから召喚し、呼び出したのがたまたま僕だっ

たということらしい。

ウォルターはしばらく考える。

死を逃したのは惜しいがこうして自分を必要としてくれる人がここにいる。

自分にはもう何もない。ならば、ここが自分にとって全く未知の世界である以上、

ご主人様だというこの少女が自分の新しい居場所だろう。





53 :ゼロの執事 02 part8:2012/04/11(水) 20:58:00.47 ID:???

そう決意したそのとき、ずきり、と体が不調を訴えてきた。粗雑な施術痕に体がきしむ。

まずい。今の体は不安定そのものだ。今後のためにも血が要る。体を安定させるためには血が要る。この少女に仕える

ためにはどちらにしろ明かさなければならない。

「僕は・・・・吸血鬼ですから」

「あんた・・・吸血鬼?」

「ええ まあ」

ルイズは嬉しそうだが同時に考え込むような表情をしている。やはり、まずかったのだろうか?

「あの・・・吸血鬼だとまずいでしょうか?」

「・・・! いや、いいのよ。ほんとはまずいんだけど、でも十分すぎるぐらい・・」

「?」

(やった ただの平民じゃなくて吸血鬼だったなんて!)


54 :ゼロの執事 02 part9:2012/04/11(水) 20:58:55.49 ID:???

平民だと思っていたが、吸血鬼だという少年。

改めてじっと眼の前の少年を見る。吸血鬼、といわれても外見は私と変わらない年頃の少

年だ。吸血鬼と言われても実感がわかない。

でもこの子とやっていこう。この少年からはそんなに邪悪さは感じられない。

自分とこの子を信じよう。そうルイズは決めたのだった。

「ええ いいわよ あんたがなんであろうとね あんたは私の使い魔よ」

「・・・・・・ッツ!!」

その言葉がウォルターにとってさらなる後押しとなった。

よかった。じゃあここではっきりと表明しよう。

「それではこれからあなたにお仕えします。あなたが僕の主です。ルイズお嬢さま」

「ッツツ〜〜〜〜〜〜!!」

なんだろう。ルイズは顔をプイと背けてしまった。先ほどルイズはご主人様だと自分で言

っていた。だから僕はお仕えします、言っただけなのに。変だっただろうか?



55 :ゼロの執事 02 part10:2012/04/11(水) 20:59:43.24 ID:???
一方、ルイズは喜びを抑えるのに必死だった。私が、家族にも認められない私が、ゼロの

ルイズと呼ばれ続けてきたこの私が、今こうして使い魔ではあるがこの吸血鬼の少年に主

として認めてもらえた。どんな形であれ、誰かに認めてもらえたという事実はルイズにと

ってとてもうれしいことだった。

一方、ウォルターは急がねばならない事情があった。体の痛みがひどくなってきている。

「あの・・・喜んでいるところ言いにくいのですが・・・」

「え、な、なによ 別に使い魔に忠誠を誓われたぐらいでよろこんだりしていないんだか

らね!!」

「別にそれは構わないのですが。実は少し困ったことがありまして・・・」

「こまったこと?」



56 :ゼロの執事 02 part11:2012/04/11(水) 21:00:57.05 ID:???
「ええ 僕は吸血鬼です」

「それはわかってるわよ」

「ですから・・その・・」

ええい まどろっこしい。さっさと言ってしまおう。

「お嬢さまの血をいただきたいのですがよろしいですか?」

「そ、そんなの駄目よ」

「? なぜでしょうか」

「・・・だって血を吸われたら吸血鬼になるんでしょ?」

吸血鬼に血を吸われたら、グールになることくらいは知っている。

「もしかして血を飲まないと、死んじゃうの?」

「はい。左様です。」

即答。困った。使い魔に死なれては困る。



57 :ゼロの執事 02 part12:2012/04/11(水) 21:01:56.26 ID:???

「ねぇウォルター、吸血鬼の特徴を教えてもらえる?」

まず吸血鬼の特徴を聞こう。これから自分の使い魔になるもののことは知っておきたい。

「良いですよ」

ウォルターは詳細を話し始めた。内心は急いでいたのだが、痛みをこらえつつ話す。

ごそごそ、とポケットをウォルターはまさぐる。やがて一冊の本を取り出す。

ブラム・ストーカー著「吸血鬼 ドラキュラ」だ。文庫本型の。

そしてウォルターはぱらぱらとそれをめくりながらルイズに語るのだった。

吸血。血を吸うことでドラキュラは力をまし、吸った対象を自分の眷属とする。

だが、ウォルターはこれについて切り傷から滴る血を飲むだけでよいので
その場合、ルイズから血を飲んでもルイズが吸血鬼になることはない、という。

あと、吸血鬼の簡単なわかりやすい特徴、力が強い、ということだった。
吸血鬼は人間よりも格段に力が強い。デコピンだけでも人を気絶させるほどの力があるという。ルイズはそんなばかな、と笑おうとしたが、ウォルターの目は真剣だったためわらうのをやめた。

「とりあえず、こんなところが吸血鬼の特徴です。おわかりいただけましたか?」

「ええ、わかったわ。ありがとう。」


58 :ゼロの執事 02 part13:2012/04/11(水) 21:02:56.60 ID:???

とりあえず半信半疑だったがウォルターの説明は納得できる。

問題の自分が吸血鬼になるかもしれない、というのは解決した。

「ねえ 本当にいますぐ必要なの?血が?」

「ええ いますぐに」

しかたがない。ルイズは溜息をつくとテーブルに置いてあったナイフを手に取ると、ため

らいつつもひとさし指の腹に強く押し当てた。痛みが走ったが声を上げるほどではなかっ

た。血ができた傷からあふれてきた。少し切りすぎたせいか結構出血している。

「ほら。飲みなさいよ。」

だが、ルイズは構わず、ウォルターに指をつきだした。



59 :ゼロの執事 02 part14:2012/04/11(水) 21:04:13.34 ID:???

ウォルターは静かに歩みより、ルイズの足元に膝をつく。下へ滴り落ちていく血を飲もう

とウォルターは、くぱ、と口をあけ、舌を伸ばす。滴った血を舌で受け止め、ごくりごく

りと嚥下していく。ルイズの傷がふさがるまでウォルターはそうし続けていた。

ルイズはなにか変な気持になっていた。自分とさほど変わらない少年が自分の前に膝をつ

き舌を突き出している。こころなしか少年の息は荒く、頬が赤かった。

(なんだろう・・・なんだか人に見せられない光景のような気がするわね)

ルイズがそんなことを考えている一方、ウォルターは必死だった。

血をとりこみなんとか体を維持するために体内の構造を造り直していく。


60 :ゼロの執事 02 part15:2012/04/11(水) 21:05:54.46 ID:???

とりあえずこれ以上、体が幼児化しないように体自体を調節する。

つぎに右手を再生しようとするがルイズからの血の量や不完全な吸血鬼であるため再生は

到底不可能だということにきづき、断念。

長期間体を維持できるようにした後は粗雑な施術痕をなんとか回復させる。

これで並みの吸血鬼くらいには動けるようになる。

そして最後に余った回復量を皮膚にまわした。

これで一週間は太陽にさらされても大丈夫だ。

大きなけがをしない限り日光を浴びても皮膚を回復し続けることで平気にする。

まあ、これはバッテリーのようなもので一週間に一度はルイズから血をもらわなくてはな

らないが。

「はあ はあ はあ」

ルイズからの血がすっかり止まってしまう頃にはすべて終わっていた。とにかく必要なこ

とはすべてやった、そう思い、やり終えて息が絶え絶えながらルイズに礼を言う。

「ありがとうございます。お嬢さま」

「え、ええ」


61 :ゼロの執事 02 part16:2012/04/11(水) 21:06:31.81 ID:???

変な気持になりつつも終わってルイズはほっとしていた。なんだかドキドキする。だがど

うしてこうなったのかルイズはわからないでいた。使い魔の前でなにをドキドキしている

んだろう?ルイズは原因が分からず一人悶々としていた。

その後、ルイズはウォルターに明日からの掃除と洗濯、雑用を言いつけると、あんたは床

で寝なさい、と毛布をなげ、さっさと寝てしまった。

ルイズが指を鳴らしランプの灯りを消したあと、ウォルターはぼんやりと考えていた。

この少女は自分を男と認識していないだろうか。同じ部屋に使い魔とはいえ男を置いてお

くなんて。ルイズは気にしていないようだが・・・。別にどうこうするわけでもないが。

英国紳士にふさわしい礼儀としてはこのまま外に出ておくべきだろう。

明日、やることが多くて大変だと思いながらウォルターは音を立てないようドアを開け廊

下で毛布にくるまって寝た。あ、吸血鬼だから棺桶もさがすかつくるかしないと、と考え

ながら、ウォルターはふたたび眠りに落ちた。

こうしてウォルターの召喚されてからの異世界で最初の一日は終わった。


62 :マロン名無しさん:2012/04/11(水) 21:13:47.95 ID:???
これで02終了です。
ウォルターの一人称、少年形態、ショルターだから僕、にしましたが
基本、主の前では僕、とします。やっぱ執事言葉って難しいです。
次は一週間後、かな。訂正と制作しつつがんばります。
自分、不器用なんでどなたかがまとめとかに入れていただければ幸いです。
ではまた。


63 :マロン名無しさん:2012/04/11(水) 21:16:00.42 ID:???
おつおつ
次も期待して待ってます

64 :マロン名無しさん:2012/04/12(木) 00:36:45.03 ID:???
ごめんなさい。
ところどころ一行目を改行していたせいで
異次元に吹っ飛んだ部分が出てしまったことをお詫びします。
毎度すみません。

65 :マロン名無しさん:2012/04/14(土) 22:33:57.86 ID:???
ウォルター!

66 :マロン名無しさん:2012/04/19(木) 00:06:08.78 ID:Cxa8YS3k
遅くなりました。ゼロの執事03、04を投下します。
長いかもしれませんがおつきあいよろしくお願いします。

67 :ゼロの執事 03 part1:2012/04/19(木) 00:10:10.26 ID:???
    第三話 夢の続きとゼロの理由

ウォルターは再び夢を見ていた。

また悪夢かと思ったが様子がおかしい。まわりは書けないような奇妙奇天烈なものばかり。

それらが散乱し、空を飛んでいる。ウォルターは一人、わけが分からず、

ぼうぜんとしていた。

その中でこちらに進んでくる人影が一人。アーカードかと思い鋼線をだし身構えるも違っ

た。

グラサンかけた中年太りしたおっさんがリモコン片手に

宙を浮きながらこちらによってくる。



68 :ゼロの執事 03 part2:2012/04/19(木) 00:13:08.57 ID:???

ウォルターはまたも唖然として動けない。おっさん自体がこちらによってくるのも奇妙な

ことだがもっと奇妙なのは格好もだった。四角い毛皮の帽子に腰まで届きそうなコート。

それも真っ白の。

同じく白く長いマフラーをつけ、明らかにカツラとわかる長い黒髪おかっぱ頭

をしている。唖然としている間にふわふわとそいつが目の前に来た。

「よう ウォルター ひさしぶりだなウィリス」

「・・・・・あぁ?」

ウォルターはおもわずイラついてしまう。どこかで聞いたそのセリフに。

おっさんからかけられたその第一声はウォルターを怒らせるに十分だった。

怒ったウォルターは鋼線を飛ばし、ブルー○・ウィリス似のおっさんを切り刻もうとまわ

りに展開され、つつみこもうとする。

だが、おっさんはぬるぬると鋼線の包囲網をよける。

しかし、よけた拍子に帽子とコートは外れ、

オレンジ色のシャツとはげた頭が代わりに姿を現す。奇妙なおっさんはシャツとズボン姿

の正真正銘ただのおっさんとなった。



69 :ゼロの執事 03 part3:2012/04/19(木) 00:14:27.29 ID:???
「あ、危ない。ちょっと待って、待ってください ウォルターさん、ごめん、謝るから許

してウィリス」

「許して、だと。やっぱり悪意あってさっきのセリフ言いやがったんだなテメエ」

「あ、わかってたのね それじゃあ許してくれるウィリス?」

「ああ 今その素ッ首叩き落として炉にくべて脂肪燃やして暖を取ってやる」 

「待って お願い 話を聞け 聞いてくださいウィリス」

なにやら必死そうに頭を地面に擦り付け懇願してくる。その様子にはさすがに話だけ聞い

てやろうかと鋼線を止める。仕方ない。言い分も聞かなくてはイギリス紳士(ジョンブル)

の面目がないだろう。ウォルターはそう思い鋼線をしまう。

「わかった 話だけ聞いてやる」

おっさんはそう聞いて安心したようだった。

「ふう よかったウィリス」

そういうとおっさんはおもむろにリモコンのボタンを押す。

バグム、と爆発音が近くで聞こえたと思った瞬間ウォルターの体がぐらつく。



70 :ゼロの執事 03 part4:2012/04/19(木) 00:15:43.73 ID:???
「な・・・」

見ると左足がない。突然のことに驚いたウォルターは片足では立てずうつぶせに地面に倒
れこんでしまう。

「ぐ・・」

それでもなんとか倒れる体を左手で支え、顔をおっさんの方に向ける。

「てめえ なにしやがる」

「はは ザマアミロウィリス 少しは爆破されたものの痛みが分かったかウィリス?」

「何言って・・・ ! 」

「答えてやろうウィリス 私はお前が作った銃、そしてお前に爆弾を埋め込まれ爆破され
た銃、そう、ジャッカルの精だウィリス」

「なんと!」

本当なのか、今の名は吸血鬼アーカードに、とある敵を打ち倒すために僕が特別に作って

やった、ジャッカルという銃の名前だ。

のちにアーカードと対決した時のためにその銃に爆弾を埋め込んでおいた。

そしてその時が来て爆破してやったのだ。

まさかそのジャッカルがこうして精霊になって僕に復讐してくるとは・・・。



71 :ゼロの執事 03 part5:2012/04/19(木) 00:17:35.22 ID:???
「ははは ここは私 ジャッカルの精空間 『ウィリス空間』なのでウィリス」

「なに・・・」

「おまえはもうここから出られないんだウィリス ここでおまえは持っていかれた―持っ
ていかれた―と叫びながら、くそ生意気な鎧の弟と一緒に賢者の石もとめて鉄骨にぶっ
さされたり、国を救おうとして敵の親玉に触手でとらえられたり、挙句の果てには錬金術
を使えなくなって無職になって、奥さん泣かせながら自分探しの旅に出て一生さまようん
だウィリス」

「いい加減にしろよ テメエ 全然違う話だろが、内容全然違うだろが、全然違う話にす
るな、やめろ。いろいろ誤解されるからやめろ 足りねえもんもあるし」

「え アへ顔ダブルピースもあったウィリス?」

「ダブルピースはぜったいにしてねえ!!」

ウォルターの悲痛な声が響く。ここでウォルターはアへ顔については否定しない。

ウォルターが頭を抱え悶えている中、ジャッカルの精は目を光らせながらグラサンをかけ

なおす。

「ところでウィリス」

「ああ?」

怪しむウォルターに構わず、まじめそうにジャッカルの精は続ける。


72 :ゼロの執事 03 part6:2012/04/19(木) 00:19:25.92 ID:???
「おまえさ なにあれ 痴男なの はずかしくないの?ウォルター君」

「今度はなんのことだ?」

「昨日の晩のことだウィリス おまえはルイズたんの前にひざまずいて、はあはあ言いな
がらなにをごくごくのんでいたんだウィリス?」

「は? ああ、血だろ 飲まなきゃ体が崩壊してさらに幼児化が進むし死ぬだろうが」

「ちがーうう!!」

いきなりおっさんが大声を出した。なんだ。いきなり。

「おまえはなぜあんな体勢をとったのかと聞いてるんだウィリス!なにあれ エロいウィ
リス! 文章のつたない描写でなんとか大丈夫だったがお前はただでさえショタ顔で、男
か女かわからないような顔してるくせに、ひざまずいて舌出して、はあはあ喘ぎながら
血をごくごくと飲むんじゃないウィリス!!
想像しただけでやばいじゃないかウィリス!! はあはあ」

「おい、何言って・・・」

「それにウィリス お前が飲んだのはルイズたんの血なんだウィリス!!三次元で言えば
キリストの血みたいに神聖なもんだウィリス!!
それを飲んだ上に一つ屋根の下で一緒に暮らす?
どんだけうらやましいんだウィリス!!」



73 :ゼロの執事 03 part7:2012/04/19(木) 00:20:01.91 ID:???
「おい」

「毎日罵倒されて最後にはデレだろうがウィリス!!下着も洗濯とかこつけて見放題だろ

がウィリス!!なんてうらやましいんだウィリス!!わしにも分けさせろウィリス!!」

だめだこいつ 何とかしないと・・・、とウォルターが思った瞬間、ぱあんと銃声が響き

おっさんの額に穴が開いて血が噴き出し、おっさんはばたり、と倒れる。

何事かと見回してみると高い建物のテラスから今度はエドワー○・フォックス似のスーツ

姿のダンディなおっさんがライフルを構えて颯爽と現れた。

「そいつは偽物だ 危ないところだったな」

「!! お前は!」

「そう 私が本物だ なに別に君のことは恨んでなどいないさ 

さ そろそろ起きたまえ おまえの新たなご主人様が待っているぞ 」

そしてダンディなおっさんはこちらに握り拳をつきだし親指を立てて高らかに宣言する。

「I’ll  be  back!!」

その瞬間、まぶしい閃光が走りウォルターは目を覚ました。現実に、新たな主人の元に。



74 :ゼロの執事 03 part8:2012/04/19(木) 00:20:46.48 ID:???
「!!! 畜生 なんだってんだ あの夢」

目を覚ましたウォルターは起きるなり毒づいた。変な夢だった。これで二回連続だ。

吸血鬼が夢を見るなんて・・・と思いながらかけていた毛布をはがし確認する。

うむ、両足とも大丈夫だ。さすがに夢の出来事は現実にはならないようだ。

はあ、と安心した後、起き上がり、きづく。ああ、そういえば替えの服もな

かった。今日中に執事服も調達しなくては、と考えながら立ち上がる。

ルイズの部屋のドアをノックせずにはいる。一応、礼儀として

「お嬢さま 入りますよ」

そういいながら入った。案の定、ご主人様はグースカ寝ていた。あどけない寝顔だ。昨夜

見せた高慢そうな顔はすっかりない。ねてるだけならかわいらしい顔立ちだ。

ウォルターは棚に置いてあった紅茶セットをつかって紅茶を入れながらそう思った。

しかし、その顔をあの高慢そうないつもの顔にもどすのも使い魔の仕事のうちだろう。

ウォルターは紅茶を入れたカップを棚に置き、主人のベッドに近づく。



75 :ゼロの執事 03 part9:2012/04/19(木) 00:21:35.17 ID:???
「お嬢さま、ルイズお嬢さま 起きてください 朝ですよ」

「うふふ どうよ キュルケェ・・・私の使い魔はあんたの使い魔なんかめじゃないんだ

からぁ」

む 夢の中で僕のことをキュルケってひとに自慢しているのだろうか。ウォルターはこそ

ばゆくなった。嬉しいが起こさなくては授業に遅れ、

「どう 見事でしょう このドラゴン・・・」

ふとウォルターは起こすのを止める。は、ドラゴン?

「人間なんかじゃないわよ りっぱなドラゴンなんだからあ zzzzz」

「・・・・・・・・ふむ」

お嬢さまはどうやら睡眠不足らしい。体調管理も使い魔の仕事だろう。さてご主人様のた

めに心を鬼にして起こさないでおこうか。

おや、お嬢さまの表情が変わった。違う夢を見ているようだ。

「ニィサァァァン そんなんだからいつまでたってもチ・・」

ドカッ。ベッドを軽く蹴り飛ばしルイズを叩き落とした。なんとなくむかついた。

特に最後の方の寝言がなぜか無性に腹が立った。



76 :ゼロの執事 03 part10:2012/04/19(木) 00:22:23.78 ID:???
ベッドから転げ落ちてルイズはようやく目が覚めたようだ。

「ふえ? あれここは?」

「お目覚めでございますか。お嬢さま?」

「あ、あんたは誰よ・・・あ・・・昨日私が召喚したんだっけ・・・私の使い魔を・・・

そう、そうよね。そうだったわね」

どうやら昨日のことを思い出したらしい。床に膝をつきながら眠そうに起き上がるルイズ。

「あれ、なんで私、床に転がっているの?」

「ああ、それは、さきほどお嬢さまはご自分で起き上がろうとなさり誤ってベッドから転

落したのでございます。はい」

しゃあしゃあとうそをつくウォルター。別に執事は正直である必要はない。

「なによ。そばにいたなら受け止めてくれてもいいじゃない」

「それは気づきませんでした。次、同じことがあればそうします。申し訳ありません」

「まあ いいわ あら、いい匂い。紅茶をいれてくれたの?」

「はい、どうぞお嬢さま。シロルの特級葉でございます。」



77 :ゼロの執事 03 part11:2012/04/19(木) 00:25:46.30 ID:???
ウォルターから渡された紅茶のとてもいい匂いがルイズの鼻をくすぐった。

「ありがとう。」

そういってルイズは紅茶を飲んだ。その後、コップを置き、立ち上がると

「おいしかったわ、じゃ、服」

と言ってきた。どうやら服をもってこい、という意味らしい。

「はっ」

椅子にかかった制服を渡す。ルイズは寝ぼけ眼でウォルターの目の前でネグリジェを脱ご

うとする。それを見てウォルターは、そこではた、と精霊の言葉を思い出しにやりと笑う。

「そういえばお嬢さま。まだお聞きしていなかったことが。」

「ん、なによ?」

「使い魔は、主人を着替えさせるのも仕事ですか?
執事は主を着替えさせるのが仕事のうちなので問題ないのですが。
でも執事である以前に僕は使い魔なので使い魔の勝手がよくわかりません。」 

ルイズはそうウォルターに言われ、今自分が何をしようとしているのかきづく。



78 :ゼロの執事 03 part12:2012/04/19(木) 00:26:21.74 ID:???
確かに自分と同じ年ごろの男の子の前で自分は下着を脱ごうとしている。

でもそれがなんだというのか?目の前の少年はただの使い魔にすぎないのだからあわて

る必要はない。なのに今の言葉のせいで一瞬、自分は躊躇してしまった。

なかったはずの羞恥心が湧き上がってくる。でもそれを無理やり押さえつけ使い魔に

威厳たっぷりに命令しなくては、と決意を固めるルイズ。

「・・・・・―――――ッ!!ええ、そそ、そうよ。あんたは私の使い魔、いわば召使。

召使は身の回りのことをするの だから着替えさせてもらって・・・・・」

しかしルイズの脳裏に昨夜の出来事が思い出される。色っぽい表情で自分の血を飲んだウ

ォルター。血を与えているだけなのになぜかドキドキしてしまった自分。

「お嬢さま?」

「・・・・・・や、やっぱりき、着替えは自分ですることにするわ。こ、紅茶ありがとう。

すぐ行くから外で待っててくれないかしら?」

「わかりました、お嬢さま」

一礼し、外へ出ていくウォルター。出ていくウォルターの背を見つめるルイズの顔は真っ

赤に染まっていた。


79 :ゼロの執事 03 part13:2012/04/19(木) 00:29:11.30 ID:???
部屋から出て主を待つウォルター。あんまり女の子の着替えを仕事とはいえしたくはない。

年端もいかない子供の時から着替えさせてもらうというのもどうかと思ってもいたのだが。

ルイズは着替えを済ませると、外へ出てウォルターを呼びつけ威厳を保つかのように上着

となる学生服だけをウォルターに着させた。

その後、ルイズは赤くなった顔を隠しながらついてこいと言って下に降りていく。

ウォルターはしずしずとそのあとをついていくのだった。

トリステイン魔法学院の食堂につくとどうやら生徒と先生が全員集まっているらしい。

ここで一斉に食事をとるらしい。

いわれた業務の中に料理、がない理由がわかり納得した。

食堂は豪華そのもの。おそらく、ここにいる全員が魔法使いであり貴族なのだろう。

目で食堂の様子を眺めていたことにきづいたらしい。

ルイズが得意げに指を立て言った。とび色の目がいたずらっぽく輝く。



80 :ゼロの執事 03 part14:2012/04/19(木) 00:30:29.20 ID:???
「トリステイン魔法学院で教えるのは、魔法だけじゃないのよ」

「ほお」

「メイジのほぼ全員が貴族なの。『貴族は魔法をもってしてその精神を成す』のモットーの
元、貴族たるべき教育を、存分に受けるのよ。だから料理も貴族の食卓にふさわしいもの
でなければならないのよ」

「左様でございますか さすれば僕のような身分の低いものが入ることはできないのでし

ょう」

「そうよ でもあんたは私の特別な計らいで使い魔だけど入らせてあげてるの。感謝しな

さいよね」

「ありがとうございます。お嬢さま。ではここにお座りください」

そういってウォルターは空いている椅子をひく。

「あら 気が利くわね さすが執事ね そうでなくっちゃ」

そういって椅子にすわる。ウォルターは机に並べられた料理を見て、目を見張る。無駄に

豪華だ。少佐あたりが喜びそうな料理が所せましとならんでいる。

後で少しもらえるだろうか。吸血鬼になってしまった今、普通の料理が食べられるかため

してみたい。


81 :ゼロの執事 03 part15:2012/04/19(木) 00:32:18.74 ID:???
そう考えていると突然、つんつんとルイズお嬢さまに指でつつかれる。

「なんでございましょう お嬢さま」

「言い忘れたけど あんたの食事はそれね」

「?」

ルイズが指差したほうをみると床に皿が一枚置いてある。

申し訳程度に小さな肉のかけらが浮いたスープと端っこには固そうなパンが二切れ、ぽつ

んと置いてあった。いやはや床で食事とは・・・。

アーサー卿ですら床で食えとは言わなかったのに。いや、かわりに仕事で魔女の窯の底の

ような場所に行けと言っていたな、と懐かしくウォルターは思い出す。

だがこれは完全に下僕、もしくは狗扱いだ。自分はたしかに使い魔、狗と成り下がってし

まっているけれど、誇りはまだわずかばかりかは持ち合わせているつもりだった。

しかし、ウォルターは怒りを感じながらも、不平もいわず、表情にも出さず、じっと立っ

て主が食べている姿を眺めていた。なぜかルイズは食事の間、背筋が寒かった。



82 :ゼロの執事 03 part16:2012/04/19(木) 00:35:31.92 ID:???
みんなの食事が終わるころ、さっそく、ウォルターは先ほどの皿からとりだしたパンのか

けらを口に含んでみた。

「む・・・」

思わずむせてしまう。まずい。味が、ではなく体が拒否し、そう認識させているのだ。ど

うやら体は血以外のものは受けつけがたいらしい。でもなんとか胃の腑に収めた。

次に匙でひとすくいのスープを口に運ぶ。口をあけ―――それでもかなりの抵抗があっ

たが―――口に含む。

とたんに体中が拒絶反応を示し、吐き出そうと喉からせきを出す。

「ッツ〜〜〜〜〜〜〜〜」

だがむりやり意思の力で飲み込む。口をおさえなんとか嗚咽の音を抑える。

苦しみながらウォルターは昔の仲間、アーカードの下僕、半吸血鬼のセラスのことを思い

出していた。吸血鬼になりたての彼女は最初、食事の時血を飲むことを拒否し今の自分と

同じように人間と変わらないものを食べようと努力していた。人であろうとして。



83 :マロン名無しさん:2012/04/19(木) 01:16:45.83 ID:???
ごめんなさい 書き込めなくなりました。
残りは明日の晩、投下します

84 :マロン名無しさん:2012/04/19(木) 01:18:37.67 ID:???
と思ったら書き込めるようになってた。
とりあえず03を今残り投下して、04は様子見します
では続き投下します

85 :ゼロの執事 03 part17:2012/04/19(木) 01:19:38.07 ID:???
あのときセラスは苦しがっていた。あのときウォルターはかたくなに人間のものを食べよ

うとするセラスにあきれていたのだが、いま自分はこうしてセラスと同じ状況にいる。

皮肉にもセラスの苦しみがこのような形で理解できてしまい、むせながら一人心の中で苦

笑していたウォルターであった。 
        

食事が終わると皆授業へ向かっていく。

向かった教室は石でできた大学の講義室のよう。食堂の時と違い、ここには様々な使い魔

がいた。普通の生き物もいるが本から想像するしかなかった架空の生き物もいた。

「ほほお」

ウォルターは感心しながら見とれる。想像上の生き物をこの目で見れるとは。

長生きはしてみるものだな、とそう感じずにはいられない光景だった。

ウォルターは教室の一番後ろ、最も高い場所に立つ。

ここなら授業の邪魔をしないし主を守りやすい。


86 :ゼロの執事 03 part18:2012/04/19(木) 01:21:21.89 ID:???
しばらくして中年の女性が入ってきた。優しげな雰囲気を漂わせている女性が生徒たち

を見わたすと、笑顔で口を開いた。

「みなさん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって
 春の新学期に様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」

どうやらシュヴルーズというらしい。シュヴルーズは教室を見渡していく。使い魔たちを

眺めているのだろう。その視線がウォルターの前で止まった。

「あら、あなたは・・・」

「ゼロのルイズの使い魔ですよ 先生」

答えようとしたウォルターに代わり太った少年生徒が言う。

「あら 変わった使い魔ですわね」

シュヴルーズの感想に教室中がどっと笑いに包まれる。

「ゼロのルイズ!召喚できないからってその辺歩いてた平民をつれてくるなよ!」

ルイズが立ち上がって怒鳴る。

「違うわ!きちんと召喚したもの!こいつがかってに来ちゃっただけよ!」

「嘘つくな!“サモンサーバント”ができなかったんだろう?」



87 :ゼロの執事 03 part19:2012/04/19(木) 01:22:56.51 ID:???
ゲラゲラと教室中の生徒が笑う。ルイズは顔を真っ赤にして唇をかみしめている。
 
その様子は後ろから見ていたウォルターからでもわかるほどだったが、執事はかばおうと

しない。 

(どうやら僕の主はいままでなにかしらの理由でゼロのルイズと呼ばれてきたらしい。

それは教室中の生徒の知ることのようだ。だがこれに関して僕はどうすることもできない。

自らの過去の汚点はその自分自身に責任がある。

主の過去は膨大な未来によって壊さねばならない。だから、反論は僕はしない。)

「みっともない口論はおやめなさい」

シュヴルーズはそう一喝し、教室を静かにさせる。シュヴルーズは咳払いをして続ける。

「では授業を始めます。今日は『土』系統の魔法の基本である『錬金』の魔法を覚えても

らいます。基本は大事です。もう一度おさらいしましょう」

そういうとシュヴルーズはポケットから小石を取り出し短いルーンを唱え杖を振る。する

とただの石ころはピカピカ光る金属に変わっていた。

「ゴ、ゴールドですか?ミセス・シュヴルーズ!!」

赤髪の少女が身を乗り出す。


88 :ゼロの執事 03 part20:2012/04/19(木) 01:24:39.78 ID:???
「違います。ただの真鍮です。ゴールドを錬金できるのは『スクウェア』クラスのメイジだけです」

ウォルターはおや、と思う。また聞きなれない言葉が出てきた。あとで主に聞こうとそう

思っていると、主がシュワルーズに指差された。

「そうですね ではミス・ヴァリエール!」

「は、はい!」

「あなたに錬金で小石を望む金属に変えてもらいましょう」

「わ、わかりました」

ルイズはつかつかと前に出ていく。

ウォルターは困った。これでは何かあったときに守れないではないか。だが、先ほどしたことをするだけなら危険はないだろう。

そう考えてウォルターは見守ることにしたのだが、生徒たちの様子がおかしい。

皆椅子の下に隠れたり机に隠れたりしている。青髪の子にいたっては教室から出ていって

しまった。さきほど身を乗り出していた赤髪の子が何事か教壇に近づくルイズに言ったが

無視されてしまっていた。「やめて」とか聞こえたがどうしたのだろうか。

ついにルイズが先生の机にたどり着き、ルーンを唱えつつ先ほどの先生と同じことを行う。

だが、杖を振り下ろした次の瞬間、机ごと石ころは爆発し、教室は阿鼻叫喚の大騒ぎとな

った。


89 :ゼロの執事 03 part21:2012/04/19(木) 01:30:02.67 ID:???
「ッ!! お嬢さま!!」

すぐに、元、と呼ぶしかないほど原形をとどめぬ教壇の机の場所に駆け寄る。よかった、

ルイズは無事のようだ。服がところどころ破けているがけがはなさそうだった。

だが魔法の結果はどうみても失敗だ。それも大失敗。

落ち込んでいるのでは?と主の方を見やると違った。

ルイズは余裕たっぷりに

「ちょっと失敗みたいね」

そうのたまったのだ。当然、ほかの生徒たちから猛然と反撃を食らう。

「ちょっとじゃないだろ!ゼロのルイズ!」

「いつだって成功の確率ゼロじゃないかよ!」

ウォルターは悟った。どうしてルイズが『ゼロのルイズ』と呼ばれているかを。大騒ぎの

周囲の様子を見て、どうやらこの新たな主とは大変そうだと予感せずにはいられなかった。




90 :マロン名無しさん:2012/04/19(木) 01:33:52.20 ID:???
これで03終わりです。04は
03と量が同じくらいあるので
次の晩にまとめて出します ではまた

91 :マロン名無しさん:2012/04/19(木) 02:32:21.22 ID:???
乙です!
さるさんだったら1時間程度で解除されるそうですよ
ttp://info.2ch.net/wiki/index.php?Good-By_Monkey

92 :マロン名無しさん:2012/04/19(木) 03:09:22.13 ID:???
しょるたー乙乙

93 :マロン名無しさん:2012/04/19(木) 19:30:37.33 ID:???
ショルターの人乙
過去ログざっとみたがpart付けなくても話数表記だけで大丈夫ですぜ

94 :マロン名無しさん:2012/04/19(木) 23:27:43.66 ID:???
>>91,93
指摘どうもありがとうございます。
よければ何かあったらこれからも指摘してください。
では04話投下します。

95 :ゼロの執事 04:2012/04/19(木) 23:28:50.95 ID:???
 第四話  決闘

ミスタ・コルベールは急いで学院長室へ向かって走っていた。一刻も早くこの事実を伝え

なくてはと思うと足に自然と力が入る。やがて学院長室の扉の前につくと勢いよく開け放

つ。幸いオールド・オスマン一人だけのようだ。

「オールド・オスマン!」

「なんじゃね、騒々しい」

「たた、大変です!」

「大変なことなどあるものか。すべては小事じゃ」

「ここ、これをみてください!」

「む?この書物がどうかしたのかね?」

「これも見てください」

そういうとコルベールはウォルターの左手に現れたルーンのスケッチを渡す。

「!! 詳しく説明するんじゃ。ミスタ・コルベール」





96 :ゼロの執事 04:2012/04/19(木) 23:30:08.30 ID:???
そのころウォルターはルイズがめちゃくちゃにした部屋の片づけをしていた。片腕にも

かかわらず、てきぱきと掃除をしていく。あっという間にがれきは姿をけし、チリひとつ

ない教室となり、教壇の机がない以外は授業の時よりもきれいになっていた。ルイズも手

伝っていたがあまりの手際の良さに驚いている間に終わってしまっていた。もう少し手伝

いたかったと思うほどウォルターの手際ははやく、見事だった。

「さ・・・さすが執事ね す、すごいじゃない」

「いえいえ この程度、元の世界にいたころに比べれば掃除のうちにも入りません」

「へ、へえ そう。」

若干ルイズが引いていたがウォルターは気にせずせっせとゴミをまとめていく。

 掃除を終えるとウォルターはふと気が付く。ルイズの表情が少し暗い。先ほどの失敗が

影響しているのだろうか。いつもの高慢そうな顔はすっかり影に潜んでいる。

(少し励まそうかな)

そう思いウォルターはルイズに向かって口を開く。

「ルイズお嬢さま。少しよろしいですか。」

「な、なによ」



97 :ゼロの執事 04:2012/04/19(木) 23:32:06.46 ID:???
声を掛けられ我に返ってウォルターを見つめるルイズ。そんなルイズに優しくウォルター

は言葉を続ける。

「重要なものは二つ。経験と目標です」

「え、ええ」

「どちらも密接な関係です。経験は決して無駄にはなりません。

経験は積めば積むほど財産になります。失敗してもあきらめずになにかを目標とし進む

ことは大きな経験となり目標に近づく確実な一歩となるのですよ」

「・・・・・・」

「成功からは何も学びません 失敗から私たちは学ぶのです。」

励ましてくれているのだろうか。ルイズは下を向いて考える。

どうして自分とさほど違わないはずの少年がこんなことを言えるのだろう?

自分もできるだろうか。みんなに認めさせることを。ううんウォルターが

さっき言っていたじゃない。あきらめなければ目標へ近づけるって。

そう考えるとやる気があふれてきたルイズはお礼を言おうとウォルターを向き直る。




98 :ゼロの執事 04:2012/04/19(木) 23:33:19.54 ID:???
だが、ルイズは礼を言いそびれてしまった。目の前の少年の姿が違って見えてしまって

いたのだ。驚いてまばたきをしてもう一度よく見てみると目の前には元の少年がいたが

一瞬、目の前の少年が少年ではなかった気がしたのだ。

(・・・・さっき、大人みたいに見えたわね。変ね。気のせいかしら?)

戸惑うルイズの様子が先ほどとは違い、明るいものになったと感じたウォルターはにっ

こりとルイズに笑いかけた。
 
「さて、ルイズお嬢さま」
 
「なに?」

 「掃除が早く終わったのでお昼にしてはいかがですか?」

 「そうね 行きましょう」

ウォルターは安心した。機嫌がよくなったようだ。よかった。やはり、いつも

の主が一番主らしい。
 



99 :ゼロの執事 04:2012/04/19(木) 23:34:41.56 ID:???
食堂についた後、ルイズに食事と昼休みの間少し調達したいものがある、と言って時間

をもらってウォルターは外に出た。

日の光は強くはなかったがそれでもつらいことには変わりない。

日光はなんとか皮膚を再生し続けることでしばらく平気になってはいるが、それでもな

るべく再生力を消費しないよう、日陰を歩きながらウォルターは厨房に向かっていた。

とりあえず今、必要なものが二つある。替えの服と棺桶だ。
 
二つとも単純な理由から必要だった。

まず替えの服がなければ主人に迷惑がかかる。同じ服を着続けるのも限界がある。今の

執事服はところどころ見えないところにこの世界に来る前についた血の跡があった。医

務室で服を洗ってくれたらしいがいつまでもつかわからない。

棺桶はもっと単純、棺桶で寝なければ力が弱まる一方だからだ。

吸血鬼は棺桶で寝なければ力が弱まる。あの吸血鬼と同じことをする羽目になったのは

腹立だしいが、自分の弱さのせいで主が危機にさらされるのはもっと腹立だしい。

必要なのは布と木材だ。厨房になら布と薪があるだろう、そう思ってウォルターは厨房

へと入っていった。



100 :ゼロの執事 04:2012/04/19(木) 23:38:48.39 ID:???
「あの 何かご用でしょうか?」

突然来たので貴族の使いかとおもったのだろう。少し警戒しているようだった。ウォル

ターは答えた。

「いえ ここには私用で来ただけでして。私はウォルター、どうぞお見知りおきを」

「ごていねいにありがとうございます あら ミス・ヴァリエールの使い魔ですね」

「ご存じなのですか?」

「ええ 執事姿の平民を召喚したって学院中のうわさになっています」

「そうですか・・・」

執事姿、ではなく実際に執事なのだが。

「あ、ごめんなさい 私はシエスタって言います」

「シエスタさんですか、」

「さんづけなんて。シエスタ、って呼び捨てでかまいませんよ」

「ではお言葉に甘えて。シエスタ、申し訳ありませんが布と木材をわけていただけません

か」



101 :ゼロの執事 04:2012/04/19(木) 23:40:54.97 ID:???
さっそく本題に入る。

「布と木材ですか?あるとは思いますが・・・。マルトーさん!」

奥からマルトー、と呼ばれた恰幅のいい男がぬっと立ち上がりこちらに来た。

「おう、聞いてたさ ほう おまえが噂の執事か・・・」

じろじろとウォルターを見るマルトー。

「ウォルターさんが布と木材がほしいそうです」

「む そうか あるにはあるが・・・。だが、ただってわけにはいかんな。
 そうだな うちの仕事を手伝ってくれたら好きなだけやるという交換条件でどうだ?」

「そのくらいでよろしければ喜んで」

「おおう 即答か 気に入ったぜ」

マルトーはがっはっはと笑いながらウォルターの肩をバシバシと叩いた。

この人の性質だろうか、なれなれしいが周りの信頼が厚そうな人物だ。

「じゃあ そうだな シエスタと一緒に・・・そうだな 片腕だから不便だろう。
 デザート皿のトレイを運んだり、食べ終わった食器を拾ってシエスタに渡してくれ」

「わかりました」

こうしてウォルターはシエスタとともに給仕の手伝いをすることとなった。




102 :ゼロの執事 04:2012/04/19(木) 23:41:20.37 ID:???
中庭でウォルターは日光をうまくよけつつ、デザートのケーキの乗ったトレイを持ち、

シエスタがはさみでケーキをつまみ、一つずつ貴族たちに配っていく。

シエスタは最初、片腕では持つのはつらいのではないかとウォルターを心配していたもの

のすぐにその考えは改めた。

ウォルターは片手の指と腕だけで、軽々といくつもの皿が乗ったトレイをいくつも運

んでいた。執事としての経験とバカ力。この二つがウォルターに片腕でもはたらけるよ

うにしているのだった。

「手馴れてますわね ウォルターさん」

「お褒めいただきありがとうございます。でもこの程度、執事として当然ですよ」

そんな他愛ない雑談をしながらケーキを配り終えた後、二人は片づけである皿の回収に回

っていた。順々にテーブルを回っていく。

すると目の先に金色の巻き髪に、フリルのついたシャツを着た、気障なメイジがいた。バ

ラをシャツのポケットに差している。周りの友人が口ぐちに彼を冷やかしている。


103 :ゼロの執事 04:2012/04/20(金) 00:31:41.49 ID:???
「なあ、ギーシュ! お前、今は誰と付き合っているんだよ!」

「誰が恋人なんだ?ギーシュ!」

ギーシュと呼ばれたそのメイジはすっと唇の前に指を立て

「つきあう?僕にそのような特定の女性はいないのだ。バラは多くの人を楽しませるため

に咲くのだからね」

そんなキザったらしいことを言っていた。

(なんだ?あいつは?) 

ウォルターは眉をひそめる。

言っていることは聞こえはいいが要は、言葉通り真剣に付き合ってる女性はいないか、も

しくは何股もかけてます、と宣言しているかのどちらかでしかない。あの口ぶりからおそ

らく後者のようだが。よくもまああんなふうにキザったらしくいえるものだ

そのときギーシュのポケットからガラスでできた小瓶が落ちた。

貴族が落し物をするとは・・・。しかたない、とどけてやるか。



104 :ゼロの執事 04:2012/04/20(金) 00:32:32.24 ID:???
「ギーシュ様」

こいつにはなんとなく様付けしたくはなかったが仕方ない。

「ん、なんだね 執事君」

「これを落ちていましたがあなた様のでございましょう?」

すると瓶を見るなりギーシュは迷惑そうに言い放つ。

「これは僕のじゃない。君は何を言っているんだね?」

だがめざとく周囲が反応した。

「おお?それはモンモランシーの香水じゃないか!」

「そうだ!間違いない!」

「そうか お前はモンモランシーと付き合っている。そうだな?」

周りが反応する中、

「違う、いいかい、彼女の名誉のために言っておくが・・・」

ギーシュが何か言いかけようとしたとき、

「ギーシュ様・・・」

栗色の髪をした少女がちかづいてきた。



105 :ゼロの執事 04:2012/04/20(金) 00:33:56.24 ID:???
「やはり、ミス・モンモランシーと・・・」

「ちがうんだケティ 彼らは誤解を・・・」

しかし、ケティと呼ばれた少女は思いっきりギーシュの頬をひっぱたき

「さようなら!」

そういって去って行った。すると今度は巻き髪の女の子がいかめしい顔つきでかつかつか

つと近づいてきた。

「モンモランシー、誤解だ 彼女とはただ一緒に馬で遠乗りをしただけで・・・」

「やっぱり あの一年生に・・・」

「お願いだよ 信じてくれ モンモランシー バラのような顔を怒りでゆがませないでく

れ 僕まで悲しくなるじゃないか!」

「嘘つき!」

そう怒鳴って手近にあったワインの瓶の中身をギーシュの顔にぶちまけた。

そして怒った足取りで去って行った。

沈黙が流れた。



106 :ゼロの執事 04:2012/04/20(金) 00:36:28.74 ID:???
(はあ)

ウォルターは心の中で溜息をつくとその場を去ろうとする。

やはり後者か。あきれてものが言えん。

「待ちたまえ」

はあ 再び心の中で溜息をつくとギーシュに向き合う。ギーシュはワインをハンカチで
拭きながら言う。

「君のせいで二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね」

ウォルターは黙っている。

「君が軽率に瓶を拾い上げたとき 僕は誰と付き合っているかの話をしていた

 君も平民とはいえ紳士なら話を合わせるくらいの機転があってもいいだろう?」

紳士、という言葉にウォルターの中で何かがはじけた。

「何を言っているんだ 貴様」

ウォルターは大声でギーシュを怒鳴りつける。






107 :ゼロの執事 04:2012/04/20(金) 00:38:32.55 ID:???
「貴様ごときが紳士を語るな。貴様は紳士の風上にも置けん。
 貴様は二人のご婦人に二股をかけ、振られた。それだけにすぎん。
 それなのにそんなやつが紳士だと? 笑わせる。」 

「な・・・な・・・僕に向かってそんな口を・・・」

「はっ せいぜいご婦人方への謝罪の言葉でも考えておくんだな」

そういってウォルターはシエスタのところに戻ろうとする。

ギーシュはあわてた。

「ま、待ちたまえ!」

「なんだ」

振り返る。先ほど怒鳴りつけたのにかかわらずしつこくギーシュはなおも話しかけてくる。

「君はよく見たらあのゼロのルイズが呼び出した、平民だったな。さすがゼロのルイズが
 呼び出した使い魔だ。貴族に対する礼儀もゼロ。君の主の底も知れるというものだ」

「なんだと テメエ」

もはや今のウォルターはあの温厚な老年時代のウォルターではなかった。いまや悪ガキ

時代の口調に戻っていた。

「うるせえ キザ野郎。一生薔薇でもしゃぶってろ」



108 :ゼロの執事 04:2012/04/20(金) 00:39:30.36 ID:???
「ほほお それが君の本性というわけか よかろう。君に礼儀を教えてやろう。しかし、
 ここは平民の血で汚せない。ヴェストリの広場にきたまえ。決闘だ」

ギーシュはくるりと体を翻し友人たちを連れて行った。一人は残ってウォルターを監視し

ていたがウォルターには逃げる気など毛頭なかった。みんなは食事を終えウォルターをじ

っと見ていた。

周りの視線を気にせずウォルターは踵を返し静かにシエスタの方に向かう。シエスタはぶ

るぶる震えていた。

「あ、あなた、殺されちゃう・・・貴族を本気で怒らせたら・・・」

「大丈夫ですよ」

安心させようとシエスタに言葉を掛けながら皿の回収用のトレイを渡す。

「ちょっと行ってまいります。これでぜんぶの皿です。よろしくお願いします」

「え、え?まだ全部回収してないですけど・・・」

「いえ これで全部です」

ウォルターがそう言った直後、なにか鋭いものが風を切るような音と何かが滑るなめらか

な音がきこえ、何事か、とシエスタは上を見る。そして見えてきた信じられない光景にシ

エスタは固まってしまった。



109 :ゼロの執事 04:2012/04/20(金) 00:40:04.61 ID:???
皿が、ここにある何十枚もの残りの皿が宙を飛んでくる。皿は一枚一枚並んで列になって、

放物線を描きシエスタのトレイめがけ飛んでくるのだ。

シエスタがあっけにとられている間に皿は、シエスタのトレイに静かに置かれていき

一枚残らずきれいに並び積み重なっていく。

「では」

そういってウォルターはヴェストリの広場へ歩いていく。シエスタもその場にいた者たち

も全員あまりのことに唖然として動けなかった。

皆がようやく動き出したのはいちはやく我に返ったシエスタがよろけ、一番上に置いてあ

った皿を一枚落として割ってしまった音を聞いてからだった。




110 :ゼロの執事 04:2012/04/20(金) 00:41:03.78 ID:???
ウォルターがヴェストリの広場へ着くともう人だかりができていた。

決闘のうわさを聞きつけた生徒たちで広場はあふれかえっている。

なるほど決闘にうってつけだ。ここも中庭らしいが西側のためあまり日が差さない場所だ

った。

吸血鬼に都合がいいなあとウォルターは思いながら、広場の中心近くに立つ。

ギーシュもそこにいた。

「諸君!決闘だ!」

ギーシュがバラの造花を掲げた。ウオーッと歓声が巻き起こる。ギーシュは手を振って歓

声にこたえている。ここにいる全員がギーシュを応援しているようだ。ひとりを除いて。

決闘のことを聞きつけたご主人様だ。

「あんた!何してんのよ!きいたわよ!」

「これはこれは ルイズお嬢さま」

「なに勝手に決闘しようとしてんのよ」



111 :ゼロの執事 04:2012/04/20(金) 00:41:35.23 ID:???
「お嬢さま」

じっとルイズをみつめる。柔和な顔をしていたが目は真剣にルイズにウォルターは話す。

「あの小僧は僕に紳士らしからぬ行動と言葉を吐きました。しかもその上で紳士を語りま

した。この僕はそれが許せない。」

「でも、だからって決闘に挑むこと・・・」

「だからこそです」

ウォルターはきっぱりと有無を言わせぬ口調で言う。う、とルイズは詰まる。

「でも、片腕で勝てるわけ・・・」

「ご安心ください、ルイズお嬢さま」

自信たっぷりにウォルターは言う。

「いまからやつを返り討ちにしてごらんにいれましょう。英国紳士(ジョンブル)の授業

料がいかに高いか、やつに教育してやりましょう」

ウォルターはルイズを見つめる。ルイズはまばたきをした。またみえてしまった。

またもこの少年が頼もしい大人に見えてしまったのだった。



112 :ゼロの執事 04:2012/04/20(金) 00:42:10.96 ID:???
「・・・ほんとうに わからずやね・・・」

そうルイズはつぶやく。不安と期待が入り混じった表情でルイズは告げる。

「いいわ やってしまいなさい ウォルター」

「了解(ヤー)わかりました。お嬢さま」

ウォルターはにやりと笑うとルイズに背を向け、再びギーシュに向き直る。

こちらを見るウォルターに、ギーシュは余裕そうな笑みを浮かべ口を開く。

「まずは誉めよう。とりあえず逃げずに来たことは誉めてやろうじゃないか」

「能書きはいい ルールは?」

つまらなそうに先をせかすウォルターにギーシュはいらつく。

「ッツ!ふん!かんたんさ どちらかが参った、というまでさ」

「そうか」

「さてと、では始めるか」

その言葉と同時にウォルターは身構える。あいては魔法使いだ。何をしてくるのか。

「ふふっ」



113 :ゼロの執事 04:2012/04/20(金) 01:02:07.30 ID:???
身構えるウォルターを見てギーシュは笑みをうかべ、バラの花を振る。

花弁が一枚宙に舞ったかと思うと・・・。

甲冑を着た女戦士の形をした、人形となった。

背丈はウォルターより少し大きいぐらいか。

人間くらいの大きさのそいつはウォルターとギーシュの間に立つ。

「ほお」

「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」

「ハッ 上等ォ」

啖呵を切るウォルターにたいして、ギーシュは自信たっぷりに続ける。

「言い忘れたな。僕の二つ名は“青銅”“青銅”のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム
“ワルキューレ”がお相手するよ」

「・・・・・」

ウォルターは何も言わない。じっとワルキューレを観察している。その様子を困っている

と解釈したのかギーシュが再び口を開いた。



114 :ゼロの執事 04:2012/04/20(金) 01:02:57.48 ID:???
「そういえば君は右腕がないんだったね。仕方ない。これではあまりにも差がありすぎる

じゃないか」

そういうとギーシュは再びバラの花を振る。一枚の花びらが一本の剣に変わる。

ギーシュはそれをつかむとウォルターに向かって投げた。

剣はウォルターの足元にカラン、と音を立てて横たわる。

「さあ 剣をとりたまえ 不利な平民の君のための僕からの施しさ」

その間にもワルキューレはウォルターに向かってじりじりと近づいていく。剣をとったと

たんに襲い掛かる気が見え見えだ。

「ウォルター・・・」

観衆の中、ルイズは心配になった。やはり片腕ではギーシュには勝てない、と思ってしま

う。返り討ちにする、といっていたがどうしても不安になってしまうのだった。


115 :ゼロの執事 04:2012/04/20(金) 01:03:53.20 ID:???
だが、次の瞬間ルイズのその不安は消し飛んだ。

ウォルターが目を細めると同時に、足元の剣を右足でわずかな動作で剣を蹴り飛ばしたのだ。

あまりの早業。右足で柄のところをけり宙に一、二回回転させ、上げた右足を

そのまま一瞬後ろに引いた後、宙で回転している剣をそのままもう一度蹴る。

その一連の動作は、全く無駄がなく、周りの者にははやすぎた。

小石をけるかのように蹴り飛ばされた剣は、力強く引き絞られ、放たれた矢のように

まっすぐ宙を走り、標的――ワルキューレの腹に深々と突き刺さる。

しかし突き刺さっただけではおわらなかった。ワルキューレに刺さっただけではいきおい

はなくならず剣とともにワルキューレもとんでいく。ヴェストリの広場の壁にむかって。

どすっ、というにぶい音を立て広場の壁にワルキューレははりつけにされた。

誰が見てもあれではワルキューレはもう動けない。一瞬のできごとだった。

「は?」

あまりのことに目の前のことを信じられず、後ろにはりつけにされたワルキューレを見つ

め呆然とするギーシュ。そのほうけ面に向かってウォルターは言葉を浴びせる。

「だれがテメエの施しなんぞいるか 寝ぼけんな キザ野郎」


116 :ゼロの執事 04:2012/04/20(金) 01:04:29.58 ID:???
「な、な、き、貴様!!」

我に返ったギーシュは怒り狂い再びバラを振る。

花びらが舞い、現れたのは新たに六体のゴーレム。すべて先ほどのと同じ形である。



一斉にワルキューレたちはウォルターめがけて進軍していく。怒り狂った主とは対照的に

ワルキューレたちは統率がとれていた。ウォルターを囲もうとワルキューレたちは横に広

がる。剣を構え行進していくワルキューレたちは確実にウォルターを包囲し、とらえた。

剣を突き付けるワルキューレたちの包囲網によりウォルターはうごけない。

「かかれ!」

ギーシュの掛け声とともにワルキューレたちの剣がウォルターの体を斬ろうと迫る。

これに勝てる者はいない。丸腰の平民に、しかも片腕のものがかなうはずがない。

そう考え、勝利を確信するギーシュ。笑みが思わずあふれそうになる。

まわりのものも思わず息をのみ、決着の様子を見ようと皆黙り込む。



117 :ゼロの執事 04:2012/04/20(金) 01:07:59.34 ID:???
だが、その剣がウォルターに届く直前、鋭い何かが空を切る音、なにかが切り裂かれる音

、そして何かが崩れ落ちた音がつづけざまに鳴り響いてきた。

数秒後、ギーシュは変わり果てた眼前の光景にあやうく杖を取り落しそうになった。

驚くギーシュの視線の先には先ほどまでウォルターに攻撃を加えようとしたワルキューレ

が倒れていた。無惨に胴を切られ、上半身と下半身が別々の方を向いて転がっている。

全部で4つの残骸。ワルキューレの進軍陣形の左翼を務めていた二体のなれのはてだ。

「そんなっ」

ギーシュは悲鳴を上げる。ギーシュはいまだ起きたことが信じられず唖然としていた。

倒れたワルキューレを見つめ続けるギーシュをウォルターの響く声が我に返させる。

「ち・・・外したか・・・、やはり片腕と口だけでは難しいものだな」

「!!」





118 :ゼロの執事 04:2012/04/20(金) 01:10:21.82 ID:???
ギーシュはきづく。あれは、なんだ。

包囲したはずのウォルターはいつの間にかワルキューレの包囲網をくぐり抜け、ワルキュ

ーレの軍団から4,5メイル離れたところにいた。

ウォルターの周りには宙に細長い糸のようなものが光を反射してきらきらと輝いて浮かん

でいる。よく見るとそれをウォルターは左手の指と口で操っているようだ。

ギーシュはまさか、と思う。まさか、あれがワルキューレをこんなふうにしたのか?

一方ウォルターはギーシュの驚きも意に介さずにやにやしながら続ける。

「言い忘れたな。僕の二つ名は“死神”。死神 ウォルター」

ギーシュはきづく。いまのは先ほど自分の言ったセリフ。それを自分に返されたのだ。

「ウォルター・C・ドルネーズ。ヴァリエール家執事、元ヘルシングゴミ処理係。行くぞ」

屈辱にみるみるギーシュの顔は怒りで赤くなっていく。

「! やってしまえ!」

ギリ、と歯を食いしばりギーシュは命令を下す。残り4体のワルキューレが一斉にウォル

ターに躍り掛かる。鋭い剣圧とともに振り回されるワルキューレの斬撃。


119 :ゼロの執事 04:2012/04/20(金) 01:10:55.03 ID:???
だが、ウォルターは身を翻し、迫りくる斬撃を難なくかわしていく。

「もろい。やはり青銅は青銅だな」

よけながら鋼線を展開していく。鋼線は意思を持つかのごとくあたりに広がりさきほどと

は逆にワルキューレの軍隊を包囲していく。

「青銅の加工しやすさに目をつけて 外見みごとな戦士を作ったのはいいが」

そして張り巡らせられた鋼線は一瞬にして4体のワルキューレに次々と巻きついていき

「これでは 戦乙女(ワルキューレ)とはほど遠い」

ウォルターが手の甲輝く左腕を右から左に動かした瞬間、瞬く間に残りのワルキューレた

ちも最初の二体と同じ道をたどった。

「そ、そんな」

ギーシュは呆然とする。一瞬にして自らのゴーレムたちが全滅した。この光景をまだギー

シュは信じられない。その間にもウォルターが静かに歩み寄ってくる。鋼線を煌めかせな

がら。鋼線を操りながら、少年の目と顔は笑っていた。


120 :ゼロの執事 04:2012/04/20(金) 01:13:22.99 ID:???
だが対峙するギーシュにとってはその姿はまさに獲物をその眼に捕らえ、舌なめずりをす

る“死神”に見える。恐怖するギーシュにウォルターは朗朗と言葉を紡ぐ。

「小便はすませたか?  神様にお祈りは?

部屋のスミでガタガタふるえて 命ごいをする心の準備はOK?」

「あ・・・ッ こ、このお!」

恐怖し、冷静な判断ができなくなってもなお、ギーシュは杖を振ろうとする。だが動かせ

ない。なんと手を見るといつのまにか鋼線がまきついているではないか。

ひやりとした感触が首から伝わり、さらに目を見開くギーシュ。

首にも巻きついている。ワルキューレを切断した武器が。少しでも動けば死ぬぞ、といわ

んばかりにその冷たさを伝えてくる。ギーシュの戦意はみるみる喪失してしまった。

「ま、参った」

震えた声でギーシュは敗北を認める。その言葉にウォルターはにっと笑い、ギーシュを鋼

線から開放し、くるり、と身を翻し帰っていく。勝ったことが信じられない主の元へ。

歓声と喝さいが沸き起こり、かくして広場での決闘はこうして幕を閉じた。




121 :ゼロの執事 04:2012/04/20(金) 02:03:08.35 ID:???
一方、学院長室では、コルベールとオスマンは鏡で決闘の様子を見ていたが、その一部始

終を見て顔を見合わせた。

「オールド・オスマン」

「うむ」

「あの平民・・・」

「うむ 男のくせに腰つきがエロかったのお おもわず」

「なにを言っているんですか オールド・オスマン 違いますよ あの動き!あの武器の
 扱い!やはり彼は・・・」

「わしには歴戦のつわものが勝つべくして勝っただけじゃと思うがの」

「は?いやしかし」

「仮に彼が本当にガンダールヴだとしても今はなにもできん なぜただの人間の彼がそう
 なのか理由がわからんからの」

「では王室にも・・・」

「また戦でも起こされてはかなわんからのこの件はわしがあずかる。他言は無用じゃぞ」

「は、はい!」

コルベールが出て行ったあとオスマン氏は思いをはせる。

「伝説の使い魔か・・・どうなるのかのお これから」


122 :マロン名無しさん:2012/04/20(金) 02:06:33.39 ID:???
04終わりです。最後の一つでさるさんが出てしまいました・・・
やっぱり長くないほうがいいのかな。
次回は結構空くと思います。一か月以内にはたぶん投稿すると思うので
よろしくです。ではまた。

123 :マロン名無しさん:2012/04/20(金) 02:30:31.31 ID:???
流石は死神だ!乙!
投稿があるまで待ちますぜ!

124 :マロン名無しさん:2012/04/20(金) 04:56:52.75 ID:???
しょるたー乙乙!!

125 :マロン名無しさん:2012/04/20(金) 10:40:32.44 ID:???
乙でーす

126 :マロン名無しさん:2012/04/23(月) 13:39:22.66 ID:???
執事の人 乙!
だれかあの作品wikiに掲載してください

127 :マロン名無しさん:2012/04/23(月) 13:52:30.52 ID:???
言っちゃ難だがこれ登録するのか?
文章としての体裁があまりにも……

128 :マロン名無しさん:2012/04/24(火) 19:22:01.47 ID:???
ゼロの執事を書いた者です 文章としての体裁、というのは
一行ずつ間隔あけて改行してしまったことでしょうか?それとも
文章が未熟すぎるということでしょうか?
後者でしたら本当に申し訳ないです。もう一度文章を直してあげなおします。

129 :マロン名無しさん:2012/04/24(火) 19:22:21.99 ID:???
ゼロの執事を書いた者です 文章としての体裁、というのは
一行ずつ間隔あけて改行してしまったことでしょうか?それとも
文章が未熟すぎるということでしょうか?
後者でしたら本当に申し訳ないです。もう一度文章を直してあげなおします。

130 :マロン名無しさん:2012/04/24(火) 19:24:00.00 ID:???
すいません。変なことに二回書いてしまいました。申し訳ないです。


131 :マロン名無しさん:2012/04/24(火) 19:26:17.59 ID:???
文章の感じ方なんて人それぞれだしそんなにきにしなくてもいいと思うよ
俺は結構好きだし続きが投稿されるのをいつも楽しみに待ってるし

132 :マロン名無しさん:2012/04/24(火) 19:39:16.02 ID:???
わざわざ空けすぎなのもそうだが、半端なところで切れて改行してるのもだな
文章の拙さは個性の範囲だろう、段落とか三点リーダとかいわゆる形式的なのもまあうん

PCじゃなくてスマホとかででも書いてるからか?
もっと詰めれば猿さんにも引っかからないし、投下回数も少なくて済むんじゃ

133 :マロン名無しさん:2012/04/24(火) 20:05:10.61 ID:???
>>132
すみません wordの初期設定で書いてました…
もっと詰めて書くようにします 読みやすいかなと思って改行したんですが
あと小説の書き方とか見ずに投稿してました。未熟で本当にごめんなさい。
書き方を勉強して出直します。今まで上げてきたものは登録しないでください。
今までのものは行間詰めていろいろ書き加えたり削ったりしてまたあげなおします。
指摘ありがとうございます。131さんもありがとうございます。長文失礼しました。 



134 :マロン名無しさん:2012/04/24(火) 20:11:28.43 ID:???
追伸 あと自分もこのままじゃやっぱりダメかなと思っていたので
   直させてください 頑張ってみるのでお願いします。

135 :マロン名無しさん:2012/04/24(火) 22:17:10.49 ID:???
パソコンで見てる分には問題ないんですが携帯で見てみたら変な形にごちゃごちゃしてますね・・・
誰か直し方とか知っていたら教えてください。自分はほんとに初心者丸出しだ(泣)

136 :マロン名無しさん:2012/04/24(火) 22:39:20.26 ID:???
きちんと変に改行せずに一行しっかり書けばいいとわかりました。自己解決して申し訳ないです。
ゴールデンウィーク中に修正版をあげられたらいいなと思っています。お騒がせしてすみませんでした。
こんな自分ですがよろしくお願いします。


137 :マロン名無しさん:2012/04/24(火) 23:40:16.58 ID:???
あんまり気張らずに気楽にやってね
俺は楽しんでるから

138 :マロン名無しさん:2012/04/25(水) 19:36:36.10 ID:???
>>137
励みになります。ただ、ウォルターは自分のHELLSINGお気に入りキャラなんでそれなりの文章で書きたいんです。
でも言うとおりに気楽に楽しみながら書いていきますね。ありがとうございます。

139 :マロン名無しさん:2012/05/01(火) 20:03:50.01 ID:???
わたしはいつまでもまつぞー

140 :マロン名無しさん:2012/05/09(水) 15:21:54.75 ID:???
待ってるぜぇ

141 :マロン名無しさん:2012/05/16(水) 18:08:15.96 ID:???
保守

142 :マロン名無しさん:2012/05/20(日) 23:03:40.26 ID:???
遅くなりました。ゼロの執事修正版あげます。
連休中にあげるといいながら一か月以上遅れてしまって申し訳ないです。
いろいろ付け加えたり削ったり見直したりしてました。
本当に不定期でごめんなさい。

143 :ゼロの執事00:2012/05/20(日) 23:08:27.82 ID:???
「あんたも立派な出来損いさ 博士 あんたも あんたの作ったモノも全て この僕も」

爆炎に包まれつつある飛行船の一室。
ナチスの研究室で、すでに血まみれ、体すら実験台にもたせかけ座り込んだ満身創痍の少年。
少年は、やせた、眼鏡の白衣の男を逃がさないよう立ちふさがり冷たく事実を告げる。

「茶番劇は終わった。演者も消えなければ そうだろう 大博士(グランドプロフェッツォル)」

大博士と呼ばれた男は追い詰められた様子ながらも言葉を返す。

「茶番・・・茶番劇だと!? どの口がほざく…欠陥品のどの口が!?」

欠陥品。そう呼ばれても少年は意に介さない。それどころか少年は博士を見据え笑ってみせた。

「一夜一幕の茶番劇さ この戦も この世の中も 僕は…僕はその中でできるだけいい役が演じたかっただけさ」

そういうと少年は実験台に手を掛けながらゆっくりと立ち上がる。
が、支えにした右手は立ち上がると同時に指、手首、腕と砕けるかのように爆ぜてしまった。

「ひっどい末路さ アーカードの言う通りだ みっともないよねぇ」


144 :ゼロの執事 00:2012/05/20(日) 23:10:18.81 ID:???
だが、少年は爆ぜた右腕を気にするそぶりも見せず、博士を目に変わらずとらえ続けていた。
そんな少年の言葉を聞き、博士は歯をギリギリと音が出るほどかみしめる。

「そんな欠陥品の貴様が…ッ 失敗作の貴様が…ッ 私達を笑うと言うのか」

茶番、少佐との万願成就の夜を茶番呼ばわりされ博士から怒りの言葉があふれだす。

「貴様なぞに!!私の研究を茶番呼ばわりされてたまるか 少佐殿の大隊を笑われてたまるか!!
お前なんかに!!お前みたいなものに!!」

博士は怒りに体を震わせながら、布で覆われた物体を指し示す。

「理論は飛躍する!!研究は飛躍する!!いつの日かこれに追いつく いつかアーカードを超えてみせる!!」
「馬鹿言っちゃいけない お前も僕も皆死ぬ 欠陥品は全部死ぬ」
「黙ァれえ!!」

博士はそう叫ぶや否や素早く自らの懐に手を伸ばし、リモコンを取り出す。ボタンを押すために。
少年の体内にある爆弾を起動させるために。自らの手術を施した者はすべて彼の管理下にある。
この少年も例外ではない。ボタン一つで彼は炎上し灰となって消える。
だがたった一つのボタンを押すだけのその刹那、その一瞬は少年に、片腕一本で阻まれた。
少年の武器――鋼線が一瞬で博士の腕、足に巻きつき、博士の胴から切り離す。


145 :ゼロの執事 00:2012/05/20(日) 23:11:08.83 ID:???
「お、おお、お」

リモコンを取り落し、あたりに血をまき散らしながら、片手、片足を失った博士。
必死に何か支えになるものをつかもうと腕を空にばたつかせる。
偶然にもその手はたまたま近くにあるものをつかんだ。それは、先ほど示していたものにかかった布。
だがやっとの思いでつかんだそれはすぐに布はビリビリと千切れていってしまった。
無様に博士がたおれこむなか、その布の下から姿を現したのは人の全身の骸骨。
それは無惨なほどいじくられ実験材料として半世紀以上、研究され続けた存在。
―MINA―NO.00000。
およそ人間扱いされなかった研究の残酷な跡が目立つそれの頭蓋骨には標本のようにプレートがつけられていた。

「ミナ・ハーカー そうだろうさ これがお前たちの教材」

少年は動揺することなく、骸骨を見据え、そこにあるのが当然のように言葉をつづける。

「アーカード“ドラキュラ”が血を吸われた唯一の存在“全ての始まり” 
ヘルシングに“ドラキュラ”が倒され人に戻った、という だがアーカードは死んでいない!! 
彼女の中にはアーカードがいる 彼女自身がどうなろうと彼女の奥深くには存在する 
聖餅でも聖水でもどうにもできない吸血鬼の血が だからお前たちは『そこから始めた』『アーカードの模倣』
そのためにお前たちは彼女をあばき残骸のような彼女を残骸にしつくした」

少年は鋼線をたぐり、展開する。鋼線は意思を持っているかのように骸骨に絡みついていく。

「結局のところ お前たちのやった事はコピー商品さ これが茶番劇でなくて一体何だ」

ぐおお おぉおお、と博士のうめき声が上がる。少年はさらに鋼線をあたりのものに張り巡らせていく。


146 :ゼロの執事 00:2012/05/20(日) 23:13:52.35 ID:???
「かわいそうな彼女(ミナ)」

少年は悲しそうに煙草をとりだしてくわえつぶやく。自分と同じようにおもちゃにされたことを憐れむ目。

「全部 消えろ 退場するんだ お前たちも この俺も」

あ、あ、あ、あああAAAAAAAAAA
悲痛な博士の悲鳴が響く。無様に死を逃れようと必死に床に這いつくばる哀れな姿。
それに向かって少年は引導を渡す。
博士の頭上から鋼線によってからめとられたブロックや実験台、様々な器具を頭上から容赦なく降り注がせる。
博士は逃げることもできず断末魔をあげながら潰されていく。それが大博士と呼ばれた男の無惨な死に様だった。

「At Pinball!! 」

それを見て少年はしてやったりと歓喜する。だがもう体は限界に達し悲鳴を上げている。
仕方なく少年はふたたび実験台に身をもたせかけ腰を下ろし煙草を深く吸い込む。

「ああ 畜生」

少年はぽつりとつぶやく。
博士を殺し笑顔を浮かべていた少年の顔。
その表情は、むなしさを表したものにゆっくりと変わっていく。
煙草を深く吸い込み、はきだしながら、

「勝ちたかったなあ あいつに」

ぼんやりとつぶやいた。もはや叶わぬ願いを。


147 :ゼロの執事 00:2012/05/20(日) 23:15:38.53 ID:???
燃え行くミナの亡骸。かつてヘルシング一行とドラキュラが奪い合ったヒロインは炎に包まれこの世から消えていく。
炎に囲まれた研究室。あらゆる研究資料も、教授の野望も何もかも消えていく。
自身の悲願も炎に包まれたミナの体のように消えた。
使えるべき主も勝ちたいと願った敵も失った自らも、まもなく同じように消えるだろう。
けれど死を前にして取り乱したりはしない。裏切った瞬間からこんな末路は覚悟していたのだから。

煙草の煙を吐き出す。立ちのぼる煙が周りの煙と同化していくのに時間はそうかからない。
物思いにふける彼の周りには炎が彼の体を捕らえようといまかいまかと周りで待ち構えている。
そんな中、彼は安らかな顔を浮かべ、目を閉じる。煙草を落とし、最期の時を待つ。

心残りはある。主のことだ。望みとしては主を裏切ることなくやつと戦いたかった。
だがそれは自分にはできなかった。仕え続けたその先が怖かったから。
アーカードに勝ちたかったから。持てる力のすべてを出しつくし倒したかったから。

過去の自分を思い出す。ゴミ処理屋としてあちこち飛び回り吸血鬼や喰人鬼を切り刻んでいたころ。
技術が上がり肉体もそれに答えてくれる最盛期。掃除屋としての力は倒せない脅威はないと自負できるまで培われた。すべてがそろっていた全盛。その時にあいつに戦えていたらどんなに良かっただろうか。
アーカード。ヘルシング家に代々仕える化け物。HELLSING機関の吸血鬼をもって吸血鬼を倒すという矛盾。
それを倒したい。人間としての誇りと義務によって芽生えた願い。
闘争の火は何年もアーカードと共闘しながら心の中で燃え続けていた。

けれどあるときにそれは消えた。アーサー卿がアーカードを脅威に感じ劇薬だと言って封印してしまったのだ。
アーカードが封印されてしまい、目標がいなくなってしまったとき。
充実していたはずの日々は途端に何もかもが色あせて見えてしまった。
楽しいと思っていた執事の仕事でさえ。何もかも違ったものに変わってしまった。
越えていく楽しい日々が過ぎ去っていくつまらない日々に変わる。それが…どうしようもなく嫌だった。



148 :ゼロの執事 00:2012/05/20(日) 23:17:43.86 ID:???
いつしかかつて敵対していたはずのデブの少佐といつのまにか秘密裏に連絡をとりあっていた。
アーサー卿が老い。インテグラが生まれ。その成長を見守りながら。
インテグラよりも先に死ぬであろう自分の体を見ながら執事として送る日々を過ごした。
その裏で裏切りを画策しながら。アーサー卿とインテグラに仕えた。
だがついにアーサー卿が死の淵に立った時、気にしまいと目を背けてきたものがますます怖くなった。
無用者になること。老いること。忘れ去られること。どれも仕えた先にあるもの。
アーカードを倒したいという思いは頂点に達していた。
気付いた時には遅かった。老いていく肉体。落ちていく力。体はとっくに衰えてしまっていた。
全盛期にはあらゆる敵を切断してきたその身は老いてしまい、戦力としては必要とされない無用者になっていた。
老いた自分がやることはお茶くみや葉巻をつけるだのといった執事としての雑務。
変わらないのは倒したい、勝ちたいという悲痛な願い。
そんな自身の悲願を可能にする50年前の少佐の誘い。
50年前一瞬で断ったはずのそれが、今ではどんなに魅力的に映ったか。

だから―――自らの意思をもって反逆した。
インテグラにあの夜、アーカードを開放させるよう仕向けた。
アーカードを打倒できる機会とそれを可能にする力。そのために全てを賭けた。
自分の人生、自分の主君、自分の信義、自分の忠義、やくざなあのデブの少佐から賭け金を借り出してまで。
一晩明けて鶏が鳴けば身を滅ぼす法外な利息だとしても。
あいつを倒すことのできる力を手に入れるために。
あいつと戦うために一夜の勝負に全てを賭け、吸血鬼となった。

だが―――そこまでして手にしたのは事実上の敗北だ。自分の手で勝てなかった。
アーカードが消えてしまい倒すことができなくなった今、残ったのは空しさだけ。
どうしようもなくやり切れないその思いが今も苦しめる。
『化け物に化け物は倒せない 化け物を倒すのはいつだって人間だ』
そんな奴の言葉が頭に繰り返し響いてくるたびに。やりきれないもやもやした思いは増していく。
ああ、畜生。こんな事か。僕が望んでいたことは これか こんな事か こんな事か!!
もっと動けたならいくらでも叫びたい思いに駆られる。




149 :ゼロの執事 00:2012/05/20(日) 23:19:19.95 ID:???
最期に彼は自らの主の姿を思い浮かべる。二代にわたり仕えてきた主。ヘルシング家の末裔 アーサー・ヘルシング。
そして幼い時から成長を見守った“人間”サー・インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング。
インテグラお嬢さまにはすまないことをした。
自らがアーカードに固執しなければこんなことは起きなかったはずなのだ。裏切る必要もなかった。
自身のせいで主に苦しい選択をさせた。
見事な選択を下しその成長に感嘆する反面、どうしても悔やまれる。

崩落していく瓦礫と爆炎。そんな彼の悔恨には構わず。意思のない物体であるそれらは同情も、容赦もしない。
一切の慈悲なく炎の腕が彼に振り下ろされる。崩れゆく天井、閉じられた研究室。逃げ場はない。

迫りくる死の間際、一つだけ言葉を口にした。

「御然らばです お嬢さま」

自ら裏切ってしまった主への、謝罪と別れをこめた。それがこの世における最後の言葉。
体はがれきや爆炎が降り注ぎ炎に包まれていく。

もし、もう一度、主に仕えられるのなら。なんだってしてもいい。

薄れゆく意識の中頭に浮かんだ願い。
けれど直後に苦笑する。何をいまさら虫のいいことを。
第一死に逝くこの体では手遅れだというのに。
裏切り者は裏切り者にふさわしくおとなしくみじめな末路をたどるべきだ。
頭に浮かんだ考えをすぐに振り払う。その考えと一緒に意識も失ってしまう。死を迎える少年の顔。
死にゆくその顔はまるで老人のよう。安らかな顔だった。
この世のすべてのことを果たしたかのような安堵の息を吐いて横たわるその体。

だが死がふりかかる直前、突如光が瞬き、少年は消えた。あとかたもなく。


150 :マロン名無しさん:2012/05/20(日) 23:32:02.81 ID:???
投下終了です。ウォルターの裏切りの理由をガイドブックと本編から考えていたらこんなに遅くなってしまいました。
裏切りの理由はこんなんじゃないという方はあげたものをスルーしていいです。
あまり前にあげたやつと変わってません。
勉強してきますといった手前こんな文章で申し訳ない。今までのやつはここ数日に投下していきます。
今かなり苦しいです デルフリンガーのところが特に。ゼロリカさんの人の文章力があればなあ
こんな自分ですがまたよろしくお願いします。

151 :マロン名無しさん:2012/05/20(日) 23:41:23.67 ID:???
お、乙乙!

152 :マロン名無しさん:2012/05/20(日) 23:56:33.14 ID:???
キテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
乙です!

153 :マロン名無しさん:2012/05/21(月) 01:13:48.42 ID:???
待ってました乙です!

154 :マロン名無しさん:2012/05/23(水) 00:37:05.18 ID:???
遅くなりました。01投下します。

155 :ゼロの執事 01:2012/05/23(水) 00:38:27.52 ID:???
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
ここはトリステイン魔法学院。桃色の髪の少女が呪文を唱えている。その声は緊張で震えていた。
初めての召喚だからではない。呪文自体は何度も唱えていた。けれど少女はそのたび失敗していたのだった。

「五つの力を司る五角形。 我の導きにこたえ強く美しい使い魔を召喚せよ」

半ばやけになりながらも、少女―ルイズが呪文を唱え終わり杖を振り下ろす。
と、同時に爆音と共に光が炸裂した。

「はっ、また失敗か〜 ゼロのルイズ」
「いつになったら成功するんだよ〜〜ルイズゥ?」

まわりがはやし立てる中、ルイズは呆然としていた。
ああまた失敗か、使い魔すら呼び出せないなんて―――。
皆はうまくできているのにどうして自分だけ、と自己嫌悪に陥りかけたその時。
ルイズをなじる喧騒の空気は煙の中を見た生徒の一言で一変した。

「おい 見ろよあれ」
「えっ 何? ! キャアアアアアア」

突如響き渡った女子生徒の悲鳴。
はっと我に返ったルイズは何事かと周りをみてみる。
するとみんなは自分が起こした爆発の煙のなかをじっと見つめている。
なんだろう、といぶかるルイズもうすれていく煙の中をみる。煙がだんだん晴れていき・・・何かがいた。
みなそれを次々に指差している。それが自らがよび出したのだと理解するに時間はかからない。
(やった 成功じゃない これでどう? あれは絶対私の使い魔よ…私もやれば――――あれ?)
よくみるとそこの何かは人の形をしている。一般的な使い魔ではなく、人間の形を。
(まさか呼び出したのは人間?うそよ そんな 私の使い魔が…)
しかし煙がはれ、はっきりルイズの側でも見えるようになると見えてきたのはまぎれもなく仰向けに倒れている人間だった。自分と同じ年ごろ。顔立ちは中性的だが男の子だろう。だがそんなことよりも目をひいたのは少年の体だった。
全身、おびただしく出血し、血まみれだ。あまりの様子に、ルイズは愕然とした。


156 :ゼロの執事 01:2012/05/23(水) 00:41:06.51 ID:???
「ミスタ・コルベール!」

少年が召喚されたという前代未聞の事態にコルベールも固まっていたが、ルイズの声に我に返る。
すぐに少年のもとに駆け寄り状態を見る。

「これは・・・・出血がひどい。だが幸い気絶している。誰か水のメイジの方はこの子に治療を。
応急処置程度で構いません 止血を」
「は、はい! わかりました」

モンモランシーを始めとした幾人かのメイジが少年に治療を施す。少年は出血が止まり何とか命を取り留めたようだった。

「終わりましたか、ではミス・ヴァリエール。この少年とコントラクト・サーヴァントを」
「え・・・?え!?」

コルベールに言われるまで、大けがをした少年の出現にすっかり頭から契約のことが飛んでいたルイズ。
確かに契約は使い魔としなければならない。けれど相手は人間だ。それもけがをしている。
今すぐもっとましな治療をしなければいけない。そう誰が見てもおもうだろう。
それなのに契約のことを持ち出すコルベールのことを信じられないという目で見つめる。
それに人間を使い魔にするなんてどうかしている。使い魔に人を選ぶなんて。
ルイズはあわてた。

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!やり直しをお願いします!それにこの子ケガしてるのにそんな事・・・!」
「この儀式は神聖なもの、やり直しは認められません。
君の運命に従いし者としてこの少年が選ばれた以上、この少年と契約する以外ないのです。」
「うううう・・・・」

呻いても抗議しても無駄だった。
ああ、なんでこうなってしまったんだろう…。人を、それも見るからに平民を使い魔になんて…。
はあ、と溜息をつき、倒れている少年の前に立ち、顔を近づける。


157 :ゼロの執事 01:2012/05/23(水) 00:43:03.60 ID:???
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

呪文を唱え、口付ける。 口づけてからさらに落ち込む。よくわからない子とキスまで。
契約とはいえファーストキスまでしてしまうなんて。
そんな失望がさらにルイズを落ち込ませる。どよんとした気分で改めて少年の顔を見る。
よく見ればまあまあ美少年ではないか。
ブサイクにするよりまだましよね、と自分を慰めながらじっと使い魔となる少年の様子を見る。
契約の儀式が終わった証拠である、ルーンが少年の左手に刻まれていく。
そのときかっと少年の目が見開いた。その目にルイズはアッと息をのむ。
少年の目。その目は赤い血のような色をしていた。
その眼にルイズは知らず知らず引き込まれてしまう。まるで魅了されてしまったかのように動けなくなる。
だがすぐに少年はうずくまり再び目を閉じてしまったため金縛りのようなものはすぐに解けた。
ルーンが刻まれ、その痛みで気絶したのだろう。

「終わりましたね、おめでとうミス・ヴァリエール。ではこの少年は私が医務室に運びます。
ミス・ヴァリエールも後ほど来て下さい」
「はい……」

ルイズの気分は沈んでいた。呼び出した使い魔が平民だなんて…。いまだ納得がいかない。
みんなはバグベアーやスキュアとか使い魔らしいものを呼んでいるというのに。何で私だけ人なんだろうか。
みなが魔法で飛んでいく中、ポツンとルイズは一人、しょんぼりと学院へ歩いて行った。


158 :ゼロの執事 01:2012/05/23(水) 00:45:26.66 ID:???
一方、少年は医務室に運ばれた。
(さてと。とりあえずけがは医務室の先生に診てもらえますね。
終わったらミス・ヴァリエールといっしょに部屋に運びましょう。ん?)

コルベールは少年の右腕がないことに気付いた。おびただしい出血に気を取られ気付かなかったのだ。

(これは…さすがに再生させることはできないな。
あとで義手になりそうなものを見つけておくとしましょうか。む…これは…)
次にコルベールが見つけたのは左手に刻まれたルーンだった。
(珍しいルーンだな)

コルベールは少年が眠っているうちに、と紙に熱心に書き留めていた
そんなコルベールの様子に気づきもせず少年はこんこんと眠り続けていた。


少年は夢を見ていた。見慣れた街並み―――――ここは、そうロンドンだ。昼だろうか、人々が騒ぎ、活気にあふれている。特徴的な時計塔もある。
少年は人々が行き交うとおりの真ん中で佇んでいた。

(・・・・・・・)

少年はその様子を何の感慨もなく眺めていた。人々はみな少年を無視し通り過ぎていく。
少年のことは眼に入ってないかのように。少年は動けない。
歩いてみようとしたが足が動かないのだった。


159 :ゼロの執事 01:2012/05/23(水) 00:46:57.85 ID:???
「これは・・・・」

少年がつぶやくと同時に周りが暗くなっていく。夜になったのだ。
それでも相変わらず人々は動き回っていた。違うのは少し静かになったことぐらいだろうか。
ふと、上を見上げ月を見てみる。青白く、大きな月。
だがしばらく眺めていると中心に黒い点が出て、黒い絵の具を落としたかのようにどんどん広がっていく。
やがてその点の正体に少年はきづいた。
あれは飛行船だ。何機もいる。
突如、飛行船から何かが放たれる。それらは無数に、すべてロンドン帝都内にばらまかれていく。
そのうちの一個がこちらをめざしてきて――――――目の前で爆発した。

はっと我に返る。周囲の様子は大きく様変わりしていた。
周りは死体であふれかえり建物は崩れ、ガラスや鉄骨がそこかしこに飛び散っている。
立っているのは少年ただ一人。おどろいて自分の体を見やる。どこもけがをしていない。目の前で爆弾が爆発したというのに。不思議なことに戸惑うもきづく。生きている人の姿がなくなっていることに。
「ヴヴヴ・・・」
周りからうめき声が聞こえてくる。どこからくるのかなんとなく少年はきづいていた。
喰人鬼(グール)だ。まわりに倒れていた死体が起き上がりわらわらと少年を取り囲む。
その腐った淀んだ眼はみな、生きていることをうらやむかのように少年を見つめていた。

「ははは なんだ グールか?」

少年はその視線に動じることなく武器をふるう。
鋼線。極細のさまざまな金属でできたそれを周りに瞬く間に展開する。
鋼線は暴風のように周りのグールたちを、首、手足、胴体を切り刻んでいく。
ばたばたとグールは瞬く間に倒れていった。
グールを一切の手加減なく殲滅していく。


160 :ゼロの執事 01:2012/05/23(水) 00:47:30.24 ID:???
「グールが何をしてるのやら。人は死ねばゴミになる。ゴミに弔いは必要ない!!」

言葉のとおりゴミを扱うかのように機械的にグールを片付ける。ゴミ処理係。死神。
昔からしてきた日常と変わりない。ついにグールは一人もいなくなった。
もう動く者はいない。ふうと安堵の息を吐き、一服しようと煙草を取り出そうとする。だが。

ゾクリ。背後に何かがいるのを感じとった。いる。まだアンデッドが。
振り向きざまに、鋼線を飛ばし、背後にいたモノの首を飛ばす。
命を確実に刈り取る死神の斬撃。普通なら死ぬ。
だがそいつは―――普通ではなかった。
みるみるうちに首の付け根から影のようなものが出て元の形を作って再生していく。その顔は。
ウォルターの目が見開かれる。

「ッ〜ーーーーーー!」

憎たらしい、少女の顔をした化け物だった。

「アーカード!!!」

少年は大声でその少女の名を叫びながらまっしぐらに少女に突っ込んでいく。
進みながら鋼線を展開し、少女の手足、首、胴体をすべてからめ捕り容赦なく切断していく。
少女はダルマのように上半身だけ残された状態で鋼線にくくりつけられた。
そこまでしてまだ少年は攻撃の手を緩めない。
残った心臓を含んだ上体を鋼線で固定した。少女は全く身動きが取れず逃げ出すことはできない。
転がっていた鉄骨のなかでとがっているものを見つける。
倒壊した建物の支柱となっていた鉄パイプ。折れて鋭くとがったそれを拾う。
そして一気に距離を詰め―――とどめとばかりに躊躇なく少女の心臓に突き立てた。
逃げられなかった少女。ついに心臓を刺され力なく少女はこうべを垂れた。


161 :ゼロの執事 01:2012/05/23(水) 00:48:21.00 ID:???
「ククク…ははははは!!」

少年は狂ったように狂喜する。長年望み続けた敵の最期。それをついに見届けたのだ。
やっと倒せたという達成感。笑いが止まらなくなる。だが、

「もう、遅いわい ブゥワ―――――――――カ」

そんなあざ笑う声があたりに響く。と同時にしばりつけた胴体からコウモリが飛び出した。
少年の顔に浮かんでいた笑みは途端に凍りついた。

やがてコウモリは少し離れた場所に集まっていく。黒い柱ができていく。
作っているのだ。再び人の形を。白いコートを着た黒髪のおかっぱ頭の少女の形を。
そして遂に完成するその姿。傷はどこにもない。再生したのだ。
死んだはずだ。けれど何事もなく少女は目の前に立っていた。
少年は思い出す。そうだ。少女はいくらでも再生するのだ。
そう、少女には今や無数の命があるのだから。

ギリ、という音が聞こえそうなぐらい歯をくいしばった少年。
その様子を見て、少女の形をした化け物―――アーカードは高らかに笑う。

「ほら 気張れよ あと何万回かそこらだ」

少女がそう言うと大きく手を広げた。
少女の体から周りに赤黒い触手のようなものが伸びていく。
少年は目を見張る。その触手からわきでてきたものに。
亡者だ。メリメリと今にも飛び出そうな勢いで湧き出てくるアーカードの臣下。
亡者たちは一斉に手を伸ばす。すがるかのように出された無数の手はすべて少年一人に向けられていた。
亡者はつみ重なっていく。人の波。幾重もの幾重もの人の波。
その数は何百、何千、いや何百万か。あまりの多さ。少年がいる通りを覆いつくし空をも覆い尽くすほどの。
そして―――濁流のように一斉に少年に襲い掛かる。圧倒的密度の亡者の滝が少年一人に降り注ぐ。


162 :ゼロの執事 01:2012/05/23(水) 00:51:30.97 ID:???
「ッ〜ーーーーーー!チィ」

少年は舌打ちをすると鋼線を振りぬこうとする。が、気が付く。
さっきまであった右腕がなくなっていることに。

「な・・・・・・・!?」

だが亡者はそれに構わず少年をとりこもうと手を伸ばしてくる。
少年はすぐに左手と口で鋼線を操作し迫りくる亡者の手をさばき、切断する。
判断は迅速だったが、だんだんと少年の顔に焦燥の色が見え始める。

「くそっ 多過ぎる!!」

両腕ならまだしも片腕と口では迫りくる亡者の進軍を止めるにも限度がある。
腕が限界に近づいていく。今までの二倍の負担が左腕に多く負担されていた。
必死に戦う少年の心境に構わずすぐに限界がきた。
なすすべもなく一気に飲まれた。亡者の波に。死の河に。
足をつかまれ引きずり倒され、腰に群がれ、手を押さえつけられる。
首に亡者の手が伸び、万力のように締め付けられる。あまりの数。どんどん増していく重み。
苦しい。畜生。窒息で意識が遠のいていく。

「く・・そ・・」
「は は は は はは は ははは ははははは!」

意識を失う直前、見えたのは高笑いをする憎たらしい吸血鬼の顔。そして

「じゃあね〜」

もうひとつ。思わず目の端に見えたもの。
猫耳のナチスの軍服の少年。楽しげにこちらに手を振っている憎たらしいシュレディンガーの姿。
それを最後に、少年の意識は途絶えた。

163 :マロン名無しさん:2012/05/23(水) 01:02:45.36 ID:???
投下終了です。これはあんまり変わってないです。読みづらくてごめんなさい。
ではまた。次回もよろしくです。

164 :マロン名無しさん:2012/05/23(水) 12:20:55.32 ID:???
おつです

165 :マロン名無しさん:2012/05/23(水) 14:02:13.08 ID:???
おつでした

166 :マロン名無しさん:2012/05/30(水) 00:04:57.15 ID:uz58YrCt
保守

167 :マロン名無しさん:2012/06/08(金) 23:08:41.57 ID:???
ほーしゅ!

168 :マロン名無しさん:2012/06/17(日) 02:55:00.83 ID:3ARcoqvf
hoshu

169 :マロン名無しさん:2012/06/27(水) 17:16:07.24 ID:R/KQspcR


170 :マロン名無しさん:2012/07/06(金) 15:38:19.39 ID:??? ?2BP(6800)
保守

171 :マロン名無しさん:2012/07/07(土) 20:58:27.20 ID:M1mUS7qK



172 :マロン名無しさん:2012/07/14(土) 13:23:45.37 ID:s7nGNmMF
ほしゅー

173 :マロン名無しさん:2012/07/24(火) 00:12:06.95 ID:abeuNLgf
保守

174 :マロン名無しさん:2012/07/30(月) 23:16:02.37 ID:PhDbx5hE
保守

175 :マロン名無しさん:2012/08/08(水) 04:20:43.59 ID:0pFRbnUq
保守

176 :マロン名無しさん:2012/08/17(金) 21:54:00.08 ID:MT64ZikX
保〜守〜

177 :マロン名無しさん:2012/08/23(木) 14:59:34.92 ID:y7zqKRf0
法主

178 :マロン名無しさん:2012/08/30(木) 14:22:21.97 ID:???
神父様神父様ー

179 :マロン名無しさん:2012/09/01(土) 18:32:07.55 ID:kB4CjmXm
続きまだ〜?

180 :マロン名無しさん:2012/09/01(土) 22:24:29.04 ID:+P/11X21
きゅぴー

181 :マロン名無しさん:2012/09/14(金) 17:35:09.77 ID:???
人情紙

182 :マロン名無しさん:2012/09/23(日) 19:28:14.52 ID:???
ルイズ!ルイズ!ルイズ!ルイズぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ルイズルイズルイズぅううぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!ルイズ・フランソワーズたんの桃色ブロンドの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
小説10巻のルイズたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
アニメ2期決まって良かったねルイズたん!あぁあああああ!かわいい!ルイズたん!かわいい!あっああぁああ!
コミック1巻も発売されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!コミックなんて現実じゃない!!!!あ…小説もアニメもよく考えたら…
ル イ ズ ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!ハルケギニアぁああああ!!
この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?表紙絵のルイズちゃんが僕を見てる?
表紙絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!ルイズちゃんが僕を見てるぞ!挿絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!!
アニメのルイズちゃんが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはルイズちゃんがいる!!やったよケティ!!ひとりでできるもん!!!
あ、コミックのルイズちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあアン様ぁあ!!シ、シエスタ!!タバサぁああああああ!!!ティファニアぁあああ!!
ううっうぅうう!!俺の想いよルイズへ届け!!ハルケギニアのルイズへ届け!


183 :マロン名無しさん:2012/09/23(日) 23:12:27.63 ID:???
紙風船

184 :マロン名無しさん:2012/09/24(月) 18:35:26.46 ID:b/sZuUm0
>>182
アニメ2にはいなかったのに、ここにはあちこちで貼りまくっていた人いるんかい
ttp://hissi.org/read.php/anichara/20120923/NXdFcnJ3Vlg.html
http://toro.2ch.net/test/read.cgi/army/1347548844/38

185 :マロン名無しさん:2012/09/25(火) 00:02:11.93 ID:???
申し訳ありません。執事の話書いてた者です。
ある事情で投稿できない状況に陥ってました。
明後日に再開します。保守本当にありがとうございました。
最後まで書ききります。勝手で本当に申し訳ありませんがよろしくお願いします

186 :マロン名無しさん:2012/09/25(火) 00:16:57.49 ID:???
目欄にa…

間違いなく執事の人帰還キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
お久しぶりっす!!!

187 :マロン名無しさん:2012/09/25(火) 06:46:23.62 ID:???
こりはきたい

188 :マロン名無しさん:2012/09/26(水) 17:31:44.05 ID:???
2話から投下します。相変わらず稚拙な文章で長いですがよろしくお願いします。
2,3,4話は今日中に投下する予定です。それでは投下始めます。

189 :マロン名無しさん:2012/09/26(水) 17:37:47.85 ID:XOFERe0g
wktk

190 :ゼロの執事 02:2012/09/26(水) 19:05:43.31 ID:???

「!!!!」

目が覚め跳ね起きる。
息が荒い。今見た夢の影響か、胸の動悸が収まらずじとっと嫌な汗をかいている。

「…夢…じゃねえ」

最恐の敵の前での、最悪の状況の、最低の夢。
死都と化したロンドン、最後の大隊の進撃、アーカードの死の河。
極めつけは、シュレディンガーの満面の笑み。
それらの光景がウォルターの脳にストロボのように点滅しては消えていく。
腹わたが煮えくり返り、悔しさに目の前が染まる。
アーカードに勝ちたかったから。全力をもってアーカードと戦いたかったから。
(だから、僕は――――)

「あ、目が覚めた?」
「! 誰だ――」
突如聞きなれぬ声がした方に目を向け、硬直する。

少女がいた。
桃色の髪。とび色の目、高貴そうな顔立ち。
どことなく高慢そうな表情を浮かべ、椅子に腰かけて興味深そうにじっと自分を眺めている。
その顔は幼いながらも美しさをたたえ、少女の存在を際立たせている。
見たことのない少女の出現にしばし戸惑ってしまう。


191 :ゼロの執事 02:2012/09/26(水) 19:11:03.85 ID:???
さっとあたりを見回し自分の居場所を確認する。
ここは寝台の上。
高貴な昔の貴族の家によくある天蓋つきのベッドだ。
そこに自分は寝かされていたらしい。
なぜこんなところに?この少女が自分を連れてきたのか?

「……あなたは?」

じっと目の前の少女を警戒しながら少年は問いかけてみる。

「私はルイズ ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ 
 あんたを召喚したの。今日からあんたのご主人様よ」


いま聞きなれない単語が聞こえた気がする。
召喚?何だそれは?
そして何よりも―――なぜここにいる?

死んだはずだ。あの炎に囲まれた研究室で。
博士にとどめを刺してあのまま死を受け入れて。
全て折り合いをつけ生をあきらめた。
なのに―――僕は生きていてどういうわけかここにいるのだ。
目の前の少女の言葉を借りれば、"召喚"されて。
………意味が分からない。"召喚"とはなんだ?主人だと?この少女がか?


192 :ゼロの執事 02:2012/09/26(水) 19:13:22.86 ID:???
「ちょっと 黙ってないでなんかいったらどう?」
「え―――ああ 申し訳ありません。」

適当に返事を返しつつ、まずウォルターは自らの体の状態を確認する。
執事服はなく、ウォルターの体ののいたるところに白い包帯が巻かれていた。
あの晩、傷だらけだったウォルターの体は手当され、負った傷のすべてが包帯で止血されていた。
この少女が治療してくれたのだろうか。
ウォルターは姿勢をただし少女に向き直った。

「あの―――あなたがけがを治療してくれたのですか?」
「そ、そうよ。使い魔に死なれちゃ困るもの」

つんと顔を背けるルイズという少女。
少女に感謝しながらその姿に既視感を覚える。
腕組みをして気位が高そうに振る舞う姿はどこかで見たような。
少女に懐かしさを感じると同時に、いまだわからぬ使い魔、召喚という言葉がひっかかった。

それに、そもそもここはいったいどこだ?
少女の外見や部屋の物品から場所を推察しようとするもいまだにわからない。
大英帝国?それともフランス?ヨーロッパのどこかか?

「うかがってよろしいですか?ここはどこでしょうか」
「え? ここはハルケギニアのトリステイン魔法学院よ」
「ハルケギニア?トリステイン魔法学院?」

ウォルターは言われたことを繰り返してみる。聞いたことがない地名だ。
けれど目の前の少女はさも当然かのようにそれを言っている。
世界地図のどこにもその地名はないはずである。
あまりにも現実味のない今の状況に頭がますます混乱していく。


193 :ゼロの執事 02:2012/09/26(水) 19:16:03.18 ID:???
落ち着こうとウォルターは目を閉じ、もう一度頭の中を整理する。
はっきりしていることはここにいること。
あの時、崩壊していく飛行船の中で死んだはずだったのにここにいる。
この少女の目の前に。

「………」

生々しい感覚。つかんでいるこのベッドのシーツの感触。
この部屋の空気。少女の視線。
雰囲気は違えど現実で感じたことのあるものばかりだ。
夢のようではあるがこうしてあの場から生き延びているという事実を改めて確認する。

(と、いうことは…。)
ふと気になって頬をおさえた。
案の定、鋭くとがった犬歯が皮膚の上からでも存在感を示している。
それはウォルターが、あるものである事実を物語っていた。
吸血鬼のままだ。
そのことにウォルターは嫌悪感を覚えた。

「ほら、あんたの服よ。これ執事服?あんた執事なの?」

戸惑うウォルターにルイズが服を渡しながら不思議そうに聞いてくる。
手渡された執事服を見やり、血の気が失せ、めまいを覚えた。

最後の大隊に寝返って最後まで身に着けた"それ"。
主インテグラと英国との決別、アーカード打倒の決意、それらのために国も自らの命をも捨てる決心。
"死神"となるために身に着けた死に装束であったそれを受け取ってぼんやりとウォルターは眺めた。
もう倒すべきアーカードはいない。仕えるべき主もない。尽くすべき国もない。
それらの事実を漆黒の執事服は冷たくウォルターに告げていた。




194 :ゼロの執事 02:2012/09/26(水) 19:18:45.94 ID:???
「ちょっとあんたどうしたのよ?ぼんやりしてないでなんかいったらどう?」
「………ええ。そうですね」
感傷に浸るのは後だ。まずは目の前の少女か。
沈みがちな感情を抱えつつもウォルターは少女に向き直った。

「自己紹介が遅れましたね。私―――いや、僕は、ウォルター。
 ウォルター・C・ドルネーズ。あるお屋敷で執事をしていました」
「へ〜。貴族に仕えてたの?」
「……はい」

そこで話を止めた。これ以上話せない。
話そうとすればするほど後悔と自責があとからあとから湧いてくる。
耐えきれず話題を変えた。

「して、僕を呼び出したあなたは何者ですか?ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール殿?」
「はあ?」
けれど無理矢理、話題を変えるためにした質問は少女の機嫌を損ねたらしい。
「何よ。ヴァリエール公爵家を知らないの?
 由緒正しい古い家柄を誇る貴族。私はそこの三女よ」
「…申し訳ないですが全く心当たりがありませんな」

正直少女の話には全くついていけない。
ヴァリエール家なんて聞いたこともない。
トリステイン?ハルケギニア?知るか、そんなもの。

「ふうん?貴族の屋敷に仕えてた割には意外と世間知らずなのね。あんた。田舎貴族にでも仕えてたのかしら」

ハッ。ザケンなテメエ。百年続く王立国境騎士団HELLSINGを舐めるな――――


195 :ゼロの執事 02:2012/09/26(水) 19:20:32.44 ID:???
思わず口から飛び出そうになった言葉。
慌てて口をおさえなければ自然と出ていたに違いない。
肉体が悪がき時代の少年の姿のせいか口調がついつい戻りかけてしまう。
ごほんとせきをし、ごまかした。
この少女は自分を助けてくれたのだ。
失礼にあたらないよう丁重に振る舞わなくてはイギリス紳士の名折れだ。
たとえ今の一言で少女がどうしようもなく高慢だとわかったとしても。

「どうやら…僕は知らない場所に来たらしいですね。
あなたの言う地名は全く聞いたことがないしヴァリエールと言われても何のことやらわかりません。
もっとここの説明をしていただけますか。ルイズ・ヴァリエール殿?」
「え?ええ。わかったわ。ところで…さっき何か言いかけた?」
「いいえ」
「そう?なら別にいいけど…」

少女は一気に説明してくれた。
ハルケギニアという世界のトリステインという国。それが今いる場所。魔法や空想上の生き物が存在する地。
そしてここは貴族達が一人前の魔法使いになるための学校の様な所であり、貴族のほぼ全員が魔法使い=メイジだという。
メイジは召喚を行い使い魔を呼び出す。その使い魔にウォルターが選ばれたのだとルイズは説明する。
ウォルターは心の中で溜息をつく。やはりここは俗にいう異世界というやつらしい。

『あんたを召喚したの』
"召喚"
その言葉がウォルターに死ぬ直前を思い出させる。
そういえば意識を失う前に何かの光に包まれた気がした。
もしあれが"召喚"とやらの光だとしたら。あの光がここに僕を連れてきたのだろうか。
そしてその光を出したのは…。じっと目の前の少女を見る。
この目の前の高慢そうな、主人だと名乗るこの少女、らしい。



196 :ゼロの執事 02:2012/09/26(水) 19:25:04.65 ID:???
「わかった?ほかに何か質問は?」
「そうですね……使い魔の仕事について聞きたいことが。何をするのでしょうか?」 

ここは異世界であり少女が自分を救ったこと。そしてこの少女ルイズが自分の新たな主人だという。
この少女がこの僕をあの死に場所から"召喚"した。
ならばそれ相応の何かが――――

「まず、使い魔は主人の眼となり、耳となる能力が与えられるわ」
「?」
「使い魔が見たものは、主人もみることができるのよ」
「・・・」
「でも、あんたじゃ無理みたいね。わたし、何にも見えないもん!」
「左様ですか」
「それから、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。たとえば秘薬とかね」
「秘薬とは?」
「特定の魔法を使うときに使用する触媒よ。硫黄とか、コケとか・・・・」
「それは場所がわかればなんとかなりますね」
「そう、そうよね。なんとかなるわよね 別に幻獣とかでなくてもいいものね、ってならないわよ!!
 翼がなかったら取りに行けないものだってあるんだから!!はあ、なんであんたを呼び出したのかしらね」

怒った眼の前の少女。その様をウォルターはじっとみつめる。
その視線がどこか反抗的に見えルイズはたじろいだ。
「な、何よ」

なるほど。つまりこの少女は

「別に、何でもありません」


197 :ゼロの執事 02:2012/09/26(水) 19:27:25.29 ID:???
雑用を押し付けるために呼んだのか。身構えていた肩を落とし脱力する。
何だそんなことか。そんなことのために僕を呼んだというのか。
どっと疲れが噴出し、体が二倍に重くなった気がした。
どうやらこの少女は自分に仕えてもらう存在が必要だったから召喚し、呼び出したのがたまたま僕だったらしい。
気まぐれにすぎないことで僕は命を拾いここにいるにすぎないのだ。
ウォルターは九死に一生を得たことを感謝すればいいのか落胆すればいいのかわからなくなっていた。
使い魔としての役割を延々とまくし立てる少女の話をウォルターはぼんやりと聞き流す。

「―――――以上がざっとした使い魔の役目ね」
「はあ。そうですか」
「そして、これが一番なんだけど……、使い魔は、主人を守る存在であるのよ!
その能力で、主人を守るのが一番の役目!でもあんたは魔法も使えないみたいだし右腕がないでしょ?だから…」
ルイズの声が小さくなっていく。
(なんだ?ああそうか)
ルイズの視線をたどると右腕を見ていた。
片腕の使い魔。その不完全さは使い魔として致命的だろう。

(さて、どうしようかな)
使い魔という狗に成り下がってこの少女に仕えるか、それともこの少女から逃げ出して外でのたれ死ぬか。
ウォルターは迷う。
あの夜に捨てた命と割り切って救ってくれたこの少女に仕えて使い魔として生きていくのも悪くないかもしれない。
しかし、自身の慚愧と自尊心がウォルターのその考えを否定する。
少女が自身の主として仕えるに値するかどうか。
いきなり呼び出して命令するだけの高慢な少女。
たとえ見かけが美人に入る部類だとしても、中身が駄目なら仕えるに値しない。
それは自身にも言える。
離反経験ありの不忠の執事。
もともと裏切り者にふさわしい末路をたどろうとしていたのだ。
自身には初めから仕える資格すらない。 
 


198 :ゼロの執事 02:2012/09/26(水) 19:30:39.04 ID:???
だからこの少女からの命令も聞くわけにはいかなかった。
自虐的な微笑を浮かべウォルターは少女へ声をかけた。
「せっかくですが――――」
「あ―――そうよ!!これがいいじゃない!」
ルイズのよく通る甲高い声にウォルターの少女への言葉はかき消された。
怪訝な顔をするウォルターに対して少女は、さも名案を思いついたと言わんばかりに高慢そうな顔で笑みを浮かべていた。
「ウォルターって言ったわね。お屋敷で執事をやってたって言ってたわね、あんた」
「は、はあ。そうですが」
念を押すかのように興奮した面持ちで聞いてくる少女に、ウォルターはうすら寒い悪寒を覚えつつも答えた。
一体何を言おうとしているのかを身構えるウォルターの眼の前の少女――ルイズは意気揚々と考えを述べた。
 
「あんた―――私の執事になりなさい」
 
少女は考えていた。目の前の少年を、ただの平民を使い魔にするのは抵抗があった。
幼いころより貴族として周囲に厳しく育てられてきた少女にとって、
貴族としての自尊心と誇りは計り知れないほど大きいものであった。
ゆえに明らかな平民である少年を自身の使い魔としておくには我慢がならない。
さらにルイズは自身の召喚も認めてなどいなかった。
突然現れた少年は何かの失敗でここに来ただけだ。
いつものように失敗してしまったから目の前にウォルターと名乗る少年があらわれただけ。
使い魔のルーンも現れてはいるがあれも間違いだ。そうに違いない。
そう信じて疑わないルイズは目の前の少年を使い魔にしたことなど認めるわけにはいかなかった。
ここでもルイズのプライドが彼女を揺るがした。
でも―――失敗だとわかっていても失敗だと認めるわけにはいかない。
"サモン・サーバント"それを唱えて、この少年が来た。
皆がこの少年と契約したのを見ているし、先生にも言い訳が立たない。
この少年を追い出してしまえば使い魔すら連れることもできないのかと、みんなにまた馬鹿にされ笑われる。
何より、負け、を認めたようで腹が立つ。
されど失敗などとは認めたくはない―――なやむルイズの脳にそのどちらも満たす選択をひらめかせた。



199 :ゼロの執事 02:2012/09/26(水) 19:38:53.21 ID:???
「そうよ。やっぱり平民を使い魔にするなんて私のプライドが許さない。
あんた執事だって言ったわね。ちょうどいいわ。
あんたは使い魔じゃなく執事として私に仕えなさい。」
「は?あの……」
「仕えなさい。いいわね?」

そう、執事としてこの少年を仕えさせればよい。
これなら自身のプライドと尊厳は満足するし、皆にも言い訳が立つ。
まわりに使い魔としても仕えさせているとごまかせるし、自身も執事を仕えさせていると納得できる。
唯の平民を使い魔には絶対にしたくない。されど絶対に馬鹿にされたくはない。
少女が思いついた苦渋の選択であった。

こちらの話など聞こうともせず有無を言わせぬ強引さでウォルターに従うよう求める少女。
その横柄ともいえるような少女の命令にウォルターは少女を見返すことしかできなかった。

(また仕える?この僕が?)
ウォルターは戸惑う。
ルイズという少女に新たに仕える。それもまた執事として。
何だそれは?冗談か?

「どうしたの?仕えるの?仕えないの?どっち?」
「…拒否権は?」
「あるわけないじゃないの」

しびれを切らしたルイズは少年に返事をせかす。
ただ仕えろと言ってるのに目の前の少年は呆けた顔でこちらを見ているだけ。
元の仕事と同じことをしろって言ってるのになぜ迷う必要があるのか。
ルイズは歯ぎしりして少年の顔を睨みつけた。


200 :ゼロの執事 02:2012/09/26(水) 19:41:54.21 ID:???

「もしかしてあんたほかに主がいるの?その人に忠義立てでもしてるのかしら?
言っとくけどあんたは召喚した時点で私のものよ。だから」
「ご安心を。僕にはもうそのような方はいませんから」

突然の少年の返事にルイズは言葉に詰まる。
こちらを見据える少年の目。
グレーの瞳がルイズを見つめていた。
それは物悲しげな色に見えたのは気のせいだろうか。
 
「いいでしょう。文句などあるはずはありません。あなたの求めに応じましょう」

そう言うと少年はベッドから降りた。
ルイズに背を向け、先ほど渡した執事服を手に取ると瞬く間に着替え終わる。
振り向いた時には少年の眼からは何の感情も浮かんではいなかった。
虚無―――その言葉がルイズの脳裏に浮かぶ。
淡々と少年は答えた。

「どちらにせよ役目は変わりません。主の危急をお救いするは執事たる者のおつとめ故」
「……う、うん」

無感情なその声にルイズは圧倒される。
言葉使いは先ほどと変わらず丁寧であるのに別人のような少年の態度。
承諾の返事がきたというのにルイズは素直に喜べず戸惑ってしまった。


201 :ゼロの執事 02:2012/09/26(水) 19:43:19.59 ID:???
「しかし、問題がありますね」
「うん?問題?」

ルイズは怪訝な声を上げた。
使い魔の証であるルーンは彼の左手に刻まれている。
すなわち契約は完了しているのだ。
それなのに問題があるとはこの少年は何を言い出すのだろうか。
身構えるルイズに向かって、ウォルターは口を開いた。

「僕は…吸血鬼ですから。化け物があなたに仕えてよろしいですか?」

突然の告白にルイズは目を見開いた。

「あんた…吸血鬼なの?」
「ええ まあ」


吸血鬼、という言葉がウォルターの頭にちらつき離れない。
吸血鬼は夜を好み、生き血をすする化け物の一人だ。
そんな存在をこの少女は受け入れるのだろうか?
怖がるだろう、恐れるだろう。
ルイズの様子をウォルターはうかがうのだった。

だがルイズの反応は全く違っていた。
なんとルイズは恐れるどころか、嬉しそうに考え込んでいるではないか。
ふふふ、とこみ上げてくる喜びを必死に押さえつけているかのように。
予期しない反応に困ってしまう。
おかしい。吸血鬼と聞いて普通は恐れるものではないのか、とウォルターはいぶかしむ。
ちらちらとこちらを嬉しそうに見るルイズの様子にウォルターは拍子抜けしてしまった。



202 :ゼロの執事 02:2012/09/26(水) 19:46:02.79 ID:???
「…吸血鬼だと不都合では?」
「…え? いや、いいのよ。ほ、ほんとはまずいんだけど、でも十分すぎるぐらい…」
「いいのですか?」

(吸血鬼だなんて!やったわ!)
ルイズは心の中で叫ぶ。
平民だと思っていたが、吸血鬼だとは。
人間の血を吸う怪物で「妖魔」たるものを引き当てたのだということに怖さよりもうれしさがこみ上げる。
ちらりとウォルターの方を盗み見る。
外見は私と変わらない年頃の少年。
目の前で首をかしげている少年が吸血鬼だと言われても実感がわかない。
そのせいかルイズは目の前の少年を恐ろしいとは思えなかった。
改めて目の前の少年を見る。私が召喚した吸血鬼。
使役する、といっても抵抗もしない。
従順そうでなんでもしてくれそうな理想的な吸血鬼の執事。
強力な力を持った存在―――下僕として最適ではないか。
ルイズは決意する。

「ええ かまわないわ あんたがなんであろうとね あんたは私の執事よ」
「……そうですか」

少し驚いた。
この主はあっさりと吸血鬼である自分の存在を受け入れた。
拍子抜けするほど簡単に。



203 :ゼロの執事 02:2012/09/26(水) 19:49:27.81 ID:???
目の前の少女を改めてみる。
桃色の髪の高慢な少女。新たな主。
主のいない自分を召喚し必要としているのだ。
す、とウォルターは静かに一礼する。

「それでは、今よりあなたが僕の主です。ルイズお嬢さま」
「――――――――!!何よ。もう主従の身の程をわかってるじゃない。」

なんだろう。ルイズはまた顔をプイと背けてしまった。
その行動が理解できず首を傾げる。
僕はただお仕えします、言っただけなのになぜこちらの方を向かないのだろう?

ルイズは胸の内から湧き上がる感情を必死に抑えていた。
"ルイズお嬢さま"。
実家で召使からしか聞かなかったその言葉。
学院ではゼロ、ゼロ、と嫌みしか言われ続けられていなかったルイズ。
お嬢さまという言葉は、ルイズにとって新鮮であった。
その響きは甘く澄みきった音楽のように響き、細胞の一つ一つにしみわたっていく。
少年が目の前にいなかったら小躍りしていたくなるほどにルイズは歓喜に震えていた。

(…つ、使い魔、いや、執事に当然のことを言われただけじゃない。
 何あわててんのよ、私。落ち着きなさいルイズ。
 この子は私の執事で私は主。主は主らしく堂々としなきゃ)

「どうしました?」
「な、何でもないわよ。」

ルイズは必死に心を落ち着かせようと深呼吸するのだった。



204 :ゼロの執事 02:2012/09/26(水) 19:56:20.58 ID:???
そんな様子をウォルターはぼんやりと眺めていた。
どうしても主になったこの少女にあと一つだけ頼みたいことがあったからだ。
ところでウォルターは吸血鬼、とはいっても粗雑な、吸血鬼だ。
ウォルターは血を吸われて吸血鬼になったわけではなく博士による手術によって無理やりに吸血鬼になったのだ。
ゆえに、彼はろくでもない外法によって作られた欠陥品の吸血鬼。
無茶苦茶なその施術に体がついていけず、肉体が崩壊を起こし始め、いまも命の危機をウォルターに与えている。
それを逃れるためにはあるものが必要であった。
それに対しウォルターはいまだ抵抗を感じていたが。
けれど急を要することだ。仕方がないとすでに割り切っている。

「お嬢さま。これより仕える身でこんなことを主に言いにくいのですが…」
「え、な、なによ 別に執事に忠誠を誓われたぐらいでよろこんだりしていないんだからね!!」
「……?あの、実は少し困ったことがありまして…」
「こまったこと?」

不意に使い魔から言われたその言葉に頭の上で疑問符を浮かべるルイズ。
ウォルターは無邪気に見つめてくる主に言葉に詰まる。
しかしここで止まるわけにはいかなかった。


205 :ゼロの執事 02:2012/09/26(水) 19:57:53.63 ID:???
「…僕は吸血鬼です」
「それはわかってるわよ」
「ですからお嬢さまの血をいただきたいのですがよろしいですか?」

人間の血。
それがウォルターの望むものだった。体を安定にするため必要となる他者の血。
崩壊しつつある体を治療するために血を吸って回復したい。
血を吸わねば体の崩壊が進んでいくだろう。
けれど新たな主はぶんぶんと手を振った。

「そ、そんなの駄目よ」
「なぜでしょうか?」
「…だって血を吸われたら喰人鬼になるんでしょ?吸血鬼からの命令に従うものに。
なんで主人たる私がそんなものにならなくちゃならないのよ?」

いきなり血を吸いたいと言われルイズはあわてる。
ルイズは吸血鬼に血を吸われたら、グールになることくらいは知っている。
幼いころに母から聞いたことがある。血を吸われたものは吸血鬼の従僕となる。
操られるだけの人形になどルイズは願い下げであった。
そこでルイズは疑問符を頭に浮かべる。
でも、どうして血を吸いたいのだろう?それも今。
急に切り出してきたウォルターを疑問に思う。


206 :ゼロの執事 02:2012/09/26(水) 20:01:57.00 ID:???
その時ルイズの頭に大けがを負っていたウォルターの姿が思い浮かんだ。
あんな重傷で今も大丈夫なはずがない。
手当をしていたとはいえ本当になんともないわけがない。
そういえば今のウォルターの顔色が真っ青ではないか。
そこでやっと血を求める理由に思い当たる。

「もしかして…いま血を飲まないと、死んじゃったりするわけ?」
「はい。そうです。」

やっぱりだ。困った。使い魔に死なれては困る。でも喰人鬼になるのもいやだ。
使い魔を死なせたくない思いと喰人鬼になりたくない思いの葛藤の中、
じっとウォルターを見つめながらふと気づく。
そういえば、目の前の少年は母の吸血鬼の話とは幾分か異なるような…。

「ねぇウォルター、あなた……本当に吸血鬼?」
「どういうことでしょうか?」
「私、吸血鬼のこと知ってるわ。先住魔法が使えるはずよ。でも魔法が使えないなんておかしいわ」
「魔法、ですか?そんなものはつかえません。僕はこの世界の吸血鬼ではありませんから。」
「え?どういうこと?」

ウォルターは考え込みだまりこむ。けれど決心したようにじっとルイズの方を見た。

「……僕は別の世界から来た吸血鬼です。信じてはもらえないかもしれませんが。」
「別の世界から?」
「ええ。」




207 :ゼロの執事 02:2012/09/26(水) 20:05:13.56 ID:???
突然の告白に戸惑う。異世界?
そんなこといきなり言われてもわけがわからない。
適当に流してもいい。
だが、目の前の少年が嘘をついているようにはどうにも思えない。

「よ、よくわかんないけど、それってつまりハルケギニアの吸血鬼とは違うってこと?」
「はい」
「……じゃあその吸血鬼の特徴を教えてもらえる?」
それにハルケギニアの吸血鬼ではない吸血鬼、ということに興味を持った。母の話と比べてみよう。
すくなくとも自分の使い魔になるもののことは知っておかなくてはならない。

「良いですよ」
ウォルターは詳細を話し始めた。

吸血。
血を吸うことで吸血鬼は力をまし、吸った対象を自分の眷属とする。
だが、ウォルターはこれについて切り傷から滴る血を飲むだけでよいので
ルイズから血を飲んでもルイズが吸血鬼になることはない、という。
にんにくを嫌う。十字架を嫌う。聖餅や聖水は身を焼く。
川・海・湖畔 流れる堀を渡れない。
魔法が使えないというわけではない。
上位の存在であれば使い魔を使役したり魔法のようなこともできるらしい。
でもウォルターはその中でも下位の存在であるからできないらしい。
自嘲気味に笑いながらウォルターはそう告げる。
そして吸血鬼の簡単なわかりやすい特徴が、力が強い、ということだった。
吸血鬼は人間よりも格段に力が強い。
デコピンだけでも人を気絶させるほどの力があるという。
そのことはルイズには信じられなかったが。
でも試してみますか、とあまりの真剣さで言われ首を振って全力で断った。



208 :ゼロの執事 02:2012/09/26(水) 20:06:41.77 ID:???
「とりあえず、こんなところが吸血鬼の特徴です。おわかりいただけましたか?」
「ええ、わかったわ。ありがとう」
とりあえず半信半疑だったがウォルターの説明は納得できる。
問題の自分が吸血鬼になるかもしれない、というのは解決した。さて。
「ねえ 本当にいますぐ必要なの?」
「ええ いますぐに」
「…はあ。わかったわよ」

ルイズは溜息をつくとテーブルに置いてあったナイフを手に取る。
血を与えることにまだ抵抗はあったがいたしかたない。
ためらいつつもひとさし指の腹に強く押し当てた。
痛みが走ったが声を上げるほどではなかった。血ができた傷からあふれる。
少し切りすぎたせいかかなり出血してしまった。
「ほら。飲みなさいよ。」

ああ、もうファーストキスだけじゃなく、血まで使い魔にあげることになるなんて。
ルイズのプライドは傷ついたが使い魔の生き死にだ。
構わず、半ばやけになってウォルターに指をつきだした。
精一杯の主人の威厳として胸をそらせて尊大にふるまう。
ウォルターは近づいてひざまづいた。その従順そうな様子にルイズは歓喜を覚えいくらか胸がすっとする。
うん、主従ってこういうものよね。主人の方が上なんだから下僕がかしづくのは当たり前よね。

はたから見ると明らかに高慢なその様子。
だが、ウォルターは文句は言わなかった。
一刻も早く血を吸わねば死んでしまうのだ。それどころではない。
血を見た瞬間にウォルターの目は赤く光る。血だけに意識が吸い込まれていく。
もはや血を吸うことしか頭にはなく、流れる血しか目に入っていない。
今のウォルターは完全に吸血鬼の本能に飲まれていた。
静かに歩みより、ルイズの足元に膝をつく。
くぱ、と口をあけ、血を掬い取れるよう舌の形を変え、ルイズの指に舌を這わせた。



209 :ゼロの執事 02:2012/09/26(水) 20:11:10.99 ID:???
切った箇所はよほど深かったのだろう。
多量の血がルイズの傷口から湧水のようにあふれていた。
ルイズの指から血が重力に従い、ゆっくりと滴っていく。
あふれ出た血はゆっくりと指を伝い赤い小さな川を形成する。
流れるルイズの血はついにウォルターの舌へと吸い込まれていった。
ウォルターは次々あふれて滴る血を舌でせき止め、一滴も逃さないように嚥下していく。
ウォルターはもちろんだが、ルイズも、無言になってしまっていた。
静寂の中とろとろと溢れる血を、ピチャピチャとすする水音が室内に響き渡った。

ルイズは妙な気分になっていた。
自分とさほど変わらない少年が自分の前に膝をつき舌を突き出している。
こころなしかウォルターの息は荒く、頬が赤いような。
血を吸われている、という未知の感覚に、全身に奇妙な鳥肌が立つ。
妖魔に血を吸われているというのに嫌悪感がまったくない。
そんなものではない全く別の感情がルイズの頭を支配する。
なにかいけないことをしているような妙な錯覚にルイズは陥るのだった。

(なんだろう・・・なんだか人に見せられない光景のような気がするわよね これ)

一方、ウォルターは必死に体内を操っていた。
血の味。
鉄さびのような味であるはずの血はワインのような濃厚な味となってウォルターののどを潤し脳髄を焼く。
その美味のあまりにルイズの指にかみつきたくなるような衝動がわきおこる。



210 :ゼロの執事 02:2012/09/26(水) 20:16:38.33 ID:???
ほしい。滴る血だけでなくこの少女の血をすべて飲み干してしまいたい。
そんな狂気への誘惑がウォルターを幾度となく襲う。
けれど、そのたび意思の力でおさえつけた。
これは治療なのだ。この子にこれから仕えるのだから傷つけてはだめだ。
そう自らを押さえつけ、言い聞かせ、
体内に鋭敏となった吸血鬼の知覚を集中させる。

冷静に本来の目的を果たす。
まず血をとりこみなんとか体を維持するために体内の構造を造り直していく。
とりあえずこれ以上、体が幼児化しないように体自体を調節する。

つぎに右手の再生。
だが少女からの血の量や不完全な吸血鬼であるため再生は到底不可能だということにきづき、断念した。
そのかわり長期間体を維持できるようにする。

後は―――――忌々しい大博士のずさんな吸血鬼化のしりぬぐいだ。
肉体を崩壊させ行く原因たる粗雑な施術痕をなんとか回復させた。
これで並みの吸血鬼くらいには動けるようになる。不安要素はあるが召喚されたときに比べれば格段に違う。

最後に、これからのための準備だ。少女と生活していくうえで太陽に触れるのは避けられない。
これに対し、余った回復量を皮膚にまわすことにするウォルター。
よほど大きなけがをして再生力が枯渇でもしない限り、日光を浴びても皮膚を回復し続けることで平気にする。
まあ、これはバッテリーのようなもので定期的に少女から血をもらわなくてはならないが。
皮膚に血のめぐりのような感覚を覚えうまくいったことを確信する。
これで一週間は太陽にさらされても大丈夫だろう。


211 :ゼロの執事 02:2012/09/26(水) 20:21:26.06 ID:???
「はあはあはあ げほゴホッ」

少女からの血がすっかり止まってしまう頃にはすべて終わっていた。
体を作り直すという大仕事を終え、せき込みながらウォルターは離れた。
とにかく必要なことはすべてやった。これで少女に―――仕えられる。

「感謝します。お嬢さま」
息が絶え絶えながらルイズに礼を言うウォルター。
「え、ええ」

終わってルイズはほっとしていた。
先ほどからドキドキと動悸が収まらない。

「ねえ。どのくらいの頻度で血が要るのかしら」
赤くなった顔をおさえながらルイズは執事に問う。
すると執事はしばらく考え込み答えた。

「最低一週間に一度、ですかね」
「な――――」

じゃあ一週間に一回はあんなふうに血を吸うというのか。
ルイズは一人悶々とする。
頭にこびりついて離れない先ほどの光景。
自分と同じくらいの少年をひざまづかせて、指をくわえさせて、それから――――
ぶんぶんと頭を振る。
血をあげただけ。それだけである。
ただその光景を思い出すたびよからぬ考えが沸き起こる自分に嫌気がさすのだった。



212 :ゼロの執事 02:2012/09/26(水) 20:27:38.06 ID:???
「……大丈夫ですか?お嬢さま」
「な、何を心配してるのよ。大丈夫。今は話しかけないでもらえる?」
心配するウォルターにそっけない返事を返しながらもルイズは顔を真っ赤にして顔を背けた。
「じゃ、じゃあ、明日からさっそく仕事よ。部屋を掃除して、洗濯もしてもらうから。
 あんたはこれから床で寝なさいよね 使い魔なんだから。それじゃ、おやすみ」

赤い顔をごまかすかのように仕事を言いつける。
そしてウォルターを放ったまま、さっさとベッドに入ってしまった。

少女が指を鳴らしランプの灯りを消したあと、ウォルターはぼんやりと考えていた。

この少女は自分を男と認識していないだろうか。同じ部屋に使い魔とはいえ男を置いておくなんて。
ルイズは気にしていないようだが。
けれどこのまま外に出ておくべきだろう。英国紳士の礼儀だ。
ウォルターは音を立てないよう眠る主に一礼しドアを開け外に出るのだった。

二つの月光に照らされた長い長い廊下。
赤い月と青い月。
二つの異なる色の月が競い合うかのように輝き夜を照らしている。
月が二つあることにしばしあっけにとられるもやはりここは異世界だということを再確認する。

毛布にくるまって横たわる。
先ほどの治療で疲れてしまった。一刻も早く眠りたい。
すぐに眠気が襲いウォルターの意識は沈んでいく。
新たな主を得た。新たな居場所手に入れた。
まぶたが重くなりながらまた主に仕えられることの今をかみしめる。

月明かりに照らされながら疲れ切って眠る少年。
執事ウォルターの眠りは、その日の夜明け(Dawn)まで続くのだった。

213 :マロン名無しさん:2012/09/26(水) 20:30:37.84 ID:???
申し訳ない。一字抜けてた。

214 :ゼロの執事 02:2012/09/26(水) 20:33:34.04 ID:???
「……大丈夫ですか?お嬢さま」
「な、何を心配してるのよ。大丈夫。今は話しかけないでもらえる?」

心配するウォルターにそっけない返事を返しながらもルイズは顔を真っ赤にして顔を背けた。

「じゃ、じゃあ、明日からさっそく仕事よ。部屋を掃除して、洗濯もしてもらうから。
 あんたはこれから床で寝なさいよね 使い魔なんだから。それじゃ、おやすみ」

赤い顔をごまかすかのように仕事を言いつける。
そしてウォルターを放ったまま、さっさとベッドに入ってしまった。

少女が指を鳴らしランプの灯りを消したあと、ウォルターはぼんやりと考えていた。

この少女は自分を男と認識していないだろうか。同じ部屋に使い魔とはいえ男を置いておくなんて。
少女は気にしていないようだが。
けれどこのまま外に出ておくべきだろう。英国紳士の礼儀だ。
ウォルターは音を立てないよう眠る主に一礼しドアを開け外に出るのだった。

二つの月光に照らされた長い長い廊下。
赤い月と青い月。
二つの異なる色の月が競い合うかのように輝き夜を照らしている。
月が二つあることにしばしあっけにとられるもやはりここは異世界だということを再確認する。

毛布にくるまって眠る。
先ほどの治療で疲れてしまった。一刻も早く眠りたい。
すぐに眠気が襲いウォルターの意識は沈んでいく。
新たな主を得た。新たな居場所を手に入れた。
まぶたが重くなりつつもまた主に仕えられることの今をかみしめる。

月明かりに照らされながら疲れ切って横になった少年。
執事ウォルターの眠りは、その日の夜明け(Dawn)まで続くのだった。


215 :マロン名無しさん:2012/09/26(水) 20:42:14.87 ID:???
2話終了です。最後の文章は脱字があって気にしなくてもいいですがやっぱりちゃんとしようと思って上げました。
最初に投下に手間取って申し訳ありません。
2chビューワーを手に入れたのでこれからは投稿規制に余りかからないですみます。
3話4話は少し休んでからまた投下します。
文章の体裁などなにか指摘していたただければ幸いです。

216 :マロン名無しさん:2012/09/26(水) 21:00:36.27 ID:XOFERe0g


217 :マロン名無しさん:2012/09/26(水) 21:30:17.26 ID:???
3,4話一気に投下します。

218 :ゼロの執事 03:2012/09/26(水) 21:35:45.77 ID:???
「なんだこれ」

ウォルターは再び夢を見ていた。
また悪夢かと思ったが様子がおかしい。
まわりは表現しようのない奇妙奇天烈なものばかり。
それらが散乱し、空を飛んでいる。
ウォルターは一人、わけが分からず、ぼうぜんとしていた。
その中でこちらに進んでくる人影が一人見えてきた。
シルエットに妙な既視感を覚える。
やけに見覚えがある人影だ。
あれに当てはまるのは……一人しかいない。
歯ぎしりをして身構えた。

だが見えてきたその中身は全く違うものだった。
グラサンかけた中年太りした男がリモコン片手に宙を浮きながらこちらによってくる。
ウォルターはその奇妙さに、いや変態さにまだ動けないでいた。
その男自体がこちらによってくるのも奇妙なことだがもっと奇妙なのはその格好だ。
四角い毛皮の帽子に腰まで届きそうなコート。それも真っ白の。
同じく白く長いマフラーをつけ、明らかにカツラとわかる長い黒髪おかっぱ頭。
そのコスプレと言っていいのかわからないその服装だけは本当にどこかで見たことがある。
その姿が妙にウォルターの記憶の中の精神的外傷をつつく。
ウォルターはこめかみをひくつかせながらそいつが目の前に来るのを待った。
直後、そいつに第一声を放たせたことを後悔することとなる。



219 :ゼロの執事 03:2012/09/26(水) 21:38:23.18 ID:???
「よう ウォルター ひさしぶりだなウィリス」
「……あぁ?」

ウォルターはいっそうイラついた声を上げる。どこかで聞いたそのセリフ。
その男からかけられたその声はウォルターを怒りを頂点に引き上げる。
怒ったウォルターは鋼線を飛ばす。
ウォルターはブルー○・ウィリス似の男を切り刻もうと鋼線をまわりに展開する。
鋼線は空を裂き、唸りをあげ男を細かい肉片に変えようと襲い掛かる―――――
「トウッ」
――――が、男はぬるぬると鋼線の包囲網をあっさりとよけてみせた。
「あら?」
しかし、よけた拍子に帽子とコートは外れ、が代わりにはげた頭が姿を現した。
タンクトップとズボン姿の正真正銘ただのおっさんがそこにいた。
一方簡単に鋼線がよけられたことにショックを受けるも、現れた姿がただの男であることを確認するウォルター。
決意する。
次の一撃で首をもいでやる。
そう固く誓った。
鋼線は鋭い金属の摩擦音を立て、鋼線は一気に編みこまれていく。

「あ、危ない。ちょっと待って、待ってください ウォルターさん、ごめん、謝るから許してウィリス」
「許して、だと。やっぱり悪意あってさっきのセリフ言いやがったんだなテメエ」
「あ、わかってたのね それじゃあ許してくれるウィリス?」
「ああ 今その素ッ首叩き落として炉にくべて脂肪燃やして暖を取ってやる」 
「待って お願い 話を聞け 聞いてくださいウィリス」
なにやら必死そうに頭を地面に擦り付け懇願してくる。
哀れなその姿にはさすがに話だけ聞いてやろうかと鋼線を止める。
仕方ない。
言い分も聞かなくてはイギリス紳士(ジョンブル)の面目がないだろう。 
ウォルターはそう思い、苦い顔をしつつ鋼線をしまう。



220 :ゼロの執事 03:2012/09/26(水) 21:41:54.80 ID:???
わかった 話だけ聞いてやる」
おっさんはそう聞いて安心したようだった。
「ふう よかったウィリス まったく最近の若者は短気な―――」
その発言をウォルターは冷たい視線でやめさせた。

「こ、怖いウィリス。えい」

男はおもむろにリモコンのボタンを押す。
バグム、と爆発音が近くで聞こえたと思った瞬間ウォルターの体がぐらついた。

「な・・・」

見ると左足がない。
突然のことに驚いたウォルターは片足では立てずうつぶせに地面に倒れこんでしまう。
それでもなんとか倒れる体を左手で支え、怒りの形相を男の方に向けた。

「てめえ なにしやがる」
「にひ ザマアミロウィリス!
 答えてやろうウィリス 私はお前が作り爆破した銃だウィリス。
 そう、私の名はジャッカル。ジャッカルの精だウィリス」
「なんと!」

本当なのか、その名は吸血鬼アーカードに、とある敵を打ち倒すために僕が特別に作ってやった銃の名前だ。
のちにアーカードと対決した時のためにその銃に爆弾を埋め込んでおいた。
そしてその時が来て爆破してやったのだ。まさかそのジャッカルがこうして精霊になって僕に復讐してくるとは・・・。



221 :ゼロの執事 03:2012/09/26(水) 21:44:20.03 ID:???
「ははは。ここは私、ジャッカルの精空間『ウィリス空間』なのでウィリス」
「なに・・・」
「おまえはもうここから出られないんだウィリス 
 ここでおまえは持っていかれた―持っていかれた―と叫びながら、
 くそ生意気な鎧の弟と一緒に賢者の石もとめて鉄骨にぶっさされたり、
 国を救おうとして敵の親玉に触手でとらえられたり、
 挙句の果てには錬金術を使えなくなって無職になって、
 奥さん泣かせながら自分探しの旅に出て一生さまようんだウィリス」
「いい加減にしろよ テメエ 
 全然違う話だろうが!内容全然違うだろうが!
 やめろ。
 いろいろ誤解されるからやめろ!足りねえもんもあるし」
「え アへ顔ダブルピースもあったウィリス?」
「ダブルピースはぜったいにしてねえ!!」

ウォルターの悲痛な声が響く。
ウォルターが頭を抱え悶えている中、ジャッカルの精は目を光らせながらグラサンをかけなおす。

「ところでウィリス」
「ああ?」

怪しむウォルターに構わず、まじめそうにジャッカルの精は続ける。

「おまえさ なにあれ 痴男なの はずかしくないの?ウォルター君」
「今度はなんのことだ?」

いぶかしむウォルターにビシリ、と指を突き付けるジャッカル。

222 :ゼロの執事 03:2012/09/26(水) 21:49:06.99 ID:???
「昨日の晩のことだウィリス おまえはルイズたんの前にひざまずいて、
はあはあ言いながらなにをごくごくのんでいたんだウィリス?」

んん〜〜〜とグラサンを光らせながら訊いてくるジャッカル。
質問の意図がわからない。

「は? ああ、血だろ。飲まなきゃ体が崩壊してさらに幼児化が進むし死ぬだろうが」
「ちがーうう!!」

いきなりおっさんが大声を出した。なんだ。いきなり。

「おまえはなぜあんな体勢をとったのかと聞いてるんだウィリス!
 文章のつたない描写でなんとか大丈夫だったがお前はただでさえショタ顔で、
 男か女かわからないような顔してるくせに、ひざまずいて舌出して、
 はあはあ喘ぎながら血をごくごくと飲むんじゃないウィリス!!
 想像しただけでやばいじゃないかウィリス!!はあはあ」
「おい」
「それにウィリス お前が飲んだのはルイズたんの血なんだウィリス!!
 三次元で言えばキリストの血みたいに神聖なもんだウィリス!!
 それを飲んだ上に一つ屋根の下で一緒に暮らす?どんだけうらやましいんだウィリス!!」
「おい」
「毎日罵倒されて最後にはデレだろうがウィリス!!
 下着も洗濯とかこつけて見放題だろがウィリス!!
 なんてうらやましいんだウィリス!!わしにも分けさせろウィリス!!」
暴走していくジャッカル。
鼻息荒くくるくると回る様ははっきり言って気持ち悪い。
変態か?こいつ。
そうウォルターが思った瞬間、ぱあんと空に銃声が響いた。




223 :ゼロの執事 03:2012/09/26(水) 22:01:15.95 ID:???
ジャッカルの額に穴が開いていた。
銃の精霊は額から血が噴き出しおっさんは、ばたり、と倒れた。
何事かと見回してみると高い建物のテラスに人影があった。
今度はエドワー○・フォックス似のスーツ姿の男。
ライフルを構えて颯爽と現れた。
身構えるウォルターを安心させるように男は告げる。

「そいつは偽物だ 危ないところだったな」
「!?」
「私こそ本物だ。安心したまえ。別に君のことは恨んでなどいないさ 
 さ そろそろ起きたまえ おまえの新たなご主人様が待っているぞ」

そしてジャッカルの精はこちらに握り拳をつきだし親指を立てて高らかに宣言する。
「I'll  be  back!!」
その瞬間、まぶしい閃光が走り―――ウォルターは目覚めた。



「!!! 畜生 なんだってんだ あの夢」
目を覚ましたウォルターは起きるなり毒づく。変な夢だった。これで二回連続だ。
吸血鬼が夢を見るなんて・・・と思いながらかけていた毛布をはがし確認する。
うむ、両足とも大丈夫だ。さすがに夢の出来事は現実にはならないようだ。
安心した後、起き上がり、腕の包帯をはがした。
ズキリ、と傷が痛む。
痛みを感じるということは―――生きている。
ここに。この世界に。



224 :ゼロの執事 03:2012/09/26(水) 22:08:56.33 ID:???
はあ、と安どのため息を再びはくと同時に現在の状況を確認する。
武器・装備ともに問題なし。ただ、替えの服がない。
しばらくはこの黒い執事服で我慢するしかないが、それでは問題だろう。
どこかで今日中に執事服も調達しなくては、と考えながら立ち上がる。

肉体の状況をつぶさに観察する。
手のひらを閉じたり開いたり手に力を籠めたり、一連の動作をして確認する。
力だけなら人間のころの最盛期であるときよりは上だ。
だが、血液の不足のせいか、はたまた吸血鬼として不完全であるせいか力の波が激しい。
最大の力を出せる時とそうでないときのふれ幅がおおきい不安定な力。
これは時間をかけてゆっくりと治す必要があろう。

右腕の欠損。
これはおそらく今の状況では決して治らないだろう。
肉体は変わらずひどいありさまだ。一歩踏むたびに軽いめまいを覚える。
かぶりを振り深呼吸をして息を整えると少し落ち着いたが、まだ体はふらついている。
これも時間を掛ければおそらく治る―――そう信じたい。

反対に強化されたものはある。
肉体の金繊維と骨格だ。
常人よりははるかに力を発揮でき、また激しい運動をした程度では筋繊維は千切れることはない。
骨に関しても同様でおそらく並大抵の衝撃が襲ったとしても骨折などするはずもないだろう。
とてつもない高所から飛び降りたとしても着地時の衝撃をたやすく吸収できる。


225 :ゼロの執事 03:2012/09/26(水) 22:15:16.97 ID:???
そして肝心の吸血鬼特有の再生力。
まずあいつ―――アーカードのような命のストックはできない。
首を飛ばされる、あるいは心臓を潰されるといった即死にいたる外傷に対してはもろい。
つまり一度死ねば終わり。人間のころと変わらない。
不完全で粗雑な模倣の欠陥品にそんな芸当ができるはずもなかった。
再生力、治癒能力に関してはあってないような眉唾物だ。
おそらく断言はできないが、軽い怪我――擦り傷、打撲、切り傷、やけど、筋肉痛などはすぐに回復するだろう。
だが、残った左腕が吹き飛ばされたり足がちぎれたり眼球を潰されたりすれば再生などできない。
おそらく止血がせいぜい。
内臓破裂は再生力をありったけつぎ込めば何とかなりそうな気はする。
だが、それだけだ。
結局応急処置程度しかできない。

解決法としてはあの小さな主から血をもらい続け再生力を少しずつ蓄えていく。
そのぐらいしか改善の方法はあるまい。
しかし、いくら蓄えてもストックなどできるはずもなく、
また大けがをすれば吹けば飛ぶ程度に過ぎないことにウォルターは脱力する。
結局吸血鬼となって得たものはあまりない。
自身の人生を犠牲にしたにしてはなんとも割の合わない。

(こんなの納得できるはずが―――いや違う。)

そんな考えを即座に振り払った。

納得したはずだ。納得してこのザマになったはずだ。
だから、この姿には納得しなければならない。
この姿は当然で受け入れるべき、自身への罰なのだから。



226 :ゼロの執事 03:2012/09/26(水) 22:20:14.62 ID:???


ルイズの部屋のドアをノックせずにはいる。
一応、礼儀として「お嬢さま 入りますよ」そういいながら入って。
案の定、ご主人様はグースカ寝ていた。
あどけない寝顔だ。
昨夜見せた高慢そうな顔はすっかりない。ねてるだけならかわいらしい顔立ちだ。
ウォルターは棚に置いてあった紅茶セットをつかって紅茶を入れながらそう思った。
しかし、その顔をあの高慢そうないつもの顔にもどすのも使い魔の仕事のうちだろう。
ウォルターは紅茶を入れたカップを棚に置き、主人のベッドに近づく。

「お嬢さま、ルイズお嬢さま。起きてください。朝ですよ」
「うふふ どうよ キュルケェ…私のはあんたの使い魔なんかめじゃないんだからぁ」

む 夢の中で僕のことをキュルケってひとに自慢しているのだろうか。
ウォルターはくすぐられるような気持になる。
嬉しいが起こさなくては授業に遅れ、

「どう?見事でしょう。このドラゴン・・・」

ふとウォルターは起こすのを止める。は、ドラゴン?

「人間なんかじゃないわよ。りっぱなドラゴンなんだからあ。zzzzz」
「……ふむ」


227 :ゼロの執事 03:2012/09/26(水) 22:23:25.24 ID:???
お嬢さまはどうやら睡眠不足らしい。体調管理も使い魔の仕事だろう。
さてご主人様のために心を鬼にして起こさないでおこうか。
そう思い、踵を返そうとしたとき、

「ニィサァァァン そんなんだからいつまでたってもチ・・」

ドカッ。ベッドを軽く蹴り飛ばしルイズを叩き落とす。
なんとなくむかついた。
特に最後の方の寝言がなぜか無性に腹が立った。
ベッドから転げ落ちてルイズはようやく目が覚めたようだ。

「ふえ? あれここは?」
「お目覚めでございますか。お嬢さま?」
「あ、あんたは誰よ…あ…昨日私が召喚したんだっけ…私の執事を…そう、そうよね。そうだったわね」

どうやら昨日のことを思い出したらしい。床に膝をつきながら眠そうに起き上がるルイズ。

「あれ、なんで私、床に転がっているの?」
「ああ、それは、さきほどお嬢さまはご自分で起き上がろうとなさり誤ってベッドから転落したのでございます。はい」

しゃあしゃあとうそをつくウォルター。別に執事は正直である必要はない。

「なによ。そばにいたなら受け止めてくれてもいいじゃない」
「それは気づきませんでした。次、同じことがあればそうします。申し訳ありません」


228 :ゼロの執事 03:2012/09/26(水) 22:26:08.46 ID:???
ルイズは頭をふるふるとふって、眠気を振り払う。
「まあ いいわ あら、いい匂い。紅茶をいれてくれたの?」
「はい、どうぞ お嬢さま。シロルの特級葉でございます。」

ウォルターから渡された紅茶のとても甘い匂いがルイズの鼻をくすぐった。

「ありがとう。」

そういってルイズは紅茶を飲む。
すると一気に意識が覚醒し目覚めるのを感じ、驚きに目を見開いた。
ウォルターの紅茶はちょうど飲むに適した温度に絶妙に調節されていた。
味の方も申し分ない。ルイズは思わずうなってしまう。

「おいしい。紅茶を入れるの上手じゃないの。」
「お褒めの言葉、感謝の極み。」

ルイズは朝は弱い。
いつも寝ぼけた頭で着替えなどを済ませて授業に出るまでがつらかった。
だがもうその心配はない。
混濁した意識が覚醒し、体に力がみなぎってくるのを感じる。
ルイズはしばしその味に夢中になった。


229 :ゼロの執事 03:2012/09/26(水) 22:29:14.01 ID:???
飲みながらちらちらと少年を盗み見る。
私が呼び出した同じくらいの年の男の子。
なかなかの美少年だし精悍な体つきだ。
そして目の前の少年は吸血鬼であり執事。
使い魔としても、従者にしても完璧ではないか。
あたりを引いたことを実感しおもわずにやけてしまう。

「ウォルター。執事としてよろしくね。」
「了解(ヤー)」

それにウォルターの入れてくれる紅茶は気に入った。
あれを作ってくれる執事なら大歓迎だ。
ルイズはこれまでになく気分の良い朝を迎えたのだった。




着替えを済ませたルイズと下に降りていく。
ウォルターはしずしずとそのあとをついていくとトリステイン魔法学院の食堂についた。

どうやら生徒と先生が全員集まっているらしい。
ここで一斉に食事をとるようだ。
いわれた業務の中に料理、がない理由がわかり納得した。
おそらく、ここにいる全員が魔法使いであり貴族なのだろう。
目で食堂の様子を眺めていたことにきづいたらしい。
ルイズが得意げに指を立て言った。とび色の目がいたずらっぽく輝いた。


230 :ゼロの執事 03:2012/09/26(水) 22:31:23.04 ID:???
「トリステイン魔法学院で教えるのは、魔法だけじゃないのよ」
「ほお」
「メイジのほぼ全員が貴族なの。『貴族は魔法をもってしてその精神を成す』のモットーの元、
 貴族たるべき教育を、存分に受けるのよ。
 だから料理も貴族の食卓にふさわしいものでなければならないのよ」
「左様でございますか さすれば僕のような身分の低いものが入ることはできないのでしょう」
「そうよ。でもあんたは私の特別な計らいで使い魔だけど入らせてあげてるの。感謝しなさいよね」
「感謝します。お嬢さま。ではここにお座りください」

そういってウォルターは空いている椅子をひく。

「あら 気が利くじゃない。さすが執事をやってただけはあるわね。そうでなくっちゃ」

ルイズは得意げに椅子にすわるのだった。
ウォルターは机に並べられた料理を見て、目を見張る。無駄に豪華だ。
少佐あたりが喜びそうな料理が所せましとならんでいる。
見るからに贅沢でおいしそうだ。
後で少しもらえるだろうかと思う。
味わってみたいというのもあったが吸血鬼になってしまった今、普通の料理が食べられるかためしてみたかった。
そう考えていると突然、つんつんとルイズお嬢さまに指でつつかれる。

「なんでございましょう お嬢さま」
「言い忘れたけど あんたの食事はそれね」
「?」


231 :ゼロの執事 03:2012/09/26(水) 22:35:23.69 ID:???
ルイズが指差したほうをみると床に皿が一枚置いてある。
小さな肉のかけらが浮いたスープと端っこには固そうなパンが二切れ、ぽつんと置いてあった。
いやはや床で食事とは・・・。
アーサー卿ですら床で食えとは言わなかったのに。
いや、かわりに仕事で魔女の窯の底のような場所に行けと言っていたな、と懐かしくウォルターは思い出す。
だがそれとこれは別だ。
これは完全に下僕、もしくは狗扱いだ。
自分はたしかに狗と成り下がってしまっているけれど、
誇りはまだわずかばかりかは持ち合わせているつもりだった。
侮辱されたかのようでふつふつと腹に怒りがたまっていく。
しかし、ウォルターは不平もいわず、表情にも出さず、じっと立って主が食べている姿を眺めていた。
じっと、じっと。
なぜか食事中ルイズは自分の背筋に悪寒を感じていた。


みんなの食事が終わるころ、さっそく、ウォルターは先ほどの皿からとりだしたパンのかけらを口に含んでみた。
「む・・・」
思わずむせてしまう。
まずい。
味が、ではなく体が拒否し、そう認識させているのだ。
どうやら体は血以外のものは受けつけないらしい。
次に匙でひとすくいのスープを口に運ぶ。
口をあけ―――それでもかなりの抵抗があったが―――中に入れる。
とたんに体中が拒絶反応を示し、思わず吐き出そうになった。


232 :ゼロの執事 03:2012/09/26(水) 22:39:18.34 ID:???
「ッツ――――」

だがむりやり意思の力で飲み込んだ。
それでも不快さは消えない。
口をおさえなんとか嗚咽の音を抑えながら、改めて吸血鬼になってしまったことを再確認する。
ウォルターは昔の仲間、セラスのことを思い出していた。
吸血鬼になりたての彼女は最初、食事の時血を飲むことを拒否し、
今の自分と同じように人間と変わらないものを食べようと努力していた。
あのときセラスも苦しんでいた。
そのときはウォルターはかたくなに人間のものを食べようとするセラスにあきれていたのだが。
いま自分はこうしてセラスと同じ状況にいる。
皮肉にもセラスの苦しみが同じ形で理解できてしまい、
むせながらウォルターは一人心の中で苦笑するのだった。 



食事が終わると皆授業へ向かっていく。
向かった教室は石でできた大学の講義室のよう。食堂の時と違い、ここには様々な使い魔がいた。
普通の生き物もいるが本から想像するしかなかった架空の生き物もいた。
「ほほお」
ウォルターは感心しながら見とれる。想像上の生き物をこの目で見れるとは。
長生きはしてみるものだな、とそう感じずにはいられない光景だった。
ウォルターは教室の一番後ろ、最も高い場所に立つ。
ここなら授業の邪魔をしないし主を守りやすい。
しばらくして中年の女性が入ってきた。
優しげな雰囲気を漂わせている女性が生徒たちを見わたすと、笑顔で口を開いた。


233 :ゼロの執事 03:2012/09/26(水) 22:42:26.32 ID:???
「みなさん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、
こうやって春の新学期に様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」

どうやらシュヴルーズというらしい。
シュヴルーズは教室を見渡していく。使い魔たちを眺めているのだろう。
その視線がウォルターの前で止まった。

「あら、あなたは・・・」
「ゼロのルイズの使い魔ですよ 先生」

答えようとしたウォルターに代わり太った少年生徒が言う。

「あら 変わった使い魔ですわね」

シュヴルーズの感想に教室中がどっと笑いに包まれる。

「ゼロのルイズ!召喚できないからってその辺歩いてた平民をつれてくるなよ!」

ルイズが立ち上がって怒鳴る。

「違うわ!きちんと召喚したもの!それに…」
「嘘つくな!"サモンサーバント"ができなかったんだろう?」

ゲラゲラと教室中の生徒が笑う。
主は顔を真っ赤にして唇をかみしめている。
その様子は後ろから見ていたウォルターからでもわかるほどだったが、執事は動かない。 


234 :ゼロの執事 03:2012/09/26(水) 22:50:28.37 ID:???
(どうやら僕の主はいままでなにかしらの理由でゼロのルイズと呼ばれてきたらしい。
それは教室中の生徒の知ることのようだ。だがこれに関して僕はどうすることもできない。
自らの過去の汚点はその自分自身に責任がある。だから、反論は僕はしない。)

「みっともない口論はおやめなさい」
シュヴルーズはそう一喝し、教室を静かにさせる。シュヴルーズは咳払いをして続ける。
「では授業を始めます。今日は『土』系統の魔法の基本である『錬金』の魔法を覚えてもらいます。
 基本は大事です。もう一度おさらいしましょう」

そういうとシュヴルーズはポケットから小石を取り出し短いルーンを唱え杖を振る。
するとただの石ころはピカピカ光る金属に変わっていた。
「ゴ、ゴールドですか?ミセス・シュヴルーズ!!」
赤髪の少女が身を乗り出す。
「違います。ただの真鍮です。ゴールドを錬金できるのは『スクウェア』クラスのメイジだけです」
ウォルターはおや、と思う。また聞きなれない言葉が出てきた。
あとで主に聞こう、そう思っていると、主がシュワルーズに指差された。
「そうですね ではミス・ヴァリエール!」
「は、はい!」
「あなたに錬金で小石を望む金属に変えてもらいましょう」
「わ、わかりました」
ルイズはつかつかと前に出ていく。
ウォルターは困った。
これでは何かあったときに守れないではないか。
だが、先ほどしたことをするだけなら危険はないだろう。
そう考えてウォルターは見守ることにしたのだが、生徒たちの様子がおかしい。

皆椅子の下に隠れたり机に隠れたりしている。
青髪の子にいたっては教室から出ていってしまった。
さきほど身を乗り出していた赤髪の子が何事か教壇に近づくルイズに言ったが無視されてしまっていた。
やめて、とか聞こえたがどうしたのだろうか。


235 :ゼロの執事 03:2012/09/26(水) 22:51:50.71 ID:???
ついにルイズが先生の机にたどり着き、ルーンを唱えつつ杖を振る。
先ほどの先生と寸分同じことだ。
だが、杖を振り下ろした次の瞬間、机ごと石ころは爆発し、教室は阿鼻叫喚の大騒ぎとなった。

「ッ!! お嬢さま!!」

すぐに、元、と呼ぶしかないほど原形をとどめぬ教壇の机の場所に駆け寄る。
よかった、ルイズは無事のようだ。服がところどころ破けているが、けがはなさそうだった。
だが魔法の結果はどうみても失敗だ。それも大失敗。見たことのない自分でもわかるほど。
落ち込んでいるのでは?と主の方を見やると違った。
ルイズは余裕たっぷりに

「ちょっと失敗みたいね」

そうのたまった。当然、ほかの生徒たちから猛然と反撃を食らう。

「ちょっとじゃないだろ!ゼロのルイズ!」
「いつだって成功の確率ゼロじゃないかよ!」

ウォルターは悟った。
どうしてルイズが『ゼロのルイズ』と呼ばれているかを。
大騒ぎの周囲の様子を見て、どうやらこの新たな主とは大変そうだと予感せずにはいられなかった。


236 :マロン名無しさん:2012/09/26(水) 22:54:49.06 ID:???
04行きます 

237 :ゼロの執事 04:2012/09/26(水) 22:57:18.86 ID:???
「急がなくては」

ミスタ・コルベールは急いで学院長室へ向かって走っていた。
一刻も早くこの事実を伝えなくてはと思うと足に自然と力が入る。
やがて学院長室の扉の前につくと勢いよく開け放った。
そこにいたのは幸いオールド・オスマン一人だけのようだ。

「オールド・オスマン!」
「なんじゃね、騒々しい」
「たた、大変です!」
「大変なことなどあるものか。すべては小事じゃ」
「ここ、これをみてください!」
「む?この書物がどうかしたのかね?」
「これも見てください」

そういうとコルベールはウォルターの左手に現れたルーンのスケッチを渡す。

「!! 詳しく説明するんじゃ。ミスタ・コルベール」



そのころウォルターはルイズがめちゃくちゃにした部屋の片づけをしていた。
片腕にもかかわらず、てきぱきと掃除をしていく。
あっという間にがれきは姿をけし、チリひとつない教室となる。
教壇の机がない以外は授業の時よりもきれいになっていた。
ルイズも手伝っていたがあまりの手際の良さに驚いている間に終わってしまっていた。
もう少し手伝いたかったと思うほどウォルターは手際よく片づけを行ったのだった。
それにはルイズは称賛せざるを得なかった。


238 :ゼロの執事 04:2012/09/26(水) 23:00:52.47 ID:???
「さ・・・さすが執事ね すごいじゃない」
「いえいえ。この程度、元の世界にいたころに比べれば掃除のうちにも入りませんよ」
「へ、へえ。そう。」

若干ルイズが引いていたがウォルターは気にせずせっせとゴミをまとめていく。
ルイズはその姿に頼もしさを覚え始めていたのだった。

掃除を終えるとウォルターはふと気が付く。
先ほどの失敗が影響しているのだろうか。いつもの高慢そうな顔はすっかり影に潜んでいる。
ルイズの顔は見るからに暗かった。すると

「……私ってどうして失敗ばかりするのかしら。」

ルイズの口からそんな言葉が飛び出した。

「お嬢さま?」
「ちょっとね。無理なのかなって。立派なメイジになるなんて夢なのかしら」

度重なる失敗でルイズはほとほと自身に呆れていた。
思わずウォルターに泣き言を言ってしまうほどの百は下らぬ失敗の数。
魔法を使えないウォルターに魔法の失敗について愚痴を言っても仕方ないのだが。
だが口に出さずにはいられなかった。
劣等感。羞恥。焦燥。
それらが誇り高いルイズには耐えられなかったのだった。
そんなルイズに対してウォルターはしばらく考え込んだ後ゆっくりと答えた。


239 :ゼロの執事 04:2012/09/26(水) 23:03:19.82 ID:???
「そうですね…それでも夢をあきらめてはなりません」
「え」

きょとんとするルイズにウォルターは告げる。

「あきらめずに夢に向かって進むこと自体が重要なのです。
 そこには成功も失敗も何度もあるでしょう。
 ですがたとえ失敗しても気に病む必要などありません。
 失敗してからもどうしてだめだったか学ぶ――――そういった試行錯誤こそ重要なのですから。
 成功からは何も学びません。失敗から私たちは学ぶのですよ。お嬢さま」
「………うん。」

そうか。失敗を糧に次に進めばいいのだ。
そう考えると俄然やる気があふれてきたルイズはお礼を言おうとウォルターを向き直る。
だが、ルイズは礼を言いそびれてしまった。
ルイズの目の前には少年はいなかった。
長い年月を経てしわを刻んだ老人が優しげな微笑みを浮かべてルイズの目の前に立っていた。
驚いてまばたきをしてもう一度よく見てみると目の前には元の少年がいたが。
ルイズは一瞬のことに戸惑ってしまう。

(……さっき、大人みたいに見えたわね。変ね。気のせいかしら?)

戸惑うルイズの様子が先ほどとは違い、明るいものになったと感じたウォルターはにっこりとルイズに笑いかけた。

「さて、ルイズお嬢さま」
「なに?」
「掃除が早く終わったのでお昼にしてはいかがですか?」
「そうね。行きましょう」

ウォルターは安心する。機嫌がよくなったようだ。
よかった。やはり、普段の主が一番主らしい。


240 :ゼロの執事 04:2012/09/26(水) 23:06:03.63 ID:???


食堂についた後、ルイズに食事と昼休みの間少し調達したいものがある、と時間をもらってウォルターは外に出た。
日の光は強くはなかったがそれでもつらい。
チクチクと軽く針でつつかれたかのような痛みがウォルターを襲う。
日光はなんとか皮膚を再生し続けることでしばらく平気になってはいるが、
太陽は言わずと知れた吸血鬼の天敵である。
なるべく再生力を消費しないよう、日陰を歩きながらウォルターは厨房に向かっていた。

とりあえず今、必要なものが二つある。替えの服と棺桶だ。
二つとも単純な理由から必要だった。
まず替えの服がなければ主人に迷惑がかかる。同じ服を着続けるのも限界がある。
今の執事服はところどころ見えないところにこの世界に来る前についた血の跡があった。 
医務室で服を洗ってくれたらしいがいつまでもつかわからない。

棺桶はもっと単純、棺桶で寝なければ力が弱まる一方だからだ。
吸血鬼は棺桶で寝なければ力が弱まる。あの吸血鬼と同じことをする羽目になったのは腹立だしいが、
自分の弱さのせいで主が危機にさらされるのはもっと腹立だしい。
必要なのは布と木材だ。厨房になら布と薪があるだろう。
運が良ければ給仕用の執事服があるかもしれない。
そう思ってウォルターは厨房へと入っていった。

 
厨房は昼食時だからごった返しているかと思ったが違った。
料理を作り終え、貴族たちの食事が終わった後の片づけまでの間、休憩時間となっているらしい。
ウォルターが入っていくと一人のメイドが立ち上がりこちらに来た。黒髪ショートで黒瞳の少女だった。


241 :ゼロの執事 04:2012/09/26(水) 23:10:49.59 ID:???
「あの、何かご用でしょうか?」

突然来たので貴族の使いかとおもったのだろう。
少し警戒しているようだった。
ウォルターは安心させるように落ち着いて答えた。

「いえ ここには私用で来ただけでして。私はウォルター、どうぞお見知りおきを」
「ごていねいにありがとうございます あら ミス・ヴァリエールの使い魔ですね」
「ご存じなのですか?」
「ええ。執事の平民を召喚したって学院中のうわさになっていますよ。
 あ、ごめんなさい。私はシエスタって言います」
「シエスタさんですか、」
「さんづけなんて。シエスタ、って呼び捨てでかまいませんよ」
「ではお言葉に甘えて。
 シエスタ、申し訳ありませんが布と木材をわけていただけませんか。
 給仕用の服で男性用があれば手間が省けるのですが」

さっそく本題に入る。

「布と木材、それに給仕服?あるとは思いますが・・・。マルトーさん!」

奥からマルトー、と呼ばれた恰幅のいい男がぬっと立ち上がりこちらに来た。

「おう、聞いてたさ。ほう、おまえが噂の執事か・・・」



242 :ゼロの執事 04:2012/09/26(水) 23:13:44.52 ID:???
じろじろとウォルターを見るマルトー。

「ウォルターさんが布と木材、あと給仕服がほしいそうです」
「む、そうか。ざんねんなら野郎用の給仕服はないな。
 布と木材はあるにはあるが…。ただってわけにはいかんな。
 そうだな。うちの仕事を手伝ってくれたら好きなだけやるという交換条件でどうだ?」
「そのくらいでよろしければ喜んで」
「おおう。即答か。気に入ったぜ」

マルトーはがっはっはと笑いながらウォルターの肩をバシバシと叩いた。
この人の性質だろうか、なれなれしいが周りの信頼が厚そうな人物だ。

「じゃあ そうだな シエスタと一緒に……そうだな 片腕だから不便だろう。
 デザート皿のトレイを運んだり、食べ終わった食器を拾ってシエスタに渡してくれ」
「わかりました」

こうしてウォルターはシエスタとともに給仕の手伝いをすることとなったのだった。


中庭でウォルターは日光をうまくよけつつ、デザートのケーキの乗ったトレイを持ち、
シエスタがはさみでケーキをつまみ、一つずつ貴族たちに配っていく。
シエスタは最初、片腕では持つのはつらいのではないかとウォルターを心配していたもののすぐにその考えは改めた。

ウォルターは片手の指と腕だけで、軽々といくつもの皿が乗ったトレイをいくつも運んでいた。
執事としての経験と技術。この二つがウォルターに片腕でもはたらけるようにしているのだった。

「手馴れてますわね ウォルターさん」
「お褒めいただきありがとうございます。でもこの程度、執事として当然ですよ」

243 :ゼロの執事 04:2012/09/26(水) 23:15:32.43 ID:???
そんなキザったらしいことを言っていた。
(なんだ?あいつは?) 
ウォルターは眉をひそめる。
言っていることは聞こえはいいが要は、言葉通り真剣に付き合ってる女性はいないか、
もしくは何股もかけてます、と宣言しているかのどちらかでしかない。
あの口ぶりからおそらく後者のようだが。
よくもまああんなふうにキザったらしくいえるものだ。紳士というものが情けない。

「あの…ウォルターさん」
「どうかしましたか。シエスタ」
「これが……」

シエスタが差し出したのは小瓶だった。中に液体のようなものが入っている。
香水、だろうか。

「あの貴族の方のポケットから落ちたんです。
 でも私、いますぐ厨房に戻らないといけなくて。渡していただけますか」
「わかりました」

貴族が落し物をするとは。しかたない。あの野郎にとどけてやるか。
すっとキザな貴族の前に歩み出た。

「ギーシュ様」

こいつにはなんとなく様付けしたくはなかったが仕方ない。


244 :マロン名無しさん:2012/09/26(水) 23:17:16.31 ID:???
すみません。抜けました。再投下します。

245 :ゼロの執事 04:2012/09/26(水) 23:18:50.02 ID:???
そんな他愛ない雑談をしながらケーキを配り終えた後、二人は片づけである皿の回収に回っていた。
順々にテーブルを回っていく。
すると目の先に金色の巻き髪に、フリルのついたシャツを着た、気障なメイジがいた。
バラをシャツのポケットに差している。周りの友人が口ぐちに彼を冷やかしている。
「なあ、ギーシュ! お前、今は誰と付き合っているんだよ!」
「誰が恋人なんだ?ギーシュ!」
ギーシュと呼ばれたそのメイジはすっと唇の前に指を立てた。
「つきあう?僕にそのような特定の女性はいないのだ。バラは多くの人を楽しませるために咲くのだからね」
そんなキザったらしいことを言っていた。

(なんだ?あいつは?) 

ウォルターは眉をひそめる。
言っていることは聞こえはいいが要は、言葉通り真剣に付き合ってる女性はいないか、
もしくは何股もかけてます、と宣言しているかのどちらかでしかない。
あの口ぶりからおそらく後者のようだが。
よくもまああんなふうにキザったらしくいえるものだ。紳士というものが情けない。

「あの…ウォルターさん」
「どうかしましたか。シエスタ」
「これが……」

シエスタが差し出したのは小瓶だった。中に液体のようなものが入っている。
香水、だろうか。

「あの貴族の方のポケットから落ちたんです。でも私、いますぐ厨房に戻らないといけなくて。渡していただけますか」
「わかりました」



246 :ゼロの執事 04:2012/09/26(水) 23:22:22.29 ID:???
貴族が落し物をするとは。しかたない。あの野郎にとどけてやるか。
すっとキザな貴族の前に歩み出る。

「ギーシュ様」
こいつにはなんとなく様付けしたくはなかったが仕方ない。
「ん、なんだね 執事君」
「これを落ちていましたがあなた様のでございましょう?」
すると瓶を見るなりギーシュは迷惑そうに言い放つ。

「これは僕のじゃない。君は何を言っているんだね?」
だがめざとく周囲が反応した。
「おお?それはモンモランシーの香水じゃないか!」
「そうだ!間違いない!」
「そうか お前はモンモランシーと付き合っている。そうだな?」

周りが反応する中、
「違う、いいかい、彼女の名誉のために言っておくが・・・」
ギーシュが何か言いかけようとしたとき、
「ギーシュ様・・・」

栗色の髪をした少女がちかづいてきた。
「やはり、ミス・モンモランシーと・・・」
「ちがうんだケティ 彼らは誤解を・・・」
しかし、ケティと呼ばれた少女は思いっきりギーシュの頬をひっぱたき
「さようなら!」


247 :ゼロの執事 04:2012/09/26(水) 23:24:47.90 ID:???
そういって去って行った。すると今度は巻き髪の女の子がいかめしい顔つきでかつかつかつと近づいてきた。
「モンモランシー、誤解だ 彼女とはただ一緒に馬で遠乗りをしただけで・・・」
「やっぱり あの一年生に・・・」
「お願いだよ 信じてくれ モンモランシー バラのような顔を怒りでゆがませないでくれ 
僕まで悲しくなるじゃないか!」
「嘘つき!」

そう怒鳴って手近にあったワインの瓶の中身をギーシュの顔にぶちまけた。
そして怒った足取りで去って行く。
沈黙が流れた。
(はあ)
ウォルターは心の中で溜息をつくとその場を去ろうとする。
やはり後者か。あきれてものが言えん。
「待ちたまえ」
(ああ。厄介なことになった)

再び心の中で溜息をつくとギーシュに向き合う。
ギーシュはワインをハンカチで拭きながら言う。
「君のせいで二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね」
(知るか)
ウォルターは黙っている。何があっても黙っていよう、そう思っていた。

「君が軽率に瓶を拾い上げたとき 僕は誰と付き合っているかの話をしていた
 君も平民とはいえ紳士なら話を合わせるくらいの機転があってもいいだろう?」



248 :ゼロの執事 04:2012/09/26(水) 23:26:34.95 ID:???
紳士、という言葉にウォルターの中で何かがはじけてしまう。
「何を言うのだ。貴様」
内心怒りの炎が燃え上がった。だが冷静にギーシュに告げる。
「貴様ごときが紳士を語るな。貴様は紳士の風上にも置けん。
貴様は二人のご婦人に二股をかけ、振られた。そんなやつが紳士だと?はっ、笑わせる。」 
「な……な……僕に向かってそんな口を・・・」
「せいぜいご婦人方への謝罪の言葉でも考えておくんだな」
そういってくるりと身を翻しウォルターはシエスタのところに戻ろうとする。
ギーシュはあわてた。

「ま、待ちたまえ!」
「なんだ」

振り返る。先ほどたしなめてやったのにかかわらず後ろからしつこくギーシュはなおも話しかけてきた。
「君はよく見たらあのゼロのルイズが呼び出した、平民だったな。さすがゼロのルイズが呼び出した使い魔だ。
 貴族に対する礼儀もゼロ。君の主の底も知れるというものだ」
「…………なんだと?」

主の未来を否定され怒りの火に油が一気に投下される。
怒鳴りつけてやろうかと思った。
あの温厚な老年時代のウォルターではなく一瞬悪ガキ時代にもどりかける。
だがそんな怒りを表情には出さず抑えたまま平静を保ち聞き返した。だがそれでもギーシュはしつこい。

「しかも平民の分際で貴族に説教などするとは。よかろう。君に礼儀を教えてやろう。
 しかし、ここは平民の血で汚せない。ヴェストリの広場にきたまえ。決闘だ」
ギーシュはくるりと体を翻し友人たちを連れて行った。
(うるせえ キザ野郎。一生薔薇でもしゃぶってろ)
ひとり、その背に向かい心の中で毒づくウォルター。


249 :ゼロの執事 04:2012/09/26(水) 23:28:43.52 ID:???
取り巻きの一人は残ってウォルターを監視していたが、ウォルターには逃げる気など毛頭なかった。
みんなは食事を終えウォルターをじっと見ていた。
周りの視線を気にせずウォルターは踵を返し静かに帰ってきたシエスタの方に向かう。
シエスタはぶるぶる震えていた。
「ごめんなさい。私のせいで……貴族を本気で怒らせて…」
「大丈夫ですよ」
安心させようとシエスタに言葉を掛けながら空になった皿の回収用のトレイを渡す。

「ちょっと行ってまいります。これで全ての皿です。よろしくお願いします」
「え、え?まだ全部回収してないですけど・・・」
「いえ。これで全てです」

ウォルターがそう言った直後、ヒュッと鋭いものが風を切るような音とススス、と何かが滑るなめらかな音がきこえ、
何事か、とシエスタは上を見る。
そして見えてきた信じられない光景にシエスタは固まってしまった。

ここにある何十枚もの残りの皿が宙を飛んでくる。
この広場にあった片づけるには何十枚も回収せねばならなかった皿が。
一枚一枚、列になって、放物線を描きシエスタのトレイめがけ飛んでくる。
シエスタがあっけにとられている間に皿は、シエスタのトレイに静かに置かれていき、
一枚残らずきれいに並び積み重なっていった。

「では」
何事もなくウォルターはヴェストリの広場へ歩いていく。
シエスタもその場にいた者たちも全員あまりのことに唖然として動けなかった。
皆がようやく動き出したのはいちはやく我に返ったシエスタがよろけ、
積み重ねられた一番上の皿を一枚落とし、割ってしまった音を聞いてからだった。


250 :ゼロの執事 04:2012/09/26(水) 23:32:02.71 ID:???
ウォルターがヴェストリの広場へ着くともう人だかりができていた。
決闘のうわさを聞きつけた生徒たちで広場はあふれかえっている。

なるほど決闘にうってつけだ。
ここも中庭らしいが西側のためあまり日が差さない場所だった。
吸血鬼に都合がいいなあとウォルターは思いながら、広場の中心近くに立つ。
ギーシュもそこにいた。
「諸君!決闘だ!」
ギーシュがバラの造花を掲げた。ウオーッと歓声が巻き起こる。
ギーシュは手を振って歓声にこたえている。
ここにいる全員がギーシュを応援しているようだ。
ひとりを除いて。
決闘のことを聞きつけた桃色の髪のご主人様だ。怒った様子でこちらに歩み寄ってくる。

「あんた!何してんのよ!きいたわよ!」
「これはこれは ルイズお嬢さま」
「なに勝手に決闘しようとしてんのよ」
「お嬢さま」

じっとルイズをみつめる。柔和な顔をしていたが、真
剣なまなざしでルイズにウォルターは落ち着いて話した。
「あの小僧は僕に紳士らしからぬ行動と言葉を吐きました。しかもその上で紳士を語る体たらく。
この僕はそれが許せない。」
「でも、だからって決闘に挑むこと……」
「だからこそです」
ウォルターはきっぱりと有無を言わせぬ口調で言う。う、とルイズは詰まる。
何とかとどめようと必死に理由を考える。


251 :ゼロの執事 04:2012/09/26(水) 23:35:43.05 ID:???
そんな主にウォルターは静かな物腰で告げた。
「ご安心ください、ルイズお嬢さま」
自信たっぷりにウォルターは言う。
「いまからやつを返り討ちにしてごらんにいれましょう。英国紳士(ジョンブル)の授業料がいかに高いか、
 やつに教育してやりましょう」

ウォルターはルイズを見つめる。ルイズはまばたきをした。
またみえてしまった。
またもこの少年が頼もしい大人に見えてしまったのだった。
「ハア 仕方ないわね……本当にわからずやね……」

そうルイズはつぶやく。
心配はあるがこの執事なら大丈夫だろう。
不安と期待が入り混じった表情でルイズは告げた。
「いいわ やってしまいなさい ウォルター」
「了解(ヤー)わかりました。お嬢さま」

ウォルターはにやりと笑うとルイズに背を向け、再びギーシュに向き直る。
こちらを見るウォルターに、ギーシュは余裕そうな笑みを浮かべ口を開く。
「まずは誉めよう。とりあえず逃げずに来たことは誉めてやろうじゃないか」
「そんな能書きはいらん。ルールは?」

つまらなそうに先をせかすウォルターにギーシュはいらついた。

「ッツ!ふん!かんたんさ。どちらかが参った、というまでさ」
「そうか」
「さてと―――では始めるとしようかね」


252 :ゼロの執事 04:2012/09/26(水) 23:36:42.21 ID:???
その声にウォルターは警戒する。
あいては魔法使いだ。何をしてくるのか。

「ふふっ」
身構えるウォルターを見てギーシュは余裕の笑みをうかべ、バラの花を振る。
花弁が一枚宙に舞ったかと思うと……甲冑を着た女戦士の形をした、人形となった。
背丈はウォルターより少し大きいぐらいか。人間くらいの大きさのそいつはウォルターとギーシュの間に立った。

「ほお」
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」
感心するウォルターにたいして、ギーシュは自信たっぷりに続ける。
「言い忘れたな。僕の二つ名は"青銅""青銅"のギーシュだ。
 従って、青銅のゴーレム"ワルキューレ"がお相手するよ」
「・・・・・」
ウォルターは何も言わない。じっとワルキューレを観察している。
その様子を困っていると解釈したのか、ギーシュが再び口を開いた。

「そういえば君は右腕がないんだったね。仕方ない。これではあまりにも差がありすぎるじゃないか」
そういうとギーシュは再びバラの花を振る。一枚の花びらが一本の剣に変わる。
ギーシュはそれをつかむとウォルターに向かって投げた。
剣はウォルターの足元にカラン、と音を立てて横たわる。
それは無駄に豪華な装飾が施された剣だった。



253 :ゼロの執事 04:2012/09/26(水) 23:45:52.10 ID:???
「さあ 剣をとりたまえ 不利な平民の君のための僕からの施しさ 見事な細工だろう?感謝したまえ」
その間にもワルキューレはウォルターに向かってじりじりと近づいていく。
剣をとったとたんに襲い掛かる気が見え見えだ。

「ウォルター・・・」

観衆の中、ルイズは心配になった。やはり片腕ではギーシュには勝てない、と思ってしまう。
返り討ちにする、といっていたがどうしても不安になってしまうのだった。

だが、次の瞬間ルイズのその不安は杞憂に終わる。
突如くぐもった金属音が響き―――ヴェストリの広場の壁に屈強なワルキューレが釘打ちされていたのだ。
ルイズは呆然としてウォルターを見つめていた。

起こったことの結果は皆見届けていれど、その過程を知るのはウォルターだけであった。
すなわち、ウォルターは足元の剣を剣をワルキューレに向かって蹴り飛ばしたのである。
右足で柄のところをけり宙に一、二回回転させ、上げた右足をそのまま一瞬後ろに引いた後、
宙で回転している剣をそのままもう一度蹴ったのだ。
その一連の動作は、全く無駄がなく、周りの者の目にとまらぬほどの神速であった。
小石をけるかのように蹴り飛ばされた剣は、力強く引き絞られ放たれた矢のようにまっすぐ宙を走り、標的ワルキューレの腹を捉えたのだ。


254 :ゼロの執事 04:2012/09/26(水) 23:48:48.13 ID:???
このわずかな間に起きた出来事を驚きの目で周囲が見ていたがやってのけたウォルターもまた驚嘆していた。
ウォルターにとってこのような足技は50年前にもやった事がある慣れた技であった。
しかしウォルター自身の驚きは蹴り飛ばした剣が突き刺さるだけにとどまらなかったこと。
ワルキューレに刺さっただけでは力はなくならず、剣とともにワルキューレもとんでいったのだ。
昔と同じような力づもりで使った敵を無力化するための技が、
いまや吸血鬼となったウォルターの脚力によって50年前のそれをはるかに凌駕した強力なものに変化していたのだった。

(へえ?これほどとはな。さすがは―――吸血鬼の力、か)

完全に動かなくなったワルキューレを見ながらウォルターは嘆息し、満足げに微笑んだ。
敵のキザな鼻っ柱をへし折ってやった。
自身の力への戸惑いは消え期待以上の達成したことに喜悦を覚えた。
いたずらを成功させた子供のそれと変わらぬ笑みを浮かべギーシュを油断なく見据え続けていた。

一瞬のできごとに騒がしかったあたりが静まり返った。
先ほどまで優雅に立っていたワルキューレが気づいたらいきなり壁に釘打ちされていたからだ。
そのことに観客は言葉が出ず棒立ちになっていた。



255 :ゼロの執事 04:2012/09/26(水) 23:52:13.26 ID:???
一瞬のできごとに騒がしかったあたりが静まり返った。
先ほどまで優雅に立っていたワルキューレが気づいたらいきなり壁に釘打ちされていたからだ。
そのことに観客は言葉が出ず棒立ちになっていた。

「は?」

それはギーシュも例外ではない。
あまりのことに目の前のことを信じられず、はりつけにされたワルキューレを見つめ呆然とするギーシュ。
そのほうけ面に向かってウォルターは罵声を浴びせた。

「誰がてめえの施しなんぞ要るか!寝ぼけんな。小僧」
「な、な、き、貴様!!」

我に返ったギーシュは怒り狂い再びバラを振る。花びらが舞い、新たに六体のゴーレムが現れた。
先ほどと全く同じ青銅のゴーレムである。

「ほう?」
「いけっ!ワルキューレ!!」

一斉にワルキューレたちはウォルターめがけて進軍していく。
怒り狂った主とは対照的にワルキューレたちは規則正しく統率がとれていた。ワルキューレたちは横へ散開する。
ウォルターは周りを見渡した。
瞬く間にワルキューレたちはウォルターを包囲し、とらえていた。一斉に優雅な構えで中心にいるウォルターに剣を突き付ける。
ワルキューレたちの包囲網によりウォルターはうごけなくなった。
ギーシュは勝利を確信する。だが苛立ちは収まらない。
ウォルターは窮地にあわてたそぶりも見せず悠然と落ち着いていたからだ。

「終わりだね。執事君?今なら許してあげてもいいが、さあどうする!!」



256 :マロン名無しさん:2012/09/26(水) 23:55:45.47 ID:???
またミス。243と255はスルーしてください。間違えないよう気を引き締めます。

257 :ゼロの執事 04:2012/09/26(水) 23:58:34.17 ID:???
「は?」

それはギーシュも例外ではない。
あまりのことに目の前のことを信じられず、はりつけにされたワルキューレを見つめ呆然とするギーシュ。
そのほうけ面に向かってウォルターは罵声を浴びせた。

「誰がてめえの施しなんぞ要るか!寝ぼけんな。小僧」
「な、な、き、貴様!!」

我に返ったギーシュは怒り狂い再びバラを振る。花びらが舞い、新たに六体のゴーレムが現れた。
先ほどと全く同じ青銅のゴーレムである。

「ほう?」
「いけっ!ワルキューレ!!」

一斉にワルキューレたちはウォルターめがけて進軍していく。
怒り狂った主とは対照的にワルキューレたちは規則正しく統率がとれていた。ウォルターを囲もうとワルキューレたちは横に散開する。
ウォルターは周りを見渡した。
瞬く間にワルキューレたちはウォルターを包囲し、とらえていた。
一斉に優雅な構えで中心にいるウォルターに剣を突き付ける。
ワルキューレたちの包囲網によりウォルターはうごけなくなってしまう。

ギーシュは勝利を確信する。だが激怒する彼の苛立ちは収まらない。
ウォルターは窮地にあわてたそぶりも見せず悠然と落ち着いていたからだ。


258 :ゼロの執事 04:2012/09/27(木) 00:01:35.33 ID:???
「終わりだね。執事君?今なら許してあげてもいいが、さあどうする!!」

自らの剣を足蹴にし、ワルキューレに無様な姿にしたウォルターを、追い詰め強気になるギーシュ。
口では慈悲を与えようと言っていたがギーシュは元から許す気などなかった。
怒りで真っ赤になったギーシュは絶対に這いつくばらせて許しを請わせてやる、と固く決意していた。
そんなギーシュの心を見透かしたかのようにウォルターは告げる。

「小僧。紳士はな、常に落ち着き、公共の場で感情を露わにしない。覚えておけ」
「減らず口を!」

相変わらずのウォルターの様子にギーシュは激昂する。

「かかれ!!」

ギーシュの掛け声とともにワルキューレたちの剣がウォルターの体を斬ろうと迫る。
これに勝てる者はいない。丸腰の平民に、しかも片腕のものがかなうはずがない。
そう考え、勝利を確信するギーシュ。笑みが思わずあふれそうになる。

まわりのものも思わず息をのみ、決着の様子を見ようと皆黙り込む。
ワルキューレたちは大きく剣を振りかぶり、一斉に振り下ろした。
その剣がウォルターに届いた瞬間、大きな鋭い金属音が鳴り響いた。


259 :ゼロの執事 04:2012/09/27(木) 00:03:20.67 ID:???
「獲った!!」

ギーシュは嬉々とした歓声を上げ勝利を確信する。 
もはや召使ごときの倒れた姿など確認するまでもない。
ゆっくりと観客の方へ向き直ったギーシュは大音量の歓声に飲み込まれる。
観客の野次。ギーシュの友人の賛辞。女の子たちの黄色い声。
それらを一身に浴びギーシュの笑みは止まらなくなった。
周りからの自身の勝利への賛辞に満面の笑みを浮かべたギーシュの顔は一瞬にして凍りついた。

「獲ってない―――獲られたんだ」

突如響いてきた声に、振り向いたギーシュはあやうく杖を取り落しそうになった。
驚くギーシュの視線の先の光景。
そこには先ほどまでウォルターに攻撃を加えようとしたワルキューレが倒れていた。
無惨に胴をなます切りにされ、上半身と下半身が別々の方を向いて転がっている。

「そんなっ」

眼前の光景を信じられず唖然として倒れたワルキューレを見るギーシュにウォルターの声が響く。

「……だがやはり、左腕と口だけでは難しいものだな」
「!!」


260 :ゼロの執事 04:2012/09/27(木) 00:06:49.84 ID:???
包囲したはずのウォルターはいつの間にかワルキューレの包囲網をくぐり抜けていた。
ワルキューレの軍団から7,8メイル離れたところにいる。
彼の体には傷一つなく、グレーの眼は相かわらず彼を見据えていた。
先ほどの攻撃がウォルターを倒すどころか傷一つ負わせられなかったことにギーシュは驚愕していた。
一体どうやって包囲網を抜け出したのかと焦りでせわしなく動くギーシュの眼は、あるものにとまった。
ウォルターの周りには宙に細長い糸のようなものが光を反射してきらきらと輝いて浮かんでいるではないか。
よく見るとそれをウォルターは左手の指と口で操っている。

ギーシュは困惑しあとじさる。
あれは奴の武器なのか?あれがワルキューレをこんなふうに?

驚きの目で見つめるギーシュに向かってウォルターは、
どこからともなく取り出した黒いフィンガーレスグローブを手にはめなおしつつゆっくりと歩を進めていた。
ウォルターの周りに展開された鋼線。
その浮動する様はまるで意志を持って踊っているようだった。

「言い忘れたな。僕の二つ名は"死神"。死神 ウォルター。ウォルター・C・ドルネーズ。ヴァリエール家執事、元ヘルシングゴミ処理係。行くぞ」

先ほどの冒頭のセリフは自身の口上ではないか。
そのセリフを奪われたことに屈辱にギーシュの顔はますます怒りで赤くなっていく。

「やってしまえ!」


261 :ゼロの執事 04:2012/09/27(木) 00:10:51.42 ID:???
ギリ、と歯ぎしりしギーシュは命令を下す。
残り4体のワルキューレが一斉にウォルターに躍り掛かった。
ワルキューレの一体一体が踏みこみ剣を振りあげウォルターの首を狙おうと肉薄する。
鋭い剣圧とともに振り回されるワルキューレの斬撃。
だが、ウォルターは身を翻し、迫りくる斬撃を難なくかわし――やおらそのうちの一体を蹴り飛ばす。
大きな空洞音を響かせながら蹴り飛ばされたワルキューレは残りの3体を巻き込んで転倒させた。
その様を見てウォルターはあきれたように鼻を鳴らす。

「もろい。やはり青銅は青銅だな」

ウォルターは腕を軽く振る。
展開するは少年の細い指に巻きつかせた自身の得物である鋼鉄糸。
鋼線は網のようにあたりに広がりさきほどとは逆にワルキューレの軍隊を包囲していく。

「青銅の加工しやすさに目をつけて、外見みごとな戦士を作ったのはいいが」

張り巡らせられた鋼線は一瞬にして4体のワルキューレに次々と巻きついていき、からめ捕っていく。
倒れたワルキューレたちは逃げることもなくなすがままとらえられていくのだった。

「これでは、戦乙女(ワルキューレ)とはほど遠い」

ウォルターが手の甲輝く左腕を右から左に動かした直後、
残りのワルキューレたちも青銅の残骸に成り果てた。

「そ、そんな」

ギーシュは呆然とする。一瞬にして全滅した自らのゴーレムたち。
この光景をまだギーシュは信じられないでいた。。
起こったことを受け入れられぬまま、ギーシュは呆然とワルキューレの残骸を見つめていた。


262 :ゼロの執事 04:2012/09/27(木) 00:15:00.36 ID:???
ギーシュが理解できなかったウォルターの攻撃。
それは執事ウォルターの操る特殊な鋼線による切断であった。
ウォルターの鋼線の一本一本は鋭利で細い。
鋭さは触れるだけで切れ目を入れるほど鋭く、切れ味は抜群である。
だがそれだけでは破断できない。
金属である青銅をバターのように切断を可能にしているのは直径の小さな鋼線からもたらされる圧力である。
鋭い切っ先の微小ともいえる面積にウォルターの手から伝えられた力を集約し加えられる力。
その込められた力が対象の耐久力をはるかに超越した力となり対象を襲うのだ。
それがほんの一瞬に加えられるのだから対象は抵抗などできない。
ゆえに力を籠めれば最後、対象を瞬時に切り裂いてしまう。
さらにそれに速度がつけば―――効果は計り知れない。
最小の場所を最短の合間に最速最大の力が襲うのだ。
なれば金属の破断などたやすい。まして耐久度が低い青銅など耐えられるはずもなかった。

そしてそれは必然ともいえるある現象を引き起こす。
それはわずかな間に引き起こされる誰も目視できぬほどの切断であった。

誰も攻撃を躱すことはできない。誰にも躱すことをさせない。
人々が恐れる化け物を一瞬ののちに細切れにしてしまうその姿。
執事ウォルターが元の世界で"死神"と恐れられたゆえん。
鋼線を操り敵を切り刻む―――それが元HELLSINGゴミ処理係の技術であった。

(ひ……)


263 :ゼロの執事 04:2012/09/27(木) 00:17:00.90 ID:???
ギーシュは恐怖する。
静かに歩み寄るウォルター。
その顔は鋼線を煌めかせながら笑っていた。
その姿が対峙するギーシュにとってはまさに獲物をその眼に捕らえ、舌なめずりをする"死神"であった。
恐怖するギーシュにウォルターは朗朗と言葉を紡ぐ。

「小便はすませたか?  神様にお祈りは?
 部屋のスミでガタガタふるえて、命ごいをする心の準備はOK?」

「ひ・・・ッ こ、このお!」

恐怖し、冷静な判断ができなくなってもなお、ギーシュは杖を振る。
残りわずかな精神力を削り、もう一体のワルキューレが出来上がった。

「はあ はあ どうだね まだ勝負はわからないさ これ以上美しい婦人方の前で恥をかくわけにはいかない」
「………小僧。貴様は自らが紳士と言ったな」

ギーシュの最後のあがき。
それを無表情に見つめるウォルターの目はなおもギーシュを恐怖させありえないものを見せた。
ギーシュはアッと声を上げる。
瞬きをしたギーシュの目に映るのは少年ではない。
顔にしわを刻み、さまざまな経験を積んだことをうかがわせる老紳士がそこにいた。

「教えてやる。紳士は女性の評価や恋人のことについて、軽々しく口の端に乗せん。
 相手の身分の上下に関わらず、同じ態度で接し、背後から呼び止めたりもせん。
 わかったか小僧?貴様は決して紳士でありはせんということが」

そう言うと、ウォルターは腕を素早く横に振った直後、最後の一体が崩れ落ちた。
執事の操る鋼線が容赦なく切断したのだった。


264 :ゼロの執事 04:2012/09/27(木) 00:19:47.68 ID:???
「あ…あああ…」

完膚なきまでたたきのめされたギーシュ。
うつろな目で自身の体をみるとギーシュの手にも首にもすでに鋼線がまきついていた。
少しでも動けば死ぬぞ、といわんばかりにその冷たさを伝えてくるワルキューレを切断した武器。
それを呆然と心おれたギーシュは見つめた。完全な敗北である。

「ま、参った」

震える声でギーシュは降参した。
すると目の前の老人は掻き消え―――元の生意気な少年が笑っている姿が現れた。
ウォルターは、ギーシュを鋼線から開放し、くるり、と身を翻し帰っていく。
勝ったことが信じられない主の元へと。
ギーシュの教育を終えた執事はルイズのもとに帰還した。

「ただ今戻りました。わが主(マイマスター)」

にやっと少年執事は、驚いた様子の主に向かって笑いかけた。
ルイズは小さな猫のような目をぱちくりさせる。

勝った。ギーシュに。平民が。片腕の少年が。私の執事が。
本当にギーシュをやっつけてしまった。ゼロのルイズと呼ばれてた私が呼び出した彼が。
驚きと誇らしさがルイズの心にあふれかえる。

「うん。お帰り。ウォルター」

二人に向かって歓声と喝さいが沸き起こる。
かくして広場での決闘はこうして幕を閉じた。


265 :ゼロの執事 04:2012/09/27(木) 00:20:33.61 ID:???


学院長室では、コルベールとオスマンは鏡で決闘の様子を見ていたが、その一部始終を見て顔を見合わせた。

「オールド・オスマン」
「うむ」
「あの平民・・・」
「うむ 男のくせに腰つきがエロかったのお おもわず」
「なにを言っているんですか オールド・オスマン 違いますよ あの動き!あの武器の扱い!やはり彼は・・・」
「わしには歴戦のつわものが勝つべくして勝っただけじゃと思うがの」
「は?いやしかし」
「仮に彼が本当にガンダールヴだとしても今はなにもできん なぜただの人間の彼がそうなのか理由がわからんからの」
「では王室にも・・・」
「また戦でも起こされてはかなわんからのこの件はわしがあずかる。他言は無用じゃぞ」
「は、はい!」

コルベールが出て行ったあとオスマン氏は思いをはせる。

「伝説の使い魔か・・・どうなるのかのお。これから」



266 :マロン名無しさん:2012/09/27(木) 00:23:31.52 ID:???
04終わりです。05は明後日にまた投下します。
いろいろと至らないところがあるかもしれませんがこれからもよろしくお願いします。おやすみなさい。

267 :マロン名無しさん:2012/09/27(木) 02:24:18.97 ID:???
一気に投下来てた!執事の人乙乙

268 :マロン名無しさん:2012/09/28(金) 21:58:45.61 ID:???
来n

269 :マロン名無しさん:2012/09/29(土) 09:26:06.85 ID:???
おつおつ

270 :マロン名無しさん:2012/09/29(土) 21:30:29.13 ID:???
>>268 明後日というのは今日です。誤解招くような時間帯に言って申し訳ありません。05投下します。

271 :ゼロの執事 05:2012/09/29(土) 21:44:28.43 ID:???
「ふう。ミッションコンプ」

汗をぬぐうウォルター。
ある晴れた昼下がりのヴェストリの広場の隅―――そこで少年はあるものを製作していた。
それを見れば学院の人間はおそらく眉をひそめ目を疑うことであろう。

そこに置かれていたのは異様な存在感をしめす黒く巨大な棺桶。
何の飾りつけもない簡素な作りでありながら存在自体が広場で異質さを際立たせている。
周囲に学生たちはいたが皆恐る恐る遠巻きにしながら観察していた。

「まあ。こんなもんか」
 
皆が寄り付かぬ中、少年だけがその場違いさに動じることもなく、満足げにうなずいていた。
なぜなら―――少年自身がその棺桶を作った張本人であったからだ。
異様を放つ棺桶に対してコンコンと隅をたたき不具合がないか確かめている少年。
満足げな笑みを浮かべつつもまるで芸術家が入念に最後の仕上げをするかのように眼は真剣そのものであった。

272 :ゼロの執事 05:2012/09/29(土) 21:49:19.37 ID:???
決闘が終わったあとウォルターはギーシュをそのまま放置し、約束の布と木材をとりに厨房へ戻ったウォルター。
そこではすでにウォルターがギーシュを打ち負かしたことが知れ渡っていた。
平民が貴族を倒した―――そのことで厨房の人々はウォルターに喝さいを浴びせたのだった。
とりわけ、貴族嫌いであったコック長マルトーには喜ばしい事だった。
よくやった、とマルトーは約束通り布と木材を惜しみなく提供してくれたのである。山のように。
さすがに運びきれず、必要な分だけもらいあとは遠慮したが。
なにはともあれ必要なものがそろったウォルターはさっそく仕事に取り掛かる。
まずは寝床の確保。吸血鬼のねぐらの作成だ。
執事としての仕事もあるためルイズが午後の授業に出ている間に済ませなければならない。
ウォルターは午後の時間ずっともらった木材を使って棺桶つくりにかかりきりであった。


午後の時間を存分に使いついに完成した棺桶。
しかし、ここで問題が生じたことに気付く。

棺をつくったのはいい。
だが、本来の目的―――力の回復ができなければ意味がない。


273 :ゼロの執事 05:2012/09/29(土) 21:55:04.38 ID:???
吸血鬼は自らの生まれた地の土を入れた棺桶で眠ると力を回復させることができる。
半人前の吸血鬼ですらない出来損ないのウォルターにとって弱りゆく体を維持させるためには、
どうしても棺で眠り、主に仕えていくための力の回復が急務であった。
しかし、その生まれた土―――すなわち自身の故郷の土となるものがなければそれは死者をおさめるだけの箱でしかない。
これでは吸血鬼として弱まるばかりだ。

肝心の土――あいにくウォルターは英国の土など一つも持ってきてはいない。
それでもこの世界に来た時に身に着けているもの、持ってきたものを必死に調べた。
すると、幸運にも、この世界に来る前の戦いのさなかについた土埃やすすが服にこびりついていた。
それを、払い落としてひとつにまとめ、もらった布にくるんで棺桶の隅に置く。
急場しのぎではあるが贅沢は言っていられなかった。
こうしてどうにか棺桶を完成させ、ごろんとその中に寝転がってみる。
すこし、中に入ってみると力がたまっていくのが感じられた。

効果はまずまずといったところか。
吸血鬼の力の回復ができる以上、棺桶つくりは成功と言えるだろう。
ひとり心の中でガッツポーズをするウォルター。
吸血鬼の棺桶とはこんなものでできるものなのかと拍子抜けするもなかなかのできに満足する。

あとは―――自身の執事服の製作をのこすだけである。
手間がかかる作業だが、今日中には仕立てあげたいものだ。

そうウォルターが思案していると、ぬっと眼前に肌色の球体が現れた。


274 :ゼロの執事 05:2012/09/29(土) 21:59:01.14 ID:???
「?」
「やあやあ執事君。ここにいたのか。君に用があるんだ」
「…あなたは確かコルベール教授」

現れたのは眼鏡をかけた中年の男性の禿げ頭であった。
コルベール教授―――授業で元の世界での科学実験の真似事をして変人扱いされている教師であった。 
だが、彼はそんなことを気にも留めていないらしい。
二つ名が"炎蛇"という物騒なものの割には温厚な人柄である人だとウォルターは記憶している。
コルベールは大きな袋を抱えウォルターにニコニコと笑いかけていた。

「そうだ。いやいや覚えてくれてて嬉しいね ウォルター君 
 いやいや会えて何より――――と、これは何かね?棺桶に見えるが?」

ウォルターが寝転んでいる棺桶を見てコルベールが?マークを頭の上に浮かべウォルターに問う。
その問いにウォルターは焦ることなく落ち着いて答える。

「はい。棺桶です。僕の住んでいた場所―――東方ではこれが寝床となっておりまして」
 
コルベールのほかの教師たちや生徒たちにはウォルターは東方から来ているとルイズが伝えていたのだった。
主―――異世界から来たウォルターの正体を隠すためのルイズの心遣いであった。
東方はエルフが住むなど、トリステインとはかなり異なった文明であるらしく、ある程度のごまかしは利くらしい。
ゆえに棺桶が寝床だと言えばああ、そういうところなのかで通ってしまうのだ。
嘘をつくことに若干の罪悪感はあったが、吸血鬼だと知られ面倒事になるよりはごまかすのが一番である。



275 :ゼロの執事 05:2012/09/29(土) 22:02:50.53 ID:???
「ははは。これが君のところのベッドだと?ふむ、ますます興味深いな」
「……何かご用ですか?」
「うむ 君に渡すものがあってね。」

そう言うとコルベールは背負っていた袋から何かを取り出す。
重そうな木の箱をよいしょと取り出した。

「これだ」

箱を開ける。中を見たウォルターは目を丸くした。

取り出されたのは鋼の義手。
鈍く光る金属の光沢がウォルターを引き寄せる。
頑丈に作られていながら機能性を損なわない機構。
人のものとなんら変わらないよう精緻に作られた指。だが驚くべきはその内部だった。
機械じかけで動くようになっていたのだ。
リード線の一本一本が神経とつながった際に手足のように動かせるようにできていた。

「これは!」

驚きの声を上げるウォルターにコルベールは朗らかな声で説明する。


276 :マロン名無しさん:2012/09/29(土) 22:08:59.68 ID:???
「うむ 以前君が召喚されたとき、右腕がないのが気になってね。
 何とかしてあげようと老婆心ながら義手となるものを探していたのだ。
 そうしたらほら、ここの宝物庫にしまわれていたこれのことを思い出してね。
 オスマン氏にきいたら渡してもよいと言われたのだ」

にこにこと変わらぬ無邪気な笑みでコルベールはウォルターに言う。

「君への贈り物だ。うけとってくれないな。」

突如出現した失った右腕に代わるもの。それをくれるという。
思いがけず手に入った義手。ウォルターは感激のあまり声も出ない。
その様子を勘違いしコルベールはあわてて言う。

「もしかして気に入らなかったかね」
「とんでもない!」

思わず手に取りまじまじと見る。新たな右腕。
肉体に直接神経接続をしなければならないようだがそれさえ乗り切ればまた両腕がそろうのだ。
みたことのない構造をした義手だ。
だが、これは紛れもなく元の世界のものと見劣りせぬ技術が使われている。どうしてこんなものがここにあるのだろうか?

「これは一体?どうしてここに?」
「うん?これは確かオスマン氏がどこからか持ってきたらしいのだが…もしかしてこれのことを知っているのかね?」
「…いえ。知っているわけでは。ただ」

ウォルターはじっくりと義手を見て考えながら慎重に答えた。

「これ自体は見たことはありませんがどのような原理で動くものかはわかります」
「なに?それは本当かね?」




277 :ゼロの執事 05:2012/09/29(土) 22:10:57.07 ID:???
うむむと考え込むコルベール。そんなコルベールと同じようにウォルターも考え込む。
渡された義手となるもの。だがコルベールは義手だということはわかるがめったに出回らないものだという。
しかし、この義手に使われている物は紛れもなく元の世界のものだ。
ねじ、ベアリング、高純度の鋼―――どれも魔法社会のハルケギニアではあるはずのないものばかり。
使われている技術自体は見たことはなかったが、十分実現可能なものである。
一体だれが考えたのか非常に気になる。
そんなことを考えているとコルベールが話しかけてきた。

「ウォルター君。渡す代わりと言ってはなんだが」

コルベールの表情は真剣そのものだ。
あ、と思う。
そういえばこの世界にきてから金銭なるものは全く持っていないのだ。

「…すみません。今の僕にはこの義手の代価となるものがありません。」
「む?勘違いしないでくれ。そんなものをきみからとるわけがないだろう。」
「? ではどういう」
 
戸惑うウォルターにコルベールは優しく微笑んだ。

「なに。私はこれの内部構造がさっぱりわからんのだ。どこをどうしたら動くのか、各々細かく教えてくれないかね」
「…そんなことでよろしければいくらでもよろこんで」




278 :ゼロの執事 05:2012/09/29(土) 22:11:46.49 ID:???
こうしてウォルターはその午後、ずっとコルベールと語り合う。
義手の構造について事細やかに礼として、熱心に、かつ真剣に話す。
さらにコルベールには自分が異世界から来たことを明かした。
最初は驚いていたようだが義手に使われる技術を説明し納得してもらえた。
もとの世界の技術についても説明をし、エンジンなるものの構造も詳しく語る。
あっという間にウォルターとコルベールは意気投合し、様々な科学技術を議論するのだった。



279 :ゼロの執事 05:2012/09/29(土) 22:15:05.78 ID:???



「ねえ。ウォルター……これ、何?」

ここはルイズの部屋。女子寮のルイズの部屋は20平方ヤードほど。
ルイズの部屋は大まかにいえば西側のベッド、北側に扉、東に大きな箪笥。そして南に窓がある。
その窓のわきをルイズはげんなりとした目で見つめていた。
高価なアンティークでととのえられた部屋の家具の中でひときわ異質さを放つ物体を。
眉をぴくぴくとひくつかせるルイズに対し執事は澄ました顔で答えた。

「何って棺桶にございます」

堂々とウォルターはその物体の名を答える。
ルイズは頭を抱える。
棺桶だということは知っている。言われなくてもわかる。
問題は別のことだろうに。

「ねえ。何故にこんなものが私の部屋に?」
「はあ。お嬢さまの命令ですが?"やっぱあんたは私の部屋で寝なきゃダメ"、とのことで…」

ルイズからの命令をルイズの口調そっくりに物まねをして復唱してみせた執事。
対してルイズはげんなりとした視線を執事に投げる。




280 :ゼロの執事 05:2012/09/29(土) 22:16:53.37 ID:???
「………言ったわ。言ったけれども…何で棺桶がここに?私があげた毛布は…?」
「ここにございます。はい」

パカッと効果音が聞こえそうなくらい自然にウォルターは棺桶のふたを開ける。
棺桶の中にはルイズが渡した毛布が丁寧に折りたたまれ、ポツンと場違いに置いてあった。

「もしかして…これがあんたの言ってたベッド?」

間違いであってほしい。ふざけているだけだと言ってほしい。
そんなルイズの願いは一言で打ち砕かれた。

「左様でございます」
「い――いやーーーーーーーーーーーーー!!」

ルイズの絶叫が女子寮中に響き渡った。


ルイズは目の前の執事を見つめた。
この執事はどこかおかしいのではないか?棺桶がベッドなんて狂ってる。
私の部屋に置いておくなんて。
完璧だと思っていたけどウォルターは少しずれたところがあるの?
恐る恐る棺桶を見る。
きれいな棺桶だった。傷一つなくまるでたった今できたかというように新品である。
月明かりを反射して光沢を放つニスを塗られたばかりの黒い棺桶。
質素な作りでありながらも自己主張しているかのように生意気に存在感を示している。
そのことにルイズは軽く殺意を覚えた。



281 :ゼロの執事 05:2012/09/29(土) 22:25:08.15 ID:???
「ウォルター〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜????どういうことかしらこれ?なんでこれが寝床なのよ?」

藁や干し草といった使い魔用の寝床ではなく、棺桶を担いで運んでくるとはどういう了見か。


(ろ、廊下で寝てた?なにしてんのよ。あんたは外で寝ることはないわ。
 あんたは私の執事じゃない!執事はご主人様のそばにいるものでしょ!
 やっぱあんたは私の部屋で寝なきゃダメなんだから!そばにいなさい!)

確かに私は言った。この部屋で寝ていいと。
外で眠っていたとキュルケから聞いたからかわいそうだと思って部屋で寝させてあげようと思ったのに。
なのにこれは一体どういうことか。
からかっているのかとギリギリと歯ぎしりしながらルイズはウォルターを睨みつけた。
だが、執事はそんな主の様子に気付いていないのか、きょとんとした顔で

「いや、これはどうしても必要なものでして」

とのたまったのだ。
真顔で言われてしまったためルイズはたちどころに毒気を抜かれてしまう。

「は?必要?必要ってなによ?」
「はっ。初めて僕があなた様に召喚された晩を覚えておいでですか?」

息巻く主に対し背筋を伸ばし生真面目にウォルターは答える。


282 :ゼロの執事 05:2012/09/29(土) 22:27:57.06 ID:???
「あの日僕は言ったはずです。僕は下位にあたる吸血鬼であると。
 私はあなた様から血を分けてもらっていますがそれでは不十分なのです。
 今の僕は半人前の吸血鬼にすぎません。
 ならばせめて、生まれた地の棺桶で眠らねば力が弱まる一方でして」
「よ、弱くなっちゃうの?それは…確かに困るわね」

何も言えなくなりルイズは困った。
ウォルターの都合。吸血鬼特有の制限。
確かに自分を守ってくれる執事が弱体化してはこちらが危険が及ぶ。

ルイズは頭を抱える。
確かに―――確かにこの部屋で寝ていいと言った。
だがウォルターの寝床である棺桶をこの部屋に置くことに抵抗を覚える。
この部屋に死者が眠るものである棺桶を置くなど縁起が悪いどころではない。
かといってああいった手前ウォルターを追い出すのも気が引ける。
今日、片腕でメイジであるギーシュに勝って見せたウォルター。
ドットメイジ相手とはいえ圧倒的な強さを見せてくれた。
ウォルターをそばに置いておけば自分の身の安全が保証されると証明してくれたのだ。
それに――――
ルイズの脳裏に褐色赤毛の女生徒の姿が浮かぶ。
ギーシュとの決闘の後ひときわ大きな歓声を上げウォルターをはやし立てていた少女―――キュルケのことを。



283 :ゼロの執事 05:2012/09/29(土) 22:29:22.24 ID:???
『ねえ。あの執事さん あんたのでしょ? ギーシュを倒すなんてすごい人ね』
『ふん。そうよ。私が呼び出した執事よ。すっごく強いんだから。これであんたのサラマンダーなんか目じゃ』
『倒したときの姿!かっこよかったわあ。痺れたわ。決めたわ。私の執事にするわ』
『な…い…って、え?』
『ゼロのルイズなんかにもったいないわ。外で眠らせてほんとにかわいそうだったわ。
 寒さで凍えてしまうわ。私なら彼を温めてあげられるわ――――この微熱で、いや情熱で!!』
『ちょっとお!!』

キュルケと交わした会話を思い出し、ギリギリとルイズは歯ぎしりした。
このままウォルターを外で寝かせていたら何をされるかわかったものではない。
ウォルターをとられたくない。
ツェルプストーの女なんかに!!
ウォルターは私の使い魔で執事なのだから。
キュルケとの対抗心から来る意地にルイズは燃えていた。

(だいたいなんでウォルターは…!!)

「ウォルター!!」
「はい。何でございましょう」
「そもそもあんた、なんで部屋の外に寝ていたのよ!!」

廊下で寝てなど一言も言っていないのにこの執事はさっさと自分の部屋から退散しドアの前で横になっていたのだ。
昨夜、ウォルターが自身の部屋で寝ていてくれたのなら、キュルケに目をつけられることもなかったはずである。
わからぬ彼の行動の意味を問いただすルイズの疑問にウォルターはまたしても真顔で答えた。



284 :ゼロの執事 05:2012/09/29(土) 22:34:17.21 ID:???
「なぜ、と言いましても。執事は主を守ります。ですが、四六時中べったりというわけではありません。
 主の就寝中までともに居続けるのは主を煩わせましょう。ゆえに警護しやすい出口のドア前で眠っていたまでのこと」
「……む」

至極もっともな意見にルイズは何も言えなくなった。
そうか。ウォルターはウォルターなりに私のことを考えていたんだ。
そう感心しているとウォルターは神妙な顔つきで次の言葉を続ける。

「それに」
「ん?」
「貴族の美しいご婦人と一緒の部屋に卑しい使用人が、まして男が、同衾するわけにはまいりません」
「な……え……」

執事からの予期せぬ言葉に戸惑い、しどろもどろになるルイズに、執事は同意を求める。

「そうでしょう?ルイズお嬢さま」
「そ、そうね。そうよ…ね…」

火照る。ルイズの胸も、頬も、額も、湯気を出しているかのようにかっと熱くなる。
心臓が早鐘を撃つかのようにドキドキと鼓動する。
未知の感覚に戸惑い冷静に分析しようとルイズは思考した。
照れ?何に対して?美しいと言われたから?
違う。もっと別の――――
だが、熱はウォルターの次の一言で冷めた。

「お嬢さま?顔が赤いですよ。風邪ですか?」
「……う、うるさい!!」

シャーと猫が威嚇するように声をルイズは張り上げた。
いつもなら感謝するはずのウォルターの心配する声が、今はルイズの癪に妙に障ったのだった。


285 :ゼロの執事 05:2012/09/29(土) 22:36:09.58 ID:???
「ふん。いいわよ!!」
「は……?」
「棺桶でも十字架でもなんでも来なさい!!あんたは執事で使い魔よ。どっちも主の命令は聞かなくちゃいけないの!
 ああもう!!あんたは変なところで律儀というか鈍感というか…」

ぶつぶつとルイズは文句を言う。
それをぽかんとウォルターは見つめていた。
そんなウォルターにますますルイズは怒る。
いつもの大人のような雰囲気とはかけ離れたその子供っぽい顔に余計ルイズは腹を立てたのだった。
理由のわからぬやりばのない怒りを強引さに変えルイズは執事に命令する。

「とにかく、言った通りあんたはこの部屋で寝るの。いいわね!!」
「……了解(ヤー)。わが主(マイマスター)」

今まで嫌がっていたお嬢さまが突然態度を変えた。
どういう風の吹き回しだろう?
ルイズの変わり様に疑問符を頭に浮かべながらもウォルターは棺桶を部屋に置かせてくれる主に感謝するのだった。



286 :ゼロの執事 05:2012/09/29(土) 22:43:10.10 ID:???



紆余曲折あったもののウォルターは、ルイズの執事としてまめまめしく働いた。
日中――掃除はもちろん日光を避けながらであるが、ルイズの護衛をしたり、厨房を手伝ったりするなどして働いていく。
一番厄介な吸血鬼の天敵――水と日光にさらされる洗濯もシエスタに手伝ってもらってなんとかやりくりしていた。

夜はルイズから血をもらい、その日の激務で崩壊しつつある肉体の修復と治療を少しずつ繰り返す。
粗雑な吸血鬼の後遺症である施術痕はルイズの血でみるみる治っていき、
いつしかよほどの重傷を負わぬ限り、何も差し障りがない程度にまで回復していた。

寝る時はルイズの部屋の窓際に立てかけられた新たに作った棺桶の中で吸血鬼らしく眠る。
棺桶で眠ることに抵抗があったもののだんだん慣れていくのだった。

吸血鬼でありながら人間の執事と変わらぬ仕事をしていくウォルター。
新たな主、ルイズとの仲もそれなりにうまくいき、執事と主はお互いに信頼するようになっていった。

気付かぬうちに互いにとって互いの存在が大きくなっていく主従。
執事と少女との楽しい生活は、はやくも十日経とうとしていた。



287 :マロン名無しさん:2012/09/29(土) 22:48:16.73 ID:???
05終了です。あんまり話としては進んでません。義手の話はご容赦ください。
あれです。単行本のカバー裏にあるから思いつきました。06は週末あけ位にまた投下します。それではまた。


288 :マロン名無しさん:2012/09/30(日) 00:24:28.30 ID:???


289 :マロン名無しさん:2012/09/30(日) 02:29:50.68 ID:???
乙乙

290 :マロン名無しさん:2012/09/30(日) 11:34:30.16 ID:???
乙乙乙

291 :マロン名無しさん:2012/09/30(日) 12:18:10.87 ID:???
仮面ライダーウィザードとかこの世界観に合いそうだな
楽しみ

292 :マロン名無しさん:2012/10/09(火) 21:25:15.76 ID:Dm2uI87S
保守

293 :マロン名無しさん:2012/10/09(火) 21:56:08.80 ID:???
先週はひどく忙しく、修正もかなり必要だったため遅れてしまい申し訳ありません。
週明けという約束を守れず本当にごめんなさい。
では06投下します。

294 :ゼロの執事 06:2012/10/09(火) 21:59:52.49 ID:???
「ふわあ〜・・・朝ね」
「おはようございます お嬢さま」

トリステイン学院の女子寮の朝。
うーん、とのびをするルイズにウォルターは朝のあいさつを告げる。
執事に身の回りのことを任せっきりのルイズは起床もさせていた。
寝ぼけ眼をこすりながらあくびを噛み殺し威厳たっぷりにルイズはすっかり手慣れた様子でウォルターに命令する。

「ウォルター、いつものちょうだい」
「かしこまりました」

す、とウォルターから何かが差し出された。
それは湯気が立ちのぼる淹れたての飲み物―――紅茶であった。
ウォルターは毎朝ルイズが起きる前に紅茶を入れるのが一日の初めの仕事であった。
まずルイズを起こす前に紅茶を淹れておき、ルイズを起こしに行く。
するとルイズが起きるころには、飲みやすい温度となるように絶妙に調整されているのだ。
毎朝、朝に弱いルイズにウォルターが紅茶を入れ、ルイズがそれを飲む。
これがルイズとウォルターの一日の最初の日課になりつつあった。

ウォルターが淹れる紅茶はルイズのお気に入りである。
この少年執事から差し出される紅茶は寝ぼけた朝のルイズの頭をはっきりとさせてくれる。
今自分がどこにいるか、今日は何をすべきか―――普段は遅れてきていた情報が瞬く間にルイズの頭に何の抵抗なく吸い込まれていく。
以前よりすっきりした頭で授業に向かうことができ、ルイズはご機嫌であった。
魔法実践以外の授業ではさらにこれまで以上の成績を収められるかもしれない。
そんな気にさせてくれるウォルターの紅茶はルイズにとってこの上ないほど実にルイズ好みのものであった。


295 :ゼロの執事 06:2012/10/09(火) 22:05:41.18 ID:Nwu7bcxT
「うーん、おいしいわこれ」

ルイズはゆっくりと紅茶を口に運ぶ。ウォルターは微笑んでその様子を眺めていた。

「まだまだありますよ」
「うん。……ふふっ。今日は授業がないからこれをゆっくり味わえるわ。
 この紅茶、私は好きよ。のどごしのいい、すっきりとした味わい、パーフェクトよ、ウォルター」
「感謝の極み」

今日は虚無の曜日、すなわち学院の授業がない休みの日であった。
学院の生徒たちは皆トリステインの城下町へ行くことを許される特別な日だ。
しかし公の休日の日でも執事には休みはない。
いついかなる時でも主が命令するならば従うのが執事の義務であるからだ。
気位の高いルイズが執事に休みを取らせるなど思いもよるはずもなく―――ルイズのウォルターに対しての高慢な態度も平時と変わらない。
従僕は主に仕えるのが当然―――ルイズの考えはウォルターを召喚した時から変わらないのだから。

されど…そんなルイズのウォルターへの考えは変わり始めていた。
目の前の少年は片腕でも難なく実務をこなす強くて従順な執事であったためルイズのウォルターへの評価は鰻のぼりであった。
理想的な執事に対して上機嫌のルイズはふんふんと鼻歌を歌いながら、ちらちらとウォルターを見やる。
与えられた仕事を完璧にこなし、いつも助けてくれて、自分のいうことに文句ひとつ言わず仕えてくれる。
外見は自分と同じくらいの十五、六にすぎない少年。
だがときおりまるで老執事のような貫録を見せつけてくれて、メイジであるギーシュまで圧倒し勝利する。
そんな少年が一体どんな経験をしてきたのだろうか気になってしまうルイズ。
ウォルターへの興味が次々にあふれてくるルイズは図らずも目の前の少年を意識し始めていた。
訊いてみたい。ウォルターのことをもっと知りたい。そんな欲求があふれ押さえつけられない。
そのことにルイズは戸惑いを覚えるも、即座にこう結論づけた。

(別にいいわよね。主として、貴族として、執事のことは知っておかねばならない情報じゃない)

咳払いをし、威厳たっぷりに主の風格を漂わせルイズはウォルターに口を開いた。



296 :ゼロの執事 06:2012/10/09(火) 22:08:39.02 ID:???
「ねえ、ウォルター。ちょっと聞いていいかしら」
「はい。なんでございましょうか」

丁寧な物腰で答える執事にルイズは簡単な質問をしてみる。

「ねえ、あんた好きなものってある?」
「僕の好きなもの……ですか?それは…食べ物とか、そう言った嗜好のことですか?」
「うん。ま、別に食べ物とかじゃなくてもいいわ。面白い道具とか、見てきた魔法とか、なんでも。自由に答えなさい」
「ははあ、なるほどそういうことですか」

難しそうに考え込むウォルター。
その様子にルイズはハッとあることに気付く。
これは…もしかしたらいろいろなことを聞くチャンスではないか?
ごほん、とわざとらしく咳払いし、それとなく、それとなく言ってみる。

「あー、うん。こほん、何を答えたらいいのかわからないなら、別にす、好きな人でもよかったりするけど?」
「そうですね…うーん、僕の好きなのは…」
「す、好きなのは?」

もじもじしながら上目遣いの好奇の目で見るルイズ。
不本意ながらの期待に―――本人は決して認めることはないだろうが―――胸を躍らせながら彼の返事を待つ。
しかし、ここでルイズの誤算があった。
今、目の前にいる執事は、誠実かつ完璧であるがゆえに―――まじめであるということを。
浮かれて肝心なことを失念していた少女の質問にウォルターは答えた。



297 :ゼロの執事 06:2012/10/09(火) 22:11:12.99 ID:???
「武器、ですね」
「はい?」
「はい。といっても正確には武器の製作でございます」

ぽかんとするルイズに気付かず相も変わらぬ丁寧な物腰で答えるウォルター。
今のウォルターは外見はあどけない少年だが、中身はあくまでも生粋の英国人紳士(ジョンブル)。
ルイズの質問に真剣に正直に答えねばならない、そう考えてウォルターは返答していた のだった。

「武器の製作―――特に銃の製造に関しては僕の仕事でもありましたから。仕事柄、とでも言いましょうか。
 使用者がその……まあ、特に狂人…いや"強靭"でしたので、性能のみを考えた強力な武器作りが可能でした。
 独特のフォルム、圧倒的な破壊力、重すぎる反動。
 それらの並外れた性能を人間が使用することを度外視すれば実現できましたから。
 百万発入りコスモガン―――もとい変態的ともいえるような改造も施せるし、かなり無茶な設計もできました。
 つまり、化け物を打ち倒すための化け物のための化け物銃を作るのが僕の仕事で、嗜好で、趣味ですね。
 お分かりいただけましたか?お嬢さま?」

「うん。全然わかんないわ。その趣味」

ばっさりとウォルターの返答を切り捨てるルイズ。
それにはウォルターも少しばかり、む、と顔をしかめた。

「そうですかね」
「まあ、要はあんたは武器が好きってことでしょ?それはわかったわ」


298 :ゼロの執事 06:2012/10/09(火) 22:12:31.81 ID:???
適当に相槌を打ちながらもルイズは納得していた。
ふむ、ウォルターが好きなのは武器か。
男の子らしいけど、なんかやっぱりどこかずれてるようね、この執事。
はあ〜〜、と深いため息をつくルイズ。
期待した答えとは違うけれどまあいいか。どちらにせよ、これからなすことは変わらない。

質問の答えをもとにルイズは今日の予定を素早く組み立てた。
趣味が武器の製作というのは驚いたけど。
でも少年が武器が好きというのはまだ範囲内でよかった。
そうと決まればやることは決まる。
いつものごとく、当然のようにルイズは尊大にウォルターに命じた。

「ま、いいわ。じゃ、今日、あんたは私と一緒に出掛けるわよ。準備しなさい」
「仰せのままに」




299 :ゼロの執事 06:2012/10/09(火) 22:15:02.54 ID:???



トリステインの城下町をウォルターとルイズはあるいていた。
いつもと違う学院以外の人々と光景にウォルターはしばし心奪われる。
たくさんの人が行き交うロンドンで見慣れていた光景をこれほど懐かしく感じるとは。
連れ出してくれた主に感謝を感じていたウォルターにあれ、とルイズは思う。
ウォルターの表情がいつもより活き活きとしているような。
いつもの学生服に身を包んだルイズはウォルターの姿にも違和感を覚えそこで気付く。

「あれ?ウォルターその恰好…」
「ああ、これですか?新しい執事服です」

主に新しい服を見せるウォルター。
召喚してきたときに来ていた漆黒の執事服ではなく、新品の執事服が少年の細い体躯を包んでいた。
ウォルターは翌朝にようやく完成させていた新たな執事服である。
デザインはワルシャワに突入した時のものと、かなり似せて作ってあった。
なめらかな紺のチョッキに短い黒いネクタイ。
糊のきいた白いシャツに灰色の長ズボン。
少年を執事たらしめる完璧な装いであった。
どれもこれも厨房からもらったもので作り上げたウォルターのお手製であったが、
厨房の簡素な布とは思えないほどの装束に仕立て上げられたのは執事の技量によるものだろう。
新たな執事服が黒髪と色白の肌を持つ少年に完璧に決まっているのを見てルイズは感想を漏らした。

「うん。いいわね。似合うじゃない」
「ええ、ありがとうございます」



300 :ゼロの執事 06:2012/10/09(火) 22:17:49.04 ID:???
感心するルイズに対しウォルターはこの新しい一着が間に合ったことに心で安堵の息をついていた。

(やっぱり、こっちのほうが落ち着くな)

主を守れるよう動きやすいように作ったこの服。
やはり、あの漆黒の執事服を着ると無意識のうちに気負ってしまっていたのだろう。
裏切りの時に着ていた服だからだろうか。
仕えていたころの執事服に似たものの方が幾分気楽と言えた。

「ねえウォルター。それなに?」
「これですか」

ウォルターはトントンと指である物体を指でたたく。
学院からウォルターは80サントはあろうかという木製の箱を持ってきていた。
軽々とウォルターはそれをわきに抱えていたが先ほどからそれがルイズには気になってしょうがない。

「届け物のようなものです。コルベール教授に言われ、これをとある場所に持っていきたいのですが…よろしいでしょうか」
「ええ。別にいいけど…」

怪訝な顔をしながらも今日は観光目的に近い理由で出かけたルイズに反対する理由はなく、しぶしぶと受諾するのだった。

城下町にはいり、主のあとを馬から降りてしばらくついていくと剣の形をした看板の店につく。
どうやら武器屋らしかった。どうやら主はここに用があるらしい。

「武器屋ですか?」
「そうよ あんたにこの世界の武器を見せてあげる。必要なら買ってあげてもいいわ。
 感謝しなさいよね。従僕がこんなに良くされるなんてめったにないんだからね」



301 :マロン名無しさん:2012/10/09(火) 22:18:21.75 ID:???
支援

302 :ゼロの執事 06:2012/10/09(火) 22:19:28.63 ID:???
よく執事の仕事をしてくれているこれまで片腕ながらも働いてきた少年への感謝。
そのため今日は街に連れて行ってやろうと思い立ったルイズであった。
ふふんと胸を張るルイズにウォルターは素直に感謝の意を示し、
まだ見ぬこの世界の珍しい武器みたさに心をわくわくさせずんずんと武器屋に入っていく主についていくのだった―――のだが。

「ここが武器屋ですか?」
「ええ、そうよ。そのはずなんだけど…」

入店したルイズとウォルターは戸惑っていた。
武器屋―――たしか中年ぐらいの店主が剣をすすめてくれる場であるはずだ。

「なるほど、この世界の武器はこのようなものですか?」
「違うに決まっているじゃない!」

ウォルターの声に異を唱えるルイズ。
だが、ルイズの眼前にひろがる光景は全く違っていた。


303 :ゼロの執事 06:2012/10/09(火) 22:21:56.11 ID:???
作業部屋。
そういう言葉が一番しっくりくる部屋である。
所狭しと工具一式が並べられ、ナットやシリンダーなど金属の部品がそこかしこに散乱している。
お世辞にも整理整頓された部屋とは言い難かったが、あるものを作るためには無理からぬことかもしれない。
それを見てルイズとウォルターは目を丸くする。

義手だ。
作りかけの義手が数多く机の上に置かれ、製作真っ最中であることを物語っている。
そしてそれらを作り上げている人影が。
椅子に座ってその義手をせっせと無我夢中で整備している一人の少女がそこにいた。

「ねえ。あんた!ここって武器屋よね?武器を売ってくれないかしら」

いつも通り貴族特有の高慢そうな調子でルイズはその少女に話しかけた。
すると話しかけられた少女の耳がピクリと反応する。
少女は義手を制作していた手を止め作業メガネと頭巾を外す。
現れたのは金髪とピアス。
気の強そうな顔に色こそ違うがルイズと同じように勝気な目を持つ少女だった。
その目がルイズをじとっと冷たく見据えた。

「なんて言ったのかしら?聞き間違いかしら。ここが武器屋ですって?」

立ち上がってつかつかとルイズに歩み寄る。
ルイズの華奢な体つきとは違い、働く者特有の筋肉がある程度ついた肉付きのいい少女だった。
そんな少女が腰に両手を当てきつい口調で言い放つとかなりの気迫である。

「ここはばっちゃんの時代から続く機械鎧製造所よ。隣の武器屋と一緒にしないでちょうだい」
「え。隣?」

驚いたルイズは外を見る。
なるほど確かにここは工房だ。どうやら武器屋の看板と工房の看板が重なっていたため間違えたらしい。


304 :ゼロの執事 06:2012/10/09(火) 22:23:46.59 ID:???
「ったくあの店のおやじ、いい加減看板の位置を変えろってのよ。
 いくら必要なくなったくず剣を溶かして部品にしていいって言ったって
 客が来ないんじゃこっちの商売あがったりじゃ意味ないじゃないの」

ぶつぶつと隣の店の文句を言う少女。その少女にウォルターは話しかけた。

「すみません。ここは機械鎧の店といいましたか?」
「そうよ。機械鎧の店以外なんだっていうのよ。」

ぎろり、とウォルターを見つめる少女。
そんなのこの店の中を見れば明らかじゃない、と言わんばかりににらみつけてくる。
だがウォルターには何のことかわからなかった。

「あの…聞いてもよろしいですか?機械鎧とはなんでしょうか?」
「はあ?あんたそんなことも知らないのかしら?ここはね、義手や義足を作ったりする店よ。
 神経に直接つなぐから本物の手足のように動かすことができるわけ。
私にとって芸術品も同然。それを知らないとは言わせないわよ」

そうか。ここがそうか。ウォルターは一人納得する。
コルベールに義手を渡されたとき、義手を取り扱う店に行くといい、と言われていた。
確かトリステインの城下町のどこかにあるのだと。
場所を探す手間が省け偶然に感謝する。
さっそく少女に仕事を頼もうと開きかけ―――硬直する。



305 :ゼロの執事 06:2012/10/09(火) 22:26:26.43 ID:???
「オイルの臭いきしむ人工筋肉うなるベアリング そして人体工学に基づいて設計されたごつくも美しいフォルム…
 ああっなんてすばらしいのかしら機械鎧!!」

少女がウォルターたちに構うことなく一人自分の中の世界に入りくるくると回りながらはしゃいでいた。
唖然としてその様子を見つめるルイズとウォルター。
少女が完全に蕩けきった陶酔の表情をしている。
これが俗にいう機械オタクというやつか。
そんなことを考えるウォルターとルイズの視線に気付いた少女ははっと我に返る。
ごほんとせきをして取り繕うように二人に向き直った。

「で、この店に何の御用?ここは武器屋じゃないわよ。冷やかしなら…うん?」
まじまじとウォルターを見つめる少女。その少女の視線はウォルターが持っている箱に目が留まっていた。
「ちょ、ちょっとそれみせてくれない?」
「え」

少女は興奮したようにウォルターが抱えていた箱をひったくる。
そしてその中のものを見て悲鳴のような感嘆の声を上げた。

「こ、これはゴッズの十一年モデル…まさかこの目でお目にかかれる日が来るなんて…」
「?」

この少女が言っていることはさっぱりわからない。少女はじっと義手を見つめた後、おもむろに顔を上げた。

「…あんた、名前は?」
「僕ですか?僕はウォルター。ウォルター・C・ドルネーズ。」
「へえ、ウォルターねえ。」



306 :ゼロの執事 06:2012/10/09(火) 22:28:13.48 ID:???
じろじろと少女の視線がウォルターの体の上を動く。やがてその視線はすぐにある部分にとまった。
少女の眼が怪しく鋭く光る。唇の端がにやりと伸びた。

「あんた、右腕ないわね」

ぼそっとつぶやく。その声にウォルターは違和感を覚える。
ルイズのような憐れむような声ではない。シエスタのようないたわる言ではない。

「来たわ。カネヅル」

にこにこと笑顔の口から洩れるのは歓喜の声だ。
この少女は右腕のない自分が来たことを歓迎している。一方的に。
瞬間ウォルターの背筋に悪寒が走る。

やばい。そう思わずにはいられない。確かにここに行けばよいと言われたが。
やばい。この少女は。目の前で手をわきわきさせてこちらに迫る少女は。
やばい。なんだかよくわからんが、こいつは、やばい。

身の危険を感じ逃げようと動く前にガシリと左手をつかまれた。
思いがけずくわえられた力に百戦錬磨の体が恐怖を覚える。
とっさに振り払おうとしたが、少女は万力のごとく左手を離さない。
少女の手は獲物を絶対に逃がさないという意思を明確に告げている。
おかしい。なぜ僕は少女一人の力を振りほどけない?



307 :ゼロの執事 06:2012/10/09(火) 22:30:10.67 ID:???
「ばっちゃん。客が来たわ」

ウォルターをがっしりと捕まえたまま店の奥の方へ向かって少女は声をかける。
山積みにされた計器の陰、その奥から老いた女性がひょっこりと出てきた。
一メートルもないだろうという身長の小柄な体が特徴的な老婆である。
しかしパイプをくわえ顔に刻まれたしわが貫録を示している。
小さな老メガネを光に反射させた老婆は確かめるように少女に聞いた。

「客と言ったかい?」
「うん。しかも自前の機械鎧をもって。これはもうまさにカモがネギしょってやってきたってやつよ」
「ほう、そうなのかい」
「あ、いや、」

思わず声がうわずる。どうしてだろう。この二人の前だと体がうまく機能しない。
特にこの目の前の少女。
この少女とはかかわりたくないと体が全力で訴えかけている。
おかしいな、確かにここに用があってきたのに。
どうしてこの場から逃げ出したくなるんだろう。
どうして動けるはずなのに体が思うように動かないのだろう。
先ほど感じるこの悪寒はなんなのだろうか。

「さぁて、あんたはもしかして、いや絶対にここへ用があってきた。それは間違いないわ」

天使のような明るい笑顔。だがその内側は欲望というどす黒い悪魔が潜んでいる。
その迫力に思わずウォルターはたじろいだ。

「た、確かにそうですが…」
「ね、ばっちゃん。客よ」



308 :ゼロの執事 06:2012/10/09(火) 22:32:37.67 ID:???
客―――と少女は強く主張する。有無を言わせぬ一方的な宣言。
ウォルターの腕はがっしり少女の腕にホールドされた。絶対に逃がさないというかのように。
ウォルターは逃げられないと観念する。だが、

「ちょっと待ってよ」

主、ルイズが口を挟んでくれた。
突然の主の助け舟にウォルターは感謝し、思う。
そういえば――主への心からの感謝はこの世界で召喚されて以来かもしれないな。

「お嬢さま」
「何、あんた。いたの?」
「う、うるさいわね。客に向かってそんな態度はないじゃない」

ルイズはたじろぎながらも尊大な態度で胸を張る。
少女はじっとルイズを見ると冷やかに問いかけた。

「客?あんたが?あんたは見たところ五体満足じゃない。なにいってるの?」
「失礼ね。ウォルターはわたしの執事なの。私が執事のことを決める権利を持ってるの」
「ふーん 執事?この人が?あんたの?」
「そうよ ウォルターは私のものなんだから 私なしで勝手に進めてもらっちゃこまるわ」
「………………あんた、誰よ」
「ルイズよ」
「ふーん?」
じろじろと少女はルイズを遠慮なく見る。
相も変らぬ気迫を発する少女に負けじとルイズは相対していた。
しかし、金髪の少女と張り合うには少女の体はあまりにも矮躯過ぎた。

「嘘おっしゃい 背も小さいし胸もぺったんこ。
 あんた男の子でしょ。弟だわ。で、こっちが兄ね きっとそうよ」
「「ちがう(わ)!」」


309 :ゼロの執事 06:2012/10/09(火) 22:35:51.31 ID:???
声をそろえて反論するルイズとウォルター。それを見てはあ、とため息をつく少女は投げやりに言った。

「あ、そう。じゃああんたに話を通さなきゃなんない、と。ま、どっちも一緒だと思うけど」

少女は姿勢をただす。
さきほどのとげとげしさは嘘のように消え明らかな作り笑いを浮かべている。
その開き直りは白々しかったがどこかすがすがしいものだった。

「どうしますか?使い魔さんは片腕ときている。義手がないと不便でしょう?」

う、とルイズはつまる。そうだった。ウォルターに腕はなかったのだ。
確かに少女の言うとおり反対する必要はないといえばない。
でもウォルターがこの少女にいいようにされているのが気に食わない。

「そ、それはそうだけど、べ、べつに義手の店はここじゃなくても…」
「よし。主の許可もとれたわね。これで問題なしね。」

強引に迫力と勢いで注文を取り付ける少女。
ルイズもウォルターもたじたじとしてしまう。
働く女性ってのはこんな風にたくましいのか、と逆に感心してしまう。

そんなのんきなことを考えるウォルターはあることにきづく。
体が動く。動ける。今なら隙をついて逃げ出せ―――

「逃がすか、カネヅル」





310 :ゼロの執事 06:2012/10/09(火) 22:38:27.68 ID:???
いつの間にか目の前に少女がいて退路を塞いでいた。
少女にぐいっとウォルターは首根っこをつかまれてしまう。

「さっそく神経接続ね。手術よ、手術。ふふふ。覚悟しなさい。痛ったいわよ〜〜」

ずるずると店の奥に引っ張られていく。まるで野良猫か何かのように。
さすがにプライドが傷つけられウォルターも怒った。

「な、おい。なんでそんな乱暴にすんだてめえ。いいかげんにしろ」

おもわず少年時代の口調で肩越しに文句を言うウォルター。
じたばたと暴れるも全く振りほどけない。
おかしい。
僕は吸血鬼のはずだ。力も人間のころより出せるはずなのに。
この僕が…この少女一人の力におびえている。
戦場を跋扈し砲火を疾駆したHELLSINGゴミ処理係が。
眼前の一人の少女におびえている。
何のこともない普通の少女に。こいつは一体、なんだ!

おののくウォルターにじとっとした目を向ける少女。
その視線にますます悪寒が走るのをウォルターは感じた。

「うっさいわね。腕をつけてあげようっていうのよ?なんで文句を言われる必要があるのよ。」

鼻歌交じりに言う少女。見るからに楽しそうだ。

「なんで乱暴にするのかって?ああ、それはね。
 あんたの声がむかつくあいつの声にそっくりだからよ。
 いっつも何も言わずに出てったり帰ってきたりするあいつにね!」



311 :ゼロの執事 06:2012/10/09(火) 22:40:21.76 ID:???
ものすごく理不尽な理由を言われた気がする。
そんなことを考えている間にひょいっと手術台の上に投げられた。
素早く拘束される。逃げ出す間もなかった。
それでもじたばたと暴れる。
必死に体がこの場から逃げ出したいと訴える。
けれど動けない。
拘束の革バンドがしっかりとウォルターを捕えていた。
それでもなお暴れるウォルターの様子を呆れたように見つめる少女。
と、ハハーンと何か納得したかのようにその顔がにやにや顔に変わる。

「…そんなに暴れるってことは…もしかしてあんた怖いの?手術」
「―――ッ!なわけあるか!」

ウォルターは焦る。
あながち間違いではない。手術は苦手と言えば苦手だ。
めちゃくちゃな施術のせいでえらい目に遭ったせいで。

「あっそう。フフフフフフフフフ。まあすぐにわかるわ」
嫌な笑みを浮かべ手をわきわきとさせる少女。弱点をにぎって得意げだ。
「じゃ、覚悟しなさい。」
ジャキジャキジャキと手術用具を手に大量に持ち、目をキランとさせる少女。
「手加減しないわよお。いっぱいその声で泣きわめいてね。フフフ、ハハハハッハハハ」
「―――――!!!!!!」
手術室に悲鳴が響き渡った。




312 :ゼロの執事 06:2012/10/09(火) 22:42:39.23 ID:???



「ウォ、ウォルター……」

店の奥を眺めるルイズ。
心配だ。さっき悲鳴のようなものが聞こえたような。
いやいやあのウォルターに限ってそんなことあるわけがない。

「どうやら始まったようだねえ。あいつ、いつにもまして殺る気だねえ」
「なにが始まったの?」

小柄な老人の不穏な言葉に不安を覚えたルイズの質問に老婆は肩をすくめて答えた。

「いやなに神経をつなぐ手術さ 機械鎧を動かせるようになるためのね。
 だがそれは大変な手術さ。
 神経をつなぐってのはそれはそれはひどい苦痛を伴う。
 麻酔があっても大人でも悲鳴を上げるほどの痛みが今頃あの坊主の体を襲っているはずさ。」
「じゃあ今のは…。ウォルターは大丈夫なの?」
「さあ。坊主の意思次第さね」

そう言うとウォルターの持ってきた箱をごそごそとあけ何かを取り出す老人。
その手には義手が握られていた。



313 :ゼロの執事 06:2012/10/09(火) 22:44:11.92 ID:???
「うーむ ゴッズの十一年モデルか…。幸いあの坊主の背丈には合っているみたいで調整の必要はないが。
 ただ、外装がないのが痛いねえ」
「外装?」
「ほれ ここのことさ」

老婆の指し示す箇所をルイズは覗く。
みると義手の腕の部分に大きくあなが開き内部の部品がむき出しになっている。
中のコードがむき出しになっており、このままでは未完成であることがルイズにも見て取れた。

「外装がないと完成品じゃあない。さてどうするかねえ。いま部品不足でね、どれだけかかるか」
「そうなの?うーん。ウォルターの腕が完成しないと私も困るし…」

むーんと唸る少女と老婆。考えど何もいい案が思いつかない。そんな時だった。

「おーい また余り物の剣を持ってきたぞ〜〜」

隣の武器屋の中年おやじが来たのは。その背に一本の剣を背負って。


314 :ゼロの執事 06:2012/10/09(火) 22:45:36.92 ID:???




「ここで年貢の納め時だな。デル公。あばよ。短い間だったがこれでさよならだ。
 生まれ変わって人様のために役に立つんだぞ」
「ふざけんなテメエ こんなとこ願い下げだ。俺は剣だ。デルフリンガー様だ。剣以外のものになるなんてありえ」
「じゃあいつものようによろしく。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
「話を聞け〜〜〜〜!!」

手を振り、去っていく武器屋のおやじ。わめく剣は取り残されるも悪態をつき続ける。
それを眺めながらルイズは老婆にふと思った疑問をそのまま投げた。

「なんで剣を持ってくるの?あの人?」

ルイズの疑問に老婆はぷはーと煙を吐き出しながら答えた。

「…うちではけがをしてどっかをなくした兵士がここに来ることが多いのさ。
 ここで義手義足を作ってやってまた戦場に立てるようにしてやった後、再び剣を握らせるために向こうの武器を薦める。
 そのかわりあいつはいつも売れ残って役に立たないなまくらをこっちによこし、うちはそれを溶かして義手の部品にする。
 いつのまにやらできた持ちつ持たれつの関係ってやつさね。」
「へぇー」

老婆はその喋る剣を手に取った。じっくりと表裏をじろじろ眺めまわす。
キセルをふかしながら老婆の眼は職人のそれ。やがて見終わるとぽつりと評価を下す。

「ふーむ インテリジェンスソードかい?困るねえ」
「困るだろ。さっさと元の店に返してくれよ。ばあさん」

なんとか逃げ出そうと必死なデルフリンガー。そのデルフリンガーにぼそっと老婆は溜息をつきながらつぶやく。


315 :ゼロの執事 06:2012/10/09(火) 22:47:34.71 ID:???
「火にくべると悲鳴がうるさいんだよねぇ」
「そっちかよ!!」

ぶーぶーと文句を言うインテリジェンスソード。しかし老婆は冷静に剣を眺め続ける。
そしてルイズの方を問いかけるような目で見た。

「お嬢ちゃん。こうして素材も手に入ったことだし」
「おい。話を聞け。ババア」

剣の言うことを無視し老婆はルイズに静かに告げる。

「どうするね。あいにく素材はこいつしかないんだ。こいつを使えばしゃべる機械鎧ができちまうだろう。
 もしこいつがいやなら他のが来るまで待つかい?」
「え。それは・・・」 
どう答えたらよいかわからず戸惑うルイズ。一方デルフリンガーはルイズに必死に懇願する。
「助けてくれ。俺は魔法を吸収することもできるし吸った分だけ持ち主を動かしたりも出来る!
 そんな魔法の剣にふさわしい能力を持ってるのに腕になんぞされちゃ敵わねえ!
 頼む。このババアを止めてくれ」
「………」

じっと考え込むルイズ。
デルフリンガーは信じていた。
きっとこの少女は助けてくれる、と。
しかし、しばらく考え込んでいたルイズの口から出た言葉はデルフリンガーの予想とは大きく違っていた。

「…別にいいんじゃないの?剣じゃなくなっても」
「なにい!?」



316 :ゼロの執事 06:2012/10/09(火) 22:52:45.46 ID:???
素っ頓狂な声を上げるデルフリンガー。そんなデルフリンガーにルイズは淡々と告げる。

「あんたみたいなぼろ剣はたぶん誰も買い手なんていないわよ。
 きっと邪魔になるとか言われていつまでもしまわれたままね。
 でもどこかに置かれたまま忘れ去られるのじゃ死んでるのと一緒よ。
 なら私の執事の腕になって役に立った方がいいんじゃない?」 
「おい。なんだその一方的な迷言は。冗談もいい加減に」
「決めたわ。この剣を義手にして。」

きっぱりと老婆に告げるルイズ。その注文に老婆はにっこりと笑った。

「あいよ」
「話を聞け―――――――!!」

老婆はデルフリンガーを手に取り店の奥へと消える。
とある場所―――作業場の心臓部、炉である。
義手工房の人にとっては神聖な場所である。デルフリンガーにとっては火葬場にも等しかったが。

「あ、ダメ。や、許して、あ、ちょ、アーーーーーーーーーーー!!」

こうして名剣デルフリンガーはめでたく義手の外装となった。
炉にくべられ溶かされて。
そのときのデルフリンガーの絶叫はトリステインの城下町全体に響き渡っていた。




317 :マロン名無しさん:2012/10/09(火) 22:59:59.01 ID:???
06終わりです。うまく書けた自信はありません。ここに出ている二人の女性ですがあるマンガの同性同名同一の他人です。
他作品のキャラですがウォルターの右腕の問題は解決しないといけないのでこういう形にしました。
おそらくこの話だけのキャラになると思うのでご容赦ください。
次回から話動きます。たぶん来週あたりだと思いますが修正でいろいろかかるかもしれません。ではまたノシ

318 :マロン名無しさん:2012/10/09(火) 23:53:21.11 ID:???
執事の人乙

319 :マロン名無しさん:2012/10/10(水) 20:11:45.14 ID:???
おつお

320 :マロン名無しさん:2012/10/10(水) 22:49:33.20 ID:TT+neuGY
つ乙

321 :マロン名無しさん:2012/10/13(土) 07:46:04.03 ID:???
乙。面白かった。続き待ってる

322 :マロン名無しさん:2012/10/14(日) 18:57:17.00 ID:???
「あ、ダメ。や、許して、あ、ちょ、アーーーーーーーーーーー!!」

抜いた

323 :マロン名無しさん:2012/10/14(日) 20:42:42.67 ID:???
わかるよ、そのきもち

324 :マロン名無しさん:2012/10/20(土) 12:40:56.76 ID:xq5LmDlz
保守

325 :マロン名無しさん:2012/10/30(火) 20:17:03.99 ID:???
しょるたーはぁはぁ

326 :マロン名無しさん:2012/10/31(水) 00:54:14.16 ID:???
しょたこんがわいておる

327 :マロン名無しさん:2012/10/31(水) 16:50:12.03 ID:???
>>325-326
自演、乙ッ

328 : 忍法帖【Lv=40,xxxPT】(1+0:5) :2012/10/31(水) 17:07:38.20 ID:???
a

329 :マロン名無しさん:2012/11/02(金) 06:29:53.73 ID:???
ここまで自演

330 :マロン名無しさん:2012/11/02(金) 08:50:12.18 ID:???
人情紙自演

331 :マロン名無しさん:2012/11/02(金) 12:24:49.10 ID:YDiaJvO/
>>329-330

お前を見ているぞ

332 :マロン名無しさん:2012/11/04(日) 13:26:07.79 ID:???
謎の失踪

333 :マロン名無しさん:2012/11/04(日) 23:23:28.52 ID:???
むーん

334 :マロン名無しさん:2012/11/05(月) 00:58:26.24 ID:SAbIAVS5


335 :マロン名無しさん:2012/11/06(火) 00:08:51.18 ID:???
ごめんなさい。
修正だけで済むかと思っていたら書き直しになるという事態に陥っていました。
さらにここの所忙しくてその書き直しすら進まない始末。
保守してくれた方、待ってくれた方に本当に申し訳ありません。
甘かったんです。
最初の段階で8000字くらいのものが追記修正をしたら25000字を余裕で越えちゃいました。
さらに修正と誤字脱字の確認に畳み掛けるように他のやらなきゃいけないことがドサドサと。
削ろうと悪戦苦闘していましたが内容的にも分割できず20000字はどうしても避けられませんでした。

連絡をしたかったのですが、ろくに書き切れてない状態で言うのもあれかな、と思ってしまったのが悪いんです。
本当にすみません。
次からは修正に時間がかかる場合は言うようにします。
これから07を投下します。端折りすぎて読みにくくもう本当に言うことがないです。

336 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 00:10:29.35 ID:???
「調子はどう? ウォルター?」
「上々です 神経との接続もうまくいきました」

ウォルターはそう言ってルイズに答える。
義手工房からの帰り道、ウォルターには鈍く金属の光沢を放つ腕がついていた。
わずかに残っていた上腕部からつながった新たな腕。
その義手の手のひらを閉じたり開いたり、関節を曲げ伸ばしする。
新しい腕ははかなりしっくりしていた。まるでどこかで何年もつけていたかのように。
神経がつながったばかりで動かすたび時折痛みが伴うが、それほどの間もなく慣れていくだろう。
恐るべきは吸血鬼の再生力と順応力か。
通常なら二年かかる義手のリハビリを省略しわずか二時間程度で最低限の所作をできたことは全くもって驚いた。
吸血鬼の力とあの少女の腕が確かなことに感謝する。

「それで―――――調子はどう?デルフリンガー?」
「…………おうよ、俺はげんきそのものさね」

乾いた声がウォルターの腕から響く。

「信じらんねえ。ほんと、嬉しくて涙が出るね。まったく」

いまやウォルターの義手の外装と成り果てた哀れなデルフリンガーだ。
デルフリンガーはすでに剣ではなくなっていた。
前腕部の内部を通る数多の神経コードが覗く穴を覆うための縦20センチ横8センチの義手の太さに合わせられた曲板。
それがデルフリンガーの新たな姿であった。


337 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 00:12:51.81 ID:???
「嬢ちゃん。何か一言俺に言うことねえか?何か一言!ああん?」
「そうね。『固定化』もかけられてちょっとやそっとじゃ壊れない頑丈で立派な義手になってよかったじゃない」
「……こりゃあ、参った。話が通じねえ、世間知らずの嬢ちゃんと来たか」
「あによ!失礼ね!」

剣の言い草に腹を立て、すたすたと先へ行ってしまったルイズを見やりながらデルフリンガーはぼやく。

「いっつもあんなんなのかい?おめえのご主人様は?大変だねえ。坊主」
「まあ、な。だが、主らしいと言えば主らしいんだ。……あんたをこんな姿にしてしまった事は主にかわって謝ろう」

申し訳なさそうに謝罪するウォルターにデルフリンガーは答えた。

「……はあ。わかったよ。いまさらじたばたしてもどうなるものでもないしな。
 じゃ、改めて自己紹介しようぜ。俺はデルフリンガーだ。よろしくな。」
「僕はウォルターだ。こちらこそよろしく。だがこうなった以上、不本意だろうが文字通り僕の右腕として働いてくれ」
「おーうよ。もう何でも来いってんだ。……ん?おめえ…」
「どうした?」

怪訝にウォルターは腕を見つめるとデルフリンガーは当惑した声を上げた。

「おめえ。『使い手』にしちゃあ、変な感じがするな。気のせいか?」
「……?何のことだ?」
「いんや、忘れてくれ。こっちの話だ」

奇妙な義手の様子に訳の分からず、きょとんとするウォルターに対しデルフリンガーは話題を変えた。



338 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 00:15:38.52 ID:???
「ところでそのかっこ、あの嬢ちゃんの執事か?大変そうだな。なんたってあんな高慢ちきのお嬢さまに仕えているんでえ」
「……お嬢さまがよほど気に入らなかったみたいだな?」
「おうよ。こちとら数千年ものキャリアをぶっ壊されたんでえ。ま、いいじゃねえか。
 お互いこれから一心同体なんだ。腹の内を思う存分言い合おうや」
「なるほど……それもそうか」

デルフリンガーの言は確かに興が乗った。談笑できる相手がいるのは悪くないだろう。

(だが、最初の質問がこれか)

ウォルターは思わず押し黙る。
ルイズの後をついていきながらウォルターはぼんやりと遠くを見つめ思案する。
何故仕えているか、か。
慎重に言葉を選び、やがて重々しく口を開いた。

「そうだな。まあ―――お嬢さまに必要とされたから、かな」
「なんでえ、必要って」

あっけにとられたかのようなデルフリンガーの様子にウォルターは苦笑いする。

「言葉通りさ。なに、忘れてくれ。こっちの話だ」
「そうかい」

不満声をあげるデルフリンガー。
ちなみにしゃべるたびに腕のカバープレートがカパカパと開いたり閉じたりを繰り返している。

デルフリンガーの催促にもウォルターはそれきり答えようとはしない。
ため息をついた動作を示すかのようにデルフリンガーはカバープレートをばたつかせた。



339 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 00:19:31.43 ID:???
「なんか苦労してるっぽいな。ま、悩み事があったらいつでも俺にいいな。相手になってやるぜ」
「……ああ。感謝する」

その時デルフリンガーは心なしか少年が外見にそぐわぬ虚ろな笑みを浮かべたように感じ驚いた。
デルフリンガーは直感する。
おそらくこの少年の中にあるのは苦労などではなく―――もっと別の何かであることを。





そのころ魔法学院の壁では怪しい影が伸びていた。
長い、青い髪を夜風になびかせ、悠然と怪盗の風格をただよわせていた。
怪盗『土くれフーケ』である。

「さすがは魔法学院本棟の壁ね・・・物理衝撃が弱点?
 こんな分厚いかべじゃちょっとやそっとの魔法じゃどうしようもないじゃないの!!」

足から伝わる壁の感触にフーケは舌打ちをする。
土系統のメイジのフーケは造作もなく壁の厚さを測れるのだった。
欲望に目をぎらつかせフーケは足元の壁を睨みつけた。

「さてどうしたものかねえ……中にある破壊の杖をあきらめるわけにはいかないしねえ」










340 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 00:21:39.75 ID:???
魔法学院についたルイズたちはある人物に出くわしていた。
ルイズは苛立ちの声も上げるのも構わずその人物はウォルターに話しかけた。

「こんばんは 執事さん」

燃えるような赤髪の早熟な体つきをした少女――――キュルケである。
キュルケはウォルターに向かって妖艶な笑みを浮かべた。

「この前は見事でしたわ 執事さん あのギーシュをあっという間に倒してしまったもの。私、ときめきましたわ。」
「どうも キュルケ様」

ていねいにウォルターは返答を返す。ルイズはわなわな震えていた。
ウォルターが自分以外の少女に話しかけられること自体が気にくわない。
それもツェルプストーの女に。
なによりもウォルターがほかの女に様付けするなんて断じて許せない。

「キュルケ!! あんた何の用よ!!」

ルイズは声を荒げてキュルケに詰め寄る。
キュルケはうっとうしそうにルイズを手で追い払う。

「あんたに用はないわよ 私はこの執事さんに用があるの」

蠱惑的な笑みを浮かべ少女はウォルターに誘いをかける。


341 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 00:24:31.14 ID:???
「いい月夜でしょう? こんな晩に散歩はいかが? 私と一緒に夜風の中を歩きませんこと?」
「はぁ…それは…」
「ちょっとなに勝手に決めようとしてんのよ!!」

ルイズが割って入る。
もともと独占欲の強い性格である。
執事は私一人だけのもの―――そう思ってこれまで過ごしてきたのだ。
私のものは私のもの。ウォルターの忠誠は私へのもの。
自分の執事をかってに連れて行こうとするキュルケは簒奪者に他ならない。

「何よ、ゼロのルイズ、邪魔しないでくれる?」
「こっちのセリフよ あんた何のつもり?」
「この殿方を夜の散歩に誘っているだけよ」
「ふざけないで!! ウォルターは私の執事なんだから、あんたの勝手にさせるもんですか!!」

ルイズはますますウォルターをとられまいと躍起になった。
その剣幕にキュルケはおかしそうに笑った。

面白い。
あのゼロのルイズがこんなにもむきになっている。
ただの執事一人夜遊びに誘った程度で。
なら、ますますからかいがいがあるというもの。
奪いがいもある。ツェルプストーの血筋のみせどころじゃない。
キュルケは舌なめずりしながらルイズを挑発する。




342 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 00:27:42.64 ID:???
「へえ?そう?じゃあ…どうするの?」
「ふん、決まってるじゃない」

にらみ合う少女二人は一斉に叫んだ。

「「決闘よ!!」」



「やれやれ」

中庭でウォルターは近くの高い塔を見上げ静かに溜息をつくのだった。
勝手に決めないでほしい。ウォルターは空を見上げ心の中で溜息をつく。
ルイズたちの勝負は簡単かつ勝敗が明白なものにされた。
タバサという小柄で青髪のあまりしゃべらない少女が決闘の方法として提案したのはゲームである。
どちらが正しいかを示すだけならなんの異論はなかったのだが。

だが――――こんな決闘に、たかが執事を賭けるのはやめてほしい。

ルイズが負ければウォルターはキュルケに連れて行かれる。
ルイズが勝てばキュルケは二度とウォルターを誘わない。
どうみてもルイズの得にならない褒賞の内容だが、ルイズはそのことに気付かない。
明らかに頭に血が上っている。
主は賭け事で身を滅ぼすタイプかもしれない。
ウォルターは一人主のことを案じた。

賭け事などするとろくな目に遭わない。そのことをウォルターは身をもって知っている。


343 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 00:29:26.30 ID:???
キュルケのすでに勝ち誇った声が夜空に響く。

「審判員はタバサ、そして執事さん。いいわね」
「ふん。いいわ。やってやろうじゃない」
「……わかった」

ルイズはキッと標的を見据える。
決闘の方法はいたって単純。
二十メートルばかり離れた地に立つ丸太を早く壊した者が勝ちである。
丸太は二本。二つの同じ直線コースにそれぞれ配置されていた。
精密な射撃能力と、丸太まで魔法をたどり着かせるための集中力を要する競技だ。
交互に丸太にむかって術などを放ち破壊までの回数と破壊後の丸太の残骸で勝利判定を下す。
攻撃回数が少ないほど、攻撃後の残骸の跡形がないほど、その得点は高い。
なお審判はタバサとウォルター。
タバサがルイズを。ウォルターがキュルケを見る。
また――――破壊までの手段は問われないものとする。

「先攻はどうぞ、ルイズ」
「ふ、ふん やってやるわ」

キュルケの小ばかにしたような声を無視し杖を構えるルイズ。
ルイズはルーンを唱える。
呪文は決まっている。
使う魔法は簡単かつ効果的な「火」の魔法、ファイアーボールだ。
だが。


344 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 00:30:45.59 ID:???
「さっさとしなさいよ」
「う、うっさいわね!!」

なかなか唱える呪文が完成しない。
失敗するかもしれないという不安と負ければウォルターを奪われるというプレッシャーにルイズの精神力は安定しないのだ。
ルイズは唇をかむ。
術の詠唱自体は簡単かもしれない。
しかし、その威力を保ったまま届かせるとなれば話は別だ。
この距離からあの丸太を破壊するための炎の玉を放つだけで相当な精神力を要する。
それこそ卓越した実力が必要とされるだろう。
今の自分にできるかだろうか。
ためらい続けるルイズの様子に呆れたキュルケ。
一向に動こうとしないルイズを鼻で笑って杖を掲げコースに立った。

「はーあ。情けないわね。ゼロのルイズ。いいわ。私からやってあげようじゃない。フレイム!!」
「ちょっと!!」

キュルケの使い魔、火トカゲのサラマンダーがのそのそと足元に呼び出された。

「いきなさい!フレイム!!」

キュルケの号令の下、サラマンダーは大口を開ける。
巨大な炎弾が丸太に向かって吐き出された。
一直線に炎弾は丸太へと疾走する。


345 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 00:31:24.32 ID:???
着弾。
丸太は一瞬にして大炎上をあげる。
すさまじい威力である。
火竜山脈から召喚されたサラマンダーの力は紛れもなく本物だった。
丸太は数十秒燃え続けた。
その炎が鎮火したとき―――――丸太は真っ黒な木炭へと姿を変えていた。
表皮は見る影もなく、焦げた丸太の中では燃え残った炎がくすぶっている。
ルイズは思わず嘆息する。

「……くうぅぅぅぅ。やるじゃない」

うめくルイズにキュルケは笑う。

「さあ、次はあんたの番。これ以上の結果をあんたは出せるのかしら?ゼロのルイズ?見せてもらおうじゃないの」
「うぅ………」
「おっほっほほほほほ」

言い返せぬキュルケは勝ち誇ったように笑う。ほぼキュルケの勝ちが決まったようなものだ。
魔法の練度も精密さも圧倒的にキュルケの方が勝っている。
ルイズは悔しげに丸太を見続けることしかできないでいた。
どうすればキュルケに勝ることができるか。
必死に思考を巡らせたルイズにある考えが浮かんだ。

「しゅ、手段は問わないのよね。キュルケ?」
「そうよ。お好きにしたら?」
「じゃあ―――――ねえウォルター。来なさいよ」
「……は。何でございましょう?お嬢さま」



346 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 00:34:30.71 ID:???
審査の必要のなくなったウォルターがルイズの下へ来る。
ルイズは威厳たっぷりに言った。

「あんたがあれを倒しなさい。負けたら承知しないから」
「……それでいいのですか?お嬢さま」
「ふん。なによ、文句あんの?ね、構わないでしょ。キュルケ」
「別にいいわよ」

こともなげに答えたキュルケに嬉しげな笑みを浮かべルイズは命令を下す。

「聞いたわね。さ、やりなさい」
「……了解(ヤー)」

ため息をつく。
まだまだ主は未熟だ。正直このぐらいは自分の力でやってほしいというのが本音だ。
自分の力を他人に認めさせるのが主の夢ではなかったのか?

(でもまあ、相手も使い魔を使ったのだからこのぐらいは容認してもいいか)

使い魔の力はその使い手の力。執事の手柄は主の手柄。
従者の力を示すことはその主人の力量を示すものでもある。
主のゼロに近い威厳をここで示しておかねば後々余計な影響も出てくるだろうし。
何より、自分の身もかかっているため他人ごとではない。
それに―――――ルイズ以外の少女といるのはなんとなく抵抗を感じる。
なぜかはわからないが。ま、気にするほどのことでもないだろう。



347 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 00:36:40.92 ID:???
ウォルターは鋼線を周囲に展開する。
狙うは二十メートル先の丸太。鋼線が届く十分な射程距離。
丸太を切り倒すなど造作もない。
だが、違和感を感じ、逡巡する。

(そういえば、鋼線を両手で扱うのは久々だな)

新たな右腕、義手の存在である。
召喚時に失っていた腕の代わりに身に着けた鈍い金属の光沢を放つ義手。
その義手は脳からの神経信号により腕の動きを忠実に再現している。
もともとの生身の右腕と変わりなく指は細かく動き、何も問題なく作動できている。

(だが……触覚がまだない、か)

右腕の浮遊感にずれが生じていた。
触覚神経の消失により慣れ親しんだ鋼線特有の金属の冷たさというものが全く感じられない。
右腕にまとわりついている鋼線はまるで空中に漂っているかのようだ。
このずれを消し、元の動きにすり合わせるにはしばらく過去の経験を頼りにするほかないだろう。

矢継ぎ早にまくし立てていた義手工房の少女の話を思い出す。


348 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 00:40:13.97 ID:???
(いい?術後、たった二時間で動けるようにしたのは驚いたけど、あんたの手はまだまだ未完成なんだからね。
 まだ、腕の感触を司る神経信号が脳に伝わりきれてないんだから。 
 体が義手に慣れていないうちは過度な運動は控えること。特に義手だけを動かす行為はね。
 接続部がずれて、雑菌でも入ったら大変だから。 

 痛覚はないけど触覚はいずれもどるわ。そうすりゃ動作は楽になるでしょう。
 義手の一部があんたの腕の断面に残った神経をつついて触覚を感じられるようにしたから。
 でも時間がかかるからしばらく我慢しなさいよ。おとなしく安静にすること。
 アフターケアはできる限りするわ。そのたびお金はもらうけどね。
 
 うん。これで言うことは全部かしら。
 後、なんか忘れているような……。
 ああ、そうよ。そうだった。最後に一つ、あんたには絶対に言わなきゃなんないことがあったわ)

分厚い説明書と整備に使う油さしを渡したあと、
にこにことあの少女は天使のような笑みで言ってたっけ。

(壊したら、殺すから)

ゾク、と悪寒が全身を駆け巡る。感覚がまだない右腕にまでも総毛立つような不快感が走る。
背後に鬼神を召喚しているかのような圧倒的気迫。
右手にスパナ。左手にドライバー。
工具であるはずなのに立派な凶器に見えた。
吸血鬼の身体であるのに殺されるかもしれぬという恐怖さえもウォルターを襲っていた。
力は格段にこちらの方が強いはずなのにあの少女ならできてしまうだろうという確信してしまう。
どうもあの少女は苦手だ。あの老婆も。
生理的にも。中身的にも。
とにかく壊さなければいいんだ。壊さなければ。

 



349 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 00:42:27.65 ID:???
コンコンと軽く小突き、右腕の硬度を確かめる。
うむ。おそらくちょっとやそっとでは壊れないだろう。いや、壊れてくれたら困る。

(―――って何を考えているんだ?僕は? 集中集中)

再度標的を見据えるウォルター。
丸太はでん、と突っ立っている。
今回の仕事は簡単だ。
ただ標的を切り倒すだけではないか。動くグールなどを斬ることに比べればこの程度大したことはない。
HELLSING機関の訓練とでも思えばよいのだ。

(ああ、懐かしいな……む?)

またも記憶にある懐かしい光景が浮かぶ。
大量の銃弾を標的にあびせる傭兵たちの射撃訓練。
新人教育に頭を悩ませた騒がしい喧騒もあれはあれで楽しいものだったっけ。
元の世界での訓練を思い出し―――――悲鳴を上げるセラスのことを思い出した。
腕をばたつかせ子供の様に泣きついてくる姿が浮かぶ。
その姿に―――言いようのない不安が生じる。

まずい。どうしようもなくこれはまずいかもしれない。

「ルイズお嬢さま。キュルケ嬢。タバサ嬢」
「「「なに?」」」
「今からあの丸太を切り倒しますが……伏せていただけますか。危険だと思うので」



350 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 00:44:37.87 ID:???
ただならぬ様子に三人は思わずうなずいた。

「え?あ、うん」 
「……わかった」
「わかりましたわ。執事さん」

三人が思い思いに身をかがめたのを確認するとウォルターは安堵する。
正直に言うと半信半疑なのだ。
腕の感覚がない今、鋼線をふるって大丈夫であるわけがない。
あの少女の言うとおり安静にしなくてはならない現在の身体。
おそらく丸太を斬り倒すことはできるだろうが―――制御しきれる自信はない。
人間ではなく、怪力をもつ吸血鬼となってしまった自身の身体。
最悪、お嬢さま方を丸太もろとも切断しかねなかった。

深呼吸し心を落ち着かせる。ちらりと目の端に身をかがめたルイズたちを確認する。
ああしていれば大丈夫だろう。だが、念には念を入れるか。

鋼線を飛ばすためにいつもは手を動かすだけのわずかな動作で事足りるのだが、今回は鋼線を上に振り上げた。
鋼線を頭上で細かく操り、振りまわす。
万が一にも誤って鋼線が下に伏せたルイズたちへ飛んで行かないように。
遠心力をつける。
鋼線は勢いを増し、標的を斬り刻もうと唸りを上げた。
そして。
狙いを定めたウォルターは勢いのついた鋼線を力の限り飛ばした。
鋼線は狙い通り丸太を包み込み―――――――瞬時にして標的を細切れに切り刻む。




351 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 00:46:47.71 ID:???
一瞬で片が付いた。

ルイズたちは唖然とする。
先ほどまで悠然と立っていた丸太は跡形もない。
あるのは砂利のように細かな破片の山。
ウォルターの世界で言えばウッドチップにその姿を変えていた。
ぷんと漂う切り裂かれた木材と鋼線の擦過熱によって生じたわずかな燃焼の焦げたにおい。
鋼線は容赦なく標的を捕らえ、忠実にウォルターからの力を十全に伝え破断した証拠だった。

「まあ、こんなものですかね」

目的を果たしほっとしたウォルターの声が三人の緊張を解く。
普段滅多に驚かないタバサも目を丸くしていたがウォルターの声にすぐに我に返る。
もはや、比べるまでもない。
タバサは頷いて口を開いた。

「……この勝負――――――」

ズズズと、地滑りのような音があたりに響き、何事かとルイズたちは見渡した。
その音源を悟ったときルイズたちは呆然とする。

塔が、トリステイン学院の本塔がずれていく。
塔の中央付近ですっぱりとななめに切断され、今まさに倒壊の最中である。
悲鳴が上がり、学院はてんやわんや。
夢でも見ているのではないかという、バカと冗談が総動員の光景。
それを目にしたルイズたちの頭に、にわかに信じがたい考えが浮かび思わずウォルターを見た。


352 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 00:48:35.93 ID:???
ウォルターも同様にこの事態に驚愕する。
だが、冷静に脳は思考し、この理由を冷徹に告げる。

(ああ、そうか)

鋼線を飛ばしたとき、右腕に引っかかっていた鋼線の一本がすっぽ抜けていた。
その一本はほかの鋼線と同じように大きな勢いを持ったまま、塔の方へと飛び――――切断。
鮮やかな切り口を以て『固定化』の呪文がかけられた塔をやすやすと両断してみせたのである。
右腕の感覚がないために起こった弁明も言い逃れもできぬウォルターの失態であった。

何も言えず、ただ自ら引き起こした惨事を見つめるほかないウォルターにタバサは努めて冷静に判定結果を告げた。

「真っ二つ」
「あ゛ーーーーーーーーーーーー!!」

ルイズの悲鳴が夜空に響き渡った。




「な、なんだい?こりゃあ」

フーケは驚きの声を上げる。
突然足元が崩れたのだ。
『固定化』の呪文で頑丈にできているはずの分厚い塔の壁が。
ぐらつく壁に必死につかまり、落ちないようにするほかなかった。
何が起こったのかわからず、しばたくフーケの眼にあるものが止まる。


353 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 00:50:47.85 ID:???
鋭利な刃物で切り開かれたかのようにできた穴。
そこから宝物庫へ通じる道が、続いているではないか。

「あら、ラッキーじゃない」

手間を省けたフーケはその穴にその身をすべり込ませていった。





翌朝、トリステイン魔法学院では昨夜からの蜂の巣をつついた騒ぎが続いていた。
教師と生徒たちは切り倒された塔と書き残されたメッセージを見てあんぐりと口をあけていた。
幸いけが人はいなかったものの、宝物庫から『破壊の杖』が盗まれていた。
教師たちは口々に騒ぎ立てた。

「破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ、だと?」
「随分なめた真似をしてくれるじゃないか!!」
「衛兵は一体何をしていたんだね?」

ミスタ・ギトーがある女教師をなじった。

「ミセス・シュワルース!!当直はあなたでしょう!!」
「も、申し訳ありません・・・」
「これこれ。女性を苛めるものではない」



354 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 00:52:16.16 ID:???
責任を押し付けんばかりの様子をオスマン氏はたしなめた。

「このとおり、賊は大胆にも忍び込み、『破壊の杖』を奪っていきおった。全員が油断していたのじゃ 
全員に非がある ミス・ロングビルが悪いのではない」
「オールド・オスマン 感謝します」
「ええのじゃ ええのよ」

オスマン氏はそういうとあたりを見回した。

「で、例の怪盗を見たものは?」
「この4人です」

コルベールが4人を指さす。ルイズ、キュルケ、タバサ、ウォルターだ。

「うむ。詳細を話してくれたまえ。うん?どうしたのじゃ?」

オスマンが4人をよく見ると皆おどおどしている。
こころなしかうっすらと額に汗をかいているような。
4人は口々に答えた。


「な、なんでもないです!」
「そ、そうですわ」
「……どうもしていない」
「………」
「……あー。動転しておるようじゃが具体的に言ってくれんか?」


355 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 00:54:45.86 ID:???
皆示し合わせたように目くばせをすると一斉に告げる。

「「フーケのゴーレムが塔を破壊しました!!!」」
「……そう」
「………」
「おお、そうなのか」
「「はい!!!」」
「……そう」
「………」
「うむ。なるほど。あいわかった」

オスマンの納得した様子に畳み掛けるようにウォルター以外の三人は説明する。
フーケが襲ってきたこと。
フーケが塔を倒したこと。
フーケが破壊の杖を盗み出したこと。
特に塔を倒したのはフーケであると特に念を入れて説明するルイズとキュルケ。
皆、塔を倒した責任を全て怪盗のフーケに擦り付ければ万事解決と判断したのであった。


356 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 00:57:32.77 ID:???
何もかもフーケのせいだとまくしたてる三人。
ただ説明の間、ウォルターはばつが悪そうにうつむいていたが。

「困ったのお 後を追おうにも手がかりなしということか・・・」

するとミス・ロングビルが一歩前に進み出た。

「聞き込みをした結果、村はずれの森の奥の廃屋に出入りする怪しい人影を見掛けた、という情報を得ました」

その報にオスマン氏はパッと顔が明るくなる

「おお、仕事が早いのう。どれ。この通り賊の居場所も見つかった。
 我こそが怪盗を捕まえんというものは杖を掲げい!」





「まったくどうかしてるわよね。先生方は。あれだけの人数がいて誰一人手をあげようとしないんだもの。
 でも、それも当然かしら。
 だってあんなふうに塔を壊しちゃう盗賊となんて戦いたくはないものねえ?ゼロのルイズ」
「う、うるさいわね」





357 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 00:59:59.90 ID:???
街道を進む馬車から言い争いがきこえる。
そこには人影が5つ。
ミス・ロングビルが馬の手綱を引き、ルイズ、ウォルター、キュルケ、タバサが乗っていた。
キュルケは相変わらずルイズをからかっていた。
ルイズはわなわなとふるえキュルケを睨みつけるも言い返せないでいた。
完璧だと思っていた執事の思いもよらない失敗に驚くやらくやしいやら。
それでもルイズは自身の失敗を認めたくなくて、精一杯の意地を張った。

「わ、わたしのせいじゃないでしょ。ウォルターのせいでしょうが。
 私は何も悪くないのよ。全部ウォルターが勝手にやった事じゃない!」

それを聞いてにやりとキュルケは意地の悪い笑みを浮かべた。
キュルケはウォルターに優しげに告げた。

「だ、そうよ。執事さん。大変ねえ、こんなにやさしい主を持って幸せね」
「……いえ。お嬢さまの言うとおりです」

憮然とウォルターは答えた。

「僕のせいで賊の侵入を許した。僕のせいで主の名誉に泥を塗ってしまいました。
 お嬢さまが塔を実際に倒したわけでもありません。
 ですからどうかキュルケ嬢。お嬢さまを責めるのはやめていただけますか」
「あら?ルイズをかばうの?」
「いえ……責められるべきは僕であり、ルイズお嬢さまではない、と」



358 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 01:02:11.08 ID:???
きょとんと、キュルケは意外そうな顔をする。
まるで珍しい物でも見たかのように。
しばらくウォルターを見つめ―――唐突に笑いだした。

「あっははははは!!わかったわ、執事さん。あなたの言う通りこのぐらいで我慢してあげる。
 でもね、執事さん。その代わり一つだけ質問させて。
 この騒動はあなたは誰のせいか本当に分かっているの?答えてくれるかしら」
「それはもちろんですとも」 

迷わず答えてみせたウォルター。
その様子をキュルケは一瞬眉を顰め、その真剣なまなざしを確認する。
大人のような落ち着き――――そこにキュルケは望む答えを見出し、ルイズに笑って語りかけた。

「ルイズ!あんた、面白い執事を持ったわね。こんなに堅物な殿方は久々に見たわ。
 そうね。ウォルターさん、と言ったかしら。
 辛くなったらこっちへいらっしゃいな。いつでも歓迎するわ」
「な――――――」

いきなりのことにルイズは驚き、あきれた。

「どういう意味、それ」
「執事さんがこの先苦労するのが手に取るようにわかるってこと」

その答えにルイズは訳も分からずきょとんとする。



359 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 01:04:01.95 ID:???
「はあ?何言ってんのよ。あんた」

ルイズの様子にキュルケはこれ見よがしにため息をついた。

「今のあんたに言っても仕方ないわ」
「何よそれ!!」

キュルケに食って掛かるルイズの様子をウォルターはぼんやりと何事か考え込みながら眺めていた。



「で、見つけてみたら誰もいない、と」

ルイズは肩を落としつぶやく。
ミス・ロングビルを案内にこのアジトと思われる廃屋に来たのだが盗賊の影も形もない。

「もう、逃げてしまったのかしら」
キュルケが首をかしげ、部屋を捜索しているタバサに意見を聞く。

「これ・・・」
タバサがごそごそと部屋の隅から取り出したのは長方形のケース。
『破壊の杖』が入ったケースに間違いなかった。

「盗品があるってことは引き払ってはいないようね」
「左様ですね」
ウォルターはうなずく。
「なんにせよ。すぐにここから出た方がよろしいかと。まだ近くに例の賊がいるやもしれません」
「それはそうね いますぐ」





360 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 01:06:13.61 ID:???
出ましょう、そうルイズが言おうとしたその時、ばこぉーんと小気味いい音を立てて小屋の屋根が吹き飛んだ。
よく見えるようになった頭上に巨大なフーケの土ゴーレムがいた。

「退却」

タバサがそう言うときにはすでに全員逃げようと出口に走っていた。
だが、土ゴーレムは逃げる暇を与えない。
ルイズたちの足が出口へと向かう前に巨大な拳が容赦なく小屋に振り下ろされた。

「チィ」

間に合わない。
出口を抜ける前にルイズたちが叩き潰される。
そう判断したウォルターはルイズたちをまとめて出口へ突き飛ばした。

「あ――――ウォルター!!!」

ルイズの叫びも無駄だった。
すさまじい地鳴りを立ててウォルターもろともゴーレムのこぶしは小屋を圧砕する。
残ったのは木片と藁が詰まったがれきの山であった。
ウォルターの姿はない。
小屋の下敷きになって押しつぶされたのは明らかだった。
ピクリとも動かない残骸に向かってルイズは悲鳴を上げた。



361 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 01:08:05.26 ID:???
「う、そ。嘘よ――――――!!」

その声に執事は答えない。
倒壊した家屋の下から望む声が響くはずもない。
その問いに代わりに答えたのは岩でできたのっぺりとしたゴーレムであった。


キュルケとタバサは必死に魔法で応戦する。

『エア・ハンマー』、『ファイアーボール』
力の限り魔法をぶつけるが、どれも全く効く様子がない。

ずしりずしりと、重厚な足音を立てながら迫るゴーレム。
その迫力と危険を感じ後ずさるを得ない。

が。

「ルイズ!!」

その前に臆せず立ったのはルイズであった。
キュルケの制止の声も気にせずルイズはゴーレムの前に立ちはだかった。



362 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 01:09:47.07 ID:???
普段感じたことのない激情がルイズを襲っていた。
どうしようもない後悔と自責。
それはルイズをこれまでにないほど責め立てる。

――――私のせいでウォルターが死んだ。私をかばうために死んだのだ。私を守って。私を救おうとして。

とめどなく感情が渦巻きルイズは涙する。

何もかもわたしのせいだ。
ルイズはつぎつぎと自身の行いを猛省する。

わたしがキュルケに対抗心を燃やして意地にならなければ。
わたしが素直に自分の力で挑んでいれば。
わたしが失敗を恐れて頼まなければ。
わたしがあんなにも責任を押し付けなければ。
わたしが自らの過失を認めてさえいれば。

ウォルターはここで死ぬことはなかった。

「ごめんなさい」

不思議とこぼれ出た言葉に気付きはっと口をおさえ歯を食いしばる。

(そういえば私――――今までどんなに高慢だったのかしら)


363 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 01:13:37.26 ID:???
そうだ。
何もしていない。何もできていない。
今も昔も何一つたりと為せていない。
自身の成果を見せることもなく。
自分の成長も示すこともなく。
ウォルターからの奉仕を当然のものだと受け取っていた自分を。
どんなにウォルターに頼りきっていたかを今自覚してしまった。

(―――――でももう違う)

自身の心のなかで誰かが否定の叫びをあげる。
必死に張り上げる誰かが自分の中に確かにいる。
今は違う。
もう頼れるウォルターはいない。
守ってくれる執事はいないのだ。

(もう頼れるのは―――)

拒絶する。
執事の死も。自身の力のなさも。
もう絶対に頼らない。絶対にそんなことはしない。
絶叫するかのように主張するその誰かは杖を振り上げ、進み出た。
心の弱音を踏み越えるように足を前へと運ぶ。
ゴーレムを見据え、恐怖で乾いた口を開く。



364 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 01:14:36.20 ID:???
『ファイアーボール』

キュルケとの対決で唱えられなかった呪文を詠唱する。
尻ごみも、緊張もない。
失敗するかという不安もすでに消し飛んでいる。
ありったけの精神力を振りしぼり―――――――唱えた。

杖先から火球が躍る。
みるみるうちに膨れ上がった火の玉は杖が示す方向へと飛んで行く。
杖先が示す標的はただ一つ。
ウォルターを殺した仇であるゴーレムへと猛然と突っ込ませる。

土でできた巨体が傾ぐ。
爆発に等しい衝撃がゴーレムを襲う。
涙であふれながらも決意を秘めたとび色の双眸はゴーレムの顔面で火球が炸裂するのをしっかりと見届けていた。

(私だけだ。見てなさいウォルター。私は絶対に立派なメイジになって皆に認めさせてやるんだから)



「嘘でしょう?」

キュルケは驚愕の声を上げる。
ルイズが、あのゼロのルイズが呪文を完成させた?
信じられない光景にキュルケは瞠目し――――叫ぶ。

「ルイズ!!危ない!!」



365 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 01:17:20.56 ID:???
ゴーレムはいまだに健在であった。
ため込んでいた精神力が多かった分、術の威力は高かったがゴーレムを破壊するには至らなかった。
ゴーレムは腕を振りかぶる。
口があるのなら怒りと怨嗟の声を上げているだろう。
のっぺりしていたはずの顔面を焼け焦げた土くれへと変え、おぞましい形相にその姿を変えていた。
キュルケの悲鳴は届かない。
慣れぬ精神力を使ったことによる虚脱感にふらつくルイズは避ける間もない。
万力の力を込められたこぶしがルイズを襲う。
ルイズは避けようと動かぬ体をなんとか動かそうと力を入れた。
間に合わない―――そう直感してもなお抗うルイズに拳が迫る。

直後―――――破裂。
ルイズは目をしばたいた
どこもけがをしていない。
ルイズの体をぼろ雑巾に変えるべく放たれた拳はルイズの体に届いてさえいない。
何が起こったのかを見極めようとするルイズの眼。
そこには深々とゴーレムの腹にあいた穴を映し出していた。
ルイズは当惑の声を上げた。

「なに、これ―――?」
「30mm対化け物用『砲』"ハルコンネン"」


366 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 01:20:31.13 ID:???
ズ、と重量感のあるその砲身が正確にゴーレムに照準を定める。

「弾は2種 劣化ウラン弾及び爆裂鉄鋼焼夷弾。主力戦車を除く全ての地上・航空兵器を撃破可能です」

ルイズはあっと声を上げた。
小屋の残骸を銃架代わりに細身の大砲と見まごうばかりの長大な金属の光沢を放つ砲身を構え狙い定める影がいた。
まるで誰かに説明するかのように言うと――――執事は引き金を引いた。

バスッ、と大きな破裂音ののち、ペットボトル大の弾丸が飛び出しゴーレムに炸裂する。
ハルコンネンの弾、劣化ウラン弾は貫通し対象の内部に入ってから爆発を起こす。
何でも貫通してしまう非放射性ウラニウム弾の威力は人体を破壊するに余りあるものである。
土でできた頑強なゴーレムもやすやすと打ち抜けるのも当然であった。。
ゴーレムの頭は一瞬にて木端微塵に砕け散った。

「う、うわ」

ルイズ、タバサ、キュルケは驚きの声を漏らす。
一撃で壊れたのだ。
いままでどれだけ魔法を打ってもものともしなかったゴーレムが。
あの破壊の杖の、たったの一発で。

『破壊の杖』――――ハルコンネンが入っていた箱から砲弾をさらに取り出す。
いまのウォルターの背丈を軽々と超す砲身を苦も無く扱える。
常人なら脱臼するほどの反動も吸血鬼となった今では気にならない。

「第2射!敵中央!弾種焼夷榴弾信管VT!炸薬信号赤!」

そうウォルターは高らかに宣言し、弾を排出、新たに装填しふたたび構える。
ハルコンネンの銃口は容赦なく頭を打ち抜かれたゴーレムを再びとらえる。
そのサイト越しに頭をぶち抜かれたゴーレムを捉えたとき、ウォルターは笑みを浮かべた。


367 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 01:22:02.44 ID:???
「ヒュウ」

威力に感心し思わず口笛を吹く。
排出、装填に至るまで問題なく稼働するハルコンネン。
これはもともと化け物用に作られたものだ。手に取るように武器の扱い方がわかる。
理由は簡単。これは元の世界で"私"がそう作ったのだから。
この威力なら威力は申し分ない。お嬢さまたちを巻き込まず、ゴーレムを屠ることができる。
こいつなら何の苦労もなく巻き込むことなくお嬢さまを守ることができる。

ウォルターはさらに狙いを定めもう一度引き金を引く。
大きな破裂音とともに飛び出した銃弾は死を与える死神の弾丸となって容赦なくゴーレムの腹を打ち抜く。
空洞がゴーレムの腹に穿たれ、ひび割れる。
先ほどまで無敵を誇っていたゴーレムはついに崩壊し土の塊と成り果てた。

「す、すごい・・・・」

ルイズはそう言いつつも安心したが、腰が抜けへなへなと崩れ落ちてしまった。
執事がこちらへ駆け寄ってくるのを見つめるルイズ。

「ご無事ですか?お嬢さま」

いつもの丁寧な口調で声をかけるウォルターを見た時――――ルイズの視界が曇った。
なによ。生きてんじゃない。心配して損したわ。
なぜかぼやける目の前にも構わずルイズはふん、といつもの調子で答えた。

「バカ!!無事に決まってんじゃない!!」

ルイズは飛び起きてウォルターに殴りかかった。
ひょいと躱されたが、構わない。
もう一度とびかかってウォルターを捕まえてその体が現実のものであると確認し―――ポカポカと虚脱で力のはいらない拳でウォルターの胸をたたき続けた。



368 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 01:24:17.35 ID:???
破壊の杖をそばにおいて、ルイズの無事にほっと安堵するウォルター。

「すごいわ!執事さん!ルイズも!!」
キュルケがそう言って駆け寄ってくる。
「でも無事だったならもうちょっと早く助けに来てほしかったわね。何をしていたの?」
「いえ。あの瓦礫の山から抜け出すのに時間がかかりまして。遅くなりました」

にべもなく答えたウォルター。
キュルケはそれ以上追及しても無駄だと判断しタバサを待った。

「フーケはどこ?」

崩れ落ちたフーケのゴーレムを見つめながらあとからやってきたタバサがつぶやく。
全員が一斉にはっとする。辺りを偵察に行っていたミス・ロングビルが茂みから現れた。

「ミス・ロングビル?」

ウォルターは怪訝に思いミス・ロングビルを見つめる。
つかつかとミス・ロングビルはハルコンネンのそばに立ち―――ウォルターの手の届かぬところへ蹴り飛ばす。
そしてごく自然かのようにウォルターに向け杖を構えた。



369 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 01:27:02.25 ID:???
「ミス・ロングビル! 何を?」
ルイズが叫ぶ。
「何って? 用済みの人の処分よ」
ミス・ロングビルの目つきが変わる。猛禽類の様な目に。
「ご苦労様ね おかげで私のゴーレムが粉々よ」
「え、・・・じゃああなたが・・・」
「そう、私が土くれのフーケよ」
タバサが杖を振ろうとした。
「おっと。動かないで? 全員杖と武器を遠くへ投げなさい。」
「どうして!?」
ルイズが怒鳴るとフーケは妖艶な笑みを浮かべ答える。
「私ね、この破壊の杖の使い方がわからなかったの。だからあなたたちを連れてきて使い方を知ろうとした。
実際うまくいったわ。しかも使い方だけでなくその威力も見せてくれたじゃない。親切ねえ。執事さん?」

ウォルターは黙っている。フーケは得意そうに破壊の杖にゆっくり近づいて笑う。

「でもそれはそれ。あなた達にはここで消えてもらわなきゃ。さてせっかくだし破壊の杖を使わせてもらおうかしら」
「くくく・・・ははははははは」

突然ウォルターが笑いだす。フーケはビクリとウォルターの方を向く。
「なに?狂ったのかしら?」
一瞬の驚きによる注意の移動。
それが彼にとって十分すぎることにフーケは気付けなかった。

戸惑うフーケの目の前に指が突き付けられていた。
いつのまにかすでにウォルターが近づいている。
こちらに近づく気配もしなかったというのに。
瞠目するフーケにウォルターは冷たく笑った。



370 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 01:28:58.11 ID:???
「あんたの負けさ フーケ」
「!」

ぺちんと何かがフーケの額で炸裂する。
フーケが杖を構える前にウォルターの指がびちり、とフーケをこづいたのだ。
ウォルターが曲げた中指を親指に引っ掛けてはじき出す――――ただのデコピンだ。
それだけのはずなのにフーケは数メイル飛ばされてしまう。
転がったフーケは目を回しのびてしまった。
哀れな怪盗に冷たくウォルターは事実を告げる。

「その銃を作ったのは誰だと?それは化け物のために作った対化け物の銃だ。人間に扱える代物じゃあないよ」

あきれながらウォルターはハルコンネンを回収し元の箱に戻す。

「ご無事ですか、お嬢さま方」

その声に三人はしばらく固まっていたがわっとウォルターに駆け寄る。
ウォルターは戸惑いながらも4人は固く抱擁を交わすのだった。

371 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 01:31:18.13 ID:???


「さてと、よくぞフーケを捕まえ破壊の杖を取り戻してくれた。」

オスマン氏は戻ってきた4人をねぎらう。

「フーケは城の衛士に引渡した。破壊の杖はここにある。一件落着じゃ」

オスマン氏は続ける。

「二人はシュヴァリエの称号が与えられるじゃろう。ミス・タバサはすでに持っておるから精霊勲章じゃがの」
「あの、ウォルターには?」
「残念ながら彼は貴族ではない」
「僕は構いません。何もいりません」

ウォルターは言った。

「そうか。では今日はフリッグの舞踏会じゃ 予定通り行う」
「そうでしたわ!」

キュルケが顔を輝かせる。

「今日の主役は君たちじゃ。用意をしてきたまえ。せいぜい着飾るのじゃぞ」

ウォルター以外の三人は礼をするとドアに向かう。ルイズはウォルターの方を見る。

「お先にどうぞ。僕にかまわずに。お嬢さま」


372 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 01:33:26.26 ID:???
ルイズは心配そうに見つめていたがうなずいて部屋を出て行った。
オスマン氏はウォルターに向き直る。

「なにか聞きたいことがあるようじゃの」
「ええ」

ウォルターは破壊の杖を指さし聞く。

「これは私の元いた世界の武器です。」
「ふむ、もといたせかいとは?」
「私はこちらの世界の人間ではありません。ルイズお嬢さまに"召喚"でこちらに呼ばれたのです」
「なるほど、そうじゃったか」
「そして、これは私の世界の私が作った武器です。これをどこでだれがもってきたのですか?」
「これはの。森を散策していたらワイバーンに私は襲われた。
 その時助けてくれたのが目を見張るような金髪で巨乳の美女での。その破壊の杖でワイバーンを倒してくれたのじゃ」

その言葉にウォルターは目を見開いた。

「・・・! その人は今どこに?」
「それがの、消えてしまったんじゃ。光につつまれての。跡形もなく消えてしもうた。
後に残ったのはこの破壊の杖と奇妙な形をしたいくつかの鉄塊と金属の破片だけじゃった」
「・・・・・・・それはいつ?」
「30年ほど前じゃ」
「な・・・」




373 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 01:36:22.58 ID:???
先ほどのハルコンネンを持った金髪巨乳美女、というのはおそらくセラスだ。
元の世界での仲間だった一人。
だが時期がおかしい。
セラスが吸血鬼になった時期からそれほど時間は経っていないはず。
一体どうなっている?
考え込むウォルターの左手をオスマン氏が指差した。

「おぬしのこのルーン・・・」
「? ああ、そういえば妙な形の傷ですね」

そう言って不思議そうにルーンを見る。
浅く彫られた見たことのないルーンにウォルターは少し気になっていた。

「それは伝説の使い魔の印じゃ ガンダールヴのな」
「伝説?」
「そうじゃ ありとあらゆる武器を使いこなしたようじゃ」
「そうですか。ではなぜ僕がそれに?」
「わからん」
「そうですか」

先ほどのセラスのことといい、このルーンといいわからないことばかりだ。
これ以上考えても無駄だろう。

「力になれんですまんの。だが、これだけは言っておく。私はおぬしの味方じゃ」
「ありがとうございます」

オスマン氏の言葉にウォルターは丁寧に礼を返した。


374 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 01:39:58.37 ID:???
オスマンはうむ、とうなずいた。

「よくぞ、破壊の杖を取り戻してくれた。礼と言ってはなんじゃがこれをおぬしにやろう。破壊の杖とともに来た金属の破片じゃ」

す、とオスマンは机の引き出しから金属の破片を取り出し渡す。ウォルターにはそれが何か瞬時に分かった。
これも僕の作った・・・・・。

「どうも」

礼を言い、ウォルターは出て行った。
主の待つところへと。



375 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 01:40:59.88 ID:???



満月の月夜に照らされたバルコニーでウォルターは手すりに頬杖を突き、月を眺めていた。
時々、貴族の女性たちから踊らないか、と誘われたがすべて丁重に断っていた。
今までのことにつかれそういう気分にはなれなかったのだ。
こうして夜風に当たり月を眺めていると心が落ち着く。
吸血鬼だからかもしれない。
夜族特有の夜への憧れと落ち着き。
夜は安心できる時間帯になっていたのだった。

「……」

ウォルターは元の世界のことを考えていた。
この世界において破壊の杖とされていた武器はウォルターに忘れがたい過去を思い起こさせていたのだった。

これから自分はどうしたらいいだろうか。主を守り続ける。
それはいい。
だが、このままでいいのだろうかと思う。
新たな主との主従関係に、一方的に与えられた信じられない居場所に疑問を抱いていた。

ずっと悩んでいた。

このハルケギニアという世界。
元の世界と明らかに違う異世界。
まるで夢だ。
目が覚めたらあの燃え盛る研究室にぼくはいるのではないか、と疑ってしまうほど自身に都合のいい夢。
その夢に僕はすっかり浸っている。
この居心地のいい夢を、僕はまだ見たがっている。




376 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 01:42:45.87 ID:???
そんな自身にウォルターは戒めと怒りを覚えた。

(情けないなあ 僕は。なんと浅ましい)

吸血鬼を倒すために吸血鬼になって、主君を、忠義を、信義を全て捨てて。
それでもなお、ここにいる。この時、この場に立っている。
もう一度手にした、捨てたはずのものを与えられて。
僕はそれを、嬉々として拾ってよかったのだろうか?
この―――化け物の、裏切り者の、くそ餓鬼なんかが。

月明かりに手をかざしてみる。
そこに刻まれたルーン、ガンダールヴの印がウォルターにその存在をはっきりと示していた。
このルーンが契約の証だとお嬢さまは言った。
この世界での主従関係を決定すると。
この僕が、お嬢さまのものだと示していると。

(でもいいのか?本当にこのまま仕えて?僕は本当にこのままお嬢さまの執事で居続けることができるのか?)

今日のことにしてもそう。
ゴーレムに襲われる主を僕は平気で危険にさらしたのだ。

主の様子を見ておきたかった。
自分に依存し責任転嫁して逃げ続けるルイズを放っておいたらどうなるか。
ただそれだけを見るためにあえてルイズを放置したのである。

結果としてルイズは術を完成させ、反撃をした。
術はまぐれあたりにしても、ルイズは逃げずに自分の力で立ち向かった証拠を示したのである。
主の才能の片鱗、主が見せた心の成長。
今までしていなかった自らの意思で戦ったその姿にどんなに感激したか。
そのことにウォルターは素直に喜び―――主を救うためにすぐに動かなかった自身を侮蔑する。


377 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 01:45:25.09 ID:???
僕は愚かだ。
結局僕はまた繰り返してしているだけじゃあないか。
アーカード解放にしてもそう。
裏切ったときもそう。

僕は自身の勝手な欲望のために主を危険にさらしている。

今も昔もこのことが変わっていないことにウォルターは自嘲する。
こんな僕が主に仕えていいはずがない。
僕が仕えるに値する人間だとしても、この僕自身が仕えるに値しないのだ。

(これから―――どうすればいい?)

自責と後悔、目的の喪失。
それらが激しくウォルターを悩ませた。

赤と青の双月は満月であった。
月はそれぞれ互いに色は違うもののどちらも負けまいと強い光を放ち、夜に光をもたらしていた。
光り輝く双月はバルコニーのウォルターを照らし、長く伸びる二つの黒い影を作り出す。

「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおなーりー」

門に控えた呼び出しの衛士のルイズの到着を告げる声にウォルターは現実に引き戻される。
ゆっくりと振り向いて、驚く。
桃色の髪をバレッタにまとめ、ホワイトのパーティードレスに身を包んだルイズがいた。
その美しい姿に周りの男たちはさかんにダンスを申し込んでいた。
お嬢さまにすっかり魅入られたのかゼロのルイズとからかっていた者たちもそこにいた。
ルイズは美しい顔立ちはしている。
性格はアレだが…きっと美人に入るのだろう。
仕える執事としても鼻が高い。
ルイズがインテグラのような強い鉄の心を持てばきっと…もっと美しく素晴らしい女性になるだろう。


378 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 01:47:50.21 ID:???
(私は命令を下したぞ!何も変わらない!見敵必殺……見敵必殺だ!!)

たとえ身近だったものでも何をすべきかを判断し決別の言葉を下せるような強い女性に。
その時に――――"私"はお嬢さまのそばにいることができるのだろうか。

男たちの誘いを断り、ルイズはバルコニーのウォルターに気付くと優雅に歩いて近寄ってきた。
ウォルターは笑顔で応対する。
主に心配をかけまいと先ほどの悩む様子はみじんも見せない。

「麗しい、見事な姿にあらせられますね お嬢さま」

簡単な世辞を一つ送ったあと、すぐに心の中で苦笑する。
もっとましな言い方はできないものか、と思う。
年のせいだろうか?
今は美しいご婦人に対するほめ言葉がなかなか思いつかない。

「……ウォルター」
「なんでございますか、お嬢さま?」
「踊らない?」

す、とルイズが手を伸ばす。
顔を真っ赤にして。
突然のことにウォルターは戸惑う。どういうつもりだろう。
使い魔の執事にすぎない立場であるこんな自分をダンスに誘うとは。
ルイズは戸惑うウォルターの様子を見て言い直す。今度は威厳たっぷりに。
それをウォルターは小さく笑って返答した。



379 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 01:50:03.75 ID:???
「……お断りします」
「え……?」
「僕は……ただの執事です。執事はあなたと踊る資格などありませんから」

うつむいて答えを返すウォルターにルイズはしばし硬直し――――呆れたように告げた。

「……そんなの知らないわよ。ほら、来なさいよ」
「は――――あの」
「私と一曲踊っていただけませんこと?ウォルター・C・ドルネーズ」

戸惑うウォルターの返事も気にせずルイズは強引にウォルターの手を取り、並んでホールに向かっていくのだった。
ウォルターは溜息をつき、しぶしぶルイズに連れられていった。

音楽が奏で始められた。
踊り始める主をしばし見つめ―――あきらめてウォルターは主に合わせて踊りだした。

ウォルターとルイズは踊る。
ウォルターは元の世界で踊る機会は滅多になかった。
執事をしていたため、貴族の踊りは一通り見て、覚えてはいる。
しかし、不安だ。うまく踊れるだろうか。
何せ踊るのは―――――何十年ぶりだからだ。
せいぜい、お嬢さまの恥にならないよう努めよう。






380 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 01:52:38.60 ID:???
「……なんであんた完璧に踊れてるのよ。執事のくせに」

曲の調子に合わせ、一部の狂いなく踊るウォルターの様子を見てルイズは聞く。

「そうですか?何年も踊ってなかったのですが…」
「だからって」

せっかく踊りを教えてやれると思ったのに。
いつもウォルターには助けてもらってばかりだ。
残念そうにしながらもくすり、とルイズは笑うのだった。

「ねえ。ウォルター」
「はい。何でございましょう?」
「今日はありがとう。助けてくれて。」
「……いえ、執事として当然のことです」

こともなげにつぶやくウォルターをルイズはじっと見つめた。
目の前でともに踊る執事。主のためにゴーレムにも自分の身を顧みず主のために戦う。
いつも余裕たっぷりに戦うウォルターは一体どんな生活を送っていたのだろうか。
もっと、ウォルターのことが知りたい。
ウォルターのように完璧な存在になりたい。





381 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 01:58:49.65 ID:???
私は立派なメイジになるんだ。
もうウォルターは頼りっきりではない。
他者に頼りっぱなしの私ではない。
自分の力で魔法使いとして貴族として、この執事にふさわしい皆を見返すほどの主になるんだ。
なってみせる。
ルイズはウォルターを見つめ心から思う。
その時にはウォルターにそばにいてほしい。その時を見届けてほしいのだ。
私に仕えているただ一人の執事だから。
私を守って成長させて大切なことを気付かせてくれた大事な執事だから。

「ウォルター。これからも一緒にいなさいよ。私にはあんたが必要なんだからね」

踊りながら告げたその一言にウォルターは逡巡し――――微笑する。
そして、ウォルターの口からルイズが望む通りの言葉が出てきた。
その返答はルイズを満足させた。

「……ええ。わかりました。お嬢さま。」

はっきりとした、毅然とした様子でウォルターは答えた。

「何なりと命令を。僕はあなたの命令に僕は従いましょう。今の僕はお嬢さまの執事でございますれば」
「うん」

強い意思を宿しルイズを見つめるウォルターの目。
ルイズはウォルターの答えに満足するのだった。


382 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 02:00:13.73 ID:???
ルイズは気が付かなかった。
一瞬ウォルターの顔が陰り、困惑した表情を浮かべたことに。

(そうだ。そうとも。そうだとも。僕は、今はあんたの執事さ)

ステップを踏み、ワルツをする。
ルイズの細い腰を支えながらターンをする。

(でも、もうだめだ)


ルイズの一挙一動に無理やりながらあわせていく。
完璧にふるまい、ルイズにとっての完璧な執事で居続ける。
踊りながらウォルターはルイズをまじまじと見た。

ルイズは笑顔だ。
一緒にいてくれると信じながら。
ウォルターのことを何も知らず、ただ完璧な執事であると信じたまま。
そのことにウォルターはどうしようもない罪悪感に襲われた。

(一度、信義を、主を、国を捨てた、裏切り者があなたに仕える資格はない)

ウォルターは偽りの笑みを返す。ルイズもますます嬉々とする。
その笑みに込められた意味を知らぬまま二人は互いに踊りあう。
音楽に包まれたホールで少年と少女は踊り続けた。


383 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 02:02:55.46 ID:???
(でもあなたは僕を呼びだし、あの死地から救ってくれた。
 そればかりか新たな居場所と機会を与えてくれた。
 それは途方もなくとてつもなく大きい。だけど、僕はそれを受け取れない。

 あなたの求めに応じることはできない。あなたは呼び出した奴がどんな奴か知らないから。
 僕はただの裏切り者だ。ただの狂ったどうしようもない糞餓鬼だ。
 そんな奴が何も知らぬあなたにこのまま仕えていいはずがない。だから――――)

ウォルターは決意する。この矛盾だらけの主従関係に一定の線引きをする。
それは虫のいいものかもしれない。ただの自己解釈と独善的なものにすぎないかもしれないもの。
でもそれが、今出せるウォルター・C・ドルネーズの答えだった。
それだけが今の自身がだせる彼なりの解と信じてウォルターは心に決める。

(僕はあなたが必要とする限り執事で居続ける。
 あなたが僕を必要とするならば執事としてあなたに仕えよう。
 あなたの夢は立派な魔術師となり、皆にその力を認めさせることだ。
 私はその夢を支えよう。ただの執事としてあなたに仕えよう。
 だが、あなたが庇護を必要としないすばらしい人間になった時こそ、僕は無用者になるときだ。
 その時、僕はあなたの執事としての仕事と責務を果たし――――裏切り者にふさわしい末路をたどる)



384 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 02:04:14.86 ID:???
双月が照らす光が織りなす幻想的な雰囲気の中、ひときわ異彩を放つ二人がいた。
煌びやかなドレスを着た少女と質素な執事服の少年。
全く違う姿の二人の華麗で、完璧な踊り。
その舞踊に周囲は引き付けられた。

それは二人の全く異なる心が織りなすものだった。

ただ純粋に完璧な踊りにあこがれ無我夢中に踊ったルイズ。
先のことを憂い複雑な思いで主をリードしながら淡々と踊り続けるウォルター。

賞賛と栄誉の光を求めるために未来に向かって何の疑いなく進み続ける主と
すでに手にした新たな機会と逃れられぬ過去を見つめ、葛藤し立ち止まる執事。

月光と夜闇が作り出す幻想のような舞台でいつまでも二人は踊り続けるのだった。






385 :ゼロの執事 07:2012/11/06(火) 02:05:45.34 ID:???
「ふーん。平和そうだねえ。貴族のお嬢さまと踊ってるなんて」

その様をバルコニーからはるかに離れた森の木々の枝の上で眺める人影がいた。
陽気な声とともに月明かりにその姿をさらし現れたのは、少年だった。
茶色の開襟シャツを着た黒ネクタイをつけたヒトラーユーゲントの制服。
周りのものすべての出来事が楽しくて仕方がないといった調子の少年は、ホールで踊り続ける二人を見てにやりと笑った。

「つまんないの。すっかり平和ボケしちゃってさ」

少年は乾いた嘲笑をあげる。
その頭から明らかに人のそれでない猫の耳が覗いていた。
少年は月を見上げおかしくてしょうがないというように狂喜する。

「でも、安心しなよ。もうすぐその変な馴れ合いも、まどろっこしい主従関係も何もかもめちゃくちゃにしてあげる。
 僕もただの役を張るだけの人形で終わる気はない。まだ劇場の幕紐をひかせはしないよ。
 こんなに楽しい世界を――――そうやすやすと終わらせてたまるもんか」

そう言うと、少年は猫のような鳴き声を上げ、夜の闇に消えていった。
少年のいた跡はどこにもない。
少年が座っていた枝に残ったわずかな温もりだけが少年のいたことを示していた。
だがそれもすぐに夜気に冷やされ掻き消える。
まるでそこにいなかったように少年は跡形なく完全に消えた。
後に残されたのは変わらずにそこにあり続ける闇と、吹きすさぶ夜風だけであった。


386 :マロン名無しさん:2012/11/06(火) 02:18:50.98 ID:???
07終わりです。
最後ちょっと重くなりました。
でもやっぱ原作終了後のウォルターだとこうなるか。にしても長いとやっぱりだめなんでしょうか。
ウォルターのルイズに仕える理由とルイズの成長だけは書かなきゃと思って書いたらこうなってしまいました。
次もデフォで一万字越えているんですが。ワルドのやつ……。

さて、次回ですが水曜の夜ぐらいに投稿します。
修正は…たぶん大丈夫と思いますが書き溜めの時間もいただくかもしれません。
用事が入ればいいます。あまり期待しないでください。
ではまた。おやすみなさい。


387 :マロン名無しさん:2012/11/06(火) 16:40:05.43 ID:???
きてたー!執事の人乙乙

388 :マロン名無しさん:2012/11/07(水) 12:26:05.54 ID:???
待ってました!乙

389 :マロン名無しさん:2012/11/07(水) 21:58:00.15 ID:???
申し訳ありません。やっぱりまた修正に時間がかかります。
書き直させてください。週末には絶対にあげます。本当にごめんなさい。

390 :マロン名無しさん:2012/11/07(水) 22:21:10.91 ID:???
一万字というと20KBくらいか
一回の量としては普通よりやや多いかくらいだが

いかんせんマロンで連投するのはダルいかもね

391 :マロン名無しさん:2012/11/11(日) 09:53:27.94 ID:???
せやな

392 :マロン名無しさん:2012/11/12(月) 04:01:55.96 ID:???
すみません。もう少しかかります……。もう一晩だけ時間を。

393 :マロン名無しさん:2012/11/12(月) 12:55:09.81 ID:???
焦らなくて良いのよ

394 :執事の人:2012/11/13(火) 20:51:53.66 ID:???
遅くなりました。08投下します。

395 :ゼロの執事 08:2012/11/13(火) 20:53:14.42 ID:???
平和なトリステイン魔法学院の静かな朝。
うららかな日光がヴェストリの広場を照らす。
まだ生徒たちのすがたはない。学院の授業まではまだ、3時間ほどある。
厨房のもの以外は嫌がって起きるような時刻ではない時にルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールは立っていた。

桃色の髪の少女ルイズの表情は硬かった。
いつもならとび色の目を輝かせ勝気な笑みを浮かべて振る舞う普段の様子は見られない。
口を真一文字に閉じ、目をつぶり落ち着いたように呪文を詠唱している。
その表情はまさに真剣そのものであった。
少女が唱えているのは『ファイアーボール』―――火球を作り出す初歩に入る魔法であった。
やがて、呪文を唱え終わり、自信たっぷりに杖を振り下ろす。
杖先が光り、炎が形成され集まっていく。
少女はそれを目の当たりにし喜んだ。
今まで失敗ばかりしてきてやっとの成功だ。喜ぶのも無理はなかった。
少女が見守り期待する中火球は見る間に大きくなっていく。
少女はますます喜びの声を上げ――硬直する。

火球は成長を辞めていた。
肥大を止め今度は小さくなっていくのだ。
少女が呆然と見つめる中巨大な火球だったはずのそれは収縮していく。
やがて飴玉程度にまで小さくなっていく様子を見て少女は落胆する。
ああ、せっかく巨大な炎を作り出したのに消えてしまうのだ。
今日一番の出来だったのに。
あまりの情けなさに少女は泣きたくなりうなだれた。

ピシリ、と前方で音がした。
まるでなにかに亀裂が走ったかのような。
あまりの不安をあおるような恐ろしげな音に少女は顔を上げることができなかった。

396 :ゼロの執事 08:2012/11/13(火) 20:54:23.05 ID:???
見もせずに少女は呆然と理解する。
消えたと思っていた先ほどの炎あれは本当に消えたのだろうか。
もし消えたのではなく、そのまま残っていたとしたら。
あの巨大な炎はどこへ行くか。
恐る恐る前を見た少女の眼はとらえたのは、亀裂を全体に広げた飴玉。
炎が圧縮されあの中に高密度に集められたのだ。
そんな呪文をかけた覚えはない。
ならこれは――――――――失敗だ。
光が飴玉から炸裂し、爆風がルイズを襲い吹き飛ばした。
手に持った杖があらぬ方向へ飛んで行く。少女の体も吹き飛ばされた。
地面にたたきつけられる寸前でその矮躯を優しく腕で受け止めたものがいた。
少女の少年執事、ウォルターであった。


「ああもう!!失敗よ!」

うんざりした調子でルイズが悪態をつき、うめいた。
これで五度目。
失敗が重なり、疲労と悔しさがルイズの心に湧き起こる。
ルイズは決めたのだ。
自分の力魔法を成功させ皆に認めさせる、と。
だから眠いのも我慢して朝早く起きて練習をしている。
しかし、一向に成功する兆しが現れない。
フーケの時はできたはずなのに。あれきりぴたりと成功しない。コモンマジックすらも。
成果が出ず、ルイズは半ばやけになって不満をウォルターにぶつけてしまう。
そんな少女の様子にウォルターは優しく告げた。

397 :ゼロの執事 08:2012/11/13(火) 20:56:03.10 ID:???
「しかし、もう少しでしたよ。何も出ずにただ爆発していたころと大違いです」
「ふん。慰めはいいわ。あんなの…ただの爆発する過程じゃない!ゆっくり再現してただけだわ」
「そう卑下なさらずに」
「ああもう!私には無理よ!」

ルイズのやつあたりにウォルターは腹を立てることもせず、ウォルターは杖を差し出した。
先ほど吹き飛ばされた杖をウォルターは拾い上げてウォルターはグレーの眼でルイズを見つめ、穏やかに言った。

「お嬢さまには夢があるのでしょう?立派なメイジになるという夢が。こんなところであきらめてよいのですか?」
「……いいわ。いいのよ。どうせ私は…ゼロのルイズだし。魔法なんかできないのよ」
気弱になるルイズにウォルターは眉をひそめた。
「心を落ち着けなさい。お嬢さま。あなたは魔法を使えています。現にあなたは僕を召喚し、ゴーレムに一撃を与えた」
「……ふん」
「進歩はしておりますよ。今までは杖を振っただけで爆発していたではありませんか」
「でも失敗に変わりないわ」

拗ねたように弱音を吐くルイズに執事は優しく笑みを浮かべ叱咤する。

「失敗は失敗でも価値ある失敗ですよ。落ち着きなさい。お嬢さま。きっと成功は近いですよ」
「………はあ。わかったわ。やってみる」

398 :マロン名無しさん:2012/11/13(火) 20:56:14.29 ID:???
支援

399 :ゼロの執事 08:2012/11/13(火) 20:57:28.43 ID:???
ウォルターに励まされ最悪の気分がほぐれたルイズはしぶしぶ杖をとる。

……確かに何もしていないころに比べれば段違いに良くはなっている。
呪文を唱え、結果何が悪かったのか。
どうすればいいのかを一つ一つしらみつぶしに実行していったら、見る間に改善はしている。
失敗であれ術が完成半ばまでに達するのが何よりの証拠だった。

(でも、やっぱり最後は爆発よね。フーケの時も火球が当たって弾けたというよりは爆発が当たったというべきかしら)

うまくいったと思った呪文は結局爆発してしまうのだ。
それでもあきらめるわけにはいかない。
私の夢は立派なメイジになって皆に実力を認めさせることだ。
こんなところで、躓いてなんかいられない。
ルイズはじっと考える。
先ほどの失敗の原因として思い当たるのは完成する前に喜んでしまったことだろうか。
呪文は精神力を源とする。だから感情に左右されやすい。
ならば――――――今度は最後まで冷静に努めてみよう。

(でも、やっぱり最後は爆発よね。フーケの時も火球が当たって弾けたというよりは爆発が当たったというべきかしら)

うまくいったと思った呪文は結局爆発してしまうのだ。
それでもあきらめるわけにはいかない。
私の夢は立派なメイジになって皆に実力を認めさせることだ。
こんなところで、躓いてなんかいられない。
ルイズはじっと考える。
先ほどの失敗の原因として思い当たるのは完成する前に喜んでしまったことだろうか。
呪文は精神力を源とする。だから感情に左右されやすい。
ならば――――――今度は最後まで冷静に努めてみよう。

400 :ゼロの執事 08:2012/11/13(火) 20:59:03.26 ID:???
(ファイトですぞ。お嬢さま)

ウォルターは薄く笑った。
なんだかんだ言いながらもちゃんと続ける根性はあるようだ。
今度こそ成功させてみる、そんな気概が彼女の背から伝わってくる。
ウォルターは微笑みながら主の奮闘ぶりを見守るのだった。





打突音が響き周囲は息をのんだ。
剣戟が鳴らされ思わず護衛の者から嘆息が漏れている。
激しい術の応酬に側近たちから盛大な賛辞が飛ぶ。
立ち合いの場に居合わせるものは皆、広場の中心で繰り広げられる戦いに釘付けであった。
それほど――――目の前で繰り広げられているものはまさに芸術と称してもいいほどの美しい戦いであった。

ここはトリステインの王宮。
とある広場で、剣と杖を携えた人影が二つ。
煌びやかで軽量な鎧を身に着けた少女と、無骨な鎧などつけず高貴な戦装束に身を包んだ男が激しくしのぎを削っている。
周りの者はただ一心にその戦いを見守っていた。

少女が呼吸を整え華奢な細腕から信じられないほど素早く剣を振り下ろす。
まけじと男が同じく剣で応じる。
鋼と鋼がぶつかり合う。
その時生じる音は聞くものを不快にさせるような金属音ではなく、水のように澄みとおった清澄な剣戟である。
激しく打ち合いながらもすきを窺い、ここぞというときに打って出るといった戦いを繰り広げる二人。
どちらも焦りや疲労の色は見えず冷静に敵を見据え続けている。
何合、何十合と数えきれないほどの剣戟が繰り返された。

401 :ゼロの執事 08:2012/11/13(火) 21:01:09.75 ID:???
いつまでも続くかと思われた両者の攻防―――――それは唐突に幕を閉じる。
レイピアが宙をまう。
白銀の光を散らしながら一人の手から剣は吹き飛ばされていた。
相手の力を利用して相手の剣を弾き飛ばした少女は勝利を示すように相手ののどに剣を突き付けた。

「そこまで!アンリエッタ姫殿下の勝ち!!」

従者の一人が叫び、勝負の終わりを宣言する。
一人が粗野な重厚な防護ヘルムの下から、対照的な可憐な顔が現れた。
すらりとした薄いブルーの瞳と高い鼻梁が特徴的な気品のある顔立ちをした十代後半の少女。
か細い指で力強く剣を握り投資を目に秘めたその姿はトリステイン国の王女アンリエッタであった。

勝った―――長年待ち望んでいた事実を手にし、アンリエッタは剣を鞘に収め、先ほどまで打ち合った好敵手に口を開いた。

「やっと……勝てました。八年……本当にここまで長かったですわ」
「ええ。左様ですね。猊下」

長い口髭がりりしい精悍な若い顔立ちの貴族――――グリフォン隊隊長ワルドは静かに一礼し答えた。
その顔には負けたという悔しさはみじんもなく、晴れやかな笑顔が浮かんでいた。

「立派な魔導騎士になられました。指南役としてこれ以上の喜びはございません」
「……本当にそうお思いかしら?私はまだ信じられない思いなのよ。ワルド」
「何をおっしゃいますか。紛れもないあなたの努力と研鑽のたまものです」

アンリエッタは少し顔をしかめ告げた。

402 :ゼロの執事 08:2012/11/13(火) 21:02:30.50 ID:???
「隙があったわ。最後の一撃に。私はそこをついただけにすぎません」
「ご謙遜を」

ワルドは心外と言った調子で答える。

「されど隙があったのなら在ったのでしょうな。
 いやしきしもべが思い当たるのはただ一つです。
 きっとそれは姫様の成長ぶりに不覚にも見とれてしまったことでしょうな。アンリエッタ殿下」
「子爵……」

いまだ勝利が信じられぬアンリエッタにワルドは優しげに微笑んだ。

「まぎれもないあなたの勝利です。アンリエッタ殿。あなたの手でもぎ取った、ね」
頑として意見を曲げぬ子爵にアンリエッタは根負けする。
だが、ふとあることに気付き目を伏せた。

「こうして……剣を打ち合うのも最後になるのかしら?子爵。結婚してしまえば私……」

沈みがちになるアンリエッタにワルドは励ました。

「心配にはお呼びません。今生の別れというわけでもありませぬから。
 いつかまた会いまみえ、剣を交えることができる機会がありましょうとも。
 またの仕合を楽しみにしております。殿下」
「ええ、そうですわね」

アンリエッタはやっと満足したようにうなずくと供のもの達に告げた。

「では行きましょう。トリステイン学院へ。早く私の幼馴染に会いたいわ」

403 :ゼロの執事 08:2012/11/13(火) 21:03:39.45 ID:???



「お嬢さま 着替えをお持ちしました」
「…………………」
(むぅ。困った)

ここはルイズの女子寮の部屋。
上の空で答えないルイズにウォルターは溜息をつく。
今日はルイズにいくら話しかけてもこの調子だ。
アンリエッタのお出迎えパレードが正門付近で催される中、ルイズがあっと声を上げたのだ。
どうしたわけか、とルイズの視線の先を見ると、その護衛についたグリフォンに跨がる一人の魔法衛士隊のメイジ。
凛々しい顔立ちをしてキュルケまでもが頬を赤らめているほどの面構えの男だ。
パレードが終わったその後はずっとこの調子が続いている。
まさに心ここにあらず、だ。

(お嬢さまはあのメイジを気にかけてらっしゃるようだな。お年頃、というやつか、それとも……)

暇つぶしにあのメイジの素性について考えているとドアがノックされた。

すぐにウォルターは扉を開く。

そこにいたのは真っ黒な頭巾をかぶった少女だった。
きょろきょろと周りをうかがうようにして見渡している様は落ち着きがない。
明らかな怪しさにウォルターは警戒しながら詰問する。

404 :ゼロの執事 08:2012/11/13(火) 21:04:55.37 ID:???
「どちらさまでしょうか?」
「え・・・・?あの、ここはルイズ・フランソワーズの部屋では?」

ウォルターの姿に驚いた少女の問いに執事は答えた。

「はい。ここはルイズお嬢さまの部屋にございます。して、あなたさまは?」
「わ、わたしは・・・」

少女は困った様子になる。
すると、その少女の声にルイズが我に返った。
懐かしいその声の主をルイズは聞き間違えたりするはずもない。

「ウォルター!その人は大丈夫よ。入れて頂戴。」
「はっ」

少女は中へ入ると口元に指を立てながらドアに向かって杖を振り、ルーンを呟いた。
部屋に舞う光の粉を怪訝そうに見つめるウォルターの無言の問いに答えるかのようにルイズは口を開いた。

「ディティクトマジック?」
「どこに耳と目が光っているかわかりませんからね」

そう言って少女は頭巾をとる。頭巾の下から王女の顔が現れた。
神々しいばかりの高貴さを備えた麗人。
パレードで見たその顔と名をウォルターはすぐに思い浮かんだ。

「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ」
「姫殿下!!」

ルイズが膝をつく。ウォルターも習って膝をついた。
驚いた。姫殿下直々の訪問か。

405 :ゼロの執事 08:2012/11/13(火) 21:06:48.10 ID:???
「姫殿下! こんな下賤な場所へ、おこしになられるなんて・・・」

かしこまるルイズをアンリエッタは制止する。

「やめてルイズ、私達はお友達じゃない!
 ここには枢機卿も母上もあの友達面をして寄ってくる欲の皮の突っ張った宮廷貴族たちもいないのですよ!
 ああ、もうわたくしには心を許せるお友達はいないのかしら。
 昔馴染みの懐かしいルイズ・フランソワーズ。
 貴女にまで、そんなよそよそしい態度を取られたら、わたくし死んでしまうわ!」
「姫殿下・・・」

顔を両手で押さえ頭を振るわせるアンリエッタの様子にやっとルイズは顔を上げた。

そこからは二人の幼馴染の懐かしい昔話が続いた。
それはルイズとアンリエッタが幼いころ遊んだとか取っ組み合いの喧嘩をした、という様な極普通の子供の思い出話だった。

(……へえ。やっぱり近くで見ると似てるな。このアンリエッタという少女は。
 凛とした佇まい、未熟ながらも決意を秘めた揺るがない瞳。雰囲気が幼いころのお転婆な女王陛下にそっくりだ)

ルイズと会話を交わすアンリエッタを観察しながらウォルターは昔のことを懐かしむ。
世界に冠たる大英帝国――――女王の存在こそその象徴そのものだ。
英国の繁栄と覇権を築き上げたあの方は、HELLSING機関が忠誠をささげるにふさわしい。
アンリエッタが治めることになるこの国もそうなるのだろうか。
立ち居振る舞いからも伝わる高貴さからそうなるだけの資質は十分に兼ね備えているようだ。

(だが、まだ甘さは捨てていないようだ)

ウォルターが静観するそばでアンリエッタは悲痛な願いを打ち明けた。
その様はどう見ても、ひとりの少女そのものだった。
アンリエッタが涙ながらに語る様子をウォルターは沈黙したまま見つめていた。

406 :ゼロの執事 08:2012/11/13(火) 21:09:11.14 ID:???
「ああ、こんなことはあなたに頼むべきではないのに。あなたを危険な目に合わせられないわ」

ルイズに手紙をとって来てほしい。
それがルイズに会いに来た理由だった。
アルビオンで行われている貴族派レコンキスタと王党派の戦争を防ぐための政略結婚。
トリステインとゲルマニアの軍事同盟締結の障害になりうるアンリエッタのウェールズへ宛てた手紙の回収の要請である。
されど回収しようにも自分の周りにはそれを任せられる様な人物は居らず近く王党派は壊滅するだろう。
だから――――ルイズに頼みたい。信頼できる友人に。

「何をおっしゃいます。ぜひその任務をこのルイズにお任せください!」
(……乗せられやすい性格ですね。お嬢さまは)

あっさりと引き受けるルイズにウォルターは苦笑する。
本当にこのお嬢さまはこの王女様からの言うことを心底信頼しているらしい。
この一か月、この少女と主従関係を続けて分かった事だが、やはり危なっかしいと感じてしまう。
目的への自身を顧みない無茶と、負けん気の強い性格、王女への盲信的な恭順。
どれもがこの少女の強みであり、弱点かもしれない。
おぼろげな光を頼りに最大速度へ向かって加速し進み続ける暴走特急。
不安を打ち消そうと強がるあまり客観的に自分を見る目を失いがちだ。
もう少しルイズは冷静に周囲を見てもいいのではないだろうか。
ウォルターはルイズの行動をそう思わずにはいられなかった。

「その任、僕も引き受けようじゃないか」
(――――で、貴様はとにかく見境がないな。ギーシュ)

バタン、と勢いよくギーシュが扉を開けて入ってきた。いつもの薔薇の杖をキザにかざして。
大方、探知をすり抜けて盗み聞きでもしていたのだろう。

407 :ゼロの執事 08:2012/11/13(火) 21:12:40.20 ID:???
「あ、ギーシュ。あんたなんでいんのよ」
「そんなことより姫殿下。このギーシュ・ド・グラモンにもその任をお任せください。」

息巻くギーシュの言葉にアンリエッタは目を見開いた。

「まあ、グラモン、というとあのグラモン元帥の?」
「ええ、その息子です」

顔を紅潮させギーシュは言った。
アンリエッタは構わずにギーシュに向かってにっこりと笑いかける。
それが、営業スマイルだとは知らずますますギーシュは有頂天になるのだった。

「ではお願いしますわね」
「はい、この命に代えても!」

高らかに宣言するギーシュを見つめていたアンリエッタの視線がウォルターへと移った。

「あ――――そういえばその方は一体?もしかして、恋人?」
「違います!からかわないでください!」

ルイズがあたふたと取り乱す。それを見てウォルターは思う。
うむ。お嬢さまがまず持つべきは落ち着きかな。

「あ、あの者は――――」
「ウォルター。故あってお嬢さまの執事をやっております」

ス、とテンパるルイズに代わりウォルターは静かに一礼する。

408 :ゼロの執事 08:2012/11/13(火) 21:14:59.63 ID:???
「あえて恐悦の至り。アンリエッタ姫殿下」
「………」
「まあ!礼儀正しい執事ね。ルイズ。じゃあこの方にも頼みましょう。
 わたくしの大事なお友達をこれからもよろしくお願いしますわね。執事さん」
「はっ」
「ほほぉ……」

むかつく。
静かに一礼をする執事のウォルターがどうしてか苛立たせてくれる。
ルイズの心にふつふつと何かが湧き上がる。
気に入らないわね。なんて言ったらいいのかしら。
――――そうね。
恋人と言われて私は焦っていたのにウォルターは変わらず落ち着いて余裕ぶってんのが気にくわないわね。
なんか腹が立つわ。これじゃ焦った私がばかみたいじゃない。

「ふん!!」
「む!?」

ああくそ。避けられた。
私の鮮やかなスピニングヒールキックがあっさりと躱された!!

「避けてんじゃないわよ。反応すんじゃないわよ。空気読みなさいよーーーー!!」
「蹴りを訳もなく放たれて躱さぬ馬鹿がどこにいますか?」

ほう?言ってくれるじゃない?
ルイズはウォルターを眺め答えてやった。

409 :ゼロの執事 08:2012/11/13(火) 21:16:21.33 ID:???
「……それはあんたでしょうが」
「一体どうしたのですか。お嬢さま?」

それどころか執事は訳も分からない私の暴力と罵倒に怒るどころか心配してきたわ。
いつものように!いつものように!!本当にむかつくわね!!

「わかんないならわかんなくていいわ。馬鹿!」

もう一度ウォルターのむこうずねを蹴ろうとしたらまた躱された。
ふん。ますます気にくわないわね。
きょとんと訳も分かんない風にしているのが本当にむかつく。
まあいいわ。後できっちり教えてやろうかしら。
ルイズはそっぽを向いてそれきりウォルターと目を合わさないようにしたのだった。


翌朝、ルイズたちは馬に乗って出発し、それぞれ荷をととのえアルビオンに向かった。
ウォルターはルイズから出発する前にアルビオンとはどういうところか聞いていた。

空中浮遊国家アルビオン、にわかに信じがたいが地上3000メイルのハルケギニア上空で周回浮遊する大陸だ。
上陸のためにはラ・ロシェールに最接近する2つの月が重なる夜にウォルターたちは向かわなくてはならない。
ウォルターたちは急いで馬を飛ばしていたのだった。

その頭上から突如ばさり、ばさり、と何かがはばたく音が聞こえてきた。
「なんだね、あれは?」
ギーシュが怪訝そうに頭上を見上げつぶやく。
「あれは・・・」
ルイズがつぶやくと同時にはばたくそいつはルイズたちの前に降りてきた。

(グリフォン、か)

410 :ゼロの執事 08:2012/11/13(火) 21:18:18.43 ID:???
眼前の生き物の姿にウォルターは瞠目する。
伝説の動物。
鷲の頭と前足、獅子の胴と後ろ脚。本でしか見たことのない生物、グリフォン。
その背から一人の男が降りてきた。
帽子をかぶった美丈夫な男。口髭もきりりと決まっている。
その男は両手を広げ主の方に向かってきた。
それがパレードでルイズが見つめていた騎士だとウォルターは気付いた。

「ルイズ、僕のかわいいルイズ」
「ワルド様・・・・」

ぼっと顔が真っ赤になったルイズは顔を背ける。ウォルターは怪訝な顔をした。
だがワルドは構わずルイズを抱きしめた。

「ああ、また会えるなんてね。さあ一緒に行こうじゃないか」
「どこへですか? ワルド様」
ギーシュが問うとワルドはあきれたように告げた。

「どこへ、って君、決まっているじゃないか。アルビオンさ。私は姫殿下から君たちに同行するよう頼まれたのだ。
 さあ、ルイズ。一緒に行こうじゃないか。僕の婚約者!!僕のルイズ!!」
「ちょ……ワルド!!」

驚いて暴れるルイズをひょいと抱え上げグリフォンに乗せたワルド。
ウォルターが止める間もなかった。

「さあ出撃だ。諸君!!へばったらおいていくぞ!!」

そういってワルドはルイズを抱きかかえながらグリフォンに乗せ飛んで行ってしまった。

411 :ゼロの執事 08:2012/11/13(火) 21:19:55.77 ID:???
「い、急ごうじゃないかね。おいていかれてしまう――――ウォルター?」

追いつこうと慌てふためくギーシュの眼が見開かれる。
ウォルターの表情がこれまでになく硬いものになっていたのである。
立ち去っていく子爵の後姿を睨みつけるかのようにじっと見送るその姿にギーシュは思わず訊かざるを得なかった。

「ど、どうしたのかね?」
「別に。なんでもねぇよ。お嬢さまがどこに行こうとついていくさ」

決闘の時に聞こえてきた荒々しい言葉使いに瞠目するギーシュ。
その耳はその後につぶやいた言葉を聞き逃さなかった。

「ただ……気に入らない」
「は?」

そう言ってウォルターは走り出していくのだった。
どういう意味かを聞く間もない。
あわててギーシュは馬を走らせウォルターたちを追っていくのだった。

412 :ゼロの執事 08:2012/11/13(火) 21:21:54.68 ID:???


一方遠く離れた土地。
わあ、と傭兵の悲鳴が上がる。
呆然と立ち尽くす傭兵の手にはぼろぼろと崩れていく土くれが握りしめられていた。
傭兵は訳も分からずわめいた。

「このアマ、俺のナイフを土に変えやがった!!」
「こいつ、貴族だ!!」

ここは『金の酒樽亭』―――"喧嘩をするときは椅子を使え"がモットーの路地裏の一角にある居酒屋。
港町ラ・ロシェールにあるこの居酒屋は傭兵たちやならず者が多数たむろする吹きだまりのような場所であった。
さらに今は内戦状態のアルビオンからの傭兵たちが集まっている。
酔いが回るたび男たちの喧嘩が起こる今にも火がつかんばかりの火薬庫のような場所。
そこで、がなり声が店中に響き渡っていた。

しかし、今回は様子が違う。
いつもの粗野な男たちの喧嘩ではない。
騒ぎの元――――女性が一人、杖を傭兵の一人に突き付け、油断なく切れ長の目で傭兵たちを睨みつけていた。
かなりの美人だとわかるその顔立ちは、紛れもなく『土くれ』フーケであった。
うんざりしたようにフーケは口を開いた。

「やかましいわね。黙って私の質問に答えなさい。あんたたち、傭兵でしょ」
「ああ?そうだが、なんだってんだ。あんたは」

腰まで届くばかりの長髪で眼帯をつけた一人の傭兵が呆然と立ち尽くす仲間をかばうように前に進み出た。
その男を傭兵たちの頭目と見たフーケは口角を釣り上げにやりと笑った。

413 :ゼロの執事 08:2012/11/13(火) 21:23:39.13 ID:???
「誰だっていいじゃない。とにかく、あんたたちを雇いに来たのよ」
「お!俺たちを雇おうだって?金はあんのか。ねえちゃんよ」
「ほら。これで十分でしょ」

ずしり、と食卓の上に置くフーケ。
その中身をみた頭目は目を丸くし驚きの声を上げた。

「エキュー金貨か!!こりゃあ、たまげた」
「満足?じゃ、仕事を引き受けてもらえるかしら?」

金貨を数え本物であることを確認した頭目の男はにっと笑う。

「いいぜ。話を聞こうか」
「隊長!!いいんですかい?こんな怪しいやつから依頼を受けるなんて!!」
「いいんだいいんだ。さ、言いな。ねえちゃん」
「実は――――――――――――――――」

フーケが話す間、店内はしんと静まり返る。
傭兵たちはじっと真剣にフーケの話を聞いていた。
だが、しばらくして傭兵たちの口から失望したような吐息が漏れる。
フーケが依頼の内容を告げたとき、頭目すらも眉をひそめた。
あまりの冗談のような内容ににわかには信じられない。
呆れた頭目はフーケを馬鹿にしたように隻眼の眼で見据えた。

「そりゃあ、俺たちの手を借りなきゃできないことなのか?ご苦労様だな」
「うるさいわね。依頼はこれで全部よ。引き受けるの?引き受けないの?どっちよ」

414 :ゼロの執事 08:2012/11/13(火) 21:25:11.37 ID:???
頭目はしばし、フーケを値踏みするかのような目でじっくりと見た。
やがてしばらく考えたのち、頭目は重々しく口を開いた。

「………引き受けるさ。こんな時代だ。どんな仕事だってやってやらあ。
 けどな、こちとらあんたたちを信用したわけじゃねえ。一緒に手伝ってもらうぜ」

受諾の意を示した頭目にフーケは安堵の息をつく。
確か、目の前の傭兵団は最近できたばかりだという新参のもの達。
三十人ばかりの集団で傭兵団の世界に切り込み、先のアルビオンの内戦で目覚ましい手柄を立てていた。
新造の傭兵団ながら信用は薄いが、間違いなく仕事の出来は一級品なのだ。
いい買い物ができた―――そう思った時フーケは違和感に気付く。

(ん?あんた、たち?)
「そちらさんも構わねえか?仮面の人?」

フーケの疑問と頭目がその背後に向かって告げたのは同時だった。
するとその影からゆらりと白い仮面にマントの男が現れた。
見たことのない人物の突然の出現に頭目以外の傭兵たちとフーケは思わず息をのむ。
ざわめく周囲に構わず、男は頭目を威圧するように告げた。

「いいだろう。そっちこそ裏切るんじゃない。金で動く貴様ら傭兵は信用ならない。
 王党派にやとわれてたくせに負けるとなったら逃げだすような貴様たちはな。 
金はいい値を払う。だが俺は甘っちょろい王様じゃあない。逃げたら殺す。」

415 :ゼロの執事 08:2012/11/13(火) 21:26:46.76 ID:???
正体を隠す仮面と相まって不気味さを増すその存在に傭兵たちは慄き不安げに頭目を見た。
フーケはほっとする。この調子なら大丈夫だろう。
頭目も恐れをなし何も答えられず、自分のようにただうなずくしかない。

「ああ。そりゃあ大丈夫だ。俺たちがここにいんのは向こうが契約を切ったからだ」

だが、頭目の反応はフーケの予想とは違った。
陽気に手をひらひらと振りながらこともなげに答えたのであった。
フーケはおかしくて笑った。
すごむ仮面の男に臆することなく断言する頭目にフーケは少なからず好感を抱いていた。
自分でさえ不気味な存在なのにこの男は手馴れているかのようにうまくあしらっている。

「なに?」

仮面の男は意外そうに頭目を見つめた。
隻眼の頭目もにやりと笑って仮面の男とフーケを見返す。
"隊長"――――そう呼ばれた男は誇らしげに宣言するかのように仮面の男に告げた。

「安心しな。仮面野郎。ねえちゃん。
 こちとらただの傭兵じゃねえ、プロフェッショナルだ。契約と金が払われる限り、俺たちは決して裏切ったりはしねえよ」

416 :執事の人:2012/11/13(火) 21:31:18.54 ID:???
08終わりです。文字多い割に話があんまり進んでなくてごめんなさい。
ワルドを無駄にかっこよくしたらあんな風に…。
次は来週位にあげます。これからは自分のペースで書いていきます。
支援してくれた方、焦らなくてもいいと言ってくれた方。
本当に救われました。ありがとうございます。ではまたノシ

417 :マロン名無しさん:2012/11/13(火) 22:21:50.66 ID:???
乙乙

418 :マロン名無しさん:2012/11/14(水) 21:22:14.91 ID:???
ワイルドギースかwwとりま乙

419 :マロン名無しさん:2012/11/20(火) 00:22:59.21 ID:???
人情

420 :マロン名無しさん:2012/11/22(木) 19:59:55.24 ID:???
しょたこん

421 :執事の人:2012/11/24(土) 23:17:17.26 ID:???
今週中にあげられると思ったのですがもう少しかかりそうです。
次は二話まとめて投稿します。本当にごめんなさい。

422 :マロン名無しさん:2012/11/24(土) 23:21:55.20 ID:???
ゆっくりでいいのよ

423 :マロン名無しさん:2012/11/25(日) 03:42:08.21 ID:mDIDNCPM
おk

424 :マロン名無しさん:2012/12/01(土) 13:12:13.48 ID:1mXFhfjQ
しょた

425 :マロン名無しさん:2012/12/04(火) 19:34:03.38 ID:/uni5+0i
ほ〜しゅ〜

426 :マロン名無しさん:2012/12/04(火) 21:30:38.11 ID:C+GA3QTf
エルフェンリートみてちんちんおっき

427 :マロン名無しさん:2012/12/09(日) 21:35:20.95 ID:???
ばかいぬ〜

428 :マロン名無しさん:2012/12/10(月) 12:41:03.79 ID:k822Kq52
来ないな...
何かあったのか

429 :執事の人:2012/12/14(金) 01:31:10.02 ID:???
多忙とかぜで倒れ修正の無限ループにはまっていました。三話まとめて土曜日に投下する予定です。重ね重ね本当にごめんなさい。

430 :マロン名無しさん:2012/12/14(金) 01:40:25.05 ID:???
体大事にね…

431 :執事の人:2012/12/15(土) 12:15:51.68 ID:???
遅くなって申し訳ありません。09投下します。連投で長いですがどうぞよろしくお願いします。

432 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:17:10.31 ID:???
「ああ、ルイズ。僕のルイズ。会いたかったよ」
「いけませんわ。子爵様・・・」

日も暮れ、真っ暗になってしまった後、ルイズたちは宿屋に泊っていた。
そして食事をとるための酒場でルイズとワルドは終始こんな風な会話をずっと続けているのである。
まるで幸福絶頂のバカップル。
ウォルターとギーシュは完全に蚊帳の外だった。

「なんだね、あいつは?」
「さあ?知らね……失礼、知りません」
「……きみ。やっぱりおかしいぞ。どうしたのかね一体?」

ウォルターの言動にギーシュは疑問を覚えた。宿へ着いてからというものウォルターの様子が変だ。
特にワルドがルイズに接近するたびに、ワルドがルイズの耳元でささやくたびにウォルターが苦々しげな表情を浮かべているのが気になった。何もかもワルドが関係している。ギーシュはもしやと思う。

「まさか君……やきもちか?」
「…………は?ヤキモチ?なんだそれは」

その言葉にウォルターは一瞬硬直し――――ギーシュを見つめる。
まるで何を言われたかわからないとでもいうように、きょとんとした目で。
ちょうど意味の分からぬ違う言語の単語を聞いたかのように狐につままれた顔をしている。
やがてウォルターは目をしばたかせ、口を開いた。

433 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:18:51.07 ID:???
「む――――たぶん、違うぞ?よくわからんがそれだけは言っておく」
「そうなのかね」

ギーシュはまたも首をかしげた。
ではいったいなぜこの執事はワルド子爵のことをこんなにも?

「ではどうしたのかね」
「……さあ?わからん」

ぽつりとつぶやいてウォルターは答えた。
その答えかたにギーシュは間違いなく何かしらの理由があるのだと推察できた。
だが、それ以上の追及ははばかられた。
ため息をつきウォルターが席を立った。

「こんな調子じゃだめだ。外に出て頭を少し冷やしてくる」
「うむ。そうしたほうがいいな。今の君は君らしくない。しっかりしたまえ。そんなではルイズを守るどころではないぞ」
「………ああ。その通りだな。すまない」

ギーシュを置いてウォルターは宿屋の外へと出ていこうと立ち上がりかける。
主を置いて馬の世話の手伝いに行こう。と、席を立ちあがりかけた時、ルイズがガシリ、とウォルターの手をつかんできた。

「ちょっとウォルター、こっちに来て。……子爵様、この者が私の執事です」
「へえ、君がルイズの執事くんかい?」
「………ウォルター・C・ドルネーズです。執事ですがどうぞお見知りおきを」

434 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:19:45.01 ID:???
礼儀正しくお辞儀をするウォルター。それに対し男は快活に笑う。
そんなところにウォルターはいらついた。
気にくわない。この貴族の何もかもが気に入らぬ。
だが、その理由がますますわからない。自分でもわからぬ嫌悪というのは存外に厄介だ。
だからこそなおのことあの貴族が気にくわなかった。
ただの感覚の話。
さしたる理由もなく、生理的に受け付けぬ。
わけもなく、言いようもなく、本当にどうしようもなく。

何かの拍子でぽろっと悪態の一つや二つ付きかねない勢いであの貴族を嫌っている自分がいる。
今すぐその顔を張り倒して蹴り飛ばしかねない自分がいる。

「紹介が遅れたね。僕はワルド。ルイズの婚約者だ」

ちらりとウォルターはルイズを見る。当のルイズは顔を真っ赤にして

「子爵様………まだそれは…」

といってもじもじしている様子。

ふーん。そうか。そういうことか。
ウォルターは、す、と一歩下がった。

435 :マロン名無しさん:2012/12/15(土) 12:20:06.37 ID:???
支援だ

436 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:21:20.93 ID:???
「ご婚約をなされるほどの仲でいらしたのですか。お嬢さま。この子爵様と?」
「そうよ。親が決めたことだけどね。小さいころからの約束を子爵様は覚えてくださっていたのよ」
「あっそう。ふーん」
「ウォルター?」
「――――あ。失礼しました」

慌てて謝罪するウォルターは意味の分からぬ苛立ちに戸惑いを覚えていた。

(今勢いでこの子爵に悪態をつくところだったなあ。疲れてるのかな。僕は。
 あー畜生、謎の頭痛がして餓鬼の頃の思考しかできねえ。
 ろくなことがこの子爵には浮かばねえ。理由もわからないときた。こんなんじゃあやはりだめだ。
 しっかりしろよ、"僕"。謝罪しているようではまだまだだ。苦労を意味もなくお嬢さまにかけちゃならないだろう?)

「なあ、きみ。僕が何かしたかね?」

硬い面持ちの執事にワルドは気になって聞くとウォルターは取り澄まして答えた。

「何のことでしょうか?子爵殿」
「……いや、いい。そんなことより君、今晩時間があるかい?」
「あることはありますが……突然いかがなさいました?」

上の空で答えるウォルター。
嫌悪がワルドを切り刻みたくなってしまうほどになってしまっている。

437 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:22:12.90 ID:???
「なあきみ、この宿の前の広場に来てくれたまえ。話があるんだ」
「ええ。わかりました。……お嬢さま。僕は少し体調が優れないのでこれで失礼いたします」
「え、あ、うん」

ルイズは驚いて頷くとウォルターがはあ、とため息をつき去っていった。
そんな執事の後姿が消えるまで見たワルドはルイズに尋ねた。

「ルイズ、彼は一体どうしたのかね?ずいぶんと具合が悪そうだが」
「本当にね。わかんないわ。どうしたのかしら」

ルイズも首をかしげて思いをはせた。
その横でギーシュは怪訝な顔でウォルターの後姿を見ているのだった。





「おっしゃる通り来ましたが?」

日もとっぷりと暮れた月が燦然と輝く夜。
広場でウォルターは、真紅の双眸でワルドを睨みつけた。

「来たか……」
ワルドは薄笑いを浮かべ、ウォルターの前に立つ。
じろじろとぶしつけにワルドはウォルターの全身を眺めまわす。
不快感にウォルターは眉をひそめた。

438 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:22:56.83 ID:???
「何の御用ですか?」

いらだったもののおくびにも出さずウォルターはワルドに問う。その問いに答えずワルドは悪びれず答えた。

「いや、なに。ルイズから君は完璧な執事だと聞いていてね。
まだ子供ながらもよくルイズを守れているものだと感心しているのだ。
このあいだもフーケと戦ってピンチになりながらも勝ったようだね。素晴らしい」
「はあ」
「しかし、もう大丈夫だよ」

ワルドはにやにやと笑う。

「知ってのとおり、私はルイズと結婚する。今日にも彼女にプロポーズをする」
「それは……よく決断なさりましたね」
「だから、だ」

ギロリ、とワルドの目が怪しく光り、ウォルターを冷たく見据えた。
若干ウォルターが引き気味だというのにも気づいていない。

「結婚後は夫婦水入らずで過ごしたいのだ。もちろん身の回りの世話をする召使は必要だが、
それには一切の知り合いはいらないのだよ。つまり君は――――お払い箱だ」
「…………ああ、そうですか。しかしお嬢さまはなんと?」
「ルイズも納得してくれるさ。愛する夫の言うことだからね」

余りの物言いにウォルターはあきれた。言うなら直接言え。

439 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:23:59.15 ID:???
「……要するにあんたは僕に消えてほしいのか?」
「消えてほしいとは大げさだな。身を引いてほしいと言っているのだ」

そう言うと、ワルドは懐から杖を取り出し構えた。
鬼気迫る様子に思わずウォルターも一歩下がる。

「君は完璧な執事なんだろう?執事は主からの命令は絶対だ。ならば未来の主の夫の命令も絶対のはずだ。。
 他のところでも君ほどならば引く手あまただろう。
 君は必要ない。これからは私が彼女を守る。
 君よりもはるかに強い私がね。今からそれを証明してみせよう」

ワルドの周りで風が吹き荒れる。魔力が一気に放出されたのだ。
そのただならぬ様子にようやくウォルターは呼び出された理由に合点がいく。

「ああ、決闘か?」
「手合せみたいなものかな。君がどれほどの実力者か、この目で見て越えたくてね。全力できたまえ」
「……それはそれは」

ちょうどいい。
この迷いの息抜きにはちょうどいい。気分転換にちょうどいい。憂さ晴らしにはちょうどいい。
この手合せとやらでこの嫌悪の正体がわかればもっといい。

(やはりこいつは根本から気に入らねえ)

にやり、とウォルターは笑う。
その意味を知らずかワルドもにやついている。

440 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:25:03.48 ID:???
「強さ、というのは守るべきもののためにあるものだ。どちらが強いか、を決めるのが決闘だ。
守るもの、強さ、この手合せの意味が君にはわかるだろう?」
「なるほど?」

(いいだろう。至極好都合。――――――ついでにあれの標的にしてやらあ)

完全にワルドを舐め切り悠長なことを考えていると、ワルドがいきなりルーンを唱え、杖を振ってきた。
杖の先から目に見えぬ何かが飛び出し、ウォルターに向かって飛んでくる。

それを吸血鬼の第六感で危険だと直感したウォルターは身を翻しよけた。
"ウィンド"――――風をふかすだけのただの基本魔法だが、熟練のメイジが使うとなれば話は別。
さながら風の弾丸のごとく、威力も数倍増しされている。
ウォルターの横をすり抜けた風は後ろにあった少年ウォルターの背丈の半分ほどの大きさの岩をふきとばしていた。

「どうした?本気できたまえ!」

ワルドが挑発する。その言葉にウォルターはますます苛立った。
やはりこいつは気に入らぬ。気にくわぬ。相容れぬ。

「はっ 言われなくてもやってやる」

そう言うやいなやウォルターは鋼線をワルドに飛ばした。
豪速の死神の鋼線がすさまじい摩擦音を立てながらも宙を突進した。
無造作に放られた鋼線が狙う標的はただ一つ。
吸血鬼のバカ力ですさまじい速度がついた鋼線はワルドの肉体を切り刻もうと迫った。

だが、ワルドは落ち着いてルーンを唱え杖を振り対応してみせる。

ガン、と何か固いものにぶつかった音が響く。

見開くウォルターの眼に映るのは信じられない光景である。
なんと鋼線はワルドの体にとどくことなく手前ではじかれあらぬ方向へ飛んでいったのだ。

441 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:26:00.93 ID:???
(ああ、くそ。また義手の不具合か?)

ウォルターは舌打ちをし、続けて二撃目、三撃目と放つ。
幾条も重ねられた鋼線の刃がワルドへ振り下ろされる。

だが、鋼線はまたもはじかれてしまう。
ウォルターは一瞬唖然とするも、すぐに事態を把握する。

(便利魔法、か)

忌々しげに睨みつけるウォルターの視線の先。
重々しい猛獣の咆哮のごとき音を響かせる、高圧の空気の壁――――ワルドの目の前で暴風が吹き荒れていた。
またしても風の基本魔法の一つ"ストーム"。竜巻を作り出す風魔法であった。
ワルドは自身の周りに竜巻を展開させ、風のバリアのごとく鋼線の侵入の一切を阻んでいたのである。

(こいつ、僕の武器の対抗策を。さきほど唱えたルーンはこれを作り出すものか。
 鋼線を飛ばしても巻きつくことなくはじかれる、厄介な防壁。
 こちらの攻撃を一切無力化させるに等しいものか。面倒な代物を作りやがって……。だが―――――)

彼我の距離はおよそ三十ヤード。
ウォルターは目を細め、ワルドのにやけ顔に狙いを定めた。

ウォルターが手をこまねいているうちにワルドはさらにルーンを唱えていた。
杖術、剣術、魔法を駆使し、組合せ、隙を作り出し、大技を当てる。
それがワルドの戦い。魔導騎士の戦い方であった。
使用する呪文も、それだけの精神力も十分つぎ込む。
ただの執事一人屠るだけの威力をもたせ、暴風の鎧の中狙いをつける。
やがてルーンが完成しワルドはウォルターへと杖を振ろうと―――――

442 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:27:20.46 ID:???
「ウォルター!!ワルド!やめなさい!!」
「「!」」

甲高く張る声が響きウォルターとワルドの動きが止まる。
驚く二人の目に入ってきたのは仁王立ちをして怒りに身を震わせる少女――――ルイズ。
少女がここに来たのはただの勘であった。
ワルドが話があると言った時に感じた嫌な予感。
ウォルターたちを探して広場に来てみればそれが見事に大当たりしたのである。
緊迫した一触即発の雰囲気にも臆することなく、ルイズはつかつかと二人の間に割って入った。

「どういうつもり?ウォルター。また勝手に決闘するなんて。それもワルドと。
 スクウェアクラスのメイジよ。しかも王室付きの衛士隊の隊長よ?
 ギーシュとは違うんだから戦ったらあんた怪我じゃあ済まないわ。
 それにワルドは私の婚約者よ。だったら大切な人ってわかってるでしょう?
 ……二度目よ、これは。
 私からの命令もないのに動いたら承知しないんだから。
 覚えておきなさいよ。主からの命令は絶対なんだからね。ウォルター」
「……は。申し訳ありませんでした」

深く一礼し謝罪の意を示すウォルターを怒鳴りつけるルイズ。
ウォルターは反論することもなく静かに聞いている。
その様子をワルドは満足げに眺めていた。
気にくわぬ執事がルイズに一方的に有無を言わせず言いくるめられている。
嗜虐心が満たされ機嫌がよくなったワルドは余裕をもって形だけ執事をかばおうと口を開いた。

「はは……ルイズ、そんなに執事君を苛めないでやり」
「ワルドもよ!!」
「な、なんだね。ルイズ」

矛先を変えぎろりと睨み付けるルイズの剣幕にワルドは驚愕する。
目をしばたかせルイズを見返すもその言葉は紛れもなくワルドに向けられている物であった。
思わぬルイズから浴びせられた怒声にワルドはすっかり度肝を抜かれていた。

443 :マロン名無しさん:2012/12/15(土) 12:27:25.99 ID:???
支援

444 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:28:31.39 ID:???
「ウォルターは私の執事よ。勝手に戦いに誘って勝手に死なせたら私、ただじゃおかないんだからね」

ワルドは目の前のルイズを見つめあらためてまじまじと見た。

違う。
目の前の少女はあの頼りなげだった小さな存在とは全く違う。
どうしたというのだ?一体何が起きている?
この超然とした態度、この胆力はどこからくるというのか?
ワルドは、思わずちらとウォルターを見やった。
ウォルターは目を閉じ、主の言葉に聞き入っていたがその口元にはかすかに、だがしっかりと笑みが浮かんでいる。
(まさか……この執事の影響か?)

「ちょっと聞いてるの?ワルド!!」
ルイズからのよそ見を咎める声にワルドはあわてた。
「あ、ああ。いや、もちろんだとも。しかし勘違いしては困る。私はただ……」
「言い訳なんて、あなたらしくないわよ。ワルド」

ワルドの信じられないものを見たかのような視線にも言葉にも構わずルイズはただの一言で喝破した。
ワルドは戸惑う。
腰に手を当てて怒りの視線を与える少女の態度は迫力があり、威厳というものを示してさえいた。
その矮躯からほとばしる気概と凛とした姿。将来の妻となる大事な婚約者の言。
ワルドはただうなずくほかなかった。

「――――――ッ!!君がそういうのなら」
「じゃあ、終わりね。来なさい、ウォルター。明日の準備があるから手伝いなさい」
「は。ただ今」

そう言うとルイズはくるりと背を向け屋内へと立ち去って行った。
呆然とするワルドをおいて。
執事もその後をついていこうと踵を返すのを見たとき、ワルドに激情が襲った。

445 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:29:47.12 ID:???
「一体彼女に何をした?君があんな風にルイズを変えたのか!!」

怒気を露わにひきとめるワルドの言葉にウォルターは足を止める。
ワルドの落ち着かない様子にウォルターは立ち去るルイズの後ろ姿を眺めながら答えた。

「変えた?何をおっしゃいますか。ワルド子爵。お嬢さまはお嬢さまです。他の何者でもありませぬ」

憤慨するワルドにウォルターはにべもなく答えた。

「人を変えるなどと……ただ私は執事でございますれば」

淡々と告げる口調こそ穏やかなもの。
しかし、ワルドには執事の目が癪に障る。
ウォルターのグレーの双眸――――それがからかいの色を浮かべていたように彼には見えたからであった。
ルイズの階上へと昇る姿を見ながらウォルターは至極当然のことを言うかのように続けた。

「私が仕えるべき主君は、今あそこにおられます」
「……!!」

ギリ、と歯をかみしめるワルドは確信する。
この少年はルイズにとって邪魔な存在だと。この少年こそ排除すべき存在だと。
ウォルターの嫌悪と同じく、いやそれ以上にワルドの憎悪は燃え上がる。
それを知らずウォルターは淡々と続けた。

「それでは、失礼してかまいませんか?お嬢さまが待っておりますゆえ」
「……ああ。わかったとも、執事君。君がそうならそうなのだろう。もう十分だ。いきたまえ」
「では」

一礼し立ち去っていくウォルター。
その後ろ姿をワルドは憎々しげに睨みつけていた。

446 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:30:41.88 ID:???
(そうか。執事君。ますます確信したぞ。やはり君は消えるべきだということだ。
 私の色に染まらぬルイズなど……絶対に認めてたまるものか!!)






(はやいなあ。もう、か)

ぼんやりとウォルターは主にベランダから月を眺めた。
頭に浮かんでくるのはルイズのこと。
今朝方、ワルドにはっきりと自身の意思を示すほどルイズの内面は成長している。
もともとの気の強い面が徐々に人に対しても出てくるように。
こちらが子供の様にふるまっていることを反省したほど。
堂々として意見を示すお嬢さまはまるでインテグラのように意志の強い女性となっている。
そのことは嬉々として喜ぶべきことであり――――来るべき事態への寂寥感を感じるものでもあった。

ギーシュは一階の酒場で騒いでいる。
赤い月が、白い月と重なり、一つだけとなっていた。
翌日船は出航し、アルビオンに発つ。
きっと最後の任務となるだろう。
ワルドがなんと言おうともお嬢さまは、僕がもう必要ないほど成長している。
結婚をしようとしまいが、ルイズが一人前のメイジになる時はもうすぐだ。

447 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:32:27.59 ID:???
来るべき時。
ルイズとの別れ。
"僕"への当然の罰。

―――――所詮、裏切り者に誰かに仕える資格はない。

じっと月を見ながら、ウィルターは物思いにふけっていると、後ろから声を掛けられた。

「どうしたのよ。ウォルター。辛気臭く月を眺めちゃって」
「お嬢さま」

後ろにいたのはルイズだった。
ウォルターはルイズに微笑みかけた。
その意味が分からず首をかしげている時でありながらもいつもの高慢な態度は変わることはない。
だが、その主の欠点ととられかねないところが、長所にうまく転じてきている。
強がりに過ぎなかった虚栄がいつのまにか確固たる自信に変貌することで。
そのことに、ルイズは自身で気付いているのだろうか?
自分の変化に。自分の成長に。
どちらにせよ、ルイズが着実に夢へと近づいているのは本当に喜ばしい。

「何か嬉しそうね?ウォルター。いいことでもあったの?」
「ええ……それはもう」

ウォルターは静かに微笑みながらルイズを見つめた。
意味の分からずますます首をかしげるルイズを見てウォルターは安堵すると同時におかしく感じた。

「ああやっぱり……いつものお嬢さまですね」
「からかっているのかしら?ウォルター?どういうことよ」

険しい顔をして問い詰めるルイズ。
ウォルターはバルコニーに寄りかかりながら小さく笑って答えた。

448 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:33:46.95 ID:???
「別に他意はありません。ご安心を。お嬢さま」
「む。そう?ならいいけど」

以前懐疑の目を向けながらも渋々と引き下がるルイズ。
あたりはすっかり闇に覆われ何も見えぬほどとっぷりと暮れた夜である。
相当遅いのは間違いないだろう。
アルビオンへは早朝の出発。
そろそろ眠っていただかなくてはお嬢さまの健康にかかわる。
お嬢さまの健康管理もやらねばならぬ。
来るべき時までは執事の仕事は最後まで果たさなくては。

「……明日は早いですよ。おやすみになったらいかがですか?」

そんなウォルターの勧告にルイズは何でもないかのように答えた。

「かまわないわよ。起こすのはあんたの仕事なんだからいくら起きてても大丈夫だもん」

堂々と恥ずかしげもなく当然のことを言ってのけたルイズ。
そんなことをのたまう主をウォルターは今度は困ったように見た。

「……確かに仕事の内ですが。ただいい加減にお嬢さまも気を付けてくださいね」
「うん?なにを?」
「起こすまでのことですよ」

449 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:34:48.41 ID:???
ウォルターはルイズに心底呆れたように見つめ、続けた。

「うるちゃーい、まだ寝てゃーい、とか言って毎回呂律のまわらない呪文で僕を殺そうとしたり、
 はいはい、今起きるから、と言いながら毛布にもぐって幼子のように籠城戦をしかけたり、
 着替えさせてよ、ねぇ、と起こそうとした僕をふざけてベッドに引きずりこもうとするのはやめてください。
 お嬢さまは一体いくつですか?寝起きがだらしない事この上ありません」
「……へ?」

時が止まったように硬直するルイズ。
真っ白に固まって身動きしない主にウォルターはあれ、と疑問に思った。

「まさか……気付いていなかったとか?無意識でやっていたのですか。お嬢さま?」
「な、なななななな!ち、違う―――じゃなくて!!いや、あの、その!え、う、あ!」

(え―――――嘘よ!嘘ぉ!!)

羞恥に顔を赤くしルイズはあわてた。
そんなこと本当に言っていたのかと執事を疑ってかかるが、何せ朝のこと。
ウォルターの紅茶のおかげで朝に飲んだ後は覚えているけれど起きた直後は確かに意識がない。
そんなわけがない―――――はず。
必死に記憶の糸をたどるルイズにウォルターは思い出すようにさらに告げた。

「いやはや、しかしあれはましな方ですね。たまに言語の体をなしていないときもありましたっけ」
「え、ど、どんな?」

すでに顔から火が出そうなくらい真っ赤になったルイズは恐る恐る聞く。
本当に記憶が、まったくといっていいほどない。
まずい。何か余計な事をしゃべってないだろうか。
ちら、と頭をよぎるのはひそやかな願い。
憧憬、望み、我儘、妄想、そんなものがいっしょくたに詰まった純粋に秘めた思い。
それが暴露してたら終わる、
一巻の終わりだ。

450 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:35:52.21 ID:???
寝起きが弱いとは思っていたがこれほどとは思わなかった。
(ま、まあ、でも)
言語の体をなしてないならこれ以上余計なことを言っているはずがない。
言うことすらできていないのなら暴露も何もない。
ふ、ふふんとズタボロの虚勢を張るルイズにウォルターはしんみりと続ける。

「僕に向かって腕を広げてむにゃむにゃと何かを―――うんぬんとか。
 たまにお嬢さまはすごい寝相をしでかしますね。あれは。
 で、あれは何をしているんですか?よく聞き取れなかったんですが」
「……ッ!し、知るかバカァァァアアアア」

カッとどころではない。ガアッと火照る。
顔から火どころか大惨事の大火災が起きた。
ばれてる。ばれてた。言っちゃってた。
耐えきれずルイズは頭を抱えた。
ウォルターから、その………いえるか恥ずかしい!!
激しくもだえるルイズの頭上から、ウォルターの無情なつぶやきが聞こえた。

「あれの何を苦しんでおられるのかわかりませんが――――む。なるほど」
「なによぉ……」

これ以上私を辱めないで、そう言おうとした頭を上げたルイズは硬直する。
ああ、気付いた。気付かれた。
もう私生きていけない―――――

「あれ、紅茶を渡せという合図だったのですね。何でもありませんでしたな。お嬢さまが朝弱いのは知っていたのに」
「……………。うん。ちょぉっとそこで待ってなさい。ウォルター」
「む?どうかしましたか?」

451 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:36:54.24 ID:???
目をしばたかせこちらを見ている執事。
ルイズはその少年執事を見ながら心の中でアップを始めた。

(本当にこの執事は……わけわっかんない)

はあとため息をつく。
こいつ……確信犯か?それとも天然か?わざとか?つい間違えちゃいましたテヘペロ、か?
ぎり、と歯を食いしばる。わなわなと怒りが総身を襲う。

―――――どっちよ。あんた。

恥は掻き消え、元の自分を取り戻す。
バルコニーに寄り掛かってこちらをきょとんと見ているウォルターにつかつかと冷静に歩み寄る。
憧れの執事。でもどうしてだろう。今は違って見えるわね。
にっこりと満面の笑みを浮かべてウォルターに問いかけた。

「ねえ。さっきの言葉、よく聞こえなかったわね。もう一度、言ってもらえるぅ?」

気取られないように準備を整えるルイズ。
こっそり背後に回したものに力を込める。
呼吸を静かに、足をばねに変え、いつでも動けるようにタイミングを計る。
絶対に何もわかっていない執事に向かって、今度こそはと狙いをつける。
今度こそ、絶対にこの天然ボケ老人思考の執事に一撃をくらわせてやる―――――

「は。紅茶を望んでおられたのでは?」
「うん。正解。よくできました。この上なく大正解よ。じゃあ――――ご褒美をあげなきゃ、ね!!!」

そう言うと同時にルイズは折檻を開始する。
ルイズの渾身の力で放たれた右ストレートは狙い過たず、苛立たせてくれたウォルターの顎を捉えようとしていた。

452 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:37:57.13 ID:???
顎は人体の急所である。
先端に当たれば脳震盪を、ずれて側面に当たれば同じく脳震盪と脳内出血を引き起こす。
スポーツでは狙うのを禁止されているほど危険な結果を引き起こしかねない箇所である。
死に直結しかねない弱点の一つ。当たれば命に関わる。

だがそれはただの人間であれば、の話。
ルイズが狙う目の前のまだ15,6のあどけなさが残る少年は、化け物の一人の吸血鬼。
桁外れに頑丈でちょっとやそっとでは死にはしないのだ。
ゆえに、容赦なく、遠慮なく、徹底的に―――――ボコることができる。
そんな奇妙な信頼と安心を以てルイズは笑顔で暴力をふるう。
苛立たせてくれる執事に根本的な教育をしてやるために。

(チッ やっぱり避けたわね)

ルイズは舌打ちする。
ルイズの全力の右こぶしをウォルターは身を少しずらすことで難なく回避したのである。
いきなりの暴力にウォルターが何か言おうとしている。
さあ何かしら。聞こえないわね。
はらわたが煮えくりかえりながらも冷静にウォルターの行動の想定を行うルイズ。
訳もなく放たれた攻撃をよけぬ馬鹿はいない――――いつかウォルターが言っていたことからこの後の行動を組み立てる。
ウォルターはこちらの不意打ちはすべて回避する。
奇襲、初撃、死角からの攻撃を鋭敏な第六感と直感で感知してしまう。
ならば。
立て続けに打って打って打ちまくればいつかは当たる。
怒涛のラッシュをかけ追い詰めて逃げ場をなくしとどめを刺すしかない。
腕を戻しながらルイズは左足で蹴り上げを行う。
流れるように続くルイズの連続技。
狙うは男性特有の急所。切ない場所とやらを粉砕してひざまづかせてくれる。

453 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:39:06.34 ID:???
だが、またしてもウォルターはひょいっと後ろに身をさがらせ何事もなくよけてみせたのである。
至極あっさりと。あっけなく。
ルイズの渾身の一撃をあざ笑うかのように。

慌てることもない。咎める声もない。
ルイズは愕然とする。
ウォルターの顔を見てみると怒るどころか―――――ほほえましげに見つめているではないか。
なめられている。
そうルイズはその笑みを解釈する。
あの笑みは駄々をこねる子供の行為に対して苦笑する親のそれだ。
そうに違いない。
ルイズは悔しいやら怒るやらで感情がごちゃ混ぜになる。
だが、

(まだまだぁ!!)

はやる気持ちを抑え、ルイズは最後の手に打って出た。
先ほど振り上げた左足を引き戻した勢いを利用し、右足を軸に回転する。
ルイズの左腕が蛇のようにしなる。
その先には固く握りしめ万力が込められた握り拳。
もう一度にっくきウォルターを折檻するべく放ったルイズの攻撃であった。

しかしウォルターは腐っても吸血鬼の端くれ。
内面がいくらか成長したとてその動きは華奢な少女のものでしかない。
緩慢そのもの。貧弱そのもの。
ふわふわと空中を漂い舞い散る羽毛も同然。
ルイズの動きを見切ることなど容易すぎる。

454 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:41:21.68 ID:???
ルイズの予想は当たっていた。余興。まさに児戯に等しい。
すなわちルイズを子ども扱いしていた。
いや、彼にとっては実際は孫か何かを見るのに近いのだが。

ウォルターは薄く笑い、予測した動きをどう避けようか考えを巡らせていた。
完全な余裕。やはり吸血鬼の知覚、感知能力は素晴らしい。
あの動き―――おそらく、ジャパニーズ・カラテの一つだったか?
あの円を描くような軌道、手の甲をこちらに叩きつける"裏拳"だろう。
(全く、お嬢さまは)
あがくルイズをほほえましげに見つめていた。

(む……)

どっと背中に硬いものが当たる。
ウォルターは理解する。
何かと思えば先ほどまで寄り掛かっていたバルコニーの鉄柵。
ルイズの攻撃をよける中、無意識に身をさがらせてしまっていたのだ。これで後ろに避けることはできない。
だが、まだ受け止めるか、横に避けることはできる。そう判断したウォルターの知覚に警報が鳴り響いた。

「!!」

驚いているウォルターの眼に入ってきたのは小さな少女の体。
ルイズは見もせずウォルターの懐に飛び込んだのだ。おろして地についてそろった両足をけり、背を向けたまま。

円を描くかに見えた軌道―――――それをルイズは無理やり変化させていた。
ウォルターに向け放つはずだった攻撃。
肩口を中心に繰り出したこぶしをルイズは中ほどで停止させ予想外の攻撃を繰り出した。
体を開いてするはずだった攻撃を止めてしまったためウォルターに背を向けたまま停止したルイズ。
ウォルターは視界から消えている。狙いなど、つくわけがなかった。

455 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:42:21.97 ID:???
だがルイズはわかっていた。
伊達に一月ウォルターと過ごしてきたわけではない。
ウォルターの位置など、気配だけで見ずとも感じ取れるようにはなっていた。
執事は主のものだ。主はその存在の一切を手にしているに等しい。

予想外のことだったのかウォルターは動かない。
勢いよく懐に入ったルイズは確信する。

(勝った!!食らいなさい!)
ルイズはウォルターに正真正銘最後の一撃を放つ。
脇を閉め腕を引くことで可能となる攻撃。
それはルイズの肘。肘鉄という名のウォルターへの制裁である。
ルイズは勝利に酔った笑みを浮かべ腕を振り上げた。

ドッと鈍い音が響く。
ルイズの肘がウォルターの胸を捉えた音―――ではなかった。

「え?」
「失礼。お嬢さま」

ルイズは思わず下を見た。
自分の体に巻きついた、質量感としなやかさを両立させた二本の柔らかなもの。
力強いウォルターの両腕。
抱きしめられている――――その事実をルイズの頭がはじき出したときには遅かった。
ふわりとした浮遊感ののち、軽い衝撃がルイズを襲った。

456 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:42:53.79 ID:???
目の前には客人用に部屋に敷かれていた絨毯。
それが至近距離にあるということは―――。
気付くと押し倒されていた。
下が絨毯であったため事なきを得たがそれでもいささか乱暴な行為には違いなかった。

(さ、さサササカリノツイタイヌジャアルマイシ―――――ン?!――――――)

首筋にくすぐるような吐息がかかる。
心地よい音楽のように背に少年の心臓の鼓動が伝わってくる。
湯気に当てられたかのように顔が火照ってしまう。

「落ち着いてください。お気を確かに。まだ……これからです」
「ッん……やぁ……」

抵抗できず、されるがまま。
押しのけようと腕を張ろうとしてやめた。
べつにいいや、とそう思ったから。観念して目を閉じ静かに待った。
きっとウォルターはこれから―――。

457 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:44:13.51 ID:???
「結構溜まってるみたいだな。よほどつらい目に遭ったのか?フーケ」
「へ……?」

気付くと背にかかるウォルターからの体重がない。
吐息も鼓動も一切ない。
頭上から響いてくる声と火照った体を冷やすような風。
ハッと飛び起き上を見上げると執事はいない。ルイズから離れ、ただ一点を睨みつけている。

(なによこれ)

周囲は燦燦たる有様にすっかり変わっていた。
バラバラに壊れ吹き飛んだ家具とその破片。
全てを押しのけるベランダの窓より生えた巨大な太い、茶色の石柱。
突然出現したそれにルイズは目を丸くする。

引き抜かれ、ルイズの部屋を破壊する。
天井も窓もなくなり、風通しがよくなった部屋に、それはぬっと正体を現した。
月明かりを遮る巨体。圧倒的な質量をもつそれ。
岩でできたゴーレムだ。しかもその形はどこかで見たことあるような。
こんなものを操れるメイジは一人心当たりがあった。
ウォルターの肩越しにその姿を見つけルイズはハッとする。

「そうよ。あんたらのことを思ってどんなに礼がしたかったか」

ゴーレムの肩にフーケがいた。長い髪を夜風にたなびかせて狂的な笑みを浮かべていた。

458 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:46:09.23 ID:???
「にしてもあの不意打ちを見もせずに避けるなんて。あんた人間?」
「さあ?普通よりか感覚が鋭いだけだが」

ウォルターの視線はその盗賊に向けられていた。
いつものように執事は鋼線を構えて、その主を傷つけずに護ろうと。
いつものようにまなざしを冷徹に、その敵に容赦のない攻撃を浴びせようと。
そんな執事をルイズは冷めた目で見た。

「脱獄したってわけか?案外王都の警備もザルらしいな」
「はっ。あんなものすぐにぬけられるさね!!」

言いようのない怒りが再び襲う。
やり場のない苛立ちがルイズを煽る。
すでにゴミ処理屋としての仕事をこなす表情の執事。
少年に何かを期待した自身がばかだった。

「ちょっとウォルター!これ一体どういうことよ?」
「む。お嬢さま。大丈夫そうですね。動こうとしないから気絶か何かあったのかと」

主の無事を確認したウォルターは安堵の息をつく。
ルイズはその言葉に一瞬硬直し、わなわなと震えた。

「ちょ……あんたッ……」
「いやはやゴーレムのパンチからお嬢さまを守るためとはいえ乱暴を働いてしまい失礼しました。
巨大なゴーレムですが落ち着いてください。これからですよ。本気のフーケが襲ってくるのは」
「―――――ッ!―――あんたねぇ!――」
「は? 何をあわてて?」

詰め寄ろうとするルイズのわけのわからぬ行動にウォルターは戸惑った。
状況に構わないルイズの隙だらけの様子にフーケは目ざとく見抜き笑った。

459 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:47:25.15 ID:???
「こっちを無視して何を漫才をしているのさ、ねえ!!」

フーケのゴーレムのこぶしが迫る。
ウォルターたちを破壊せんと放たれた拳は部屋の内装など障害物にもならず、一直線に迫る。

「くそ」

それが固い岩であることを読み取ったウォルター。
溢れんばかりの殺気と怨念のこもったゴーレムの攻撃がウォルターとルイズに迫った。
追加ここ轟音が響く。
巨大な質量と膨大な魔力に物を言わせた破壊がウォルターたちの部屋にもたらされた。
客人のために整えられた家具や装飾の一切は見る影もない。
だが予想通りの結果にフーケは満足するどころか悔しげに舌打ちを漏らしていた。

「ふん。まあ、そうね。そうこなくっちゃ。これでくたばる位ならあんたに私は捕まらないさね」

憎々しげに睨みつけるフーケの眼が映すのはルイズをかばいながらあっさりと避けた執事の姿だった。
渾身の攻撃がよけられたことにいらだつもフーケは落ち着きを失ってはいない。

「逃がさないわよぉ――――やっちまいねえ!!」

フーケの命令を受けゴーレムの万力の腕が暴風のごとく振るわれる。
重い家具など知った事ではない。
うっぷんを晴らすかのごとくあっという間に宿の二階は跡形もなく消え去ってしまった。
過剰な威力を持つそれは床を破壊し、一階は吹き抜け状態となってしまう。
執事とその主人は脱兎のごとく階下へ降りて逃げていった。

460 :ゼロの執事 09:2012/12/15(土) 12:49:54.29 ID:???
(ああ畜生が)

執事は悔しげに呻く。
迎撃し切断できる攻撃だが、できなかったことに自身に焦燥を覚える。
義手の不調、不完全ゆえ問題。腕の感覚がまだ戻っていない。

あの時の賭けと同じ。前回のフーケとの戦いと同じ。
今はまだ鋼線を完璧に制御できず他者を巻き込む危険性が限りなく高いからであった。

いまや吸血鬼となった体にとって力の制御は不可欠、特に守るべき人がそばにいる状況ではなおさらである。
一歩間違えれば義手と肉体との認識の誤差によって鋼線での攻撃が周囲をも巻き込みかねない。
近くに傷つけてはならぬ人がいる時に鋼線での反撃ははばかられる。
力のあまり関係ない人まで切断などを引き起こしかねない攻撃など論外である。

しかし、巨大な硬い岩でできたゴーレムを相手取るに手加減などできるわけがない。
だが安定して狙い撃てる"破壊の杖"ハルコンネンはここにはない。
仕方なくウォルターはルイズの手をつかみ、階下へと逃げるのだった。


その様子を遠目にある男が確認する。
ウォルターたちが階下に降りた瞬間。
ワルドとギーシュが合流した瞬間。
左目に黒い眼帯をつけた隻眼の男は手を上げて命令を下す。

「征くぜ、ガチョウども。征っちまえ。征っちまおう」

男が振り下ろした手を合図に呼応する部隊がいた。
弦を引きしぼりすでに狙いを定めた居並ぶ何十もの弓兵たち。
久々の仕事に誰もかれも楽しそうな笑みを浮かべている。
"隊長"の号令一下、高々と引かれた洋弓につがえられた何十もの矢が放たれた。
標的はただ一つ――――風を切り、唸りを上げ豪雨のごとく大量の矢が酒場へと殺到する。

461 :執事の人:2012/12/15(土) 12:51:26.36 ID:???
10です。長くてごめんなさい。

462 :ゼロの執事 10:2012/12/15(土) 12:52:44.14 ID:???
ゴーレムが二階を破壊し吹き抜け状態になった頭上へ矢の雨が降り注ぐ。
屈強な男たちの手によって力強く放たれた数十本の矢。
見事な放物線を描いたすべての鏃は、鋭い切っ先を標的に向け襲い掛かる。
太鼓を連続で打ち鳴らしたかのような鈍い音が立て続けに響き渡った。

その正体は矢の激突音に他ならない。
無数の命中を果たし、雄たけびのごとくあげた残響音である。
矢を放つよう命令を下したのは傭兵団の"隊長"。
仮面の男からの依頼を受け彼は視覚外からの奇襲を敢行したのであった。

「なるほど、確かに厄介な奴らだな」

ぼそりと納得半分驚き半分でつぶやいた傭兵団の隊長の視線の先。
そこには辺りかまわず与えられた力を申し分なく発揮し猛威を振るった数十の矢。
猛烈な力で放たれた矢は見間違え用もなくすさまじい結果をもたらしている。
何十もの襲撃を受けそこらじゅうに矢が突き刺さっている宿。
椅子は刺さり、もはや使い物にならなくなってしまっている。
円卓は針山のごとく乱立する数十もの矢が命中し無惨な姿に変わった。
床は数多く突き立てられ穴だらけである。
しかし、それは標的を捉えることなく空しいものに終わっていた矢の無念な姿であった。

隊長が見つめる先でごとり、とうめき声のように円卓が倒れた。
そこには奇襲を防御した張本人たちがいた。
いち早く矢の到来を察知したのは二人.。
手近にあった円卓を蹴り上げ盾代わりにしてルイズたちを守ったウォルター。
素早くトルネードの呪文を唱え周囲を保護するために防御したワルド。
いづれも矢を思い思いの行動で難なくはじいてみせたのである、
隊長の片眉が感心で吊り上った。

463 :ゼロの執事 10:2012/12/15(土) 12:54:35.97 ID:???
「ちょっとこれなに?物取り?」

ルイズの悲鳴のような問いにワルドが落ち着いて答えた。

「違うね。どうやら僕らが目当てだ。僕たちが姫様の使いだとばれているようだ」
「そんな!!」
ルイズの口に指を当て制しワルドはウォルターたちに告げる。

「いいかね?このような任務は半数が目的地へ着ければ成功とされる。
 時間がない。というわけでギーシュ君。執事君。君たちが残って彼らを止めてくれ」
「そんな!!」
(……面倒事をさらっと押し付けるなあ。あんたは)

ウォルターの冷たい視線にも構わずワルドは続けた。
悲痛な声を上げるギーシュにワルドは微笑む。

「なに、君ならできるさ。なにせあの、グラモン元帥の息子ならね」
「は、はい!!」
(おい。おだてられるなよ)
「そして執事君」
「…………」

464 :ゼロの執事 10:2012/12/15(土) 12:55:36.88 ID:???
ウォルターは何も言わず静かにワルドを見返した。

「君は命令に従いたまえ。言われたことをただ黙って実行するのが、執事の役目だ」
「…………」
「返事はないのかね?主人に向かってなんて奴だ、君は」
「―――違うわ。ワルド」

やれやれ話にならぬと言いたげに肩をすくめるワルドにルイズが口をはさんだ。
予期せぬ婚約者の再びの言にワルドはむ、と眉をしかめた。

「なんだね、ルイズ?」
「ウォルターは……私の執事だからよ。あなたのものじゃあないわ」
「……何?」

怪訝な顔をするワルドをよそにルイズは告げる。

「ウォルター……」

ルイズは唇をかむ。
確かにワルドの言うとおりである。
アルビオンへの最終便の時刻が迫りつつある今、誰か一人を足止めに残し、先へ進むことが何よりも有効な手であろう。
しかし、一人残していくということは酷なもの。
襲いくる矢が飛び交う戦場にウォルターを一人残すことは気が進まない。
なにより、"死ね"と命じているに等しいのだ。
ウォルターを死に追い込みかねないことをルイズは自覚していたし、その命令はやはり重いものであった。
だが、躊躇し葛藤するルイズにルイズにウォルターは優しく告げた。

「お嬢さま。言いなさい。あなたが最善だと思う道を、最良と信じて命じなさい」
「ウォルター…」

465 :ゼロの執事 10:2012/12/15(土) 12:57:26.34 ID:???
ウォルターは微笑んだ。
その姿は頼もしいいつもと変わらぬ執事。
その笑みにルイズは罪悪感を覚えてしまう。
だが、ウォルターは嫌がるどころか安心させるように言うのだった。

「今の僕はお嬢さまの狗です。狗は自らは吠えず、ただ従うのみ。
 お嬢さまが命令するならばどこへでも赴き、誰とでも戦いましょう。
 あなたが是とするものが僕にとって是でございますれば」
「………うん」

深呼吸をするルイズ。
そんな主をウォルターは黙って眺めた。

(お忘れですかお嬢さま?僕がなにかを)

"足止めに残ってここで戦え"。この小さな主はそんなことに躊躇する。
吸血鬼の化け物に心配する必要などないのに。思うままに命じればよいというのに。
やはりお嬢さまはまだまだ甘い――――――

「ウォルター」

どうやら杞憂だったようだ。すでにルイズの意思は固まっている。
ウォルターを見据え、いつものように高慢に、ルイズは告げた。

「約束して。必ず戻ってきなさい。必ずよ。あんたは、私の大切な執事なんだから」

その言葉に――――ウォルターの心で何かが変わるのを感じた。

466 :ゼロの執事 10:2012/12/15(土) 12:58:49.56 ID:???
「……ええ」

驚いたようにウォルターはルイズを見つめていた。
まるで先ほど言われた言葉が信じられないかのように。
 
(え…?なによ。その顔。一体なんでそんなに驚いて……ッツ!!)

かすかな胸の高鳴り。
ウォルターはルイズの視線をしばらく受け止めたあと、顔をほころばせたのである。 
ウォルターの笑顔は不意打ちに近くルイズに戸惑いを覚えさせた。


「了解!お嬢さま!」

快活に笑うその姿、主へと向けたピースサイン。
紛れもないあの執事のこれまでにない了承の返事であった。


体が軽い。胸の内はこれまでになく澄み渡っている。
気が付けば主に年甲斐もない笑顔を浮かべ、主からの命令に答えていた。

―――――"Ja", My Master.!!―――――

少年はグローブを付け直し、周囲に鋼線を展開する。
きしむ鋼線の音がこれまでになく心地よい。
見守る主の視線を背に、怒号を上げる傭兵たちを前に少年の双眸が銃火飛び交う戦場を捉える。
主を護るために。 執事の仕事を果たすために。
妖しく煌めく得物を手に、"死神執事"は戦場へとその身を躍らせていた。

467 :ゼロの執事 10:2012/12/15(土) 13:02:38.24 ID:???
「行こう。ルイズ」
「……ええ。ギーシュも行くわよ」
「あ、ああわかった」


ルイズはじっとウォルターの背を見つめ、踵を返し裏口から出ていく。
ルイズは振り返らない。
途中、矢が再び襲ってきたがワルドが即座に反応し、防いだ。

(頼むわよ。ウォルター)

ルイズは執事への信頼を胸に、船の発着場へと向かうのだった。

468 :ゼロの執事 10:2012/12/15(土) 13:03:38.34 ID:???
「隊長。やつら二手に分かれました。一人は残り、一人は例の重要人物と一緒に裏口へ」
「おい。こりゃどういうことだ?さっそく契約違反じゃねえか。仮面野郎」

予定外のことに仮面の男に不満をぶつける傭兵団隊長。
その非難めいた声にも動じることなく仮面の男は答えた。

「些細なことだ。攻撃は残ったやつに全て注ぎこめ。もう一人はこちらで処理する」
「そ〜うですか〜〜」

やる気のなさそうな返事をしながらも彼の眼は変わらず冷徹に見据えていた。
任務を遂行するべく手早く命令を下す。
手早く二撃目を放たせたあと、隊長は仮面の男にぼやくように尋ねた。

「しっかし、一体どういうつもりだい?
一撃目二撃目の時間まで指定するなんてよ。使う矢まで注文つけるし」
「詮索の必要はない。些細なことだ」
「質問するとあんたいつもそれだ。セリフでもきめられてんのか?
いつ攻撃するだの打ち込む角度はこうしろとかおかしいんじゃねえの?あんた」
「詮索の必要は――――」
「もういいよ。あんた」

変わらぬ回答に隊長は溜息をついた。
ある人物の足止め、もしくは殺害が今回の任務。
金をもらったからには言われてしまった仕事はやる。
それが彼ら傭兵団とその隊長のモットーであり商売の売り。
いつものように片付ければ楽なはずの仕事であった

469 :ゼロの執事 10:2012/12/15(土) 13:05:11.56 ID:???
―――――作戦の立案にあたって仮面の男が口を出さなければ。
指揮官面であれこれさしたるメリットも目的の説明もなく傭兵たちに指示を出した仮面の男。
これには隊長は怒る気もうせ頭を抱えた。
これまで様々なタイプの雇い主には会ってきた。
謙虚、傲慢、気弱、強気―――だがどれも金をやったらあとはお前らがやれというだけだった。
使用する武器の種類にまで口を出してくる仮面の男は予想外に憎たらしく鬱陶しい存在であった。
雇い主に対してこんな感情が抱くのは初めてである。

「ああ、もうよい。ここからは好きにやっていいぞ。オレはもう何も言わん」
「……ああそうかい。よく言うぜ。くそったれ」
「……」

さらには悪態にも無頓着。
まるで決められた行動をするだけの感情のない兵士だ。
こんな雇い主からの話を受けたことをいまさらながらに後悔する。

「…やるっきゃねえよなぁ。金もらっちゃったもんなあ」

碧眼が細まる。
狙いが絞られたことでぐっと成功率は高まった任務に期待をかける。
彼ら傭兵団が戦うのはいついかなる時でもただ一つ。
金―――――不満もストレスも全てその輝きの前には霞む。
いつだって行動原理はそれで充分である。
頭から依頼人のことを振り払い隊長は再び号令をかけた。

「よし、やれ」
「了解!!」

傭兵の一人が旗を振る。
夜闇でもはっきりと見ることのできるその色を視認し受け止めた一団がいた。
隊長たちとは別に数百メートル離れた地点に陣取っていた彼らもまた傭兵であった。
合図を視認した傭兵団副長もまた号令をかけた。

470 :ゼロの執事 10:2012/12/15(土) 13:06:44.07 ID:???
「唱えろ!!」

応、と傭兵たちは勇ましく答え何かを掲げる。
剣でも弓でもない人を殺すための道具には到底見えぬそれを傭兵たちは一斉に宿へ振り下ろす。
とたん、ウォルターがいる部屋の四方が土の壁に覆われた。

「!?」

彼らは貴族崩れのメイジ達――――身をやつした彼らはメイジ部隊として立派な傭兵団の一員であった。突然の事態に身構えるウォルターに向かって容赦なく隊長は告げる。

「閉じ込めたぞ―――――やれ」

その命令を聞くや否や傭兵たちが再び矢を放つ。
だが、彼らの放つ矢は先ほどとは違っていた。
先端に油を塗り火をともした刺突武器―――火矢であった。
相も変らぬ万力で放たれた矢は風を切り唸りを上げ建物を蹂躙するかの如く襲い掛かった。


「ふん」

美しく弧を描いた何十もの矢を見ながらウォルターは小さく鼻を鳴らす。
幾多の戦場を繰り広げてきた彼にとってたとえ倍の矢が来たとしても冷静さは欠くにも値しない。
元の世界における銃弾と比べればあんな時代遅れの武器など防ぐことなど雑作もない。

手早く鋼線を手繰り寄せ、薙ぎ払うかのごとく一閃する。

ベルト状に編みこまれた鋼線が難なく矢をはじく。
あっさりと防がれた矢は力なくウォルターの周囲に落ちて行く。矢はついに一本もウォルターには届くことはない。もちろんウォルターは傷一つ負ってはいない。

471 :ゼロの執事 10:2012/12/15(土) 13:07:11.96 ID:???
「焼き殺す気だったのか?この僕を」

やれやれと首を振りながら呆れたようにウォルターはつぶやいた。
木製家屋に火矢。
自身に刺さるのは回避したが、はじいた矢がそこかしこに刺さっている。
火が引火する。火の手が早い。
じっとしていればたちまち炎上してしまうだろう。
長居は無用―――そう判断したウォルターが出入り口をふさぐ壁を蹴り破ろうとしたその時、ウォルターの足元に違和感が走った。

「――――?」

瞠目するウォルターの眼が捉えたのは奇妙なものだった。
膨張し爆ぜんばかりに盛り上がる床。熱により陽炎のごとく揺らぐ大気。
およそ常時ではありえぬその光景にウォルターは凍りつく。
直後、ウォルターの目の前が紅蓮に染まった。

472 :ゼロの執事 10:2012/12/15(土) 13:09:00.04 ID:???
「便所に土間の土。あるねえちゃんからもらった硫黄。木炭 三役そろうと」

隊長は立てかけてあった椅子にどっかりと腰かける。
仮面の男本人はどうしようもない役立たずだがその情報は有用であった。
標的の特徴、能力、使用する武器。さらにはいつ、どの宿に来るかまで。
あの情報があってこそ―――――今この光景を作り出している。

「黒色火薬だ。たっぷりと喰いな、化け物小僧」

紫煙を吐き出しながら碧眼が前を見据える。
彼が眼前に広がるのは業火と黒煙に包まれた宿屋であった建物のなれの果て。
耳を聾さんばかりの倒壊音、これほどの距離でも伝わってくる熱波。
床下に仕込んでおいた大量の黒色火薬が火矢によって起爆したことを示す純然たる証拠だ。
隊長は葉巻を吸いながら満足げに笑うのだった。

473 :ゼロの執事 10:2012/12/15(土) 13:10:50.23 ID:???


「ウォルター大丈夫かしら。きっと追いつくわよね」
「大丈夫さ。落ち着きなさい。ルイズ」

飛行船内で溜息をつくルイズをワルドが慰める。
すでにラ・ロシェールの港から艦船は出航している。
椅子に腰かけながら愛おしげにルイズに声をかける様子ははたから見れば仲睦まじい。

されど心配する優しげな声音の裏で彼の胸の内はどす黒く邪な欲望が渦巻いていた。
物憂げに窓から地上を見やるその小さな背を見てワルドは押し倒したい衝動に駆られていた。
微笑を浮かべルイズの背後をゆっくりと視感するワルド。
今や婚約者同士、親からの承諾も取り付けてある。
邪魔な執事のいない今、ルイズをどうとでもすることはできる。
だが―――ぎり、とワルドは悔しさに歯ぎしりをする。

彼が信じるのは美徳、そして自分であった。
彼の思うところにはいつでも彼の姿があった。
すなわち、自分本位な考えしかこの時の彼にはできなかったのである。

彼が輝いてこそ、周りの者が輝くのであり、彼の信じるものが彼の現実であった。
彼が活躍するから、彼が敵を倒し勲章を抱くからこそ彼につき従うものは栄光を手にする。彼が常日頃考え推測するその人の人となりがその人物の真実でありあるべき姿なのだ。
ゆえに自分以外のものが脚光を浴び、予想だにしない反論を浴びるのは彼にとって屈辱でしかなかった。
自分より優れたものが許せない。自身の審美眼こそが正しい。
そんな独りよがりの考えを支えるのは彼の圧倒的な魔法の才能、身一つでたたき上げてきたグリフォン隊の隊長としての誇り、王室の王女の教育係まで勤め上げた絶対的な自信であった。

そんな彼が許せぬのはウォルターという執事だった。
目の前のルイズの心を奪い、変えてしまったあの少年が心底憎い。
傭兵たちからの攻撃をあっさりと反応し余裕そうに防いで見せたあの顔が気にくわぬ。

474 :ゼロの執事 10:2012/12/15(土) 13:12:05.08 ID:???
そして何より――――ルイズだ。
ルイズのことは幼いころより知っている。
親からの折檻におびえ逃げるように庇護を求めてきた少女。
いつも慰めると嬉しそうに甘えてきた少女。守ってやらねば何もできないそんな存在なのだ。

そんな少女が変わってしまった。
ワルドは心の中で嘆く。
決闘の際に自分に意見した時は別人だと思わざるを得ない。
否、別人なのだ。
自身の見てきたもの信じてきたものこそが真実なのだから。

全てあの執事のせいだ。あの執事が彼女を変えた元凶だ。
ゆえにこそ彼が気に入らない。自分が今迄慈しんできたルイズこそ――――。

ため息をつきいまだ執事のことを心配するルイズをよそに首からかけたペンダントを覗く。
そこには大切な今はいない母の姿があった。
写真を見ながらこっそりとペンダントをルイズへとかざす。
まだ少し理想の姿とは違うが――――なに、これから直して行けばよいのだ。
あの執事の残した痕跡を跡形もなく消し去り、私好みに、そして必ずやその眠れる力を手にする。
今後のことについて余裕のできたワルドは久々に満面の笑みを浮かべることができたのだった。

475 :マロン名無しさん:2012/12/15(土) 13:13:39.59 ID:???
支援

476 :ゼロの執事 10:2012/12/15(土) 13:13:51.51 ID:???
「……ウォルター」

ルイズはやはり不安がぬぐえない。
本当によかったのだろうか。ウォルターひとりに戦いを任せて。
万が一、傭兵たちに殺されていたら、と不吉な考えが頭をよぎり続ける。
もっとほかの考えがあったのではないか?もっと冷静になっていたら、と悔やんでも悔やみきれない。
けれど―――――

"了解!!お嬢さま!"


Vサインをしながらにっこりとほほ笑みかけてきた執事。
ウォルターがあんなふうに笑うのは初めてで、新鮮で、今もまぶたに焼き付いている。
無邪気でこの上ないほど本当に嬉しそうなあの笑み。
どうしてあんな風に嬉々として返答していたのかわからない。
そして何よりわからない感情がもう一つ、ルイズを襲っていた。

(あんな笑顔……反則じゃない!)

ルイズは顔を赤くする。
脳裏に別れ際のウォルターの屈託のないあの笑顔。
その笑顔が思い浮かぶたびルイズの胸は高鳴り抑えが効かないほどであった。
止まらない胸の動悸、止まらぬ不安をルイズは落ち着けようと深く息を吐いた。

(ああもうしっかりしなさいよ。ルイズ。大丈夫よ。
 そうよ………命令したじゃない。絶対に帰ってきなさいって。絶対に大丈夫)

絶対に追いついてくる。ルイズは執事の無事を信じて夜空を見上げるのだった。

477 :ゼロの執事 10:2012/12/15(土) 13:15:43.76 ID:???



「………無事なわけねえよ。
 殺気も気配もない足元からの爆炎、爆熱、爆風。避けられるものなら避けてみろってんだ」

吐き捨てるように傭兵隊長の双眸が凍てつく視線を浴びせているのは自身の仕事の結果。
特別製の黒色火薬による爆炎に包まれた宿屋であった建物のなれの果てだ。

「ほれ。仕事は終わったぞ。残りの金をもらおうか」

パチン、と区切りをつけるかのような軽快な音があたりに響く。
傭兵団隊長が港から最後の発着便の時刻を過ぎたことを確認し懐中時計を仕舞い込んだのだった。
少年が脱出した様子もなく、任務の終了を告げ残りの金を請求するのは当然であった。

「ふん、受け取れ」
「うお、あぶねえな」

ずっしりとした重い袋を風魔法で吹き飛ばし渡した仮面の男は鼻を小さく鳴らす。
仮面の男は喜悦の笑みを漏らす。
金に卑しい傭兵たちには辟易したが、まあいい。
標的が今夜の最終便に乗れなくなるまで足止めをすることこそが重要なのだ。
生死を問わず指定された人物を行動不能にすること。
それが仮面の男と傭兵団の契約内容であったが、予想以上にこの傭兵団はうまくやってくれた。
仮面の男は傭兵団に対する評価を改めていた。
金の確認を終えると隊長は勇んで部下たちに告げる。

「仕事は終わり。契約も終わり。金の支払いまで終わった。もう用はねえな。行くぞガチョウども」

478 :ゼロの執事 10:2012/12/15(土) 13:16:53.98 ID:???
おぉ、と勇ましい声が夜空に響く。
金をもらえた、士気も上がる、次への期待も高まる。
傭兵たちは武器をしまい、めいめいに撤収準備を整えていく。
だが、仕事は終わってもダラダラではなくテキパキと片づけをこなしていくのは傭兵団の精鋭らしい。
行動の質は最後まで落ちることはない。撤収の完了を確認し隊長は仮面の男に別れを告げる。

「んじゃこれで…」
「待ちたまえ」
「んあ?」

仮面の男の制止に隊長は振り向き、怪訝な顔を浮かべた。
そんな彼に仮面の男は猫なで声をかけた。

「君たちの武器、作戦、遂行の速度、素晴らしい」
「そりゃどうも」

隊長が一瞬苦々しげな表情を浮かべたことにも気づかず、仮面の男は言った。

「なあ、我々とともに来ないか?我々"レコン・キスタ"に。
いずれ我々は天下を取る。神聖皇帝クロムウェル殿によってね。
君たちならすぐにもわが軍の中枢を担えるだろう。どうかね」

誘いをかける仮面の男はゆっくりと傭兵たちを見回した。
なかなかの装備が整っているとは思っていたがこれほどであったとは。
いくつもの矢を装填できる連弩、部隊の機動力、威力の絶大な火薬の製法、どれも強力な物ばかり。のどから手が出るほどほしいと仮面の男は切望する。

479 :ゼロの執事 10:2012/12/15(土) 13:19:08.09 ID:???
「地位も名誉も名声も思いのままだぞ。神聖帝国軍への士官、悪い話じゃあるまい?」
「……あんた"レコン・キスタ"だったのか」

驚いたそぶりを見せることなく、隊長はむしろ嘆息したようにつぶやいた。
ああ、やっぱり。
雇い主の正体にはうすうす感づいてはいたが、モノホンだったか。
隊長は脱力したように告げた。

「悪いが……お断りするぜ」
「ほう?」

仮面の穴から覗く怪しい光を放つ眼が信じられないというように細まる。

「断れると思っているのか?」

ならば仕方がない――――さっと手を仮面の男は振り上げた。

その手の合図に見たことのない一団が森の陰から現れた。
立派な武装をしながらもそれらすべてがてんでバラバラな甲冑をつけた一団。
おそらく数は50は下らぬだろう。
自分たちとは異なる傭兵団だと気づくのにさほど時間はかからなかった。
皆にやにやと意地きたない笑いを浮かべている。
どうやら仮面の男は自分たちとは別の傭兵を雇っていたらしい。

「意味が分からないな。なぜだい?この者たちは嬉々として飛びついてきたというに」
         

480 :ゼロの執事 10:2012/12/15(土) 13:20:47.06 ID:???
従わねば殺す。
彼にとって断られるとは思いもよらないこと。
こんな褒賞を前にして何の欲も示さぬとは理解ができない。
だが、彼らの武器はぜひとも欲しい。
自身の私兵をちらつかせ脅しながら仮面の男は口を開いた。

「もう一度問おう。来るのか、来ないのか?」

仮面の男の静かながらも狂気をはらんだ声を聴きながら隊長は周囲を眺めた。

「名誉、ねえ。それはあんたら貴族にとっちゃあまぶしい物なんだろうなあ」

仮面の男の背後に控えるように武器を構えている傭兵たちがわらわらと隊長の傭兵たちを囲む。
各々の武器を突き付け逃がさんとばかりにガチョウたちを追いたてていく。
抵抗することもなく傭兵たちは降参とばかりに両手を上げたままなすすべもない。

「俺たちゃそういうのわかんねえ。大事なことだってことはわかる」

仮面の男に対して隊長も手を肩の高さ程度に掲げた。
心底呆れた――――そんな風にも見えたしぐさだった。

「けどよう、俺たちゃあそんなごたいそうなもんを受け取れるほどご立派な人間じゃねえ。
 ここにいんのはな、
 二束三文の金で世界中あっちゃこっちゃ出向いてって
 二束三文でブッ殺したり、ブッ殺されたりするような
 小銭目当てに好き好んで戦争屋になった親不孝共だ。じゃ、あばよ」

481 :ゼロの執事 10:2012/12/15(土) 13:21:57.89 ID:???
コロン、と足元に何かがあたり、思わず下を見る仮面の男。
それが致命的な誤りであったことに次の瞬間に後悔することとなる。

閃光――――目を潰さんばかりの強烈な光が仮面の男の視界を埋め尽くす。
限りなくどこまであるかもわからぬほどの白――――それが仮面の男の視界全てだった。
未知の襲撃によって仮面の男は苦悶の声を上げた。

「眼が、眼がアアアアアアアアアアアアア」

ぐらりと倒れこむ仮面の男。
その周囲には同じように倒れこみ身をよじらせた彼の私兵団もいる。
彼らもまた仮面の男と同じく閃光をもろに視界に受けたのだった。
何が起こったのか理解するまもなく男たちの夜目をつぶした閃光は隊長の傭兵たちによるものであった。
撤退準備を終えた彼らはとっくに立ち去っていた。
スタングレネード。
爆発とともに強烈な光を放つ手榴弾の一種。
対人において視界の破壊、耳鳴り、めまいにより殺傷を目的とせず、主に捕縛に使われるものである。彼らはそれを目くらましとして使用したのである。
電気もないハルケギニアの真っ暗闇で使われればひとたまりはないその武器はまさに緊急時にはうってつけであった。

「なんだあれはあああああああああああ。ふざけやがってえええええええええ」

だが、された方はたまったものではない。
怒り狂いズキズキと痛む目をおさえながら、呪詛の言葉をわめく仮面の男とその私兵団。
スタングレネードは彼ら傭兵団だけが知り、製造している武器であった。
彼ら以外には魔法世界のハルケギニアには存在しえない未知の武器である。
ゆえになす術もなくわけのわからぬ閃光が襲い、あっさりと敵の眼を潰してしまう。
まさしく初見殺しと言えた。

482 :ゼロの執事 10:2012/12/15(土) 13:23:48.79 ID:???
仮面の男は怒り狂う。
奴隷のはずの傭兵団が、下等なはずの平民風情が自身の視界を奪っていったことの屈辱。
命令を聞かず、絶対的な自分を傷つけたことの憎悪。
怒りに塗りつぶされ、まともな思考など仮面の男ができるはずもなかった。

「フーケェエエエエエ!」

叫ぶ。
倒壊する宿で逃げ出した者がいないか見張りをしている盗賊の女を求め、もはや体裁を取り繕うこともなく、仮面の男は咆哮する。

「やつらを連れて来い!今すぐに!!」



「……哀れな末路だねえ。執事の坊や」

ゴ―レムの肩に乗り燃え盛る家屋を眺めていた『怪盗フーケ』。
傭兵団の攻撃は綿密かつ周到であり、ウォルターたちが宿へと入った時点で勝負はついていた。
床下にトラップを仕込み最悪外れても足を吹き飛ばし移動に支障をきたせる計算までしているあたりの悪辣さ。
改めて傭兵たちに感心すると同時にうすら寒い悪寒がフーケの背筋を襲う。
あの傭兵団が用いた火薬……およそハルケギニアの火薬とは一線を画すものだった。
威力、発火性も抜群にハルケギニアのものとは比べ物にならない。
あんなものを彼らは一体どこで手に入れたのだろうか。
フーケにとって怪盗としての好奇心ではない感情で物事を詮索するのには初めてのことだった。

「ま、ここでの仕事は終わったし様子を見に行こうかしらね」

やれやれと世話のかかる仮面の男のことを考えながら重い腰を上げ、ゴーレムに命令を下す。ゴーレムは主を肩に乗せゆっくりと赴くために大きく一歩を踏み出した。



「―――――それは困る」

483 :ゼロの執事 10:2012/12/15(土) 13:24:53.01 ID:???
フーケは瞠目する。
背後からありえないはずの声――――振り向く間もない。
ぐらりとゴーレムの体が傾ぐ。
バランスをくずし、フーケは思わず悲鳴を上げた。
重力に逆らえずもんどりうってフーケは地面にたたきつけられた。
したたかに腰を打ちつけたフーケは痛みをこらえながら、何事かとゴーレムの様子を愕然とする。
横ざまに倒れたゴーレムの異常はすぐに判ずることができた。
何とゴーレムの足―――それがかかとから先がすっぱりと切断されている。
鋭利な刃物で切られたかのように綺麗な楕円を描いている。
一体何が、といぶかり視線を四方にはわせるフーケ。その顔が突然冷水が浴びせられたかのように凍りつく。

「あんたにはまだまだ吐いてもらうことがある」

業火を背に立ちはだかる影を見てフーケは再び悲鳴を上げる。
少年が幽鬼のごとくゆらりと目の前に立っている。
爆発に巻き込まれ燃えたはずの肢体。
倒壊する家屋に押しつぶされ潰れたはずの存在。
それが何事もないかのように無傷。

執事――――ウォルター・C・ドルネーズが双眸に冷徹な炎をともし睨みつけている。
目の前の人間はただの少年のはず。
だが、その視線と気迫は紛れもなく大の男となんら変わりはせずフーケは身をすくませた。

484 :ゼロの執事 10:2012/12/15(土) 13:25:59.26 ID:???
「い、一体どうやって――――」
「質問はこちらがする」

フーケの当惑の声を遮りウォルターは冷淡に告げる。
ゆっくりと確実に歩を進め腰が抜けたフーケに詰め寄っている。
その体からあふれ出る子供のものと思えぬ気迫がフーケを年甲斐もなくおびえる猫のように身を震わさせた。

「おまえたちの目的はなんだ?裏でだれが糸を引いている」

怜悧な視線がフーケを貫く。
ウォルターの言葉の一つ一つがフーケの心の底に眠る感情を呼び覚ましていく。
盗賊生活の中で無縁でなくてはならないその感情は、明らかな"恐怖"。
この十年ほど盗みによって貴族をあざ笑ってきた自分には到底存在してはならないはずのもの。だが、フーケはその感情を恐怖とは認めない。否、認めるはずがなかった。
言い知れぬ激情に全身を包まれフーケは耐えきれず叫んだ。

「そんなのあんたに喋るはずはないさね!!」

無我夢中に杖を振る。
地面が揺れ地鳴りが響く。
ゴーレムが周囲の土を吸収し再生を果たし主を護らんとその拳を振り上げていた。
ウォルターを今度こそつぶすべく渾身のこぶしが今振り下ろされた。

485 :ゼロの執事 10:2012/12/15(土) 13:27:17.13 ID:???
「巨人ゴーレム」

眼前に迫るこぶしをウォルターは避けようとすらしない。
指先を空に突き上げる。
その操作によって鋼線は指令を受け、月光を反射させながら舞う。
かすかな破断音がウォルターの耳には心地よく響いた。

あ、とフーケは思わず声を上げる。
目の前でバックリと二つに引き裂かれたゴーレムの腕。
ゴーレムのこぶしはウォルターに届かず力なく崩れ落ちていく。
ゴーレムの中指から腕、肩口に至るまで鮮やかな切り口をのぞかせて。

「動くな。木偶が」

いくつもの銀閃がゴーレムの体に現れる。
胸、胴、頭、足―――もはや銀色の閃光が光るところはない。
幾度も煌めき閃光を走らせ、何往復も鋼線はひたすらにゴーレムの中で暴れまわる。
自重を支えきれず前のめりに倒れこむゴーレム。
次の瞬間には細かく切断されたただの土くれに戻っていた。
全力の一撃の迎撃にわずか一秒未満。打倒に二秒。
文字通りの瞬殺をやってのけたのである。
ウォルターの鋼線による圧倒はフーケの心まで完全に切断していた。

「あ、あ、あ」
「チェックメイトだ。小娘」

486 :ゼロの執事 10:2012/12/15(土) 13:28:09.08 ID:???
すでにウォルターとの距離はわずか数メートル。
腰が抜けたままへたり込んでいたことにフーケは愕然となる。
慌てて立ち上がり背を向け逃げようとするが何かに引っかかる。
またもバランスを崩し地面に鼻を打ってしまった。

「い、いたたたた」

痛む鼻をおさえながら気付く。
足が動かない。
恐る恐る足を見ると、そこには鋼線が幾重にも足に絡みついているではないか。
足を切断されなかったことにホッとすると同時に逃げられないという恐怖がフーケを襲った。
観念してフーケは目を閉じた。

「小娘、質問に答えろ。でなくば足を潰す」

執事が冷徹に告げる言葉がフーケには死刑宣告のように脳裏に鳴り響いた。

487 :執事の人:2012/12/15(土) 13:30:06.61 ID:???
10終わりです。では11。これにてアルビオン編は終わります。まだ長く続きますがお願いします。

488 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 13:32:00.16 ID:???
「ウェールズ様!!逃亡なさってください!!」

ニューカッスルの城の客室の一室。
船で空族に襲われるも頭がなんと探していたアルビオン皇太子であった幸運にルイズたちは遭っていた。
ルイズはアルビオンの皇太子にアンリエッタとの事の次第を伝え説得を試みたが……。

「戻ったらアンリエッタにウェールズは国を守って散ったと伝えてくれ」

にべもなく答えたウェールズの表情は硬い。
若いながらも決意をはらんだその双眸は決して変わることはないだろう。
案内した自室で手紙をルイズに渡しながらきっぱりと王子は言うのだった。

「そんな! 亡命なさってください!」

悲痛なルイズの声にウェールズは乾いた笑みを浮かべた。

「それはできない そうすれば今反乱している貴族ども"レコンキスタ"に攻め入る口実を与えてしまう。
なによりここにはまだ守るべき民と忠実な臣下がいる。
その者達を放っておくわけにはいかないのだよ。守らねばならない大事な者たちをね」
「ウェールズ様・・・」

ルイズがうなだれる。ウェールズ皇太子の決意は固い。まるでウォルターのよう。
意思をきっぱり示す様子がウォルターと重なってしまっていたものだから。

「守る、というのはそんなに重要な事なのですか?」

そんなことをつい、ルイズは口にしまっていた。直後、ルイズはハッとする。

「申し訳ありません!出過ぎたことを申しました! どうか罰を」
「いや、いい 君の言いたいこともわかる。」

489 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 13:34:30.86 ID:???
ウェールズは咎めることなく笑っていた。
その笑みは到底死地に向かうものとは信じられないものだった。

「確かにおかしく見えるかもしれない。だがお嬢さん覚えておくがいい。
守るべきもののためには何でもする、というような者がこの世の中にはいるのだ。
大切に思っているからこそ、愛しているからこそ、すべてを投げ出すような輩がな」

ウェールズは遠くを見つめるように答えた。

「……理解してもらわなくても構わない。独りよがりの行動だと言われようとかまわない。
 それしか知らぬのだ。否、ほかの方法など知りたくもないのだよ。
 アンリエッタを守るために私はここで戦う。
 婚姻を成立させて私よりもはるかに強いゲルマニア軍に彼女を守ってもらうためにね。
 それが私の信じる私が彼女を守るための方法だ」
「ウェールズ様…」

ルイズは何も言えなかった。ウェールズ皇太子は本気でここで戦って死ぬつもりだ。大切な人を守るために。
思い人の婚姻を助けることであってもアンリエッタ姫殿下のことを守ることを考えている。

(でもアンリエッタ様は……)

必死に迷うルイズ。だがいくら考えても答えは出ない。

490 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 13:35:47.11 ID:???
必死に迷うルイズをよそにワルドはじっと考えていた。
やがて意を決し、ずい、とウェールズ皇太子の前に出る。

「皇太子殿下、実はお願いがありまして。」
「なんだね? ワルド子爵」

ワルドはそっとウェールズに耳打ちをする。ウェールズはいぶかしむも聞くなり顔を輝かせた。

「なんと! すばらしい。ぜひとも仲人をやらせてくれたまえ」
「ありがとうございます。殿下」
「では準備をしなくては。急がなくてはならんな」

ウェールズは背を向け走り去っていく。
その背を見ながらワルドはこみ上げる笑いをおさえきれなくなった。

「ルイズ」
「ワルド?どうしたの」

ウェールズ皇太子を説得できず、悲嘆にくれるルイズに優しい口調でされどはっきりとワルドは口にする。

「結婚しよう。ルイズ」
「え……」

491 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 13:36:53.52 ID:???
きょとんとするルイズをワルドは畳み掛けるようにつづけた。

「もういいだろう?今こそ、あの約束を果たそうと思うんだ」
「じょ、冗談はよしてちょうだい。まだ私……」
「冗談なものか!」

ぐい、とワルドはルイズを抱き寄せた。
あ、とルイズが声を上げるもワルドは構わない。
気付けば至近距離にあこがれの人の顔があった。暖かな吐息。熱っぽく見つめる視線。
どれもこれも幼いころに待ち望んでいた光景が今目の前にあった。
ワルドの口が妖しく動いた。

「ルイズ……僕のものになってくれるかい?」
「う、あ……………」

ルイズは何も言えず頭が真っ白なままただうなずくほかなかった。
ワルドの顔にうっすらと笑みが浮かんでいた。

「いやよ!!」

大声を上げルイズがワルドを突き飛ばさなければ。
呆然とワルドはルイズは見つめた。

「あ―――ごめんなさい、ワルド。でも私、まだ何も成してないの」
「何を言うんだい、ルイズ?」
「本当にごめんなさい。私、あなたとは結婚できない。私――――」
「違う!!」

492 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 13:38:15.10 ID:???
ワルドが吠えた。
びくりと、ルイズは婚約者の豹変に震えた。

「ワルド?」
「きみは、才能がある!!君は力を秘めている!!君は今からでも大丈夫なんだ!!」
「ちょっとワルド。どうしちゃったのよ」
「君はなれる!!君は!!僕が求めるあの―――」

ガシリとワルドがルイズの肩をつかむ。
その剣幕にルイズは気圧され何もできず、ただ茫然と婚約者の豹変を見守り

「はい。ストーーーップ!!」

ぴょこんと現れたブロンドの美少年の顔を見守るほかなかった。

「な――――貴様は――――」
「ワルド〜。やり過ぎだよ〜?ロリコンとマザコンを同時にこじらせるのはまずいよ〜?」
「シェフィールド!?」

突然出現した少年にあっけにとられたワルド。
それはルイズも同様であった。
余りのことに頭がついていかずただただワルドと少年を見比べた。

「え?何?誰?」
「貴様…貴様どうして!!」
「あれれー?」

奇怪な空気。この少年が醸し出すのはまさにそれだった。ワルドの深刻な訴えをあっさりと吹き飛ばすほど。

それほど――――少年の存在は異常だった。

493 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 13:39:55.33 ID:???
「いったはずだよ?ボクはどこにでもいてどこにもいない。
 安心しなよ。ワルド。僕は君の禁断の恋を応援しに参りました!!」

"シェフィールド"そう呼ばれた彼はにっこりとルイズに微笑みかけた。
思わずまじまじと少年を見てルイズはあ、と気付く。
くっきりと少年の頭から覗く二つの物体。
柔らかそうで思わずつかんでしまいたくなるような愛らしいそれは――――

「ね、猫耳ぃ?」
「そ、正解。ボクはシュレディンガー。よろしくね」

ぴょこぴょこと耳を動かしながら少年の笑みがますます広がった。
無垢で無邪気そのもの。
だがその異様さと当惑にルイズは一歩も動けず硬直してしまった。

「まあでもね、君はボクのことすぐにすっかりさっぱり忘れちゃうんだよね。…ま、そこはご愛嬌。じゃーね」

突然突き出される小さなこぶし。その中指にある指輪。
それが不可思議な光を放つ。

(あ―――――)

ぐにゃりとルイズの視界がゆがむ。
わけのわからぬまままっさかさまに暗闇へと。
意識を失う直前、ルイズは見た。
耳とは別に、少年の頭には光り輝くルーンがあるのを。

494 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 13:41:19.64 ID:???



「いいかね?なにも無理を言っているわけじゃない。ただフネを用意してくれと言っているんだ」
「それが無茶でさあ。貴族様」

港町ラ・ロシェールで言い争う声がある。
恭しく高圧的な貴族に頭を下げる年老いた船頭が答えていた。
だがその裏で折れもせずに食い下がる貴族に船頭は舌打ちをする。

「ぼ、僕はグラモン元帥の息子だぞ。命令を聞かなければどうなるかわかっているのか?」
「へえ。ですがないものは出せません」

ぐぬぬ、と苦い顔をするその貴族はギーシュであった。
彼は港にとどまっていた。
ウォルターを待て――――そうワルドに言われ彼は残っていた。
だが気が付けばその日もうこれ以降の便はないというではないか。
はめられた、そう気づいた時にはワルド達はすでに最終便にて出航しアルビオンへ向かっていた。

何とか船を出すよう説得しようにも船頭は首を縦に振らない。
苛立ちに杖を上げ実力行使をしようか考え始めた時であった。

う、とくぐもった声を上げ船頭がよろける。
ギーシュの目に映ったのはその背に刺さった矢であった。
助けるまもなく船頭は地に倒れこんだ。

495 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 13:41:57.31 ID:???
「い、一体――――」

慌てて杖を振り、繰り出した青銅のゴーレムに瞬く間に矢が殺到する。
ギーシュの目の前で見る間にゴーレムたちが串刺しとなっていく。

「う、うおおお」

ゴーレムたちは必死に剣を振り回し、迎撃する。
ギーシュはすでに限界の七体まで繰り出していた。
精神力もつきかけながらもギーシュは船頭に声をかけた。

「し、しっかりしたまえ。早く逃げるぞ」

ギーシュはゴーレムに応戦させている間に、うつ伏せに倒れた船頭の肩を引きずるように港の小屋へと退避する。
木造の小屋の狭いたった一つしかない出入口にて彼はゴーレムを盾に立てこもった。
相も変わらず矢は飛んでくる。
ギーシュは知る由もなかったが、矢を射かけているのは仮面の男のまた別に雇っていた傭兵団。
あらかじめ命令を受けていた彼らはギーシュとその船頭を亡き者にするべく襲っていた。
完全な不安要素の排除―――それが仮面の男の考えた策であった。
それが今ギーシュ達に降りかかっていた。

496 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 13:42:40.44 ID:???
「き、貴族様。こんな老いぼれなど捨てていきなされ」
「何を言うんだねきみは」

ゴーレムたちを杖で指揮をし指示を出すギーシュは棚に会った救急道具を取り出す。
包帯を取り出しとりあえずの止血を済ませると怒ったように答えた。

「平民を放っておけるもんかね。魔法が使えぬ弱きものを護るのが魔法を使うことのできる貴族の役目なんだぞ」
「き、貴族さ」
「ギーシュ・ド・グラモンだ。覚えておきたまえ」

うんざりしたように彼はつぶやくと目の前の戦いに集中する。
敵の数は見当はつかない。
だが、一個小隊に匹敵するゴーレムが手も足も出ないことから推測すると……とにかくたくさんいることは確かだ。

(まったくどうしたものか)

降りかかる矢の音を聞きながらギーシュは必死に考えた。

(この数では―――――む?)

ギーシュは耳を疑う。
矢の飛来音が聞こえなくなった。
一体何が――――そう思った瞬間小屋の入り口が吹き飛んだ。

(まずい突破された!)

497 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 13:44:30.67 ID:???
慌てて残ったゴーレムたちを向かわせるがことごとくつぶされる。
飛び込んできた黒い影がゴーレムたちを蹂躙していく。その影は一気に距離を詰め倒れ伏した船頭へと迫った。
殺す気だ。

「やめろ!!」

気が付けばその合間に無理やりギーシュは体をねじこませていた。
影が迫る。
あ、死んだなと妙に冷静な思考でギーシュは判断する。
全てがゆっくり動いて見える。

(ああ、これが走馬灯か)

反対に思考は驚くほどまわる。
最愛の人モンモンランシーの顔が浮かんだ。
結局仲直りはできなかった。ウォルターとの決闘以来あの美しい笑顔を見ていない。
あれ以降振り向いてもらおうと必死に頑張ったっけ。
今なら言える、
もう一度あの笑顔が見れるのならもう何もいらない。
だがこの敵の非情な攻撃に僕は散る。すまない。モンモランシー。最後に君に謝りたかった―――――。

静かに目を閉じ攻撃を待ち受けるギーシュ。
訪れる死の瞬間を覚悟する。だがいつまでたってもその時は訪れない。

「なんだ。ギーシュ様、か」

馬鹿にしているかのような聞いたことのある声。
ハッと目を開けると黒髪のあの執事がいた。恐る恐る見るとわずか数サントのところで鋼線を止まらせて。

498 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 13:45:46.52 ID:???
「ハ、ハハハハ、ハハ」

ギーシュはへなへなと崩れてしまった。

「大丈夫か?」
「あ、ああ。腰が、抜けた」




「汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、そして夫と・・」

ここは礼拝堂。
美麗なステンドガラスが燦然と輝くそこでワルドとルイズは結婚式を挙げようとしていた。
永久にかれぬ花で作られた新婦の花、乙女にしかつけることを許されぬ純白のマント。
どれもアルビオンの王室直々のものであり羨望されるに値するものであった。

されど王家の意匠あふれる荘厳な造りをしたその中では新郎と新婦、そして仲人以外人はいない。
皆戦争の準備に忙しく、参列客が座る何十もの長椅子には一人も座ってはいない。
そんな孤独な中で結婚を上げるルイズとワルド。
ワルドは恭しくウェールズの詔に聞き入っていた。

一方新婦ルイズの瞳の中には何の感情もうかがいしれず、何もかもが虚無。
心には何もない。あるのは意志のない肉体だけである。

「"アンドバリの指輪"……あはっ。こんなちっぽけなものが人の心をたやすく操っちゃうなんておもしろーい」

指輪をもてあそびながら教会の柱の陰でこっそりと盗み見る影―――"シェフィールド"ことシュレディンガー。
その頭に光り輝く不可思議なルーンを浮かべすっかり悦に浸っている。
彼が所持する指輪こそとある場所から手に入れた秘宝中の秘宝。
水魔法の結晶たる宝石の輝きをシュレディンガーはうっとりと眺めた。

499 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 13:47:20.57 ID:???
「新婦?」
「さあ、ルイズ。言うんだ」
「…………わ、たし、は」

感情のない声がその口から洩れる。
異質にして異様な新婦の様子にウェールズは何事か察知する。


「子爵、新婦の様子がおかしいではない―――――」
「黙れ」

どすり、と奇妙な音にウェールズは目を見開く。
閃光のごとく、杖をウェールズに向かって突き出していたワルド。。心臓にむかって素早く呪文を完成させていた。
"ブレイド"その胸に突き立てられた風の刃にウェールズの体は崩れ落ちた。

「が、は、貴様……一体何を……」
「私の邪魔をするな。亡国の王子め」
「う、ぬ、きさ、ま」

ワルドの冷たく見下ろす先で王子は力尽きていく。
ワルドはその様を何の感慨もなく見つめ、ルイズへと再び向き直る。
その目に愛しい女だけを映して。

「さあ、ルイズ。結婚を」
「………ええ……」

もう邪魔をするものはいない。
目の前の少女が自身の求める女であることに違いはないのだ。

500 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 13:49:53.52 ID:???
(あはははは)

シュレディンガーは笑う。
面白い。これだから愛に狂った人間というのは面白い。
こんなことがあるからこそ世界にはまだまだ楽しいことが眠っていると実感できる。
この上ない笑顔を浮かべシュレディンガーは二人の背へとたった一人祝福の言葉を投げかける。

「おめでとう。ワルド、お姉さん。お幸せにね」

その時――――彼の頭のルーンが消滅する。
同時にアンドバリの指輪の輝きも消えた。

「あれ?」

予期せぬ事態にシュレディンガーが頓狂な声を上げたとき、ルイズの瞳に光がともった。

「あれ?わたし、どうして―――――」
「あ、やっばあ」

まずい。
アンドバリの指輪の効力が切れた。
なぜ、と原因を究明する前にかけなおそうとルイズにかざす。
だが、ルーンを失った彼には二度と指輪は使うことはできなかった。ルイズにかけなおすことは手遅れだと悟る。

「残念。時間切れか。ま、いっか。後は頼んだよ。ワルド」

あっさりと見切りをつける。
飽きたおもちゃを投げ捨てるように。
目的のものは手に入れた―――乾いた笑いの後、シュレディンガーはまるでそこにいなかったように掻き消えた。

501 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 13:52:55.15 ID:???
「わ、ワルドこれはどういうこと?なんで……なんでウェールズ様がお倒れに!」
「……ルイズ。もう遅い。もう逃げられない。わからないのかい?」

血の付いた杖を振り払いながらゆっくりとワルドはこちらを見た。
ルイズはおびえながらも悟る。
ワルドがウェールズ皇太子を殺したのだ。
いつもの温和な笑みではなく醜悪な笑みを浮かべガシリと肩を強くつかまれた。

「ルイズ、君が必要なんだ、君の能力が!!来てくれ僕とともに!!」
「ワルド、あなた・・・!!」

ルイズは必死につかまれた手を振り払う。
信じられない。
ワルドが…幼いころからあこがれたワルドの姿が遠ざかって消えていく。
あんなに、あんなにやさしかったのに。どうして?

「なんで!!なんでこんなことを!!昔のあなたはそんな人ではなかった!!」

思わず叫ぶその声はルイズの本心そのものであった。
ルイズはワルドの胸を突き飛ばし、数メイル離れた。
新婦の様子にワルドは嘲笑で答えた。

「月日と数奇な運命の巡り会わせだ。我々はハルケギニアを一つにし、聖地を取り戻すために立ち上がった」
「そんな……ワルド……」
「さあ、ルイズ」

冷たくワルドは見据える。
逃がさぬとばかりに杖を突き付けルイズを壁際に追い詰めていく。

502 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 13:53:40.00 ID:???
やはり気のせいだった。
敵に容赦はない。助けは来ない。
何より、守ってくれる執事は今いない。
ワルドが杖を掲げゆっくりとこちらへ向かってくる。
恐怖と絶望に声が上ずりながらもルイズは必死に逃げ道を探す。

「さあ、来るんだ」

ワルドは狂笑を浮かべながら一歩一歩ルイズとの距離を詰めていた。
迫ってくる長身の元婚約者を見ながらルイズは行動を起こすべきか決めかねた。

「今の君には何もできやしない」

余裕たっぷりにワルドはルイズに優しい声音で告げるも目は残忍そのものだ。
鋭い眼光にルイズは委縮し後ろへ踏み出していた足が止まってしまう。
近ずくにつれてワルドの体が大きくなっていき威圧されてしまう。
ワルドはルイズの慌てふためくさまを見て結婚を拒否された屈辱が治まった。
どこへも逃げられるはずがないと過信しワルドは高らかに笑った。

「あきらめるんだ。ルイズ」

503 :マロン名無しさん:2012/12/15(土) 14:00:11.76 ID:???
圧倒的じゃないか我が軍は

504 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:04:58.61 ID:???
びしり、とルイズに衝撃が走る。
その言葉が―――ワルドの自分を勝手に決めつけた言葉がルイズに火花を散らせた。

"あきらめてはなりません。ファイトですぞ。お嬢さま”

脳裏に浮かぶ執事の言葉。
ああ、もう。なんでこんな時に。
どうせならここにいてくれればこんなに苦労はしないってのよ。
主をからかうようなどこか抜けてて苛立たせてくれた声を思い出しルイズは落ち着きを取り戻した。
絶望で暗くなっていた心に一筋の明かりがさし、ルイズはいたずらをする子供の様ににっと笑った。

「……?なんだ。なぜ笑う?そんな余裕があるのかい?」
「うるさいわ。黙ってなさいよ。変態」
「な―――――」

(はっ。あきらめろですって?)

暗くなっていく視界が突如明るくなった。
周りの動きが唐突にゆっくりに感じる。
あんなにも狭くなっていた世界がひどくだだっ広い。
周りの風景も妙に鮮明に見えるようになっていく。

505 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:05:59.66 ID:???
"ねえ。ウォルター。力の差がある敵に簡単に勝てる方法とか何かあるかしら?"

いつかウォルターに聞いたことがあった。
毎朝の魔法練習に励み始めたころ。
呪文を失敗し続けていた時ふと気になってウォルターに聞いたっけ。
あの時、ウォルターはどう答えたかしら?記憶の中の執事の妙な笑顔が印象的だったわね。
確かこうだったわ。執事はいたずらぽく笑って答えてた。

"む………簡単に勝てる方法、ですか。そんなものはありませんな"
"はあ〜。そうよね。そんな都合のいいものあるわけないわよね
"それにお嬢さまはそんな方法があったとしても敵の恐ろしさに身がすくんで実行できないのでは?"
"う、うるさい!"

ため息をついて魔法の訓練に戻ろうとしたとき、ウォルターの言葉があった。

"ですがそのときの心のケアならお教えすることができますな"
"え?どんなの?"

嬉々として聞いた私にウォルターは静かに答えた。

"あらゆるものを罵倒なさい。お嬢さま"

その言葉に私は一瞬言葉を失った。

506 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:06:58.50 ID:???
"――――へ?どういうこと?"
"一番在ってはならないのは、道を切り開く肝心の行動を思いつかず、失敗してしまうことですな"

ウォルターの目は真剣だったことを覚えている。
 
"ゆえにまず心を落ち着かせることから始まります。心に余裕がなければ策も何も思いつきませんから"

そう執事は答え、私に優しい目でこっちを見た。

――――その余裕を生み出すためにその敵の欠点をいろいろなあら捜しをして見つけ罵倒する―――――

"僕が言う罵倒は相手の侮蔑が目的ではありません。
 冷静さを欠いた状態というのは周りが見えなくなるなるほど慌てているもの。
だから心の中であらゆる事象を罵倒することで精神的優位を得、心を落ち着かせることが最優先です。
最初は相手そのものは無理でしょうから近くにある石ころでもなんでもいい。
物や人の欠点がわかればわかるほど自然と周りの物を見る余裕が生まれていくのです。
気が付いた時には冷静に敵を見定めることができるようになり策を考え実行することができています"

"そういうものなの?そんなんでいいの?"
"そういうものです。まあこの言葉をお嬢さまが思い出さなければ意味がないですね"
"う、うっさい!!覚えておくわよ!絶対!"

507 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:07:39.07 ID:???
ルイズは深呼吸をする。
そう言えばいつかウォルターが言っていたっけ。
どうしようもない時になったときは落ち着くのが一番だって。
落ち着けばいくらでも周りが見えるようになるって。
そのためにはまず、呼吸を整えて周りを見るんだ。

ここは石造りの礼拝堂だ。
そう言えば……周りに誰もいなかったわね。
がらんどうみたいになんにもない。
何よこの結婚式。
参列客がいないなんて結婚式として最低ね。
何万人も並ばせなきゃヴァリエールの名が廃るじゃない。そうでしょう?

礼拝堂の天井を見上げた。
無機質で圧迫感を与えてくれる石柱ね。でもフーケのゴーレムの腕よりは細いかしら。
なんだかちょっとした衝撃で壊れそうで不安だわ。
アルビオン王家ゆかりの建物だけどデザインのセンスもちょっと私には受け付けないし。
それにほら、またフーケが襲撃してきたときとかに壊れちゃったら困るわ。
トリステインならもっといいものがあるわ。そこだったら『固定化』の魔法もかかってうんと頑丈よ。
まあ万が一壊れてもウォルターが救ってくれるでしょうけど。私を抱えて逃げてくれたりして。って言わせんな恥ずかしい!

礼拝堂の様子がわかってきた。
四方は壁に覆われ出入り口はただ一つ。はるか後方の大扉だ。
距離は40メイルといったところか。
ここから走っていけば………いや、追いつかれる。つかまってしまう。

(まだよ。あきらめてたまるもんですか)

508 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:08:24.12 ID:???
でもそれはただ走ればの話だ。
こっそりと気づかれないようにルイズは腰をまさぐる。
あった。私の杖だ。
慣れ親しんだ硬い木の感触にルイズは徐々に落ち着きを取り戻していく。
もし……何かの呪文で反撃に成功してワルドを吹き飛ばせれば勝機はある。
失敗でもなんでもいいから呪文を唱え、ワルドのすきをついて扉へ駆けるのだ。

(でも……ワルド相手にそんなにうまくいくかしら)

勝率は限りなく低い。
ワルドの二つ名は"閃光"。文字通り、閃光の杖さばきで以てこちらの攻撃をいなしてくる。
最悪、こちらが呪文を唱える前に勝負がついてしまうだろう。
ルイズは唇をかんだ。

今度はワルドを観察のために見据えた。
あれが私の敵になった男。
でもどうしてかしら?あんなに大きく感じたワルドがなぜか小さく見えるわね。

ああなるほど。さっきの暴言を信じられなくて突っ立ってるのか。
あんな言葉で傷つくようなやつをどうしてあんなに恐れていたんだろう。というかなんで私逃げてんの?
売国奴なんかに。
トリステイン王国大使であるこの私がどうして怖がっているのかしら?
なによあいつ。あんなのよく見りゃただのひげ面のロリコン変態サディスト野郎じゃない。
そうよ。命の危機ってことだけどこの男を張り倒せば何の問題がないわけよね。

気持ち悪いほうけ面よね。
腕を大きく広げて固まってるけど恋人でも迎えるつもりかしら。
……え?恋人?誰が?婚約者?なにそれおいしいの?
本気で思っているのかしら?私が、この私が素直に飛び込んでくると信じているわけ?
うーわ。やばい。なんて自意識過剰野郎なのかしら。引くわね。
あ、そうよね。よく考えたら逃げなきゃだめじゃないルイズ。違う意味で。

509 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:09:06.23 ID:???
(あーあ。なんか言うだけ言ったら不安なんか消し飛んじゃった。
 そうね。絶対こいつにつかまるのはいやだわ。 うん。ファイトよ。私)

「ルイズ。一体君は何を考えて…」

言葉。チャンスだ。
喋っている今、ワルドはとっさに詠唱ができない。
「ファイアーボール!!」
「何?」

詠唱を破棄し、ルイズは意外な顔をするワルドへと杖を振り下ろした。
ルイズにはいやというほどわかっている。
自分は半人前だ。
普段は集中してやっと術の片鱗が見える程度の腕前なのだ。
そんな自分が詠唱破棄して術を行使すればどうなるかなどとうに何百回も経験している。

轟音が礼拝堂を揺るがす。
何のことはない。必然の爆発が起きただけ。ただの術の失敗だ。
だが、それでいい。
爆風の衝撃と熱がその身を包んだが気にしない。
予想通り、失敗したのを見て取ると、ルイズは踵を返し脱兎のごとく出口へと疾走する。

もくろみ通り煙幕が身を隠してくれた。
ワルドは狙いをつけられない。
三十メイル、二十メイル、十メイル、出口のドアノブまであともう少しで手が届く―――――

510 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:10:29.51 ID:???
「ふん」

ふわりと足を襲う浮遊感。
直後、強烈な風が前を襲い吹き飛ばされた。
扉へとまっすぐ向かっていたはずが逆戻りしてしまう。
ルイズは背中から司祭机に叩きつけられ肺の空気をすべて吐き出してしまった。

「あ……かは」
「おっとあんまりにも軽いものだから勢い余ってこんなに飛んでしまうとは。おとなしくしていろ。ルイズ」
「……な、なによ」

近づいてくるワルドに抵抗の眼で睨みつける。
逃走に失敗したことに絶望を無視するためにルイズは精一杯の虚勢を張った。

「まだよ。きっとウォルターがすぐに助けにくるわ」
「ウォルター?ああ、あの執事か」

クックックとワルドはおかしそうに笑った。

「無理だね。あの爆炎から逃れられるわけがない」
「え……爆、炎?どういうことよ!!」
「彼は死んだ。焼き殺されてな」

ワルドの目に嗜虐的な光が宿る。
ルイズの絶望に染まっていく顔を楽しんでいた。

「そんなことあるわけないわ!」
「ああ、確かに。万が一ということもある。切り抜けているかもしれん」

511 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:11:44.13 ID:???
たのしい思い出を語るようにワルドは告げた。まるで見てきたように自信にあふれ断言する。

「だが彼がここに来ることは不可能だ。なぜならアルビオンへと来る船はなく、すでにここは我々の仲間が囲んでいる」

まさにワルドのその発言に示し合わせたように教会の周りで轟音がさく裂する。
外から大砲の音や火の魔法が爆発する音が響く。兵士の怒号や断末魔だ。
すっかり包囲されている。逃げ場がない。

「さあ、ルイズ。くるんだ」
「いやよ!!」
「そうか、そうか、そんなにもいやか。なら仕様がない。もうよい。君は不要だ」

ワルドはルイズに向かって魔法を放とうとルーンを唱えようと口を開く。ルイズは目をつぶる。
近づいてくる死を覚悟する。
その時ある顔がまぶたの裏に浮かんできた。
ウォルターが。いつも支えてくれた執事の姿が。

「いやよ!助けて・・・お願い・・・」

ルーンが完成し終わりワルドが杖を振ろうとする。ルイズは暗闇の中、抵抗としてあらん限りの声を上げる。

「助けて!!!ウォルターーーーー!!!!!」

512 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:17:20.33 ID:???
「らああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

びくり、と突如聞こえてきた声にウェールズの振り上げた杖を持つ手が止まる。
なにごとか、とあたりを見回し警戒しようとワルドがルイズのそばから飛びのいた。
だが遅い。
次の瞬間、ステンドガラスが轟音と共に割れ、勢いよく影が飛び込んできた。
ありえないほどの勢いを持ったそれは、ワルドを蹴り飛ばす。

「ぎゃっ」

とっさのことに反応できなかったワルドは吹き飛ばされ教会の入口の扉に叩きつけられた。
無様にワルドは転がる。
羽根つき帽子は吹き飛んだ。整えられた髪はふり乱れハンサムだった顔は憤怒に染まる。
とびそうになった意識を保ち、何者かを見定めようと人影をにらみつけた。

見下ろす執事服の黒髪の少年だった。
そこには砕けたガラスが舞い散る中、教会の司祭机に堂々と立っていた。
鋼線はそこら中を動き回り、いまにも敵を切断しようというかのように舞いそこかしこに支点を捉え張りつめる。
ルイズをかばうかのように幾重にも張り巡らせた鋼線を指に巻きつけ操り挑発するかのようにその腰に手を当てている。

「夜中に集まって隠れて何をシコシコやってんのさ ロリコン子爵様!!」

怒りと、屈辱のあまり、ワルドはその不届きものに怒鳴った。

「貴様……貴様は!!」

その問いに人影は高らかに答えた。

「PEACE!! ヴァリエール家執事(バトラー)、ウォルター・C・ドルネーズ!!
 家人の危急をお救いするは執事たる者のお仕め故、これよりあんたを地獄に送る!!」

513 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:19:21.28 ID:???
倒すべき敵をその黒瞳に映しながら執事は傍若無人ながら主の元へと参上した。

「ウォルター!!」
「ッツ!!君か!執事!!」

「そうだ、そうとも、そうだとも。お前らのちんけな裏切りもその目的も今日で終わりだよ。レコン・キスタ」

「………執事い!!」

立ち上がったワルドは怒り狂う。

「やはり貴様は気に入らん!!その目、その存在!!貴様が、ルイズをあんなふうに変えたのだ!
 私に庇護を許しを求めるルイズこそが私のルイズだというに!」
 
バタンと礼拝堂が扉が開く。
ワルドの私兵隊たちが一挙になだれ込んできた。
その数は五十以上。
レコンキスタへの欲と地位に目がくらんだ兵たちはすでに正式軍としての武装に身を包んでいる。

「ずいぶんと抱え込んだな。ワルド」
「やれ!!」

ワルドの号令で傭兵たちは攻撃する。
矢を放つ。槍を突きだす。剣を振り下ろす。
それらの一切がウォルターへと繰り出された。

514 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:20:29.80 ID:???
「失礼。お嬢さま」
「きゃ」

ウォルターはルイズの首根っこをひっつかみ攻撃を後ろへ飛んで、避けた。
五十人もの傭兵たちの攻撃を全く意に介す様子もない。
司祭机を蹴り飛ばし盾にすると、傭兵たちとの間合いをはかった。

「はっ。馬鹿め。気がつかないのか?雑魚どもめ!!」

欲望に目をぎらつかせた傭兵たちをぞっとするほどの冷たい目で見据えながらウォルターは傭兵たちをあざ笑う。
血眼になっていた傭兵たちはきづく。
いつのまにか周りに、か細く鈍い光を放つ金属の糸が何本も自分たちの周りに張り巡らされていたことに。
鋼線が傭兵たちを蜘蛛の巣のようにとらえていた。
それを視認した時にはもう遅すぎた。
傭兵たちの足の周りにまとわりつくように張り巡らされた鋼線は傭兵たちの動きを止め、逃げ場をなくしていた。
死の縄張りに入った哀れな獲物たちの姿を見て死神は冷笑する。

「勝負はすでに、ついている」

ぎん!と空気が鋭い音を立てた。
ウォルターが鋼線を優雅に横に引いた瞬間、大量の血しぶきのシャワーが床に降り注ぐ。
鋼線はあらゆるものを破断した。
内装であった椅子や机は細かな十センチ四方の破片に切断された。
傭兵たちの武器はすべて切断され、武器の体をなさなくなった。
そして標的となった傭兵たちも、例外ではない。

首をはねた。胴を切断した。手首を切り落とした。指を引きちぎった。
足を刈り取った。体を左右に両断した。上顎を吹き飛した。顔を縦に割った。
それらすべての切断が、傭兵たち全員の体すべてに引き起こされた。
立っている人間は一人もいない。
血だまりの中に立つのは、狩りを終え狂的な笑みを浮かべた死神のみである。

515 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:21:48.45 ID:???
「馬鹿、な」

一人、咄嗟に風魔法によって防御壁を築いたワルドは一人事なきを得ていた。
驚いたワルドは杖を振り即座に反撃する。
"エア・ハンマー"――――その効力は空気の塊で相手を吹き飛ばすもの。
それに対しウォルターは慌てることなく腕を軽く振った。
衝撃音が響く。
だがそれは風魔法が標的を捉えた音ではなく、鋼線が風魔法をはじいた音だった。
指をすこし、動かすだけでウォルターは盾のように鋼線を素早く編みこみ防いだのである。
たやすく防がれてしまったことにワルドはまたも呆然と立ち尽くした。

「さて、お嬢さま。ご無事ですか?」
「え、ええ。ウォルター、どうしてここに?」

ルイズが突然の執事の出現に驚いていた。
それに執事はいつものように肩をすくめて答えた。

「私を呼ぶ声がしましたので。お嬢さまでしょう?あんな大声を出したのは」
「ッ!!!!バカッ!!」
その時ルイズの視界の隅に何かが映る。
「ウォルター……それ……」

ルイズは一点に目を奪われていた。
その視線に気づきウォルターはにっこりと笑った。

「ああ、これですか」

516 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:22:39.79 ID:???
ルイズの視線の先はただ一つ―――ウォルターの左手だった。
まばゆいばかりに光り輝くルーンがそこに燦然と煌めいている。
その輝きの美しさはルイズに目の前の惨状を忘れさせ見惚れてしまったほど。
ウォルターはルイズに優しく語りかけた。

「お嬢さま。これがあなたと僕の契約の証だ。ガンダールヴ。これが僕とあなたをつなぐ唯一絶対の絆だ」
「あ………」

自分に力があるわけがないと思い込んでいたルイズにとって初めて実感するその"力"
始祖の伝説の力が今、目の前の少年執事に宿っているのだ。
それは執事に、自身との契約によって生まれたものなのだ。
誇りに頬が上気する。胸が期待に躍る。
ルイズは顔がほころび思わずにやけてしまった。

「ええ!!」

伝説の使い魔のルーン、ガンダールヴ。
ひとたび発動すればあらゆる武器を自在に操り達人のごとく使いこなすことが可能であった。
まさしく敵を殲滅せしめたのはまぎれもないその力によるものだった。
ハルケギニアに来てからというもの力の制御ができず周囲を巻き込みかねなかった鋼線での攻撃。
ガンダールヴが発動できるようになった今、その心配は全くなく、鋼線を自由自在に操れる。

「何を……何をしている!」
「そっちこそ」

もちろんそんな事実をワルドが知るべくもないのだが。
ウォルターはワルドを見やった。グレーの瞳が細まった。

517 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:24:39.51 ID:???
「フーケから聞いた。裏切ったんだなワルド。裏切り者になったんだな」
「そうだ。レコン・キスタ。我々は聖地を奪還するために…」

改めてくどくどと裏切りの理由を話し始めたワルドを観察する。
道理で気にくわないわけだ。
思えば最初からこの男は気にくわなかった。
それは本能的なもので感じた嫌悪だと思ったが違う。
独特の雰囲気から来る匂い――――それがこの男に体臭のごとく染み付いていたからだ。
その匂いだけは隠せない。この僕がその匂いをたがえるはずもない。
どうしようもない内なる渇望の熱気に当てられて漏れ出してくる欲望の腐臭。

なつかしく忌まわしい裏切り者のにおい。

「口を開くな。裏切りの理由なんざそんな御大層に語れるもんじゃあない」

―――――ならばその相手はこの"俺"こそふさわしい。

「ワルド。教育してやる。裏切り者の末路がどんなものか貴様に教えてやる」

そう言うとやおらワルドめがけて鋼線を飛ばす。
ガンダールヴの力によって威力もその速度も安定するどころか倍増しにされている鋼線の一撃。
当たれば間違いなくワルドはその身を両断される。

「くっ」
だがワルドは呪文を唱え対処する。
鋼線がワルドに届くかというときにワルドは二つ名に恥じぬ速度で以て呪文を完成させた。

518 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:26:31.32 ID:???
「ほう?」

決闘の再現であった。
あらぬ方向へ鋼線が飛んだ。
鋼線が対象に触れられなければ切断することもできない。
あらかじめ引き出していたワルドのウォルターへの対策であった。
驚くウォルターを見て冷静さを取り戻したワルドはウォルターに問う。

「どうやってここに?傭兵団は?フーケはどうした?我々レコンキスタの包囲網は?」

自身の周りに風のバリアの防御魔法をはり、苛ただしげに問うワルドにウォルターは答えた。

「突破したからだ」
にやにやと笑うウォルターはぐい、とウォルターは肩越しに割れたステンドグラスのあった場所―――否、そこから覗く空を指さした。

「包囲網など関係ない。ここへは―――アルビオン上空のフネから飛び降りただけさ」
「バ、バカな!!あるはずがない!高度何百メイルあると思っている?」
「親切な船頭の爺さんがいた。それに飛び降りるなどこの僕にとっては雑作もない」
「――――ッツ?」

こともなげに答えたウォルターの常識はずれの答えにワルドはまたも言葉を失う。
だが、すぐに冷静さを再び取り戻す。
どうやって突破したにせよ、ウォルターはいま、目の前にいるのだ。
落ち着いてワルドは違う呪文を唱えた。

519 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:27:40.43 ID:???
「さて、お手並み拝見だ。風の偏在の力、とくとみるがいい。がんばりたまえ、執事君」

一斉にワルドの分身がウォルターとルイズにむかって襲い掛かってきた。

ルイズはあわててウォルターに問いかけた。

「ちょっと! ウォルター。どうするの?」
「いやあ、大見得を切った割には今の私は情けない姿ですね」

のんきにウォルターはそう答えるも手は必死に鋼線を操り、
ワルドの分身たちが放つ風魔法を鋼線で編みこんだ盾でいなし、そらし、防ぐ。
暴風、爆風―――それらは鋼線のシールドに阻むことができ一切を通さない。
これもまた、ガンダールヴの力が発動するようになった結果であった。

「どうするか、ですか。分身は本体をたたけば消えると相場が決まっておりますが」

攻撃を防ぎながらルイズに話すウォルターに焦りの色は全くみじんも見えない。
そのことにルイズは呆れるとともに、妙に安心感を覚えていた。

520 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:30:29.62 ID:???
「さてお嬢さま」

攻撃をいなしながらウォルターは真剣な口調でルイズに話しかけた。

「ご命令通り帰還いたしました。主を守ることが執事の役目です。ですが」

にっとウォルターはルイズに笑いかけた。
まるでこれから残虐ないたずらをする子鬼のような笑み。
それにルイズは思わずまじまじと執事を見てしてしまう。

「まだ命令(オーダー)をいただいていません。
 僕は―――――あの裏切り者と戦うことはできる。お嬢さまと逃げることもできる」
「え…?」

ウォルターの目は赤く光り、相も変わらず冷たい笑みを浮かべ告げる。

「僕は狗だ。走狗だ。狗は自らは吠えません。
 僕がこれからやりあう相手は、あなたの婚約者です。あなたのお父上が決めた許嫁です。それでも……戦えと命じますか?」

ルイズはごくりと生唾を飲み、ウォルターの言葉に聞き入っていた。
目をそらし、耳をふさぎたい事実をウォルターは告げているのに自然と吸い寄せられていく。

「銃は僕が構えよう。照準も僕が定めよう。
 弾(アモ)を弾装(マガジン)にいれ遊底を引き、安全装置(セーフティ)も僕が外そう。 
 けれど……引き金を引くかどうかをまだあなたは選ぶことはできます。 さぁ命令を。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」

突然のことにルイズは呆然とする。
そしてはっきりと自覚する。自身が何を仕えさせているかを認識し身震いする。
目の前の少年は信頼すべき相手であり、守ってくれる執事であり――――残虐な吸血鬼であることを。
それが、ウォルター・C・ドルネーズであることを。そして自分はその主人であることを。

521 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:31:23.83 ID:???
じっと何体ものワルドを見る。憧れだったワルド。恋していたかもしれないワルド。
それが裏切って私の前にいる。敵となって目の前にいるのだ。倒さねばならない存在として。
下唇を噛みルイズは決意する。ならば、下さねばならない。告げなければならない。

「いいわ。命令はただ一つ―――見敵必殺、よ。打ち倒しなさい、ウォルター」
「了解(ヤー)。わかりました。お嬢さま(マイマスター)」

命令を下したルイズを賞賛し、ウォルターはますます微笑んだ。
自身の下した決断が意味することを知ってなお命令を下す。
少女の成長に感激しウォルターは決意する。
では……答えてみせるとしよう。この少女の、いや主の信頼に。


鋼線が揺らぐ。
決意を新たに冷静に分身たちのすきをうかがうウォルター。
分身たちは別々の行動をするも統制された動きだった。
分身の二人がすぐに唱えられる術を放ちつつ。そのすきに残りが時間のかかる術を完成させる。
怒涛の連続攻撃に防戦一方のウォルターは手を出せない。
盾もそう長くはもたないだろう。義手によって鋼線を操る疲労は倍増している。

「ははは もう終わりかい?執事君?これで終わりにしよう」

ウォルターをあざ笑うと分身ワルドたちは全員、ルーンを唱える。
巨大な風魔法をウォルターとルイズに一斉にぶつける。
"エアハンマー"風の塊を相手にぶつける基本にして強力な術。
一発でもウォルターたちに直撃すれば間違いなく命を奪うであろう攻撃に昇華させ、分身たちは一斉に杖を振り放った。

522 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:32:53.07 ID:???
(勝った)

ワルドは確信する。この魔法でウォルターの盾は崩壊しウォルターは死ぬ。
今までの戦いの経験からワルドは確信していた。

だが、響いてきたのはウォルターたちの断末魔ではなく、数発の大きな爆音。
乾いた音が教会の天井に反響し奇妙な幻想的音楽となって響く。
3回の轟音で、直撃するはずだった風魔法はすべて掻き消え、分身3体が一瞬で霧散する。

「何――――!」
驚きの声を上げるワルド達。そんなワルド達を笑うかのように教会にウォルターの声が響き渡る。
まるで音楽とともにある聖歌をうたうかのように。

「対化け物戦闘用13mm拳銃。初の専用弾使用銃。全長39cm 重量16kg 装弾数6発」

にやりと笑うウォルターの手には大きな漆黒の銃が握られていた。
左手に鋼線を操り、右手に黒銃を構えウォルターはワルドを冷たく見据えていた。
―――かつてある吸血鬼が愛用した銃。
黒く、鈍く光る、銃の威力はワルド達の風のバリアをいとも簡単に吹き飛ばす代物である。
咆哮を上げ硝煙を立ち上させている化け物を滅ぼす黒銃は持ち主の二つ名の通り死神の弾丸をまき散らすために、いまこうしてその姿を再び現した。

「"ジャッカル"――――もはや人類には扱えぬ代物だ」
「お、おおお!!」

523 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:34:20.42 ID:???
残った分身たちが、一斉に躍り掛かる。
あるものは杖から風の剣を、あるものは強い風魔法を、それぞれが一斉に攻撃をする。
単調な攻撃に対し、ウォルターは冷静に再び鋼線を飛ばす。
分身たちはあわてて風のバリアで身をまもる。
その一瞬、ワルド達の動きが止まった時を見切り―――ジャッカルは咆哮をあげる。
轟音が礼拝堂に木霊する。
分身は消えた。瞬く間に分身はことごとく霧散しかすかな魔力の残滓を残して。

「パーフェクトよ、ウォルター」
ルイズもにっこりと笑い、全弾命中の賛辞をウォルターに送った。

一方後に残されたのは本体のみになったワルド。
ワルドは分身たちが消滅したことの悔しさに砕けるのではないかというほど歯を食いしばる。

ふざけるなふざけろこんなことがあっていいはずがない―――――
ワルドは仲良く笑うウォルターとルイズを見つめその身を怒りに震わせた。

「………そうか。なるほど。ならばこちらも全力を出さねばいけぬようだな、ウォルター、君」

ギラギラと殺気を露わにした眼でウォルターを睨みつけるワルド。
ウォルターはそんなワルドに呆れ、妙におかしくなり薄く笑った。

「へえ?全力?やってみればいいさ。裏切り者の全力などたかが知れてると思うがな」
「ふん。好きなだけ妄言を言うがいい!まだ終わってない!!」

ワルドは杖を構える。
その表情にもはや余裕の色はない。
冷静に敵を観察する眼、倒すための策を思考する頭脳、すべてを実現化するために練り上げる力。
どれもウォルターを倒すという決意のもとワルドは一挙に魔力を開放する。

524 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:35:26.02 ID:???
「行くぞ。ウォルター」
「―――――あ、そう」

だがウォルターはジャッカルを容赦なく意気込むワルドへ向けて構えた。
いい加減に消えろ―――そんな願いを込めてウォルターは立て続けに撃ちこんだ。

バチン!バチン!と空気が爆ぜる。
高らかな笑いが礼拝堂に響く。それはワルドの勝ち誇った声だった。

「見るがいい。これが私の力だ」

"ストーム"、"エア・シールド"―――詠唱を重ねて使用することで先ほどのまでとは比べ物にならないほど強固で厚い竜巻の防御壁がワルドの半径一メイルを包んでいる。
分身をせず力を一点に集約させた結果であった。
基本呪文を幾重にも駆使することによってワルドは絶対防御の風壁を作り出したのである。
ワルドの勝ち誇った表情が風の隙間から覗いた。

「私はここでは死なない。否、死ねぬのだ。私の夢を完遂するために!!私の夢は決して終わることはない」

それをウォルターは素早く分析をし見て取ると溜息をついた。

「いや、終わりだ。もうこれで終いだよ」
(……?ウォルター?)

525 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:36:30.03 ID:???
ルイズは思わずウォルターを見た。だがこちらから見えるのは後姿のみ。
けれど、その声はとても哀しみに満ちた――――

「裏切り者の力なんざ一瞬で消える。まるで夢の様にな。気付いた時にはもう何も残りはしないんだ」
 
そう言うや否や体勢を低くしウォルターはワルドへと突進する。
吸血鬼の脚力でもって矢のようにワルドの風の防御壁に身を躍らせる。

「バカめ!!」

ワルドは嘲笑う。
自爆特攻――――それが執事の策だというのならなんと下策中の下策か。
もはや術を使うまでもなく少年の体は竜巻に切り裂かれて死ぬ。
しかしこのまま死んでいくのはあまりにも惜しいとワルドは思う。
なぜならこの少年には借りがあり、かえさねばならないのだから。。
ゆえに迎撃する。
"ライトニングクラウド"。素早く唱え生成した雷でウォルターをカウンターの要領で巻きつくかのように包み込ませてやる。
杖を振り下ろし勝利を確信して笑うワルドの眼が突如見開かれた。

「な――――バカか?」

ワルドは驚いていた。
少年はその迫る雷を避けようとするどころか加速したのだ。
自身を焦がすはずの熱と衝撃が少年の体を襲っているはずなのに。
命を奪う強力な雷がウォルターへと絡みついていく。
当たる直前、ウォルターは頭をかばうかのように前で腕を十字にクロスさせた。
無数の雷の網がウォルターをからめ捕った。

526 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:40:22.71 ID:???
「らああああああああ」

だが、少年はたやすく突き破った。
ライトニングクラウドを、雷の一撃を、かすり傷一つ負うこともなしに。
止まらない。軌道も変わらない。勢いも落ちていない。
ライトニングクラウドをぶち抜き、身を斬り裂く凶器となった風壁へと肉薄し――――右腕を振り抜いた。

少年の右腕は風の凶刃に切り裂かれる。
そう確信していてなおワルドはただならぬ予感に後ろへ下がっていた。
右腕のシャツを切り裂き、その皮を、肉を、血を、骨をことごとくまき散らすはずなのになぜ――――

不幸にもその予感は的中する。
ばん!と耳を聾さんばかりの爆音めいた音と、体を何かが通り抜けた冷たい感覚がワルドを襲う。

「ほら、な。何もない。全部消える」
「―――――――」

赤くなっていく視界。止まる呼吸。動かない体。
長年の経験からワルドは敗北を悟った。

何もない虚空。
振り抜かれた少年の右腕。
風に切り裂かれ剥き出しの肉をのぞかせているはずのその腕には、鈍く光る鋼鉄があった。

「義手、だと?」

声が震える唇で絞り出せたことにワルドは驚愕し、一瞬のわずかな希望を抱く。
(まだ、私は――――)
しかし、呆然と立ち尽くすワルドの耳にその希望を潰す場違いな陽気な男の声が響いた。

527 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:41:20.82 ID:???
「なんでガンダールヴの力が今迄発動しなかったのはおいといて…。
 ま、相棒がやっとガンダールヴの力を発揮した記念だ。ひとつ教えてやるよ。
 こんな姿は俺の不本意なんだがな、一個だけ前よりよくなったもんがあるんでえ」

ぐらりと肉体が傾ぐ。
おかしい。
まっすぐ立っていられない。体が言うことを聞かない。まるで肉の塊になってしまったかのように。
ワルドはゆっくりと少年の顔を見つめた。
少年の顔は相も変わらず冷徹そのもの。灰色の瞳がワルドを無情に映している。

「焼き直されたことで、前より魔法吸収力がけた違いに跳ね上がっちまってた。
 もうこれは吸収なんて生易しいもんじゃねえな。飲み込みってのが似合う。 
 魔法の術を何十倍ものでけえ皮袋で包み込んじまうみてえだ。いやはや何が起こるかわかんねえな。長生きすると」

何を言っているのか聞き取れない。
胸に三つ、何か生暖かいものを感じる。
胸元にスープか何かをこぼしてしまったかのようなそんな感覚だ。
おかしなことにその感覚がどんどんしみのように広がっていく。

「んじゃま、あばよ。ワルドさんよ」

そうデルフリンガーが告げたとき――――ワルドの胸から大量の血しぶきがあがった。
呆然とその血を目にしながら、ワルドは信じられないといった表情で地に倒れこんだ。
死抗で幾度か痙攣するその体はまもなく沈黙した。

「言ったはずだ。ろくな末路じゃないだろう?」

ワルドの体は横に三本の裂傷が走っていた。
それはウォルターの操る得物がワルドの心臓と肺を切り裂いた証。
倒れこんだ裏切り者の顔を見つめる少年執事の右手には血を滴らせた鋼線が握られていた。

528 :執事の人:2012/12/15(土) 14:42:42.31 ID:???
すみませんミスです527と529入れ替えで

529 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:45:37.34 ID:???
「おうよ。俺はデルフリンガー。元は剣で今は相棒の右腕だ」

その声が右腕から響いてくるのだと悟ったとき、ゴポリ、と何か生暖かいものがのどを濡らしあふれた。
止まらないその液体のようなものはみるみるうちにのどからせりあがってくる。
舌にあまり口にしないが覚えのある鉄さびの味が広がった。

530 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:49:08.13 ID:???


「ご無事ですか。お嬢さま……む」

ワルドから手紙を取り返し見るとルイズが横たわる誰かのそばに立っていた。
あれは…アンリエッタの言っていたウェールズ皇太子だろう。

「ウォルター。この人をどうにかしないと。せめて持って帰って弔いだけでも…」
「…お嬢さま…」
「ん?どうしたの」
「いや、なんでもありません」

じっと亡骸を見つめる主に昔を一瞬重ねてしまう。
それを振り払い、ウォルターはウェールズに歩み寄り、その手にはめられた指輪を抜き取った。

「何を?」
「この状況では無理です。せめて指輪だけでも持って帰り姫様への証としましょう」
「ウォルター…」
「行きましょう。お嬢さま。」

崩壊する教会。だがもう手は打ってある。
もこもこと地面が盛り上がり、ひょい、と大きなモグラが穴をあけ、を頭をのぞかせてきた。
ルイズはびっくりしたがその正体に気付く。

「ビッグモール!!」
「いやあまったくこんなところにいたのかね ルイズ、ウォルター」
「お。来たか。例の人はどこに」
「君の言うとおりあそこにとめてあるが……なんでまたあんなところに……やれやれ」
のんきなキザな声がして、ひょい、と続いて頭を出した人影が一つ。

531 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:50:19.33 ID:???
「ギーシュ!!」
「ウェルダンデのおかげで港からここまで来れたがね、一体何が起きているんだい?」

ゴシャ、と大きな岩が近くに落ちてきた。ルイズはあわてた。

「教会が崩壊してるの。くわしいことはあとでいうから今すぐこの穴を通って帰るわよ!」
「なんだかよくわからんがとにかく、わかった」

こうしてギーシュ、ルイズ、ウォルターはウェルダンデのあけた穴から脱出した。
が、港はすべて敵方であろう人間でいっぱいだった。

「嘘だろう?できるわけがない。いや決まっている!」
「ねえ泣き言言ってないで脱出する方法を考えなさい、よ?」

だが船はすべて空中に係留され、なかにも敵がいるため奪うことは難しい。
たとえ奪えても動かすことはルイズたちにはできないのだ。
ルイズをこまった顔をして振り返ったとき、異変に気付く。
おかしい。何でギーシュは青ざめているの?なんでウォルターは笑っているの?
ウォルターが落ち着いて口を開いた。

532 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 14:58:13.71 ID:???
「お嬢さま、考えがあるのですが。」
「なに? 何かいい方法があるの?」
「ええ。単純かつ効果的な方法がひとつありまして。」

笑顔でウォルターが話すその様子に、ルイズはなぜか背筋に寒気が走った。
ひっという声がするほうをみてちらりとギーシュの顔を見る。
なんとギーシュの顔は真っ青どころか紫色になっている。

「ま、まさか本気か?や、め、ろ!」
「さすがギーシュ。一度目にしていたらきづくか。」
「一度?なんのこと?」

ルイズはいつのまにか恐る恐る聞いていたことに驚愕する。

「Let's skydive!」
「え?」
ルイズは聞きなれない言葉の意味が呑み込めず、きょとんとする。反対にギーシュはガタガタ震えだす。
「つまり」

533 :ゼロの執事 11:2012/12/15(土) 15:00:14.23 ID:???
ヒュパッと空が鳴る。 ルイズとギーシュの体に鋼線が巻かれた。
ルイズはおどろくもまだわからず、?マークを頭に浮かべる。
一方ギーシュは絶望をこれ以上ないくらいに表情で表していた。
「フライトのお時間です。お嬢さま」
そう言うとウォルターはルイズを抱え上げ走り出す。

「ちょっとどこへ行くのよ。は、恥ずかしいじゃ、な、い?」

どこにむかうんだろう、というルイズの疑問はすぐに解決された。

断崖といわれる地上と空の境界線。自然と生き物がいる地と対称的な果てしなく広がる虚空。
そこに向かっていると気づいたとき、ルイズの血の気がみるみる引いていく。
そして、ルイズが止める間もなく―――ウォルターはとんだ。
一切のためらいもなく、ただ真下に向かって。空中に身を踊りだした。
つながれたルイズとギーシュも道連れに。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!! いやあああああああああああああああああ!!」
(BBBBBBBBBッBBBBB!BBBBBBBBBBBBBBB?!)
「あははははははは ひゃあッほぉう!!」

冷たい風。無限の浮遊感。
悲鳴を上げるルイズ。泡を吹いて気絶するギーシュ。そして外見にふさわしく、子供のように、楽しそうにはしゃぐウォルター。
悲鳴と無言と笑い声。三人は異なる声を上げながら空中を落ちていく。

帰る為に。地上へ。魔法学院へ。

534 :執事の人:2012/12/15(土) 15:04:07.93 ID:???
11終わりです。遅れて申し訳ありませんでした。
次もOVAまでには出したいですねOVA表紙のラスボ…ゴホン。何でもありません。ではまた。

535 :マロン名無しさん:2012/12/15(土) 15:08:00.10 ID:???
乙乙、一気に進んだお疲れ様

536 :マロン名無しさん:2012/12/15(土) 16:09:03.78 ID:V++jCpBG
パーフェクトだ、執事の人

537 :マロン名無しさん:2012/12/19(水) 20:37:14.90 ID:Ffo7qDBy
http://i.imgur.com/fRJEf.jpg

538 :執事の人:2012/12/24(月) 20:56:04.57 ID:???
≫536
べ、別に初めてそんなこと言われたからって、気合入れて二話も投下するわけじゃないんだからね!
文章がただでさえ荒くて読みにくてごめんなさいとか、疲れてて完成度が残念だから申し訳ない気持ちでいっぱいなんだから!

はい。初めてふざけてみました。
すみませんでした。
クリスマスネタみたいにしてますが作品の時系列が初夏だと気づいてテンションが下がったのは秘密です。
では12、13を投下します。

539 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 20:58:29.83 ID:???
「着きましたね」
「ええ。やっとね」

やっとトリステインの王宮の前についたルイズ、ウォルター、そしてギーシュ。
三人が見上げている王宮の巨大な門。
そこには多数の兵士が警護し三人に疑いの目を向けていた。

「なんか僕たち不審者だと思われてないかい」
衛兵たちの目に気付いたギーシュが恐る恐るルイズたちに同意を求めた。
だが二人が答える前に衛兵たちがルイズたちに近づいた。
「貴様ら。城に何の用だ?」
ごつい体にいかめしいひげ面の隊長が尊大な様子でルイズたちに話しかけた。
その問いにギーシュは背筋を伸ばし揚々と答えた。
「グラモン元帥の息子、ギーシュ・ド・グラモンです。姫様にご取次ぎを」
ギーシュの答えに隊長はむう、と困った声を上げる。
「あいにく、アルビオンを制圧したという『レコンキスタ』がこちらに攻め入ってくるという噂があってな」

苦い顔で隊長はギーシュ達に向かって答える。

「戦争に備え警戒を強化している。ゆえにたとえ有名な貴族の方でも要件をうかがわずに通すわけにはいかん」
「それは…」
「申し訳ありませんがいうことができません。密命なのです」
言葉に詰まったギーシュに変わりルイズが答えた。
「姫様に確認いただければお分かりになるはずです。どうか御取次ぎを」
「しかし用件を尋ねずに取り次いだ日にはこちらの首が飛ぶ」

なおも意固地に取り次がない隊長にルイズはいらっとする。

「なによ。結局自分の保身ってこと?」
「お嬢さま」
その時控えていたウォルターが主に口を出す。

540 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 20:59:36.52 ID:???
「ここで言い争っても埒があきません。ここは後でもう一度出直すのがよろしいかと」
「うう……でも緊急の用事なのに。……わかったわよ」

ウォルターに進言されルイズたちはすごすごと引き下がろうとした時である。
鮮やかな紫のマントとローブを羽織った人物がひょっこりと顔を出した。

「ルイズ!!」
「あ……姫様!!」



「件の手紙は無事でございます。しかし、ウェールズ様は…」
手紙とともに渡された風のルビーの指輪を見ながらアンリエッタは溜息をついた。
「…そうですか。やはり父王に殉じたのですね」
王宮の居室で、アンリエッタは顔を曇らせた。
「…そういえばワルド子爵は?」
「ワルドは、裏切り者です。姫様」

ルイズは事の次第を説明する。
空族に襲われ、その頭領がウェールズ皇太子だったこと。
亡命を薦めて断られたこと。
結婚式の最中ワルドが豹変しレコンキスタの一員だと名乗ったこと。
ウェールズを殺害し、手紙を奪い取ろうとしたこと。
だが、手紙は取戻し、レコンキスタの野望はくじいたのだ。
しかし、トリステインとゲルマニアの同盟が守られたことに喜びを見せることなく、アンリエッタは悲嘆にくれる。
「あの子爵が裏切り者だったなんて…まさか…」
「姫様…」
「ああ、私が殺したようなものです。彼を選んだせいでウェールズさまが…」

陰鬱な雰囲気のルイズとアンリエッタ。
その様をウォルターはじっと見つめていた。

541 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 21:00:49.40 ID:???
(……裏切り、か)

裏切りのカタチは様々だ。
個人の利益のため、個人の信念のため、そして、個人の願望のため。
それらのために自身の主君、地位、忠義まで全てひっくるめ賭けるのだ。譲れぬものがあるために。
その者にとっては正しいのかもしれない。そのものの願い自体は誰にも否定できるものではない。
それはウォルター自身もワルドの言い分はわからないものではなかった。

だが、残された者はどうなるのか。
裏切りは何かを主に失わせる。
信じていたものの突然の消失、大切なものの容赦ない糾弾、そして決断せねばならない状況に追い込んでしまう。。
そのことに裏切り者は気付かない。否、気付いてはいるが見ないのだ。
裏切り者は主を苦悩させてしまうことを知っていながらもすでに願望へと盲進しているからだ。
主に重きを置いていたその者はすでに自身に重きを置いているがゆえに。

僕は何も言えない。言う資格すらない。
後悔には遅すぎているし、この今もある意味僕は―――――――

「……」
「姫様。心中お察しします。ですがどうか、顔をお上げになってください」
「ええ。ルイズ………」

アンリエッタは顔を覆っていた手を外す。
そこにはもう涙は流れてはいなかった。

「ワルド子爵の裏切りは信じられないことです。ウェールズ皇太子の死も耐え難いですわ」

アンリエッタはルイズをじっと見つめ答えた。
だが、先ほどの悲しみに満ちた目が、揺るがぬ決意に変化していく。

542 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 21:04:15.98 ID:???
「ですが私はこれから強く生きねばなりません。あの方の意思を継いで。
 私は、何が立ちはだかっても全てを乗り越えて、この国を治めてみせます」

アンリエッタの宣言。
それは強がりとは到底見えない。
ルイズとギーシュは目を丸くし凛としたその気迫に圧倒されていた。
その様子に気付いたアンリエッタは落ち着かせるように微笑んだ。

「ごめんなさいね。ルイズ。驚かせてしまったわね」
「いえ。そんなことありません」
「……ありがとう。ルイズ。ああそういえば」

きびきびとした足取りでアンリエッタは居室の机の引き出しから何かを取り出しルイズに差し出した。

「これを」
「これは…?姫様」

驚きの声を上げるルイズにアンリエッタはにっこりとほほ笑んだ。

「始祖の祈祷書です。ルイズ」
「そんな!国宝ではありませんか!」

アンリエッタから渡されたもの。
それはトリステイン王家に伝わる伝説の書物―――『始祖の祈祷書』であった。
古びた革の装丁がなされた表紙。三百ページはあろうかという本。
六千年前始祖ブリミルが神に祈りをささげた際に読み上げた呪文が記されているという伝承つきの本である。
それを私に差し出してどういうつもりだろうとルイズは戸惑った。
ルイズの戸惑いを見抜きアンリエッタは説明する。

543 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 21:05:16.21 ID:???
「あなたたちのおかげで同盟は無事締結され私とゲルマニア皇帝との結婚が執り行われるでしょう。
 その時、トリステイン王家の伝統で王族の結婚式には貴族から選ばれし巫女を用意せねばなりません。
 この水のルビーとともに『始祖の祈祷書』を手に詔を詠みあげる人を。
 私はあなたにその役をしてもらいたいと思っています。受けていただけますか?ルイズ」

「み、詔ですか?そのような大役を私にですか?」

いきなりのアンリエッタの申し出にあわてるルイズをアンリエッタは困ったように見つめた。

「あら。やっぱりだめですか?」
「め、滅相もありません」

自分を巫女に選んでくれた王女アンリエッタの期待。
それに答えなくてはならない。ルイズはキッと顔を上げた。

「わかりました。謹んで拝命いたします」



晴れた昼下がりのトリステイン城下町。
王宮を出たあと、ルイズ、ギーシュは周囲を見渡した。
周囲には忙しい人々の群れがある。一休みにと、近くの人気ない酒場に入った三人。
ルイズ、ギーシュは椅子に座り、申し合わせたかのように溜息をつくと机に突っ伏した。
王女との謁見を終えやるべきことを終えた二人は緊張の糸が切れ―――

544 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 21:05:52.99 ID:???
「もういや、いや、いやあ」
「ああ、始祖ブリミルよ。この地上に帰れたことを感謝します。
 もう決して浮気などいたしません。モンモランシー。僕のモンモランシー。どこだい?会いたいよ」

この世のものとは思えぬほどの呻き声を上げた。
貴族の少女と少年は思い出したくもない悪夢を見たかのように顔が真っ青であった。
その後ろで従事していた執事の少年が心配して声をかけた。

「大丈夫ですか?お嬢さま?ギーシュ?」
「「あんたのせいでしょうが(だろ)!!」」

がば、と二人は執事を睨みつけて非難する。
すると執事は心外と言ったように肩をすくめた。

「僕のせいですか?」
「ふ、ふざけないで。あんな思い二度とごめんよ!一体何考えているのよ!
 アルビオン大陸の断崖から飛び降りなんて…無事で済むわけないでしょうがあ!」
「そうだ!もしあの下に僕が助けた船頭の爺さんのフネがなけりゃ僕たち今頃死んでいるんだぞ!」
「そんなことはありません。なかったら落下距離が三百メイルから三千メイルに変わるだけ。何を大げさに」
「「"だけ"じゃないでしょ(だろ)〜〜〜!!」」

怒鳴るルイズとギーシュにウォルターはケロッとした顔で答えた。

「何を言うかと思えば。飛び降りなど僕は若いころにはあの程度、朝飯前。
あんなもので悲鳴を上げ、不満を言うなど最近の若者は軟弱じゃないですか」
「若いころって!最近って!あんたもその一人でしょうが!」
「あ――――まあ確かにそうですね。でもそうではないのですか?」

ルイズは改めてまじまじウォルターを見て思う。
何でもしてくれる有能な執事と思っていた。
だがときどきこの少年の基準は、ずれていると思わざるを得ない。
ためらいもなく天空のアルビオン大陸から飛び降りても何の危険はないと判断しているのだ。

545 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 21:07:16.43 ID:???
う、と口元をおさえるルイズ。
思い出しただけで数百メイルから落ちた恐怖と絶望がフラッシュバックし吐き気がする。

死んだと思った。
命綱もなく、レピテーションも意味がないほどの速度がついてしまい死を覚悟した。
顔面を襲う風。消えることのない浮遊感。
きっと体がばらばらになるような衝撃が走るに違いない。
無駄とわかっていても落下の衝撃に耐えようと目を閉じた。
直後、何かに抱えられ小突かれたようなわずかな衝撃があるにはあった。
だがそれっきりで何秒たっても想像した衝撃が襲ってこない。

(旦那ぁ、ご無事ですかい?)

見知らぬ老人の声が聞こえたとき恐る恐る目を開けた。
上を見るとアルビオン大陸が見える。下を見ると木製の甲板があった。
ここはフネの上にいるのだとわかるとルイズたちはへなへなと崩れ落ちていた。

ウォルターが言うにはギーシュが助けた船頭が恩に報いるために快く自分の持つ小型の船を出してくれたらしい。
それで助けに来ることができたと。
だがそんなことよりもルイズが気になったのは別のこと。
落下の衝撃をもろに受けたはずのウォルターはぴんぴんしている。
なんで、といぶかるルイズに対するウォルターの答えにルイズは仰天する。

(足が衝撃を吸収しました。体が頑丈ですので)

その常識はずれの返事に、ルイズはウォルターに怒りのあまり殴りかかった。またもあっさりとよけられたが。

546 :マロン名無しさん:2012/12/24(月) 21:08:15.91 ID:???
支援

547 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 21:08:33.68 ID:???
「まったく最近の若者はこの程度で悲鳴を上げるなど情けないにもほどがありませんか?お嬢さま」

(……もうこの執事に"常識"って枠を求めるのは無駄なのかしら。)

助かったことがうれしいやら恐怖を味わわせたことに怒りを覚えるやらごちゃごちゃの感情がルイズの中で渦巻く。
くどくどと反省するどころか説教を始めた執事に次第に苛立っていく。

(…確かにアルビオンから脱出できたことはできたけど………あんな思いをさせたウォルターに感謝は絶対にいやね。
 こいつ、自分の年でできることを私たちもできるってきっと勘違いしてるのよ。こっちは吸血鬼でもないんだから
 付き合わされるこっちの身にもなってほしいわね)

相変わらず澄ました顔をしている執事の横顔を見ながらルイズは思う。
納得がどうしても行かない。こんな風にやられて黙っていられるもんか。
そのとき、ルイズの眼にあるものが止まる。ははん、とルイズはあることを思いつき一人ほくそえんだ。
こそこそとルイズとギーシュは話し合った。

「君の執事はその……何も反省していないようだ。どうにかならないのかね」
「そうね……でも大丈夫。反省は無理だろうけどこの執事を懲らしめる方法は知ってるわ」
「え……なんだねそれは?そんな方法があるのかい?」
「ま、見てなさい」

548 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 21:08:57.25 ID:???
仕返ししてやる。
そう思うとルイズの持ち味のプライドの高さが出た。

「ふん。助かったけど…あんな思い二度とごめんよ。いいわね?」
「はぁ。お嬢さまがそうおっしゃるのでしたら」

ルイズはウォルターを観察する。
きっと反省してはいない。さらには何が悪かったのかきづいてはいない。
これでは本質的な解決になってはいない。ならば、同じ恐怖を味あわせねばならないではないか。

「ところで、ウォルター。行くところあるでしょう?」
「は?お嬢さまがですか?」
「ううん。ちがうわ。ほら、これよ」

つん、とルイズはウォルターの体のある個所を小突く。
小さな力ならばそれは普通ならびくともしないはずである。
だがそれは悲鳴のようなきしみを上げて―――――――ウォルターは目を見開いた。

549 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 21:10:46.64 ID:???
「あー客来ないわねえ。それだけ世の中平和ってことだけど!暑い中の掃除ってのも気分が下がるわ」

ぼやきながら汗をぬぐう金髪の少女。
工房の中の雑多なゴミを払い、掃除の真っ最中である。
いる部品いらない部品をわけ、戸棚に整理していくのは骨折りである。
とりわけ今は工房の熱でうだるような熱気が少女の苛立ちに拍車をかける。
終わらない作業に嫌気がさし始めてきた。

チリンチリン、と呼び鈴が鳴った。

「お、来た来た〜。客ね。はいはい今出ますよっと。いらっしゃいませ―――あら?」

勢いよく扉を開けてみてみれば見たことのある顔に少女は目を丸くする。
目の前には三人。
うち二人は見知った顔だ。あたまを掻きながら気まずそうな顔をした執事の少年とあの桃色の髪の少女。
もう一人は見たことのない金髪の少年だ。
執事の少年―――ウォルターは少女の顔を目にするとおずおずと口を開いた。

「あ――――お嬢さん。相変わらず元気そうですね。あなたのほほえみはまるで日の光のようです」
「あら、そんな世辞を言っても何にも出ないわ。なぜかうれしくもないし。いつぞやの執事じゃない。どうしたのよ?」
「あー、それは……」

様子が変な執事の目が一瞬泳ぐ。
逃げ出すかのようにわずかにその体が動いたように感じた。
だがよく見るとその左腕はがっしりと少女にホールドされ動けなくしている。
一体どうしたことか、と戸惑う少女の目の前で桃色の髪の少女がにっこりと笑う。
ゆっくりと反対側の執事の腕を上げていき―――――

550 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 21:12:47.47 ID:???
ボロリ、と義手の手首から先が落ちた。けたたましい音を立てて中のパーツが散らばっていく。
それを気まずそうに執事は下に落ちたものを見つめている。心なしか震えているようだ。
顔を上げた執事の少年はぎこちない笑みを浮かべた。
しばし見つめた後、金髪の少女も負けじとにっこりと笑う。事情は分かった。それはもう本当によくわかった。

「ようこそ。さ、はいんなさい」

明るい声で歓迎を示す。

内に秘めた感情を今みせてはいけない。だって玄関の掃除が大変になるじゃない。
ああ大変よね。まだ掃除が終わらないなんて。いやあやり甲斐がでるわ。うふふ。ウフ腐腐フ腐フフフ。
さあ、処刑(しごと)の時間だ。
少女の手にはどこからともなく取り出したスパナがのぞいていた。




工房では耳慣れた音が響く。少女が一生懸命スパナをふるう音だ。
だが今日は違う。
その音はどう聞こうとも金属をたたく音ではない。鉄よりもやわらかいものをたたく鈍い音である。
怨念にも似た叱責を一言一言言うたびに少女は力を込めていく。

551 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 21:14:05.94 ID:???
「まったく、あれほど、壊すな、と、言って、たでしょうが!!」
「」
「来るときは連絡の一つ入れろっての!あいつじゃあるまいし!」
「」
「聞いてんのかこら!」
「あの、じゃあそのスパナをふるう手を止めてくだ」
「あら、まだ口答えできるの。患者は動かないようにしておかなきゃダメじゃないあたし」
「……ひどい。理不尽だ。もう勘弁してくれ」
「何か言ったか、し、ら?」
「痛い―っ―――」

ウォルターが折檻されている様子をルイズは楽しそうに眺めていた。
ギーシュは恐る恐る少女を見ながら聞いた。

「彼女は一体何者だい?」
「え。あの子?ウォルターの義手の整備士の人よ。名前は諸事情で言えないけど
 私たちはわかんないわ。けれどウォルターはあの娘とこの場所には本当に弱いの。
 たぶんギャグ時空の固有結界というやつ?ウォルターも思うように動けないみたい。凄いわよね」
「は、はは。働く女性はたくましいな……じゃなくて」

ケロッと自然に答えたルイズにギーシュは納得しかかった自分が恨めしく感じた。

「どうして彼女はあのウォルターをあんなにしてしまえるんだ?」

この言葉にもルイズは肩をすくめて答えた。
「オホン。まあ冗談はおいといて。あの子はね、機械オタクよ。
自分のお気に入りの物を壊されるとすごく怒るの。それはもうすごーく。
で、あの子のお気に入りはウォルターの義手。滅多に出回らないレアものよ。
それを壊しちゃったもんだから…あんなふうにウォルターを描写できない風にしてしまうの」
「なるほど、わからん」

ルイズの答えにギーシュはやれやれと首を振りながらも喧嘩をする二人を眺めた。

552 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 21:14:57.70 ID:???
相変わらず少女は容赦のない攻撃をウォルターに加えながら激しく責め立てた。

「大体おかしいわよ。何で固定化の呪文をかけてたのにぶっ壊れんのよ」
「し、知らな」
「知らないで済むかア!!!」
「―――ッツ!!」

固定化―――物質の組成を保存する魔法だが、これを利用しアレンジを加えて義手を強化していたのだ。
だが結果はどうだ。
よほどのことがない限り、義手が壊れることはないと確信していたのにこの執事は見事に壊してくれた。
許さない。許せるはずもない。許す気もさらさらない。
振り上げたスパナを持つ手に力がこもる。万力を込めて振り下ろす―――――

「あーたぶんそれは俺のせいだ」

ピタリ、とその手が止まった。懐かしい哀れな元インテリジェンスソードの言葉に少女の逆流する血は少し治まる。

「へえ?どういうこと?」

それでもスパナを手放さずに鉄板と化したデルフリンガーにイライラと訊く少女。
その迫力は阿修羅をも凌駕しており、数千年を生きてきたさしものデルフリンガーもたじたじとしてしまっていた。

「いや、あのな、オレの魔法吸収力が跳ね上がってるせいでかけられてた『固定化』の魔法も吸い込んじまったんだな。
 それで相棒が竜巻なんかに突っ込むもんだから衝撃に耐えきれずに壊れちま」
「なあんですってえええええええええ!!」
「ギャアアアアアアアア」
「デルフリンガー!!」

553 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 21:15:57.45 ID:???
デルフリンガーのフォローは火に油を注いだだけ。
ガアンと小気味よい音を立て鉄板のデルフリンガーは吹き飛んだ。
少女がスパナで思いっきりデルフリンガーを叩きのめしたのである。
少女の怒りに燃える目がこちらを見据えた。
ウォルターは思う。今の目の前の少女は喰人鬼や出来損ないの吸血鬼なんぞとは比べ物にならないほどの迫力だ。

「よくないわよ。寝ぼけんじゃないわよ。冗談じゃないわよお!!
こんな芸術品を竜巻に突っ込ませるなんて馬鹿じゃないの?なに?かっこつけでもしたの?」
「う、うるせ」
「馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの」
「――――ッ!」
今度は言葉攻め。やることなすこと全てを上回る少女にウォルターは何も言えなくなった。
「あ、あきらめな相棒。お前さんはこの嬢ちゃんに一生かかっても勝てねえよ」

ため息をついたかのように鉄板を震わせるデルフリンガーの言葉にウォルターもまた頭を抱えため息をつく。
そんな執事を慰めるようにデルフリンガーは優しく告げた。

「元気だしな。いいこともある。ガンダールヴの覚醒で、神経接続が完璧になった。これでもう違和感なく腕を使えるぜ」
「本当か?そりゃあよかっ」
「だから全然よくないっての。このクソマメチビがーーーーーーー」
「ガハ―――な、んで?というかちがうだろうが―――――」

少女が投擲したスパナが頭にクリーンヒットしウォルターの意識は飛びかけた。
ごそごそと整備机の上で物を漁りながら少女は不機嫌に言った。

554 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 21:17:18.18 ID:???
「反省しろってのよ。……ま、確かに。あんたはもうリハビリの必要はないわ」
「だったらなんで……」
「うっさい。口答えすんな。
 リハビリに通院させて金をがっぽり稼ぐという目論見がつぶれ…オホン。
 義手の修理と全く固定化の呪文をかけなおすのにどんだけ手間がかかるか考えたことあんの?」

スパンとウォルターの頭を軽くたたく。
その手には修理し終えた右腕の義手が握られていた。
ぐったりとした執事に義手を近づけながら今度はルイズに向かって言った。

「ちょっとそこのあんた」
「あによ」
「今日一日は執事さんを安静にさせなさい。絶対に無理させちゃだめ」
「え?ほんとに?」
「そ、まあでも当分この執事は動けないだろうけど!!」
「ッでぇ!!」

情けない声を出しながらウォルターは目を回す。
少女が思いっきり義手を接続部に挿入し、神経がつながったことによる反動の痛みが総身を襲ったのだった。

「ふん。それにこいつかなり疲労がたまってるみたい。このままじゃ死んじゃうかもしれないわ。
 一つ忠告してあげるわ。お嬢さん。
 執事だか何だか知んないけど下僕の無理を見抜くのは主の仕事よ。いい?」
「うん。わかったわ」
「ならよし……ほらあんた、しっかりしなさいよね。男の子でしょ。まったく最近の子は根性ないわねえ」

ねじを強く締めながら整備士の少女は呆れていた。ウォルターは無様にも目を回している。
ルイズとギーシュはガシッと強く手を握るのだった。

555 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 21:18:12.79 ID:???



無事帰還しアンリエッタに無事に手紙を届けた日から数日が無事に過ぎたころ。

闘争のない平和なトリステイン魔法学院。
アルビオンから帰ってきたウォルターは主にしばらく休みなさい、と言われ棺桶に横になって眠っている。
疲労がたまっていたウォルターはひさしぶりにすやすや眠っていた。

ウォルターの眠っている棺桶は以前厨房からもらった木材でできていた。
棺桶は昔から吸血鬼の必需品といわれる。
吸血鬼は生まれた地の土を棺桶に入れたり、またはその土で棺桶を作ることで力を回復する。
ウォルターは召喚された日に服にこびりついていたわずかばかりのイギリスの土を布に詰め棺桶の隅においていた。
実際に力は回復することはできた。
ゆえに、ウォルターは安心し、その日以降ずっと寝床に棺桶を使っている。
いまや棺桶はウォルターが安心できる居場所の一つになっていたのだった。

ウォルターが眠っている中、その棺桶をじっと見ているものがひとりいた。
ルイズである。
棺桶のふたが少し開いており、その隙間からウォルターの顔がのぞくことができる。
ルイズはウォルターがいままで廊下で寝ていたということを聞いて別に部屋にいてもいいわよと言って
ウォルターの棺桶を自分の、ルイズの部屋に入れさせたのだった。
部屋は少し狭くなったが、ルイズにはなぜか部屋が前より広くなったと感じていたのだった。

556 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 21:19:13.54 ID:???
ルイズはじっとウォルターを見つめ続ける。
眠っているときは年相応にかわいい顔をして眠っているのに、こと主に仕え、
執事の仕事をするとなったらまるで大人のような貫録を見事に見せつける。
たしか、年は自分と同じくらいではなかったか?
「今は」とか言っていたのが少し気になったが。

なんで自分と同じくらいの少年があれほどのことをできるのだろう?
ウォルターの働きぶりを見るたびにルイズはそう思わずにはいられない。
いったいどんなことをしてきたら顔色一つ変えず魔法使いと互角以上に渡り合うことができるのだろう?
どうして主の心や敵を観察するのに長け、私からの命令を見事にこなせるのだろう?
ウォルターを見つめながらルイズは純粋に心から思った。

それと同時にやりきれなさがルイズの心に浮かんでくる。
すべてを成功させるウォルターに対して自分はどうか?なにもしていない。
魔法は成功しないし、キュルケのような美貌もない。
できるのはウォルターへの命令だけ。考えれば考えるほど自分に対して嫌気がさす。
なにかできないか、とルイズはひとり考えるのだった。
しかし考えどなにも浮かばない。
とほうにくれていたそのとき部屋の外の廊下で誰かの声が聞こえてきた。

「ねえ、これを受け取ってくれないかしら?」
「なんだね?これは」
「ふふふ いいものよ。私が作ったのよ。あとで飲んでみてね。」
「な、なあ。その笑いはどうしたのかね?」

557 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 21:20:08.86 ID:???
そんなやり取りを聞き、思いつく。そうだ、なにかつくってあげればいいだろう。
ルイズはそう思いごそごそと部屋の隅から何かを取り出し、いそいそとウォルターに気付かれないよう部屋から出て行った。

ルイズが思いついたのはウォルターへのプレゼントだった。
日頃、自分に尽くしてくれている執事に感謝の意を込めて。そういえばウォルターは服をあまり持っていない。
執事服以外何も持っていないのではないか?

そのことに気付いたルイズは服を作ることにした。
ルイズは編み物が趣味だった。小さいころ親に教え込まれたのだった。
だが趣味とは言っても上手ではなかった。
最近までは。
以前にウォルターが執事服を作っていた際、ルイズは編み物のコツも聞いていた。
そのためうまく作れるようにはなっている。

「とりあえず編み物で言ったら・・・セーターかしら。」

そう考え、部屋のいすに腰掛け、編み物をしようとしたとき、はっと思いだす。
そういえばウォルターのサイズっていくらなんだろう?
肝心の大きさを測ってからの方が失敗しないのではないか?
そう思いウォルターの方を見る。
棺桶の隙間からのぞく、ウォルターのあどけない寝顔。気持ちよさそうに寝ているようだ。
なら、とルイズはこっそりと棺桶へ忍び寄った。

558 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 21:20:55.38 ID:???
数分後、こっそりウォルターの棺桶のふたを完全に開いたルイズ。
音を立てないように開けるのは苦労したが、なんとか成功したのだった。
さああとは・・・
ドキドキしながらわきわきと手をくねらせるルイズ。ウォルターはそんなルイズの様子に全く気付かない。
心なしかルイズの息は荒くなっていて―――――

「なにしてんだい。嬢ちゃん」
「わあ!」

思わず後ろにしりもちをつき目を丸くする。
忘れていた。そうだ。こいつがいた。ウォルターの右腕、デルフリンガーが。
カパカパと装板を動かしながらデルフリンガーはルイズに問いかける。

「夜這いかい?随分と積極的なこって」
「ち、違うわ。ウォルターのスリーサイズを測るだけよ!」
「言葉おかしくねえか?ま、いえることは………変態だな。嬢ちゃん」
「へ、変態ぃ?私が?ち、違うわ。これは主として私が知らなきゃなんないことよ」
「相棒の世界じゃそれをセクハラっていうらしいぜ」

そのとき、うーんとうなり声を上げウォルターが左へ寝ころんだ。
ドキリ、とルイズの心臓は高鳴ったが、ウォルターはそのまま寝息を立てている。

「はああ」
「別に俺は止めやしねえがどうなっても知らねえぞ。しばらく時間おいたらどうだ?」
「いやよ。こんなチャンス滅多にないもの」
「そんなに躍起になってまで……ああ、それ編み物か。なるほど確かにサイズがわからなきゃいろいろと不便か」
「でしょ」

559 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 21:21:56.19 ID:???
ふふんと胸を張るルイズにデルフリンガーはあきれた。
胸の張りどころは違うと思うのだが言っても無駄だろう。
 
「まあ相棒の今の姿勢じゃ測るもんも測れねえだろ。もう少ししたら変わるだろうからその間俺と話すかい?」
「ふーん。ま、いいわよ」

そういえばこのデルフリンガーとまともに話すのはこれが初めてだ。
思わぬ会話の機会にルイズは興味をひかれた。

「じゃあ俺から聞こうかね。そうさね、ずっと聞きたいことがあったんだ。なあ嬢ちゃんがこいつを召喚したんだよな」
「そうよ……ってなにをいまさら?」

何を聞くかと思えば、とルイズは小さな眉をひそめた。
そんなルイズをデルフリンガーは落ち着かせる。

「まあまあ。…で契約はちゃんとしたか?」
「――う、あ―――――し、したわ!!―――って思い出させないでよ!恥ずかしかったんだから!」
「そういや衆目の前でしちゃったって言ってたな。なら記憶に間違いはねえと。
 おいそんな鬼みてえな顔するなって。ま、なるほどな。そうか……なら思い違いか?」
「あによ」
「いや、気になることがあってな」
「なにが?」

真意のつかめぬデルフリンガーの言にルイズは頭に疑問符を浮かべる。
デルフリンガーはしばらく考え込むかのように答えなかったがやがて重々しく口を開いた。

「相棒のルーンの力がな。なんというか、その、な、弱いんだ」
「え?」

突然言われたことを理解できずルイズは硬直する。
淡々とデルフリンガーは続けた。

560 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 21:23:41.12 ID:???
「先代のやつに比べたら半分の力もねえ。"不完全"って言葉が正しい。
 武器を操ることはできることはできるんだがな、それにしちゃ得られるパワーや敏捷性の上昇の幅が小さすぎる。
 こりゃあガンダールヴの見習いもいいとこだ。ま、でも戦闘に関しちゃ相棒はプロだから問題ねえんだがよ。
 訊けば契約は正規通りだし、なんでこうなっちまったのか皆目見当がつかねえ。
 娘っ子、知ってたか?今までこいつはガンダールヴの力で戦ってきたんじゃねえ。
 あくまで自分の技術だけで戦ってきたんだ。これは忠告だ。あんまり相棒を酷使しちゃだめだぜ」
「え――――?」
「気が付かなかったのかい?」

意味が分からない。この元剣は一体何を言っているのか。
ガンダールヴは伝説の使い魔だ。自在に武器を操るその力。
けれどウォルターは鋼線と銃以外の武器を使ったことがないため自在に、かどうかもわからない。
それが弱いといきなり言われても実感が湧かないのは致し方なかった。

「じゃあ、"完全なもの"とやらにするにはどうしたらいいのよ?」
「知らね。前よりも激しいキスでもすりゃいいんじゃねえの?」
「できるか―!!」
「おっと相棒が起きちまうぜ」
「ん――――――――」

素早く口をおさえたルイズは憎々しげにデルフリンガーを睨みつけた。
その視線をどこ吹く風、とデルフリンガーはさらに続けた。

561 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 21:24:52.56 ID:???
「じゃあ、もう一つお嬢ちゃんに確認と頼みごとだ。嬢ちゃんは相棒のこと好きだろ?」
突然の不意打ちにルイズは慌てた。
「な―――――ナナナナナナナナニヲイッテイルノカシラ」
「図星か」
「違うわ!違うったらひが――」
「あ、噛んだ」
「うるひゃい」

痛む舌をおさえながらルイズはまじまじと義手を見た。痛みが治まるとルイズは深呼吸し、気持ちを落ち着ける。

「わ、私が、公爵家の三女のこの私が執事風情を好きになるなんてありえないわ!」
「へえ?じゃ、どう思っているんでい?」
「べ、別に。と、とても有能な執事とはおもっているわよ。……ちょっとずれたとこがあるのが玉にきずだけど」
「ふーん。そうかい」
「あによ」

含みのある言い方が癪に障る。この元剣は何が言いたい?

「覚えてるか?ガンダールヴの力がまともに発動したのはアルビオンへの旅のときだって」
「ええ。そう言ってたわね」
「じゃあここで質問だ。なんで今迄発動しなかったと思う?」
「知らないわよ」
「はあ。それもな、おもに契約が不完全なせいなんだよ。この相棒とあんたのがな」

驚きに眼を見開くルイズに構わずデルフリンガーは続けた。

「ガンダールヴは心の力を源にしてる。
けど契約が不完全なせいで発動すらよっぽどの心の震えがなきゃまともにできやしねえんだ。
しかもなんかの拍子でいつ消えてもおかしくねえ。気をつけな、嬢ちゃん」

舌がざらつく。頭がうまく働かない。

562 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 21:26:52.08 ID:???
「なんでよ――――どうしてそうなってるの?私の魔法が失敗したせい?」
「……いんや。わかんねえがそれは違うと思う。力が弱いのはたぶん嬢ちゃんのせいじゃねえ。
 弱いと言ったがきにすんな。今回のガンダールヴはこの程度かもしれねえし。
 オレが気にしてんのはな、ガンダールヴの発動についてさね。
 ガンダールヴの発動は心の震えだ。それについて嬢ちゃんに相談してえことがあるんだ」

ルイズの言葉にデルフリンガーは静かに答えた。

「俺は心配してる。この執事をな。義手になって身近で触れてるとわかるんだ。
 相棒の中にはどす黒い何かが潜んでる。そのせいで相棒は苦しんでる」
「…どういうこと?どす黒い何かって何よ?」
「わかんね…」
言いにくそうにしながらも、デルフリンガーは続けた。
「けどよ、それが相棒を苦しめて悩ませてただでさえ必要な心の震えを消しているのは確かだ。
 俺には何も出来ねえ。俺はただの右腕だからな。
 けどよ、お前さんにはその潜んでる何かを何とかできると思うんだ。

 前の旅でこいつはお前さんから勇気をもらった。
 おかげでこいつの心に一筋の光が差し、震えを起こし、ガンダールヴの力を覚醒させた。
 その力は相棒に自在に鋼線を操らせ、爆風すらたやすく防いで見せるほどだった。

 俺はな、お嬢ちゃんが相棒の心の光になってほしいんだ。
 これから先、相棒は様々な困難に遭う。それこそ相棒一人じゃどうしようもないことがな。
 けどあんたとの契約の証であるガンダールヴの力がありゃ切り抜けられるかもしれねえんだ。
 武器を操る力じゃねえ。心の震えが今の相棒には必要なんだ。頼めるかい?嬢ちゃん」

ルイズは何も言えず、義手を見返した。
そしてウォルターを見る。
引き込まれてしまうような美しさを持った顔だ。すやすやと寝息を立てるその姿からは到底何かを抱え込んでいるようには見えない。

563 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 21:27:45.42 ID:???
ルイズはあることに気付く。
そう言えば……私は何もウォルターのことは知らなかった。
今まで教えてもらって導いてもらっているばかりで、ウォルター自身のことを一つも知らない。
わかっているのは優秀な執事であることと、そのひととなり。
ウォルターの性格についてはある程度は把握しているけれど、ウォルターの過去を何も知らない。
これまでそんなことを気にする必要もなく、自分のことで手いっぱいだったからだ。

けれど、今は違う。
冷静に自分の力を見つめられるようになった今、気付けなかったことに気付き始めたのだから。

ルイズの脳裏にこれまでのウォルターの姿がよみがえり、様々な疑念が頭をもたげた。
召喚した時、どうして血まみれで瀕死の体で来たのか。
契約をしろと言った時、なぜあれほど淡々と受け入れたのか。
ワルドとの戦いの時、何があんなにもウォルターを激しく激昂させたのか。

(―――――僕には、あなたと踊る資格はありませんから)

もっともおかしいと感じたのはフリッグの舞踏会の時だ。
あの時気付かなかったが、誘いを断ったウォルターの表情が印象的だった。
ウォルターの陰に隠れたその顔はそう、とてつもなく哀しげだった。
私の誘いを拒否しているのではない。私自体を拒むかのように。
資格はない――――そう言ったのは果たして身分の差のためであったのだろうか。

今まで自分のことばかりで気付かなかった。
よくよく考えれば、思い当たる節はいくらでもあったのに気付けなかった。
いや、気付こうとしなかったのかもしれない。
あんまりにも完璧な執事だと信じてしまっていたから。

564 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 21:28:41.93 ID:???
今まで私を守ってくれたウォルター。完璧で非の打ちようない執事だけど、それはほんの一面にすぎない。
もしデルフリンガーの言うとおりその心に何かを抱え込んでいるというのなら、それを理解してあげられるのは主だけだ。
放っておけない。なぜかそんな気がする。
それにウォルターを見てると胸が高鳴る。おだやかな心になれる。
ウォルターの持つ謎めいた雰囲気がそんな気を起こさせているからだ。

ルイズはじっとウォルターの寝顔を見つめた。相変わらずウォルターは眠ったまま。
可愛らしいと感じる年相応の顔だが起きれば完全無欠の執事の顔に戻るのだ。
そんな執事に私はひかれているのだろうか、と思う。

この気持ちが何かわからない。けれど、わからないままにするのもいやだ。
この少年は私の執事だ。ただそれだけの存在だ。
だがそのただそれだけの存在がこのヴァリエール公爵家三女の心をかき乱すなんて生意気ではないか。
ならその理由を探すためにも私がその心をこじ開けて潜んでる何かとやらを引きずり出してやる。
ずけずけと私の心を踏み荒らして出て行かれて黙っているほど、私は優しくはないんだから。

ルイズは決意したように柔らかな微笑みを浮かべた。

「………うん。よくわかんないけどわかる気がする。任せなさいデルフリンガー。何とかしてみせるわ」

笑顔で答えてみせたルイズにデルフリンガーはやんやの喝さいをする。
手はなかったがカパカパと喝さいのような音をウォルターを起こさないように立てた。

「おう、その意気だ。いやあやっぱり嬢ちゃん相棒のこと好きなんじゃあ」
「ねえデルフリンガー。私、義手のはずし方をあの子から教わってるの。いい加減にその口閉じないと炉にくべるわよ?」
「おお、こわ」
「ふん……でも大義名分はできたわね」
「何のでえ?」
「ほら」

565 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 21:30:00.79 ID:???
指差すルイズの眼にはあおむけに横たわったウォルターがぐうぐう寝息を掻いていた。

「じゃあさっそく始めますか、ウォルターを救うために。まず身体測定よ」
「突っ込む気にもなれねえし、にやけ顔がすごいことになってるぞ、嬢ちゃん」
「え?そう?」

そう言いながらもルイズはその顔を隠そうとすることもない。
待ち望んだ瞬間にルイズの頬は心なしか上気しており、この優越感めいた昂ぶりををしばらく味わいたかったからである。




計測器を手にまず、ルイズはウォルターの肩幅をはかる。
ふむ。同じぐらいの年代の子よりは肩はがっしりしている。
しっかり鍛えているのね、とルイズは感心してしまう。
ウォルターの体を調べることに興奮を抑えられず心なしか鼻息が荒くなってしまう。

(落ち着きなさい、私。これは調査よ。ちょ、う、さ)

次に、腰辺りを調べるルイズ。
そこでルイズは愕然とする。

566 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 21:30:49.13 ID:???
ばかな、ウォルターの腰が、腰が、私の(自主規制)。
よく触ればくびれみたいのもあるのでは?
そう思うぐらいウォルターの腰は(自主規制)。
そして最後の部分も見事なバランスの取れた(自主規制)。

まじまじと改めてウォルターと自分を見つめる。
少女である自分と、少年であるウォルター。
少年にしてはこのサイズとプロポーションはおかしい、と一人悶々とし地団太を踏む。

(男の子のくせに!男の子のくせにぃ!男の子のくせにぃいいいいいいいいいいいい!!)

ギロリ、と嫉妬の眼を送るルイズ。
ウォルターはきづかずにすやすやと寝息を立てていた。

567 :ゼロの執事 12:2012/12/24(月) 21:31:16.42 ID:???
測ってわかってしまったことに愕然としつつも、無事、ウォルターに気付かれることなく測り終えた。
さあ、やるわよ、と腕まくりをしつつルイズはセーターを編み始めた。

ルイズはせっせとセーターを編みこんでいく日々が始まった。

昼は授業に出、寝たとデルフリンガーが告げれば起きて編むの繰り返しが数日続く。
ウォルターに気取られずにしなければプレゼントにはならないからだ。
幸いウォルターから編み方を教えてもらっていたためかなり速いペースで、かつきれいな形に編みこむことができていた。途中、何度も編み方を間違えてしまったが、それでも直すことができる範囲の失敗だった。
そして、失敗するたび何がいけなかったのかを考え、解決し、ルイズはよりうまくなっていくのだった。
ウォルターに気付かれないように編みこんでいくうちに、ついにルイズはセーターを完成させた。

できたのは簡素ながらもその色ははっきりとした白地のセーターだった。
いままで編んできたのとは比べ物にするのも失礼な位の出来栄え。
サイズもウォルターにピッタリそうだし、見るからに暖かそうだ。

ご機嫌になるルイズ。
だが、そこで重大なことに気付く。いまは初夏、なのだ。
セーターは今の時期に似合わない。
この当たり前のことに気付かない自分に落ち込んでしまう。

(でも、そうよ いつかプレゼントする日が来るかもしれない。
受け取ってもらえるかしら? 最高のタイミングでわたしたいわね。 
ううん。これだけの完成度だもの。絶対に受け取ってもらえる。
なによりご主人様が作ったものをウォルターが拒むはずがないじゃない)
                       
そう考えると元気が出てきたルイズ。
ふんふんと鼻歌を歌いながらいつか渡せますように、とルイズはこっそりタンスのすみにおくのだった。

568 :執事の人:2012/12/24(月) 21:32:13.75 ID:???
12終わりです。しばらく30分ほど休んだらまた投下します。

569 :マロン名無しさん:2012/12/24(月) 21:36:55.50 ID:???
乙乙

570 :執事の人:2012/12/24(月) 22:13:39.74 ID:???
遅くなりました。いい具合にフラグ回の話数です。いつもより短いです。では13投下します。
この作品ではシュレディンガー准尉はマジキチですのでご容赦ください。

571 :ゼロの執事 13:2012/12/24(月) 22:15:06.56 ID:???
「あーあ。ワルド死んじゃったよ。虫みたいに」

燦燦たる様相を示したニューカッスルの城。
レコン・キスタと王党派がぶつかりあい、一方が倒れ一方が勝利していた。
数で勝るレコン・キスタは百倍以上の数でもって王党派を滅ぼした。
王党派は自身の数の十倍の打撃を敵に与えるも力尽きたのだ。
その敗北を示すかのように、このニューカッスルの城は崩落しその瓦礫からは無念の呻きが聞こえてくるかのよう。
レコン・キスタの兵士たちが死体から高価なものを剥ぎ取る盗賊まがいのことをする横で一人、場違いの人物がいた。

「あーそこそこ。うん。そこらへん。あ……そうそう。その調子!」

この世界にはないヒトラーユーゲントの服装に身を包んだ猫耳の少年シュレディンガーが兵士たちに指示を出している。
命じられた兵士たちは仲間たちが獲物をあさる横で不平不満ながらも倒壊したがれきと小一時間格闘していた。
やがて、最後の一枚が除去され、シュレディンガーは喜びの声を上げる。

「おっ久しぶりい!!ワルド、ウェールズ!」

あはは、と笑う少年の視線の先には倒れ伏した二人の男、ワルドとウェールズが眠っていた。
シュレディンガーは二人を見つめ、蛇のようにチロリ、と舌をのぞかせる。

「願いが破れてかわいそうに。うーん。本当にかわいそう」

そんなことをうそぶく少年の顔には微塵も同情の色はない。
少年はやおら握り拳を突き出す。その中指で輝くものがあった。アンドバリの指輪、である。

「だけど、こんなひどいことをしちゃう僕も本当にかわいそう。あははははは」

煌めく宝石が二人を照らす。すると、死体のはずの二人の体がピクリ、と動いた。
少年の笑いに呼応するかのように少年の額のルーンが残酷な輝きを呈していた。

「君たちにはまだ使い道がある。これで復活と行こうか、二人とも。さあ実験を続けようか」

572 :ゼロの執事 13:2012/12/24(月) 22:17:59.04 ID:???


ミスタ・コルベールは当年42。トリステイン魔法学院に奉職し20年になる『炎蛇』の二つ名を持つメイジである。
彼の趣味、いや生きがいは研究と発明である。
彼は暇を見つけては研究にふけり、休みを取り付けるとハルケギニア中を飛び回る。
珍しいものを見つけては収集し研究室でいじくり回し、未知のものはとことん追求しなければ気が済まないのだった。

今日もまた彼はトリステインの辺境を旅し、とある村で興味をひくものがあった。
コルベールがそれを譲り受けるため頼み込んだ熱心さは村人は少し引いてしまうほどだったのだが。
元よりガラクタも同然の代物。村人の言によるとデカいし気味悪いし迷惑な品、だという。
運よく彼が手に入れたそれは―――――――――

「ウォルター君!やはりこれは飛ぶのかね?」
「はい。僕の世界では飛行機と言って大空を駆けまわっています」
「ほう。これが!すばらしい!」
「この名は――――」

その名を口にするウォルターの声に知らず知らず熱がこもっていることにコルベールは温かく笑う。
しかしそれは無理からぬこと。
自身の世界ゆかりの、それもその時にかかわっているとなれば自然と昂ぶる武器職人としての性。
直接体験し、なお色褪せぬその記憶は誰にも侵すことはできないほど神格化されている。

イギリスのスーパーマリン製単発レシプロ単座戦闘機"Supermarine Spitfire"―――スピットファイア――――

流麗な流線型を描くその機体を軽やかに宙を舞うことを可能にし、楕円形の翼が特徴的な戦闘機である。
時速500キロ超で飛翔する勇壮なその姿を薄い主翼を用いてマリーンエンジンはものともせず再現するだろう。
ブローニング7.7 mm機関銃8丁で敵をなぎ倒した光景は見れば誰かに自慢したくなるほど。
第二次世界大戦時に活躍したその機体はナチ共を撃退したことで救国機として英国最強の逸話を持つ。

英国愛国者なら誰もが知る伝説の機体であった。

573 :ゼロの執事 13:2012/12/24(月) 22:19:41.34 ID:???
嬉々として手に入れた戦利品を突っつきまわすコルベールは内部の機械をいじくりウォルターに次々と質問していく。
ウォルターもまたガンダールヴのルーンと自前の記憶を用いながら体験談をまじえながら丁寧に答えていく。
もらった義手の恩と予想外の掘り出し物を見つけてきてくれた感謝にウォルターはともに修理を共に行うのだった。

「いくら知っているとはいえその構造の細部をそうまでわかるのはもしやガンダールヴの力かね?」
「あ……ご存じだったのですね」
「まあ、な。実は君が召喚されてから知っていた」

禿げ頭を掻きながらコルベールは言った。
それでも手は戦闘機から離れない。コルベールの右手は吸い付くように戦闘機を撫でまわしている。

「君が気絶していたのでな、勝手ながらその手を観察させてもらった。うむ、間違いない。それはガンダールヴだ」

コルベールは優しく告げていたが、ふと真顔になった。

「しかし、気を付けたまえ。力は人を惑わす。力で見るべきものを見失ってしまうことはあってはならん」
「……ご忠告ありがとうございます」

少し影が差したかのようなその返事にコルベールは何かを感じたのか、
おもわずつぶやいてしまったその言葉で作られた雰囲気を訂正するために咳ばらいをした。

「いや、すまない。面倒な話にしてしまったな」
「いえ・・・・・・」

574 :マロン名無しさん:2012/12/24(月) 22:25:59.50 ID:???
しえん

575 :ゼロの執事 13:2012/12/24(月) 22:35:36.97 ID:???
「覚えておいてくれ。私はな、魔法は使いようで顔色を変えると思うのだ。
 魔法を悪用するなどもってのほかだ。だが使いようによっては素晴らしいものになるはずなのだ。
 これは私の信念だが、ハルケギニアの貴族のように魔法をただの道具―――何も考えずに使い勝手の良い道具だと考えるのではない。
 伝統にこだわらず様々な使い方を試みるべきだとな」

遠い目をしながら話すコルベールの主張。その内容にウォルターは引き付けられた。

「それを成し遂げるためにどうかこれからも協力してもらえないだろうか?なに。
 たまに、顔を出して構造などや君の世界の工業製品の話を聞かせてくれるだけでよいのだ。頼めるかね?」
「……ええ。わかりました」
「本当かね!いやあありがたい」

考え込んでいたウォルターは引き受けたことにコルベールは喜び勇んだ。

「しかし、ウォルター君。君の話は妙にリアルだな。まるで見てきたかのようだ」
「ええ。実際見て感じてきましたから」
「はは。大人をからかうんじゃないよ。できれば構造についての話を重点的に頼む」
「……まあそうですね。ですがこれだけは言わせてください。僕の国が最初に……」

譲らずにくどくどと説明を始めたウォルター。
コルベールは苦笑しながら聞きいった。
その説明は聞いてて飽きないのだが、50年も前のことを十代の少年がまるで見たかのように生々しく語る様子は妙に現実感があるようなないような奇妙な感覚を生み出していた。

コルベールは思う。

(……なんだろうな。まるで年寄りの話を聞いているみたいだ)

576 :ゼロの執事 13:2012/12/24(月) 22:36:42.98 ID:???


「ふわああああああ。あれ?ウォルターは?」

編み物を夜遅くまでしていた生活から解放され休日に思う存分睡眠をとったルイズは執事を探す。
だが呼べどもウォルターは来ない。
少し機嫌が悪くなったルイズに陽気な声が響いた。

「相棒なら外へ出ていろんな人の用事を手伝ってるさね」

ルイズが声がする方を見ると、机の上にぽつんと置かれた鉄板が見えた。

「あれ?デルフリンガー。なんであんたそこにいるの?」
「連絡係。相棒からおめえさんへのな。
 "お嬢さまがよく眠らせろとのご命令でしたので。二時間ばかりしたらまた参ります"ってよ」
「……いまいつ?」
「相棒が出てってからちょうど一時間」
「……。そんな命令言った覚えがないんだけど全然記憶がないわ。本当かしら?」
「へ?俺も聞いたぜ。この耳でしっかりと」
「あんた耳ないじゃない」
「あれま。耳がいてえな」

がはは、と笑うデルフリンガーを放っておき、ルイズはのびをする。

(また私、寝言が命令と化しちゃってるのね。何とかなんないかしら)

577 :ゼロの執事 13:2012/12/24(月) 22:37:16.79 ID:???
もぞもぞと起き上がり手早く着替え終えるとルイズは溜息をついた。
だが窓際の箪笥を覗くと、ルイズは機嫌がよくなった。
そこには数日かけてやっと完成した満足のいく出来栄えのセーターが眠っていた。

「♪」
「楽しそうだな。嬢ちゃん」
「えー?そーう?ふふふ。どう?私のセーター見事なもんでしょ」
「てーしたもんだ。相棒も喜ぶぜ。夏じゃなけりゃな」
「一言多いわ」

すごすごとセーターをしまっておくとルイズは気分転換にと窓を開いて外を覗く。
温かな陽光、涼しい微風。トリステインの夏。
頭のもやを払ってくれる。
この調子なら、詔も浮かぶかもしれない。いそいそと出した始祖の祈祷書を手に開いてみた。

(……ってあれ?なんで何も書いてないの?これ)

真っ白。文字など一つもない。
国宝がこんな紙の束に過ぎないものなわけがないとページをめくったが、文字などやはり見当たらない。
慌てるルイズを見とがめデルフリンガーが声をかけた。

「どうしたい?」
「これ……何にも書いてない」
「あーそりゃな。始祖の祈祷書はな、持ち主が必要な時に文字が浮かぶ代物なんだ」
「なにそれ」
「ようするに今は必要なときじゃないんだっての」

はあとため息をつきルイズはパタンと祈祷書を閉じる。
どうやら詔は自分で考えなくてはならないらしい。
ルイズは気晴らしに風景を眺めてみた。そのとき窓から覗く広場の隅に執事の姿を見つけ、笑顔を浮かべた。

578 :ゼロの執事 13:2012/12/24(月) 22:38:03.86 ID:???
「あ。ウォルターじゃない。あんなとこにい、て」

突如ピシリと、ルイズの笑みがひきつり硬直する。
陽光を避けながら、苦労しながら帰ってくるのは手伝いとやらが終わったのだろう。

けれど、その隣にいるのは誰だ。

黒髪のメイドの少女。
ウォルターは笑いあいながらその少女と女子寮へと戻ってくるではないか。
そのときルイズは周りの景色が目に入らなくなる。
感じるのは、周りの音だけ。ルイズの聴覚はこの時完全に研ぎ澄まされていた。
ルイズの耳にその会話が聞こえてきた。

「いつも助かっております。シエスタ」
「そんな。いまさらそんなことをおっしゃらないでくださいな。こうするようになって長い付き合いじゃないですか」
「いえいえ。しかし考えてみればもう一月になりますか」
「ええ。相変わらず激しいのですね」
「いやはやこればっかりはどうにもなりませんから。本当に助かります」

579 :ゼロの執事 13:2012/12/24(月) 22:38:51.30 ID:???
(名前呼びい?付き合いぃ?なあにやってんのかしら?ちょっと待ってよ……どういうことかしらあ?)

ギリギリとルイズはウォルターを睨みつける。
その視線に気づいているのかいないのか、ウォルターは見上げ、ルイズに向けて手をふった。

笑いながら。

むかついてプッツンと何かが切れたルイズ。脱兎のごとくルイズは階下へ駆けていった。




「ウォールター」
「いかがなさいました?お嬢さま」
「あ、ミス・ヴァリエール」

全力で階段を下り駆けつけたことに息切れに肩を上下させているルイズ。
ウォルターとシエスタが見ている前でその身を震わせている。

580 :ゼロの執事 13:2012/12/24(月) 22:39:42.28 ID:???
ウォルターは、いつものようにルイズを心配する。
だが心配されるようなことはルイズの身にはなにひとつないとその時なら言えるだろう。
ウォルターには微塵の悪意はないのだが、ルイズにはとてつもなく邪悪な言葉に聞こえた。

ルイズは顔を上げにっこりと笑った。

「ねえ。何してるのかしら。そのメイドと」
「む?シエスタのことですか」
(ほら、名前呼びだ)
「そう」
「は。シエスタは……」
「ご、ごめんなさい」

遮るようにシエスタが代わりに答えた。キッとルイズはシエスタを睨みつけた。

「はあ?何謝ってんのよ。というかなんであんたが答えてんのよ」
「何を謝る必要があるのですか?シエスタ。全てを任せてしまい何から何まで申し訳なく謝るのはこちらです」

ウォルターの言葉に再びルイズは固まった。
任せるってなに?なんでそんなに親しげに話しているの?

581 :ゼロの執事 13:2012/12/24(月) 22:40:42.13 ID:???
「きついものでしょう」
「いえ、そんなこと……」

もじもじと目を伏せながらうつむくメイドと気遣う執事。
ルイズの中で何かが燃え上がる。その剣幕にシエスタはひっと息をのみおびえた。

「何言ってんのあんたたちはあ!!」
「……お嬢さまこそ、どうかなさったのですか?」
「どうもこうもあるか!あんたらほんとは何してたのよ!正直に言いなさい。言えば痛めつけるだけで済ましてあげるわ」
「なぜ痛めつけるという言葉が出てくるのですか?」

執事が、大切な執事がこんなメイドに奪われるなんて―――――
泣きそうになりながらルイズは声を張り上げた。
そんなルイズにウォルターは何を言っているのかわからないというようにやれやれと頭を振った。

「当然じゃない。じゃあなんでそのメイドはいるのかしら?」

その言葉にウォルターは溜息をつく。
それはうんざりしたものでもあきれたものでもない。心底悲しげな色をした溜息であった。
観念した―――そういう風に偏った眼を持つルイズには見えたのだが。
そんな偏見は一言で吹き飛ぶことになる。
硬直するルイズにウォルターは溜息をつきながら悔しげに答えた。

582 :ゼロの執事 13:2012/12/24(月) 22:41:45.86 ID:???
「僕は……洗濯ができません。だからシエスタは引き受けてくれてました」
「嘘でしょ!そんなの信じられるわけないじゃない!じゃ、じゃあは、はは、激しいって何よ!」
「? おわすれですか?お嬢さま。僕が何かを」

その声から響くものは本当に自嘲に満ち、苦笑しながらもウォルターは続ける。

「流水が僕が苦手です。ゆえに湧き出る水洗い場に僕は近づくことができません。
 『流水アレルギー』とでも言いましょうか。とあるときにシエスタはそのことを知ってくれまして。
 激しい『流水アレルギー』の僕の代わりに一月洗濯を引き受けていましたが……それがどうかしたのですか?」

何でもないように答えてみせたウォルター。
何もなかったことがわかりルイズの頬にどんどん赤みが差していく。
よからぬ妄想をして二人の仲を邪推してしまったことの情けなさと浅ましさに羞恥がルイズを襲う。

「せめて干すのだけは手伝おうとして……おじょうさま?」
「な、何でもないわ!もういい!もういいから!」
「はあ」

ルイズは何もなかったことへの安堵やらいつもと変わらぬ執事への落胆やらでどうにもならなくなった。

583 :ゼロの執事 13:2012/12/24(月) 22:42:44.99 ID:???
(決定ね。この執事は……本当にどっか抜けてるのね。年頃の男の子だけどそうじゃない。
 大人みたいな気配りはできるんだけど、そこがどこかいびつなのよね)

大きくため息を吐いたルイズの肩にどっと何かが乗りかかる。

「もういいわ。なんだか疲れたし。今日は一日寝るわ。起こさないでちょうだい」
「はあ……これからですか?」
「そうよ!じゃ、おやすみ!」
そう言うとルイズは女子寮へと駆け出し、毛布をかぶって寝込んでしまった。
執事は主が消えた様子を首をかしげながら見送った。

「おかしなお嬢さまですな」
「……いやおかしいのは執事さんじゃ?」
「おかしい?何がですか?」
「ウォルターさんはミス・ヴァリエールのことをもっと考えるべきです」
「……言われずともいつも考えてますが?」
「たぶん私の言っている意味とウォルターさんの意味は全然違うと思いますよ」
「はぁ……?」

本当に意味が分からないかのように頭をひねる執事にシエスタはおかしくなりながら、
あ、と思い出したかのように手をたたいた。

「じゃあ私、これで。これから私、帰省するんです」
「ああ、タルブの村ですか。確か草原がきれいだという……」
「ええ。ご存じなのですね!一緒に行きませんか?」

584 :ゼロの執事 13:2012/12/24(月) 22:43:22.64 ID:???
誘いをかけるシエスタにウォルターは残念そうな笑みを浮かべて丁寧に一礼した。

「申し訳ありません。僕には仕えるべきお嬢さまがいますので」
「そうですか……」
「代わりにと言ってはなんですが道中の無事を願っております。
寂しくなりますね。またその元気な姿を見せてください」
「ええ!ではさよなら。水に近づいちゃだめですよ。あの時のようになっちゃいますからね!」
「はは……わかっています」

明るい笑顔を浮かべ手をふりながらシエスタは去っていく。
あの明るさは僕もかなわないな、と一人思いウォルターも手を振りながら見送るのだった。

585 :執事の人:2012/12/24(月) 22:51:28.30 ID:???
これでおしまいです。ゼロ戦のファンの方申し訳ない。6千字ってあっという間です。……機会があればリテイクしたいです。

あのそれでこんなこと聞いてしまってなんですが次の話が、その、グロいと思うのですがそれでもよろしいでしょうか?

586 :マロン名無しさん:2012/12/24(月) 22:59:19.71 ID:???
OKOK かまうこたあねえ、やっちゃいな!

587 :執事の人:2012/12/24(月) 23:01:58.97 ID:???
ヤ、了解(ヤー)!
ではすみません。もう遅いのでなるべく早い明日の朝に投稿します。ではまた。おやすみなさい。

588 :マロン名無しさん:2012/12/24(月) 23:07:48.07 ID:???
お疲れ様ー

589 :執事の人:2012/12/25(火) 10:39:12.27 ID:???
14です。流血鬱表現がある?と思いますのでご容赦を。

590 :ゼロの執事 14:2012/12/25(火) 10:40:24.14 ID:???
負け?誰が?私が?

私は断じて負けぬ。負けるはずがない。決して。

化け物を倒すのはいつだって人間だ。人間でなくてはならない。

人間の様な化け物ではだめだ。化け物のような人間でもだめだ。

だから、私は負けない。だから私は――――――――――帰ってくる。

591 :ゼロの執事 14:2012/12/25(火) 10:41:19.51 ID:???



「お頭あ どうですかア?」
「おうよ!大収穫さ。がはは」

ここはタルブの村。いつも平和な小さな村の夜空に似つかわしくない外卑た声が響く。
頭を抱えうずくまる何十人もの村人を取り囲むように粗野な男たちが雑多な武器を突き付けていた。
村人を包囲する男たちは50人ほど。
長剣や長槍などの鋭利な刃物を突き付け、にたにたと舐るような笑いを浮かべ村人たちを見下ろしている。

「お父さん、どうなっちゃうの?」
「落ち着きなさい、シエスタ」

父の声がシエスタをなだめても悔しげな表情は隠せない。
タルブの村は盗賊たちの襲撃に遭っていた。
突然何の前触れもなく盗賊たちがこの村を襲ったのである。
綿密に計画された襲撃だった。
いきなりの不意打ちに村を普段守るはずの自警団代わりの男たちもわけのわからぬまま取り押さえられた。
村長もとらえられ女子供も人質に取られ村人たちは反抗の間すら許されない。
おびえるほかない村人たちから盗賊たちは飯にありつくハイエナのごとく簒奪を繰り返した。

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